進化の法則は北極のサメが知っていた
渡辺 佑基
生物学者が「体温」をキーワードに、生物の行動、寿命、それぞれの時間について考えた本。
同じ著者の『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』もおもしろかったが、これもすごくおもしろい。理論もおもしろいし、理論の話を読んでいてちょっと疲れてきたなとおもったらフィールドワークの話が挿入される。このバランスがちょうどいい。
いやあ、いい本だった。
第一章では北極海に生息するニシオンデンザメというサメの話が語られる。
なんとこのサメ、400年も生きるのだという。とんでもなく長生きだ。長生きの代表とされるカメでも寿命は数十年ぐらい(最長でも約200年)だというから、ニシオンデンザメがいかに長生きかがよくわかる。
なんでニシオンデンザメがこんなに長生きなのかというと、体温が低いからだという。変温動物なので、周囲の水温が0度だと体温も0度近くになる。体温0度! 体温が低いとすべての活動が鈍化する。ニシオンデンザメは7秒に1回ペースで尾びれを振り、時速1km以下でのろのろ動き、2日に1回ペースで獲物を獲るのだという。すべてがスローペースだ。
結果、成長も遅くなり、老化も遅くなり、ニシオンデンザメは長生きできるわけだ。
第二章では、逆に、極寒の地で高い体温を保っているアデリーペンギン。
ペンギンは恒温動物なので南極でも高い体温を維持している。おかげでアデリーペンギンはニシオンデンザメと違い、活発な動きが可能になる。これは餌をとる上で有利になる。
そして第三章はホホジロザメの話。ホホジロザメはニシオンデンザメとアデリーペンギンの中間のような体温を保っているという。魚類なのに水温よりも高い体温を維持しているのだ(ちなみに恐竜もホホジロザメのように、変温動物にしては高めの体温を維持していた可能性が高いという)。
哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、無脊椎動物、恒温動物、変温動物、陸棲成物、水棲生物。いろんな区分があるけど、その区分をとびこえて「体の大きさと体温で活動量が決まる」というものすごくシンプルな法則が成り立つのだそうだ。
体温なんて風邪をひいているかどうかを調べるためのものとしかおもっていなかったけど、こんなにも重要なファクターだったとは!
生物って種によって見た目も行動もぜんぜんちがうからまったく別の仕組みで動いているように見えるけど、すべての種を貫くこんなにシンプルな法則があったなんて、なんかすごくわくわくする話だ。ニュートン方程式や地動説や質量とエネルギーの等価性のような美しさがある。
体温(つまりは代謝量)によって活動量が変わり、活動量が変わるということは時間の感覚も変わる。
もちろん人間も例外ではない。
なるほどー。大人になると1日が経つのが早く感じるのは経験や慣れによるものだとおもっていたけど(その要素もあるんだろうけど)、物理学的な理由もあったんだな。
歳をとるにつれ、アデリーペンギンからニシオンデンザメに近づくわけだ。心臓の鼓動や呼吸のペースがゆっくりになり、代謝が減る。すべてがスローペースになるので、あっという間に時間が流れる。
ファンタジーでエルフという種族は長生きすると言われているが、ってことはエルフはめちゃくちゃのんびりしてるんだろうな。ニシオンデンザメのようにゆっくり動いて数日に一度しか食事をしない。(人間から見ると)ぼんやりしていてなんともつまらない種族だ。
さっきも書いたけど、具体例(実体験)と理論のバランスがすごくいい。
調査の体験記や失敗談が語られるので研究者のエッセイとしてもおもしろいし、ニシオンデンザメ、アデリーペンギン、ホホジロザメなど種ごとの観察結果を書き、具体の積み重ねの結果としての総括的な理論が書かれる。
わかりやすくていい構成だ。もちろん内容もおもしろいんだけど、なにより構成がすばらしい。
いろんな面で勉強になるなあ。
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