唐渡 千紗
飲食店経営未経験で、ルワンダでアジア料理店を開いた女性の体験記。
この文章だけでもびしびし伝わってくるのだが、「私って人とはちがうことをやってるでしょ! すごく変でしょ! どや!」感がすごい。
筆者の略歴を見て納得。リクルート出身。ああ、リクルートっぽいなあ。もちろん悪い意味で。
ぼくも多くのリクルート出身者を見てきた(人前に出たがる人が多い)ので「この人リクルート出身っぽいなあ」とだいたいわかるようになってきた。
とにかく「何者かになりたい!」っていう感が強いんだよね。今はちがうみたいだけど、以前のリクルートって数年で会社を辞めなきゃいけない、辞めた人はたいてい独立しているので、たぶん在籍中に「独立してこんなすごいことやってる人がいます!」って事例をさんざん見せられてるんだろうね。そのせいで「何者かにならなきゃいけない」病にかかってしまうのだろう。
結果、この本の著者みたいにいい歳して自分さがしをしてしまう。
ま、自分の人生だから好きにしたらいいんだけど。ぼくはこの人の息子じゃないし。
こんな感じで「ルワンダの常識は日本とぜんぜんちがう! 日本人だったらあたりまにやってくれることをルワンダ人はやってくれない! インフラもひどいし生活が不便だし困った困った!」と騒いでるんだけど、正直、共感できない。
だってこの人はそういうのを求めてルワンダに行ったんでしょ? “人とちがう生き方を選択するアタシ”を求めてルワンダで飲食店を開くことにしたんでしょ? のっぴきならない事情でルワンダに住まざるをえなくなったわけじゃないでしょ?
あれが大変だ、これで苦労した、と言われても、はあそうですか、望んでいた経験ができてよかったですね、としかおもえない。
ルワンダの人には失礼な例えだけど、キャンプに行って、不便だ不便だと騒いでるように見えちゃうんだよね。そりゃそういうものでしょ、としかおもえない。日本と同じような文化を享受できることを期待してルワンダに行ったわけじゃないでしょ?
というわけで、前半の「私ルワンダでこんなに苦労しました」話は、わざわざお化け屋敷に行って怖い怖いと叫んでる人を見るような目で読んでしまった。楽しそうでよろしおすなあ。
中盤以降の、生活者視点でルワンダという国を観察した章はわりとおもしろかった。
なるほど、内陸国ってのは貿易をする上ではすごく不利になるんだな。そういや先進国で、海を持たない内陸国はほぼないんじゃなかろうか。主要都市もたいてい海か大きな河川を持ってるしね。
あまり意識することはないけど、我々は海洋国のメリットを享受しながら生きてるんだな。
ルワンダといえば1994年のルワンダ虐殺。当時730万人いたルワンダ人のうち、100万人ほどが約3ヶ月の間に殺されたという空前の大虐殺事件だ。それも爆弾や空襲のような大量破壊兵器を用いず、人々が武器を取り隣人同士で殺しあったという凄惨な事件だった。
30年前のこの事件は、今もルワンダに深い傷跡を残している。当時生きていた人で、事件に巻き込まれなかった人はほぼいない。親しい人を亡くし、生き残った人も暮らしが一変した。大量の孤児が発生し、教育を受けられずに育った人も多い。
この本ではルワンダ虐殺を経験した人の語りが紹介されるが、その胸の内は想像もできない。「隣人だった人々に殺された」は、「戦争で死んだ」「敵国に殺された」よりずっとずっとキツいだろう。家族の仇が今もすぐ近くで暮らしている、なんて例もあるんじゃないだろうか。想像を絶する世界だ。とてもこれからは手に手を取って平和な世の中を築いていこう、とできるとはおもえない。
だがルワンダ人はそれをやってのけている。人間ってどこまでも残酷になれるし、人間はどんなことでも許すことができるのだと、ルワンダ人の暮らしぶりを読んでいておもう。
どんな環境にも適応できるのが人間。いい面でもあり、悪い面でもある。
その他の読書感想文は
こちら
0 件のコメント:
コメントを投稿