2024年8月27日火曜日

【読書感想文】上原正詩『イノベーションの世界地図 ~スタートアップ、ベンチャーキャピタル、都市が描く未来~』 / イノベーションを駆け足で紹介

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イノベーションの世界地図

スタートアップ、ベンチャーキャピタル、都市が描く未来

上原正詩

内容(e-honより)
世界は急速に変化している。米中対立、インドの台頭、日本の衰退などの地政学的変化に加え、生成AIやブロックチェーンなどの新技術が台頭している。本書では、イノベーションの新潮流をスタートアップ、ベンチャーキャピタル、都市の生態系に焦点を当てて分析する。評価額が巨額に上るユニコーン企業や、ユニコーンに投資するベンチャーキャピタルの動向を調査し、未来の技術トレンドやイノベーションを生み出しそうな都市の生態系を見ていきたい。イノベーション都市の有無が、今後の国家競争力の鍵になるだろう。


 ユニコーン企業を中心に、今勢いのある(そしてこれから大きくなる可能性の高い)企業やその事業を紹介する本。

 ユニコーン企業とは、創業10年以内、評価額10億ドル以上の未上場企業。若くて勢いのある会社ってことだね。ちなみに世界のユニコーン企業はアメリカ、中国に集中しており、その他、インド、シンガポール、イスラエルなどやはり勢いのある国に多い。日本には十社もない。


 鮮度が大事なテーマということで、本の内容には深みがない。情報は多いが、あちこちから拾い集めてきた内容をつぎはぎした感じで、独自の解釈や著者の見解といったものは皆無。雑誌記事のよう。

 説明もとにかくわかりづらくて、これ著者も理解せずに書いてるんだろうなーってのが伝わってくる。

 誰かが書いたものを読んで、自分の中で消化しきれないままとりあえず形だけ要約した文章、って感じ。


 さらに誤字も多い。数字の間違いがいくつもあり、「売却」を「買却」、「欲しがる」を「裕しがる」など、どうやったらそんな誤字が生まれるの? というミスも多い。変換してそうなることはないだろ。「欲しがる」が「裕しがる」になるのは、他の本でスキャンした内容をOCRソフトで文字起こしして貼り付けたのかな。

 どんな四流出版社が出してるのかとおもったら、ちゃんとした出版社(技術評論社)だった。どうした技術評論社。



 TikTokを運営しているバイトダンス(中国企業)のアメリカ展開について。

 米中対立が先鋭化する中、バイトダンスが摩擦の矢面に立つことにもなりました。対米外国投資委員会(CFIUS、シフィウス)が、バイトダンスによる米ミュージカリー買収の調査を開始したことが2019年11月に明らかになったのです。CFIUSは外国企業による米国企業の買収を国家安全保障の観点から審議する、米財務省が管轄する組織です。当時のトランプ政権のポンペオ国務長官も「ティックトック」がスマホから個人情報を抜き取って、中国共産党に提供している懸念があると表明。2020年7月には「ティックトック」など中国系SNSの使用禁止を検討していることを明らかにしました。トランプ大統領も7月、大統領令や国際緊急経済権限法(IEEPA、アイーパ)などを使って、「ティックトック」の使用禁止を検討している旨を記者団に語りました。
 実は再選に向けてトランプ大統領がオクラホマ州タルサで2020年6月に開催した集会で空席が目立つという「事件」がありました。CNNなどの報道によれば、反トランプの若者がティックトックを通じて、偽の参加登録を呼びかけて実際には参加しなかったためだったようです。トランプ陣営の公式アプリに、ティックトックのユーザーが大量の書き込みをしてネガティブキャンペーンを展開しました。おもしろ動画の中国系アプリが、SNSとして影響力を持ち始めたことにトランプ政権内で警戒心が高まったようです。

 トランプ陣営の集会を邪魔した連中がTikTokで妨害を呼び掛けていたため、TikTokの米国内での使用禁止が検討……。これ自体が嘘かまことかはわからないが、勢いのある企業というのはとかく政治の影響を受けるものらしい。中国国内でGoogleやFacebookを使えないのは有名な話だし、その意趣返しもあって、アメリカでは中国産のサービスが制限されたりする。EUもよくGAFAと対立しているし、新しい技術やサービスは政治の影響を受けやすい(逆にアラブの春のように政治に影響を与えることも)。

 そう考えると、日本国内ではWebサービスが政治にふりまわされる影響が少ない。アメリカ産のツールも、中国産のツールも、たいていのものは使用できる。これはいいことなのか悪いことなのか。一ユーザーとしては便利でいいかもしれないが、国益という面ではマイナスも多そうだ。




 テスラ(自動車)、スペースX(ロケット)、そしてTwitterの買収で知られるイーロン・マスク氏だが、それだけでなく鉄道の分野にも食指を伸ばしているそうだ。

  マスク氏はモビリティの分野でマルチな活躍をしています。EV、ロケットにとどまらず、高速「鉄道」の分野でも新しいアイデアを出しています。真空状態にしたチューブ(トンネル)の中を電動の車両が高速で移動する交通システム「ハイバーループ」を2013年に提案しました。サンフランシスコとロサンゼルスの間(約560キロメートル)を最大時速1220キロメートルで走行して35分で結ぶという構想です。JR東海が「リニア中央新幹線」として2027年に品川一名古屋間の開設を目指しているリニアモーターカーは時速500キロメートルです。ハイパーループは空気抵抗を極力小さくできるためリニアの倍以上の速度が出る計算です。初期の構想「ハイパーループ・アルファ計画」の作成にはテスラとスペースXの技術者が関わりました。カリフォルニア州政府はサンフランシスコとロサンゼルス間に高速鉄道を建設する計画ですが、所要時間は2時間半で建設費は約700億ドル。マスクの構想の推計コストはその10分の1の70億ドル前後です。
 マスク氏はハイパーループなどを通す地下トンネルの建設に注力し、2016年にザ・ボーリングカンパニー(ロサンゼルス)を設立しました。評価額57億ドルのユニコーンです。同社は直径4メートルほどのトンネルを掘るサービスを提供しています。通常の掘削装置で掘るトンネルの半分ほどの大きさで、穴を小さくすることで掘削コストを3〜4分の1にできるとしています。スペースXとボーリング・カンパニーは2019年まで毎年、ハイパーループの走行車両「ポッド」の開発コンペティションを学生向けに開催するなど、啓蒙活動もしてきました。ハイパーループの縮少版で、テスラの電気自動車のような「ポッド」を走らせる「ループ」の実現に取り組んでいます。ラスベガスでプロジェクトを進めています。地下に張り巡らされたトンネルの中を無人のテスラが走って人を運ぶ・・・。個人輸送の地下鉄のようなシステムが出現するかもしれません。

 リニアの倍以上のスピード! 小型飛行機が300km/hぐらいだから、それよりずっと早い鉄道だ。

 地下にはりめぐらされたトンネルの中を無人の乗り物が移動する。手塚治虫とか星新一の描いた未来の世界だなあ。




 なぜ日本にはユニコーン企業が少ないのか。人口や経済規模でアメリカ・中国に負けているのはしかたないが、2024年時点で、世界に1,200社以上あるのに日本は6社だけというのはあまりに少ない。

 その理由として、起業家が少ないとか、ベンチャーへの投資額が少ないとかも挙げられているが、それ以外にも大きな原因は「移民の少なさ」だと著者は指摘する。

 シンクタンクの米国政策財団(NFAP)によれば、アメリカのユニコーン(582社、2022年5月時点)の55%が移民によって創業されました。国際連合によればアメリカの移民の人口比率は2020年で15%です。55%はそれを大きく上回っています。最も多かった出身国はインドで全体の11%を占めました。生鮮食料品デリバリーのインスタカート創業者アプールバ・メータ氏はインドで生まれ、カナダのウォータールー大学を出ています。最先端のAI系スタートアップ(フォーブスAI50のアメリカ企業)に限ると実に65%が移民の創業者です。独自の大規模言語モデル(LLM)を開発するユニコーンのデータブリックス(サンフランシスコ)は、アリゴディシCEOがイラン、マテイ・ザハリアCTOがルーマニアの出身です。世界中の若者がアメリカにAIを学びに来て、そこで起業しています。
 アメリカだけでなく世界の主要イノベーション・ハブでも外国人起業家の存在が際立っています。シンガポールではユニコーンの7割が中国やインドなど外国人によって設立されました。ロンドンのユニコーンの創業者も約半分が外国人でした。国際金融都市のシンガポール、ロンドンには多くの外国人が為替や債券、デリバティブ取引の仕事でやって来ます。バイオテクノロジーの分野でも移民の活躍が目立ちます。mRNAを使ったコロナワクチンの開発で一躍有名になったドイツのビオンテックの創業夫妻はトルコ系です。モデルナもレバノン生まれのアルメニア人、ヌーバー・アフェヤン氏が創業を主導しており、移民なくしてコロナワクチンは開発できなかったでしょう。

 海外から学びに来る人は優秀であることが多い上に、複数の社会を知っているので、社会のニーズや足りないものにも気づきやすいという。まったく新しいことをしなくても「他の国で流行っているものを、なじみやすい形に変えて持ってくる」だけでもイノベーションになるかもしれない。

 それに、移民を受け入れるということは、新しい価値観を受け入れるということでもある。いまだ外国人に対する拒否反応の強い日本で、イノベーションが起こりにくいのも当然かもしれないね。


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