無人島の七人 |
学生時代、無人島でキャンプをした。
瀬戸内海の1周3kmほどの小さな島。男7人、2泊3日のキャンプ。
海沿いの小さな駅で降り、こじんまりとしたスーパーマーケットで買い占めちゃうんじゃないかってぐらい肉や酒を買いこみ、漁港の市場でタコや貝を買って、タクシーフェリーに乗せてもらって無人島に渡った。
男が7人もいたらアウトドアの達人が1人ぐらいはいそうなものだけど、ぼくらの中に「できるやつ」はひとりとしておらず、苦労しながらテントを斜めに立て、食材はそのへんに投げだして、がさつなだけのカレーをつくって食べた。涙が出るほどうまかった。
ビールは山ほど買っていったのに水をあまり買っていかなかったせいで2日目にして深刻な水不足におちいった。
水を節約するために海水で米を研ぎ、ビールでタコを煮た。酒より水のほうが貴重というソ連みたいな状況だった。「タコのビール煮ってなんかおしゃれじゃない?」とうそぶきながら食べた。じっさいはまずくて、でもうまかった。
せっかくの無人島なんだから大きな声を出さなきゃ損とばかりに無意味に島中に響きわたるほどの声を張りあげた。最終日は7人とも声ががらがらだった。
3月の海に入ったら冷たすぎて痛かった。みんなで鼻パックをつけたまま一日すごした。島にあったマリア像が怖かった。豚肉を日なたに半日放置していたけど気にせず食べた。小さい島なのに遭難しそうになった。明け方は寒くて眠れなかった。早朝の浜辺で食う焼き芋はしみじみとうまかった。
10年以上たって振り返ると、2泊3日の無人島生活が1年もいたように感じるし、あっという間の夢だったようにも思える。
細かいことは忘れてしまったが、ただあの日々を味わうことはもう二度とないという実感だけが確かなものとして今は存在する。
無人島の七人 |
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