ぼくの夢は「寿司をおしえる」ことだ。
それも、とびきりえらそうに。寿司屋でひとり、寿司を食うぼく。
たまたま隣に、外国人客が座る。若いカップル。大きな荷物を持っているから旅行客なのだろう。
お品書きを見ながら、ひそひそと小声で話しあうカップル。
どうやら寿司屋に入ったものの、どうやって頼んだらいいかわからなくて困っているらしい。
お品書きは日本語のみ。
おまけに「えんがわ」「ねぎとろ」「あなきゅう」など、辞書にも載っていないような名前が並んでいる。
困惑しないわけがない。
「どうしよう。ぜんぜんわかんない」
「上から順に頼んでみようか」
「でも。クレイジーなメニューだったらどうしよう。ピカチュウの頭部とか」
「おーまいがー」
みたいな会話をしているにちがいない。
絶体絶命の大ピンチ。
そこへ優しく声をかける、ジャパニーズ・クールガイ(ぼくのこと)。
「へいどうしたんだい、そこのトラベラーズ?」
「まあ。地獄でブッダとはこのことだわ。たすけて、オーダーの方法がわからなくて途方にくれてるの」
「なんだ、どんなダイハードな事態かと思ったらそんなことか。おやすいごようだ。オーケー、ぼくが寿司のオーダーという方程式を鮮やかに解いてみせよう。まずは無難にサーモン、ほんのちょっとだけソイソースをつけて食うべし。それから甘いソースのかかった蒸しアナゴ……」
とえらそうな顔で寿司の食い方とうんちくをレクチャーし、尊敬のまなざしを受けるのがぼくの夢だ。
とはいえ、たいていの夢がそうであるように、ぼくの夢もかんたんには叶えられそうにない。
まずぼくは外国語が話せない。英語ですらニューホライズンレベルだ。
それから寿司通でもないのでうんちくなんかひとつも知らない。
あと出不精だからひとりで寿司屋なんか行かないし、人見知りだから隣の客が困ってても話しかけたりもしない。
なんと道が険しいことか。
というわけで、ひとなつっこくて、ぼくの説明に対してややオーバーめに感心してくれて、日本語が堪能で、でも寿司のことだけは何も知らない外国人がいたら、ぼくのところまで!!
待ってます!
こっちからは声かけないです!
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