スティーヴン・D・レヴィット
スティーヴン・J・ダブナー
望月衛(訳)
ヤバい経済学〔増補改訂版〕―悪ガキ教授が世の裏側を探検する
橘玲『言ってはいけない』の参考文献の一冊。
というか『言ってはいけない』の大部分はこの本がつくりだしたといってもいいのでは。そういえば橘玲氏の文体まで、『ヤバい経済学』に似ている気がするぞ。
「一般には○○と思われているけど、じつは××なんだよ」という手の話が好きな人には(みんな好きだよね)、読んだら影響を受けずにはいられないぐらい刺激的な本。
翻訳もいいしね。
『経済学』と書名に入っているけど、株価もマルクスも税制も景気も利益もほとんど出てこない。
この本を読んでも経済学の勉強にはならない。
おまけに日常生活にも役には立たない。
役に立つとしたら、酒の席での話のネタか、「おもしろい問いを立てるにはどうしたらいいか」という物の見方が身に付く(かもしれない)ことぐらい。
たとえば「不動産広告によく使われる言葉と価格の関係を調べれば、言葉を見ただけで家の価格の傾向がわかるのでは?」という仮説に基づいて検証した結果。
あー。
言われると、なるほどな、という感じだ。
求人広告も一緒だよね。
「アットホームな職場です!」
「やる気のある方なら誰でも大歓迎!」
「たいへんやりがいのあるお仕事です」
みたいな求人広告は危ないね。
具体的にアピールできるところ(「年収600万円」「週休完全2日」とか)がないから、抽象的な文句でお茶を濁しているんでしょう。
けっこうどぎつい表現も出てくる。
というか「見も蓋もない」というか......。
黒人は白人よりも貧乏になる可能性が高いことが生まれたときから決まってるよ、とか、名前を見ただけで子どもの将来がある程度予測できるよ(要するにキラキラネームをつけられた子どもは非行に走りやすい)、とか、中絶禁止制度をなくして望まれずに生まれてくる子どもを減らしたら犯罪率が大きく低下したよ(つまり生まれたときから犯罪をおかしやすい子どもは決まっている)、とか。
こういうのって書き方によっては読み手に大きな不快感を与えるんだろうね。
でも『ヤバい経済学』では、淡々と「だからどうしろと言ってるわけじゃなくて現実はこうなんですよね」といった調子で書いているので、ぼくはあまりイヤな気はしなかった。
(そうはいっても発表後はだいぶ非難もあったみたいだけど)
ものごとをドライに考えられる人にとってはすごくおもしろい本だとおもうよ。
刊行は十年以上前ですけどぜんぜん古びてない。
正確さには欠けるところもあるけど、それを補ってあまりあるほど読み物としておもしろい。
最後に、ぼくが特におもしろいと思ったくだりをご紹介。
(なぜ麻薬の売人は儲からないのかということについて。育ちの悪い子にとってギャングのボスは映画スターと同じくらいみんなの憧れの職業だとした上で)
ね、正確さには欠けるでしょ?
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