2015年8月5日水曜日

しれっとした嘘

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書店で働いていたときのこと。

なにかと因縁をつけてくる常連客のおっさんがいた。
店員が勤務中におしゃべりをするなとか、この店は品ぞろえが悪いとか、だったら来るなと言いたくなるようないいがかりばかりつけてくる困ったおっさんだった。

あるとき。
大学生のバイトの子が、おっさんに因縁をつけられた。
「なんだその接客態度は!」だの
「お客様は神様だろうが!」だの怒鳴りちらし、
「店長を呼べ!」となった。
店長が出ていって、すみません注意しときますんでと言って客をなだめ、その場は収まった。



それから1ヶ月ほどたったときのこと。
おっさんが店に来て、店長に話しかけた。

「こないだおれが怒鳴りつけたバイトの子、最近見いひんな。どないしたんや」

そのバイトは大学4年生だった。
春になってめでたく大学を卒業し、地元に戻って就職したのだった。
就職したからバイトを辞めただけだったのだが、店長はしれっと嘘をついた。

 「ああ、あいつですか。クビにしましたよ」

「えっ!? なんでや!?」
と、おっさん。

 「こないだお客様に不愉快な思いをさせたでしょ。だから辞めさせたんですよ」

「いやいや、そこまでせんでもええやろ。まだ若い子やったんやし……」

 「いえ、給料もらって働いている以上、年齢は関係ないです。接客態度がなってないやつを働かせるわけにはいきません」

「だからって辞めさせんでもよかったのに……」

 「彼にも辞めたくないですって泣きつかれましたけどね。でもここはびしっとしないと他のアルバイトにもしめしがつきませんから」

「……」

罪の意識を感じたのであろう、それ以来、おっさんはすっかりおとなしくなり、理不尽なクレームをつけることはほとんどなくなった。

いやあ、あれは素晴らしいクレーム処理術だった。

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