あたしは思う。
いちばんかっこわるいスポーツはフェンシングよね。
たしかに剣士たちは優雅さと強さの両方を兼ね揃えていて、その動きは美しくさえある。
でもさ。
あの人たち、コード出てるでしょ。お尻のあたりから。
なんなのあれ。
いや、わかってる。
剣先が身体に触れたかどうかを判定するためのセンサーでしょ。
それはわかった上で言うんだけど、なんなのあれ。
なに線でつながれてんの。
これだけWi-Fiが飛び交ってる時代に、なにゆえ有線?
あたしには剣士たちが操縦されてるようにしかみえない。
テレビつけてフェンシングやってたら、あれ、ロボコンやってんの? これNHK?
って思う。
剣士の後ろをコントローラー持ちながらついてくる高専のメガネ男子の姿を探してしまう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「優勝は近畿ブロック代表、舞鶴高専!」
アナウンサーが高らかに叫び、会場いっぱいに鳴りわたる拍手にあわせるように紙吹雪が舞った。
優勝を決めた舞鶴高専のメンバーは抱きあって涙を浮かべ、惜しくも準優勝に終わった都城高専の三人は笑顔で敵チームに惜しみない拍手を送った。
勝者が泣きじゃくり、敗者が清々しい笑顔を見せるその光景が、いかに厳しい戦いだったかを物語っていた。
敗れた都城高専のロボット剣士『ロビンfoot』の完成度は群を抜いていた。バランスよく二足歩行をしながらエアシューターの力で突きだされる剣は、スローカメラでやっととらえられるほどの速さだった。準決勝で受けた剣の影響で左アームが操作不能になるというハプニングさえなければ優勝してもおかしくなかった。
だがロビンの隙を逃さず、ガードが甘くなった左胸に剣をつきつけた舞鶴高専のロボット『ミヤモト634号』の技術はそれ以上に目を見張るものがあった。1秒間に600回以上の振動を与えられた腕からくり出される鋭い攻撃は、ハチドリの羽ばたきから着想を得て、プログラムに改良に改良を加えたという必殺の剣だった。
戦いは終わった。
舞鶴高専の三人は、いまや四人目のメンバーともいえるロボット剣士にも抱擁をおこなった。そして、おつかれさまと労をねぎらうように電源ボタンをオフにしてからロボ剣士の尻のボタンを押した。
尻から伸びた操縦コードは、しゅるしゅるしゅると音を立ててコード入れに吸いこまれてゆき、コントローラーがボディにぶつかってかたんと音を立てた。
掃除機の電源コードから着想を得て、改良に改良を加えたという高い技術が、そこにも活きていた。
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