2022年7月15日金曜日

ABCお笑いグランプリ(2022年)の感想

 第43回 ABCお笑いグランプリ 感想


 感想。関西に住んでいるのでいろんなお笑いのコンテストを見るが、昔からABCお笑いグランプリがいちばん好き。しっかりネタも見せてくれるし、合間の司会者と審査員のやりとりもおもしろく、バラエティとしても見ごたえがある。

 数年前の藤井隆司会、審査員にハイヒールリンゴやフジモンがいた頃がいちばんおもしろかった。でも決勝進出者のネタよりも審査員のほうがおもしろかったりしたので、さすがにそれはよくない。


■ ゲスト漫才

オズワルド
コウテイ
ミルクボーイ

 オズワルド。「車デートの車は車エビでもいいのか」と、シュールなネタにしてはベタよりなテーマ。相変わらずフレーズはおもしろいけど、まだ細かい無駄がある気がする。間とか。M-1グランプリに向けてこれから改良していくことでもっともっと良くなっていくんだろうな。

 コウテイのネタはあんまり好きじゃないんだけど、今回の「奈良時代に備中鍬で畑耕してる女やれや!」のネタはおもしろかったな。でも備中ぐわが広まったのは江戸時代だって小学生の時に習ったよ。名前に「備中」って入ってるんだから江戸以降に決まってるじゃん。

 ミルクボーイは貫禄を感じる。ABCお笑いグランプリのチャンピオンじゃないのに。ラジオ体操の「これ」のネタ。ついに物や場所ではなく動きまでを題材にしはじめた。ミルクボーイのネタって初期からすでに完成されていたように見えたけど、まだまだ伸びる余地があったのか……。



■ Aブロック

ドーナツ・ピーナツ(クラス分け)
こたけ正義感(変な法律)
青色1号(ノリツッコミ)
かが屋(喫茶店)

 ドーナツ・ピーナツはいい設定ではあるが、笑いどころが「変な校長先生」と「変な生徒」に分散されるのがちょっと見づらかったような。少年院上がりの生徒や留学生をハズレ扱いするのは、今の時代にはそぐわないかな。しかし粗さが目立つ分、今後まだまだおもしろくなりそうな二人。

 こたけ正義感は、現役弁護士という属性を活かしたネタ。「変な法律にツッコミを入れる」という着眼点は新しくもなんともない(『VOW』でも変な校則を扱ったりしてた)が、弁護士がやるだけで説得力が増してふしぎとおもしろくなる。たしかにおもしろいが、芸として見たらどうなんだろうという気もする。活字で見てもそこそこおもしろいだろうし。

 青色1号は、後半の「こいつがヤバいやつだったのか」が判明するあたりからどんどんおもしろくなるし、店長の「怖すぎて指摘できなかった」のも妙にリアルでよかった。ただいかんせん前半が退屈だった。「バイトでのウザいノリ」を見せるためにわざとおもしろくないことをしているのは理解できるが、演技がうますぎるのかほんとにつまらなかったんだよなあ。

 かが屋はコントというよりコメディ。台詞でも動作でもなく、カチャカチャカチャカチャッという音のみで笑いをとりにいく勇気がすごい。先輩バイトが震えている、という一点突破ネタだが、「弱気なやつが後輩バイトを守るために勇気を振り絞って面倒な客に立ち向かい震えている」では愛おしいだけで笑いものにする気にはなれない。「イキっていた客のほうも実はびびって震えていた」みたいな展開なら笑えるが、そっちに持っていかずに胸キュンストーリーに話を運ぶのがかが屋らしい。

 決勝進出はこたけ正義感。たしかにおもしろかったが、二本目を見たいという気にはならなかったのでちょっと意外。



■ Bブロック

令和ロマン(秋元康)
ハノーバー(彼女の両親に挨拶)
ダウ90000(独白)
天才ピアニスト(防犯訓練)

 令和ロマン。「AKBの歌を考えているのは秋元康だぞ」というこれまで何十回も聞いたベタすぎる導入ながら、美空ひばりにまで持っていくパワフルな展開。どさくさにまぎれて、後半はAKBの曲を「変な曲」と言ったり、「こんな才能があるのに」と褒めているようでディスっていたり、相当な失礼をぶちこんでいるのにさらっと流すところがニクい。秋元康をイメージできない人にはちんぷんかんぷんなネタだっただろうが。

 ハノーバーは、ひとつめの「お父さんとお母さん、どっちだ?」がすべてで、それを超える展開はなかった。妹もそっくりというオチも、事前に妹の存在を示していることで全員が読めただろうし。はじめの一分がピークだった。

 ダウ90000は、演劇のお約束である「観客に向かっての独白」を逆手にとるというメタなコント。ちょっと挑戦的すぎた。「八人組ってどんなコントをするんだろう?」とおもっていた観客の期待を悪い意味で裏切ってしまった。例えていうなら、ニメートル超の長身ピッチャーが出てきたとおもったら、アンダースローで初球にスクリューを投げてきたかのような。裏切りはほしいが、そこまで裏切られるともうついていけない。何球か剛速球が続いた後のスクリューだったら「してやられた」感もあるが。序盤に「ふつうの独白」をフリとして一、二回見せるべきだったのでは。

 天才ピアニストは、滑稽な校長に教師がつっこむのではなく、「滑稽な校長に生徒がつっこみ、それを教師がたしなめる」という構成にしているのがニクい。これにより二人の周囲が鮮明に見えてきて、立体的なコントになっている。校長につっこみを入れたらリアリティがないもんね。そして、さんざん「笑うな」と言っておいてからの「ここ笑わんと」という緩急のつけ方。最高。徐々に引きこまれて、ほんとに生徒たちの姿が見えた。惜しむらくは「全校集会で生徒たちを叱りつける教師」をやるには竹内さんに貫録がなさすぎること。あと二十年歳をとってからやったら完璧かもしれない。

 決勝進出は令和ロマン。完全に天才ピアニストだろうとおもっていたので、結果を見たとき「えっ」と声が出た。この後の審査もそうだが、漫才のほうが評価高い気がする。



■ Cブロック

 フランスピアノ(ここだけの話)
 ヨネダ2000(おみこしをかつぐプロ)
 Gパンパンダ(飲みの誘い)
 カベポスター(話がそれる)

 フランスピアノ「ここだけの話」が本当にこの地点に紐づいているという設定だが、種明かしがややあっけなかった。ここが最初のピークなのだからもっと引っ張ってもよかったのでは。ブラックなオチは嫌いでないが、この短時間だと「ほら伏線回収見事でしょ」という感じが伝わってしまい、素直に感心できず。

 ヨネダ2000は、好きにしてくださいという感じで特に言いたいことはなし。終わった後に、審査員がみんな「声がよかった」などとネタの内容ではなく表層的な部分だけを褒めていたのがおもしろかった。まあアドバイスするようなネタじゃないしなあ。

 Gパンパンダは「飲み会を断る新人」と「パワハラにならないように気を付けながら飲みに誘う上司」というきわめて現代的な設定のコント。前半の「本心がわかりづらい後輩」は嫌悪感をもったが、後半で後輩が本音を吐露するあたりからは一気に好感が持てた。つまり、まんまと芝居に引きこまれたわけだ。途中、上司役のほうが本気で笑ってたように見えたがあれは芝居なのか? 芝居自体は誇張されているが、登場人物の行動原理はとてもリアルでよかった。

 カベポスター。話が関係ない方向にそれるのだが、それた話のほうがおもしろくて気になってしまうという漫才。漫才って「ボケのおもしろさをツッコミがさらに引き立てる」が多いが、カベポスターの漫才は「ボケ単体ではまったくおもしろくないけどツッコミがいることでおもしろくなる」構成になっていることが多い。このネタなんかまさにそう。ふつうなら見逃してしまうおもしろさに、絶妙にスポットライトを当てて照らしてくれる。さらに、クイズがおもしろい→答えもおもしろい→「ですが」→クオリティ落ちた→クオリティ落ちたかとおもったら高かった、と照明の色がめまぐるしく変わるので飽きさせない。間の取り方も絶妙。いやあ、綿密に計算されたネタだ。

 決勝進出はカベポスター。個人的に好きだったのはGパンパンダだが、あれだけ高い完成度を見せられたらカベポスターの通過も納得。



■ 最終決戦

 カベポスター(大声大会)
 令和ロマン(トイ・ストーリー)
 こたけ正義感(法律用語をわかりやすく)

 カベポスターは相変わらずよくできたネタ。ハートフルな展開になるコントはよくあるけど、漫才ではめずらしい。「開催側がテコ入れ」など、終始やさしい漫才。カベポスターのネタはいつも平和だなあ。漫才もさることながら、永見さんは劇作家の才能があふれてる。

 令和ロマン。「子どもの泣き方の2番」は、個人的に今大会ナンバーワンのフレーズ。しかしこのネタは松井ケムリが延々泣きつづけるため、それは同時に持ち味である巧みなつっこみを封じるということである。漫才はつっこみで笑いをとるものなのに、それを封じてしまったらそりゃ勝てないわなあ。でも個人的には一本目より好きだった。

 こたけ正義感は法律用語を別の言葉に言い替えるというピンネタの定番のようなネタだったが、フレーズがことごとく観ている側の予想を下回っていた。たとえば裁判官⇒「おかあさん」の言い替え。なるほどと感心するほどしっくりくる言い換えでもないし、かといって「ぜんぜんちがうやん」という笑いになるほど遠くもない。絶妙に笑えないラインだったな……。


 優勝はカベポスター。納得。ずっとあと一歩だったのでもう優勝させてやりたい、という審査員の期待に応える見事なネタでした。

 個人的なベスト3は、天才ピアニスト、カベポスター(一本目)、Gパンパンダでした。


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2022年7月12日火曜日

問題はいい店すぎたこと

 何年か前の話。

 高校の同級生M(女・独身)から連絡があり、ぼくの仕事に関係して相談したいことがあるから会えないか、とのことだった。

 平日夜しか都合がつけられなかったので夕食でもいっしょにどうかとおもったが、こちらは既婚者。男女ふたりでディナーとなるとつまらぬ誤解を招くかもしれない。そこで共通の友人T(男)を誘って三人で食事をすることになった。

 Mが「わたしいいお店知ってるから予約しとくね!」と言うので店選びは任せた。ここまではいい。


 当日。駅でMとTと待ち合わせをして、Mの予約した店まで歩いた。到着して驚いた。「えっ、ここ……」

 悪い店ではない。いや、むしろいい店だった。問題は、いい店すぎたことだ。


 夫婦でやっているらしい小さなフレンチのお店。インテリアやメニューなど細部までこだわりが見える。

 メニューを開くと、はたしていちばん安いコースでも七千円する。ビール一杯八百円以上だ。

 Mはうれしそうに「この店のご主人と知り合いで、すっごくおいしいから」と語る。

 ぼくは内心「そりゃあおいしいでしょうね。七千円もするんですから……」と困惑していた。ちらりと隣のTを見ると、やはり困惑しきった顔をこちらに向けてきた。

「なんでこんな高い店……」彼の眼がそう語っていた。


 結局、なんやかんやでひとり一万円近い会計になった。

 店を出た後、帰る方向が別だったMと別れ、ぼくとTは「高かったな……」「ああ……」とつぶやきながら歩いた。


 そりゃあぼくだってフレンチの店ぐらいは行ったことがある。ひとり一万円を超えるコースを頼んだことだって(数えるほどだけど)ある。

 でもそれは、交際している彼女の誕生日とか、妻との結婚記念日とか、両親の銀婚式祝いとか、いってみれば特別な日の食事だった。

 ぼくとTが仕事の後に飲みに行くとしたら、ビール一杯三百円の店しか選ばない。

 しゃれたフレンチの店に行けばおいしい料理を食べられる。そんなことはわかっている。でもそれは友人と仕事帰りに行く店ではない。

 そりゃあMは独身だし、実家暮らしだから金に余裕はあるのだろう。とはいえふつうの会社員。ぼくらと桁がちがうほどの差はないはずだ。


 聞くところによると、女性は女同士の食事でもけっこう値の張るものを食べにいくものらしい。

 考えられない。男同士で古い友人と食事に行くとなったら、昼飯(ランチじゃなくて昼飯)で千円まで、晩飯と酒を入れてもせいぜい五千円ぐらいにおさめる。べつにおさめるつもりはなくても、自然とおさまる。だってそんなに高い店に行かないんだから。

 男女の食事に対する金銭感覚の差をまざまざと見せつけられた。高校の同級生(恋愛に発展しようがない相手)との食事で一万円出せるのか。

 ときどき「デートでファミレスはありかなしか」なんてテーマがネット上で話題になるが、友人との食事に一万円出す人からすると、そりゃあデートでファミレスに連れていかれたら別れるだろうな。


「女ってこわいな……」

 ぼくとTは駅までの道を歩きながらがっくりと肩を落としたのだった。



2022年7月11日月曜日

【読書感想文】村上 龍『「わたしは甘えているのでしょうか?」 〈27歳・OL〉』/ 悩みはつまり「めんどくさい」

「わたしは甘えているのでしょうか?」
〈27歳・OL〉

村上 龍

内容(e-honより)
「やりがいのある仕事についた友人に嫉妬する私をどう思いますか」「彼氏いない歴3年の26歳。将来が不安なのです」「同じように1万円使うなら、何に使えば『自分磨き』に有効ですか」―生活費、職場での人間関係、就職や転職などの若い女性の「バカバカしくも切実な悩み」に村上龍が全力で向き合った、希望と出合うヒントに満ちたQ&A集。

 若い女性からの悩みに村上龍氏が答えるという人生相談。

 村上龍氏に悩みを相談するってどうなんだ。いや小説家としては好きだけど。ふつうの人とはいろいろと感覚ずれてるような気がするぞ。会社勤めもしたことないし。でもそこがいいのかな。

 まあどっちにしろ、会ったこともない人に人生相談をする人の気持ちはぼくにはわからんけどね。




 仕事を続けていくべきか不安だ、という悩みに対する回答。

 本当はわかっているんです。彼女が何をしたいのか、僕にはわからないけれど、本人にはわかっている。でもそれを自覚するのが怖かったり、面倒だったりするから、おっくうになっている。
 やりたいことがはっきりしたら、そのためにすべきことは決まってしまいます。行動を起こさなければならないわけです。それりも曖昧な不安の中にいるほうが、ずっと居心地がいい。
 自分の人生について、いろいろな思いがある中から何かひとつを選ぶというのは、大げさに言えば人間の自由です。自由というのは面倒くさい。むしろ自由を取り上げて、「ああしろ、こうしろ」と指示されるほうがラクな場合だってあります。
 昔から人生相談というのはそういうものなのですが、こういう相談を誰かにするということは、どこかで「悪くない会社だから我慢しなさい」とか、「思い切って転職してみたら」とか、言われることを望んでいるんだと思います。そうすれば自分で考えなくてすむからです。でも、「自分は何がしたいのか」がわからない限り、何のアドバイスもできないんです。

 ずいぶん身もふたもない話で、「それを言っちゃあ人生相談が成立しないんじゃないの」と言いたくなるけど、こういうことを言っちゃうのが村上龍らしいというか。

 まあみんなそうだよね。相談した時点で、求めている答えはすでにある。表題の「わたしは甘えているのでしょうか?」は「そんなことないですよ」と言ってほしいだけなんだろうしね。

「今の仕事を続けていていいのか」と悩むってことは、「このままじゃたぶんよくない」ことは本人もわかってるんだろう。

 だったらさっさと転職活動をするなり独立するなり資格をとるなりすればいいんだけど、めんどくさいし今より悪くなる可能性もある。だから悩み相談をする。何かをやった気になるために。今より良くなるかどうかなんて自分自身でもわからないのに、会ったこともない人にわかるわけがない。


 人間にとって「めんどくさい」って気持ちは相当大きなものだとおもう。ほとんどの悩みは「めんどくさい」に帰結するんじゃないだろうか。転職するのはめんどくさい、離婚するのはめんどくさそう、嫌な人に注意したらめんどくさいことになるかもしれない……。




「サラリーマンと、年下のフリーター。どちらとつき合うのが有利でしょう。親からは、本当に好きな男性と結婚しなさいと言われています。」
という悩みに対する回答。

この人は2人の中から好きなほうを選べる立場なんだと思っているようですが、本当にそうなんですかね。どちらにしようか迷っているということは、どちらもそんなに魅力がないということじゃないですか。どうしようもない男を2人も抱えてしまっているという視点も必要なんじゃないでしょうか。

 はっはっは。痛快!

 たしかになあ。コメディみたいに、二人の男が花束を抱えて「ぼくと結婚してください!」と言ってきたのならともかく、現実は単に二股かけているだけ。なぜ二股をかけるかといったら、どっちも最高の相手じゃないからだろう。

 こっちが二股をかけているように、相手のほうだって本気かどうかわからない。案外、二人とも「おまえとは身体の関係なだけで結婚とかは考えられないから」みたいな気持ちかもしれないよね。




 わりとドライというか、突き放すような回答が多い一方で、やっぱり村上龍もひとりのおっさんなのねえとおもう回答も。

 社長の親戚でコネ入社した上司からのパワハラに悩まされているという質問に対して。

 怒鳴るのも一種の暴力で、特定の人をターゲットにして、延々と怒鳴るのだったら、それは間違いなく暴力だから、訴えたほうがいいと思います。あまりにもそのストレスが大きくて仕事にならないなら、同僚と話し合って対策を考える、とか。いまは労働組合も力がないから、やり方はむずかしいかもしれないけど、黙って辞めることはないと思いますよ。
 そこまで深刻ではなくて、動物園のトラみたいに、ただグルグル回りながらワァワア言ってるだけだったら、「また始まった」と思って嵐が過ぎ去るのを待つ、という解決が現実的です。「どうせこいつはバカなんだから」と思って、やりすごすことができればいいんですけどね。
 上司は元開発部門? エンジニアなのかな。好意的に考えれば、ずっと理科系でやってきて、畑違いのセクションに回されて、イライラしてるのかもしれない。彼の得意分野のことでも質問してみたらどうですか。
 要は、プライドをくすぐってあげるわけですが、男は案外単純だから、いい改善があるかもしれませんよ。

 いくらなんでもこの回答はないだろう。

 パワハラには耐えなさい、そのつらさを軽減できるよう自分をごまかしなさい。これでは「奴隷の処世術」だ。

 こういう回答を聞いても何にもよくならないでしょう。「奴隷には奴隷の楽しさがあるからがんばってそれを探しましょう」って言われても。

 現実問題として上司が変わることはないだろうし、社長のコネで入社したんなら社内で解決するのはまず無理だろうし。録音して裁判して……とかいう道もないではないけど、それをして居心地のいい職場になるとはおもえないし。そもそもそんなことできる人なら相談してないだろうし。

 でも、「さっさと転職しなさい」ぐらいは言ってあげるべきじゃないのかね。「強者」である中高年男性の回答だなあ。




 あまりテレビや雑誌にヒョコヒョコでてくる人は信用しないほうがいい。本当にハッピーで充実していたら、べつにでる必要はないですから。これは偏見かもしれないけど、タレントでもないのにテレビにでる人って、すごく変な感じがするんです。
 ある意味で自分のプライバシーを売っているわけだから、基本的に寂しい人なんです。そういう人に影響を受けるのはよくないと思う。

『カンブリア宮殿』に出ていて、「作家としてはメディアによく出るほう」の村上龍がそれを言うかというのはおいといて……。


 ぼくには姉がいる。弟のぼくが言うのもなんだけど、すごく充実した人生を送ってる人なんだよね。明るくて、友だちが多くて、家庭円満で(たぶん)、仕事も大好きで、資格取ってどんどんキャリアアップしていて、地域の行事とかにも積極的に参加していて、家事も楽しんでいて、遊びにも出かけていて……とほんとにキラキラした人生を送っている人だ。ぼくとはぜんぜんちがう。

 で、その姉はSNSをやっていない。いやmixiもFacebookもやっていてぼくにも友だち申請が来たけど、まあ絵に描いたような三日坊主でまったくログインしていない(その証拠にこないだFacebookのアカウントを乗っ取られてサングラスの宣伝とかしてたのに本人は気づいてなかった)。あまりパソコンやスマホを使っていないらしい。仕事の連絡とか写真を撮るとかぐらい。

 何が言いたいかっていうと、ほんとに人生充実してる人ってのは、TwitterやInstagramやFacebookでたくさん発信してフォロワーいっぱいいる人じゃなくて、そもそもSNSをやっていない人なんだとおもうんだよね。人生が忙しくて楽しくてSNSをやる暇もないし、やる理由もない。「いいね」を集めなくても、仕事や家族や友だちや地域の人とのつながりで承認欲求が満たされるから。




 読む前は「なんで村上龍に人生相談するんだろう」とおもったけど、読み終わった後はもっと「なんで村上龍に人生相談するんだろう」とおもった

 ほんと、冷たいんだもん。「まあそんなもんですよね」ぐらいで済ませてまともに答えてないのも多いし、答えてるやつにしても「これは質問者が望んでいた答えじゃないんだろうな」と感じるようなものも多い。

 親身になっていない、それどころか親身になっているフリすらしていない。そこがある意味誠実と言えば誠実なんだけど。

 ぼくだったら、仮に人生相談したくなったとしてもこの人には相談しないなあ。鴻上尚史さんのほうがいいな。


【関連記事】

【読書感想文】一歩だけ踏みだす方法 / 鴻上 尚史『鴻上尚史のほがらか人生相談』

【読書感想文】老人の衰え、日本の衰え / 村上 龍『55歳からのハローライフ』



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2022年7月7日木曜日

わからないことが多い人

 賢い人とそうでない人の差は「わからないことが多いかどうか」だとおもう。

 むろん、「わからないことが多い人」が賢い人だ。


 考えることが苦手な人は「わからない」を遠ざける。

  • そもそもわからないものには近づかない
  • 勝手な解釈でわかった気になる
  • 「わかりやすい」説明をしてくれる人の言うことを信じる

 こんなやりかたで、わからないものを視界の外に置く。むりやり「わかった」箱に片づけてしまう。


 考えることに慣れている人は、わからないを忌避しない。そりゃあ誰だってわからないのは嫌だ。わからないよりわかったほうがいい。でも、ちゃんとわからないものを「わからない」箱にしまっておく。

 そうすると、いつかわかる日が来るかもしれないし、少なくとも「わかった気になる」ことだけは避けられるようになる。


 賢い人の話や本には「これはまだわかりません」「~という説が有力ですが他の説もあります」「ここまではわかっています」といった言い回しがよく出てくる。

 どこまでがわかっていてどこからがわからないか。その間に線を引けることこそが知性なのかもしれない。


 人間は本質的に「どっちつかずの状態」が嫌いなんだとおもう。だから白黒つけたがる。

 原発再稼働は是か非か。減税は是か非か。政権交代は是か非か。

 こういう賛否両論ある問題に、賛成あるいは反対の声を躊躇なくあげられる人をぼくはあまり信用しない。

 世の中はあまり単純にできていない。もちろん、絶対的にダメなものはある。「原発を動かしてメンテナンスはやめよう」なんてのは100%ダメだ。でも絶対的にいい案はない。どの案にも一長一短あるし、どうしたって不確実な部分は残る。

 だから「いい面もあるし悪い面もあるしよくわかんないけど、今のところはこっちのほうがいいんじゃないかな」あたりが知的に誠実な態度だ。

「絶対にこっちが正しい! 反対するやつはバカ!」という態度こそがバカだ。


 幼児なんだよね。何にでも答えを知りたがるって。

 空はどうして青いの? という問いに対してたったひとつの答えが得られるとおもっている。

 そりゃあ光の屈折とか光の波長とか人間の眼の構造とかいろいろあるんだろうけど(ぼくはよく知らないからそれっぽいことを並べてるだけだ)、「それはなぜ?」「それはどうして?」をつきつめていけば、最後は「わからない」にたどりつく。きっと詳しい人ほど「究極的にはわからない」になる。

 ありとあらゆることが「〇〇は××だから!」で済むとおもっているのは、五歳児だけだ。そう、『チコちゃんに叱られる』がああいう番組になっているのは制作陣は全員五歳児並みの知性しかないからだ。自分たちでそう言ってるし。



2022年7月6日水曜日

いちぶんがく その14

ルール


■ 本の中から一文だけを抜き出す

■ 一文だけでも味わい深い文を選出。




「庶民というのは、一度御馳走を出してもらうと、いつでも出してもらえると思い込み、出てこないと文句をいうものだ」。

(東野 圭吾『マスカレード・ホテル』より)





そのため、国を問わず時代を問わず、集団の指導者は、その集団が失敗したときには、外国人つまり「敵」にたいする憎しみをあおることによって集団の凝集性を高めようとするのがつねである。

(M・スコット・ペック(著) 森 英明(訳)『平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学』より)





人間以外はこれまでどおりの世界。

(小林 賢太郎『こばなしけんたろう』より)




昔の生物は死ななかった。

(更科 功『残酷な進化論 なぜ私たちは「不完全」なのか』より)




あたしゃこんな悪魔みたいな男、知りませんよ。

(渡辺 容子『左手に告げるなかれ』より)




関西人なら「ごっつ簡単でんな!」というところでしょう。

(藤岡 換太郎『山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門』より)




だいたいチビだし、威圧的じゃないし、声だってソフトだし、怒鳴ったりしないし。

(上野 千鶴子『女の子はどう生きるか 教えて、上野先生!』より)




「ここの留置場は、わりと寝心地がいいっていう話だから」

(東野 圭吾『マスカレード・イブ』より)




自分がこんなに苦労しているのだから、はたらかない人間も同じように苦労をすべきだ。

(井手 英策『幸福の増税論 財政はだれのために』より)




「興味を惹くものがあって、どう扱っていいかわからない場合、殺してしまう」

(花村 萬月『笑う山崎』より)





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