2018年3月28日水曜日
本当の怪物は我々人間のほうかもしれませんね
「やっかいな事件だったが、ひとまずオオアリクイたちは退治した。これで一件落着だな」
「はい。ただ……」
「ただ……?」
「もしかすると、本当の怪物は我々人間のほうかもしれませんね」
「……」
「……」
「……というと?」
「え?」
「いや、『本当の怪物は我々人間のほうかもしれません』ってどういう意味?」
「え? わかりません? 今の流れで」
「うん、わかんない。えーっと、つまり、事件は解決してないってこと?」
「いえ、そういうことではないです。アリクイも怖いですけど、人間も怖いですよね、って話です」
「怖いの?」
「全員ではないですけど。でも怖い人間もいるじゃないですか」
「あー、ヤンキーとか?」
「いやそういうんじゃなくて、もっとなんかこう……。たとえば快楽のために人を殺すような人間とか」
「うーん。そういう人は怖いけど、でもそれってただの『怖い人間』でしょ。『怪物』ではないじゃん」
「うーん、人間そのものっていうより、人間の中に潜む悪い心、ですかね。それを『怪物』と表現したというか」
「でも悪い心って誰にでもあるもんじゃない? おれにもあるし、おまえにもあるでしょ」
「まあありますね」
「誰もが持ってる普遍的なものなら、それを『怪物』と表現するのっておかしくない? 怪物って特異なものを指す言葉でしょ。たとえば超でかいヘネオロス星人が地球にやってきたら『怪物』だけど、そいつだってヘネオロス星にいるときは『怪物』とは呼ばれないでしょ」
「ヘネオロス星ってどこですか」
「今適当につくった星だけど。でもとにかく、誰もが持ってる心ならそれを『怪物』と呼ぶのはおかしいと思うよ」
「たしかにそうかもしれませんね……。じゃあこういうのはどうでしょう。たとえば核兵器。あれは恐ろしいものですし、誰もが作れるものじゃないですよね。だからああいう恐ろしい兵器を開発してしまう知能を『怪物』と呼んだ、これでどうでしょう」
「ふうん。でもさあ、おまえさっき『本当の怪物は我々人間のほう』って言ったじゃん。核兵器を開発できるぐらい頭いい人たちと、ぜんぜん勉強してこなかった自分をひっくるめて『我々』って言っちゃうの、ちょっと恥ずかしくない?」
「……」
「いやべつにいいんだけどさ。世界の舞台で大活躍している日本人を見て『日本人ってすげー!』と思って何かを成し遂げた気になるのはその人の自由だけどさ。でもやっぱり核兵器を開発した人たちにしたら、開発に何の貢献もしていないおまえに『核兵器を開発した我々』とか言われたら、イラッとくるんじゃないかな。いやいいんだよ。何も持たない人間が、何かを成し遂げた人と自分を重ね合わせて自尊心を保ったって。だめじゃないんだよ。だけどちょっとダサいっていうか……」
「もうやめてください……! すみません。『本当の怪物は我々人間のほうかもしれませんね』って言ったのは、ちょっとかっこつけたかっただけなんです……。深い考えがあったわけじゃないんです……」
「わかってくれたか……。それを言ったら物語が締められると思ったら大間違いだぞ」
2018年3月27日火曜日
人生の早期リタイア制度
会社の早期退職制度のように、人生においても早期リタイア制度を導入したらどうだろう。
早めに退職した人が多めに退職金をもらえるように、
早めに安楽死をした人の遺族(または当人が受取人に指定した人や機関)にお金を支給するのだ。
早めに死んでくれれば年金、医療費その他公的サービスが削減できるので、その一部を財源にすればいい。
- 長生きしたくない人は、早めに死ねる上に希望の相手にお金を贈れる
- 遺族にとっては介護の負担が減る上に遺産まで増える
- 国家財政にも優しい
といいことづくめなんだけどな。
自分が年老いたときに、子どもから
「お父さんって八十五歳だったっけ……。
あっそういえばお隣のおじいちゃんは早期リタイアすることにしたんだって。まだ七十代なのに。立派だよねえ」
と嫌味を言われることになるかもしれないけど。
2018年3月26日月曜日
創作落語『仕立屋銀次』
えー、昔は電車に乗っていると「スリにご注意ください」なんてアナウンスがよく流れていたんですが、最近ではまず聞かれませんな。
あれ、べつにスリがいなくなったからやないんだそうで。
なんでも、車内アナウンスで「スリにご注意ください」とやると、乗客のみなさん、自分は大丈夫かな? とポケットやら鞄やらに入ってる財布をさわるんですな。で、ああよかったちゃんとある、と安心する。
ところがスリのほうはその様子を見ているんやそうです。他の乗客が財布をさわるのを見て「ははあ、あいつはコートのポケットに財布を入れてるな」と財布のありかを知るんやそうです。
スリにご注意を、というアナウンスがかえってスリ被害を増やす、ということで今では電車で言わなくなったそうです。
それはそうと、たまに寄席にもスリが出ますからな。みなさん、ご注意を。
……ははあ、あそこか。
最近あんまりスリの話は聞きませんな。
振り込め詐欺だのフィッシング詐欺だのといったニュースはよく耳にしますが。まあなんでも文明の利器ってのは便利な反面、悪いことにも使われます。結局使うのは人間ですからな。
最近は犯罪まで顔もあわせずに完結してしまうので、どうも寂しい世の中になったもんです。その点スリは人と人とが直接ふれあうからあたたかみがあってよろしい……なんてことはございませんが。
さてさて、ここにおりますのは仕立屋銀次という男。昔は界隈ではちょっと名の知れた有名スリでしたが、結婚したのを機に今では足を洗って洋服屋で働いております。
テツ「ごめんよ」
銀「はい、いらっしゃい。なんやテツかい」
テツ「銀の兄貴、ちょっと仕事を頼みたいんですけどな」
銀「おっ、めずらしいな。いつも着たきり雀のおまえがスーツ仕立てんのかいな。よっしゃ、まかせろ。ちょうどええ生地が入ったんや」
テツ「ちゃうちゃう、スーツやない。べつの仕事を頼みたいんや。こっちのほうを(人差し指を曲げる)」
銀「あかんあかん、スリはもうやらん」
テツ「一回だけですわ」
銀「一回でもあかんもんはあかん。おれはなあ、結婚するときみっちゃんと約束したんや。もうぜったいスリはやらんって。だから帰れ帰れ」
テツ「そんな冷たいこと言わんといてやあ、兄貴。
昔の弟分が困っとるんや、話だけでも聞いてんか」
銀「……話だけやで」
テツ「まあ兄貴が心を入れ替えるのもわかりますわ。みっちゃん、めちゃくちゃいい女性ですもんね」
銀「せやろ。おまえも早くええ嫁さん見つけろよ」
テツ「せやからこうしてお願いに来てるんですよ」
銀「なんや、女を紹介してほしいんかいな」
テツ「ちゃうんです、女はもう決まってるんです」
銀「ほんまかいな。よっしゃ、応援したるで。相手は誰や」
テツ「ほら、そこの喫茶店でバイトしてる女子大生のユリちゃん」
銀「ユリちゃん? あの看板娘のかいな。やめときやめとき、あれはあかん」
テツ「さっき応援したるって言うたやないですか」
銀「せやけどユリちゃんやろ。町内一の小町娘と評判やないか」
テツ「そうそう」
銀「しかもかわいいだけやのうて愛嬌もある。誰にでもにこにこと接してくれるし、頭もよくて冗談も言える。めちゃくちゃええ子やないか」
テツ「よう知ってますね。もしかして銀の兄貴もユリちゃんのことを……」
銀「あほか。おれにはみっちゃんがおるんや。
せやけど、いろんな男がユリちゃんに声かけてるけどことごとく玉砕してるって話やで。連絡先すら教えてくれへんって。うわさでは、テレビに出てる人気の俳優が店に来たときにナンパしたけど、それも軽くあしらったって。そないな女の子が、おまえのことなんか相手にするかい」
テツ「おれもそう思って一度も誘ったことなかったんですけどね。
ところが、今度おれとユリちゃん、デートすることになったんですわ」
銀「ええーっ。そんなわけあるかい」
テツ「それがほんまなんなんですわ。昨日コーヒー飲みに行ったら、テツさん、私もうすぐ大学卒業するから今日でアルバイト最後なんですって云うんや。そうか、それは寂しくなるなあ、良かったら卒業祝いに飯でもどうやって云ったら、いいですね連れてってくださいと、こない云うんや」
銀「どうせ社交辞令やろ」
テツ「おれもそう思ったんやけど、じゃあ電話番号教えてよって云ってみたらほんまに教えてくれたんですわ!」
銀「はー。女心っちゅうもんはわからんもんやな。さんざんいろんな男が口説いてもあかんかったのに、おまえみたいなしょうもない男が何気なく誘ったらあっさりいけるなんて」
テツ「ほんまにわからんもんですわ。でへへ」
銀「だらしない顔すなや。
しかしわからんな。デートすることになったんやろ。何が困っとんねん。
まさか何を着ていったらわからんとか、そんなしょうもない話やないやろな」
テツ「話はこっからですわいな。
ユリちゃんが電話番号を教えてくれたんですが、こういうときにかぎって携帯電話の電源が切れとる。しゃあないから手近な紙にメモをして、また連絡するわといって店を出た。
店を出たところでタケオの野郎に会ったんですわ。シュレッダーのタケオですわ」
銀「誰やそいつは」
テツ「ケチで有名な男です。
おれ、タケオに一万円を借りとったんですわ。こりゃまずいと思って逃げようとしたがばっちり目があってしもうた。
するとタケオの野郎、貸した金を返してくれとこないむちゃくちゃなことを云うんや」
銀「むちゃくちゃはどっちや。借りた金、返すのがあたりまえやないか」
テツ「まあいつもなら金はないと云って逃げるとこやけども、そのときはたまたま持ち合わせがあった。おまけにユリちゃんの件があってこっちも上機嫌やったからな、ほら一万円じゃと渡してやった。どやっ」
銀「借りた金を返しただけで何をえらそうにしとんねんな、この男は」
テツ「ほんで家に帰って、さあユリちゃんに電話をしようと思って気がついた。
おれ、ユリちゃんの電話番号を訊いたとき、手元にメモがなかったから財布にあった一万円札に番号をメモしたんですわ」
銀「まさかおまえ……」
テツ「そう、タケオに渡してしまったんですわ」
銀「おまえはほんまにどんくさいやつやな」
テツ「せやから銀の兄貴、タケオの財布からこそっと一万円をスってきてほしいんですわ」
銀「待て待て。そんなことせんでもタケオに会って、事情を説明してさっきの一万円を返してもろたら済む話やないか」
テツ「兄貴はタケオのことを知らんからそんなこと云うんですわ。
あいつは、一度財布にしまった金は死んでも出しませんのや。
タケオの財布とシュレッダーは、一度入れたら二度と出ません」
銀「それでシュレッダーのタケオかいな。
せやけどおまえは電話番号のメモさえわかればええんやから、金を見せてもらうだけでええんやで。渡さんでええから見せてくれ、とこない言うたらどないや」
テツ「それでもあかんねん。じつはタケオ、ユリちゃんにぞっこんなんや」
銀「それはまた話がややこしくなってきたな」
テツ「昨日もなんで店の前でテツオに会ったかというたら、テツオがいっつもユリちゃんに会いにくるからですわ。そやなかったらあんなドケチが喫茶店なんかに来るわけあれへん。あいつ、いっつもいちばん安いコーヒー頼んで、ちょっとでも元をとろうと砂糖とミルクをカップにひたひたになるまで入れて、ほんでちょっと飲んではまたミルクたして、ちょっと飲んではミルクたして、しまいには真っ白になったコーヒー飲んどるんでっせ」
銀「それはもうただのミルクやがな」
テツ「そこまでして通いつめるだけやないで、こないだなんかユリちゃんにチョコレートをプレゼントしとったんや。これは、タケオにしたら清水の舞台から飛び降りるぐらいの一世一代のプレゼントやで」
銀「どんだけケチやねんな」
テツ「なにしろあの男、ティッシュで鼻かむんでも、表でかんで、裏でかんで、二枚ばらばらにして内と外をひっくりかえしてまたかんで、それを天日干しにしてまた表でかんで、裏でかんで……」
銀「相当なしみったれやな」
テツ「そうでっしゃろ。おれに金貸すときでも、一万円貸してくれって云ったら、利息二千円やとこない云うんや。わかったから貸してくれというと、八千円渡してくる。あらかじめ利息の二千円は引いとんのや」
銀「利息二割かいな。なかなかえぐい商売しよるな」
テツ「そんな男が金払ってコーヒー飲みにくんのやから、ユリちゃんに対しては相当な入れ込みようでっせ。せやから一万円札にユリちゃんの電話番号が書いてあるなんて知られたら、どんなじゃまされるかわからん」
銀「それもそやな」
テツ「そこで兄貴にお願いですわ、なんとかタケオから電話番号の書いた一万円札をスってきてほしいんですわ」
銀「うーん、しかしもう盗みはやらんとみっちゃんと約束したしなあ……」
テツ「今回だけ!」
銀「わかった。やったろう」
テツ「ほんまでっか!」
銀「ただし条件がある。おまえの財布を貸せ」
テツ「へっ? どういうことですかい」
銀「タケオの財布をスって、電話番号の書いた一万円札を回収する。
その後でべつの一万円をタケオの財布に入れて、タケオに返すんや」
テツ「ははあ、なるほど。それやったら盗みやないな」
銀「そう。無断で拝借するだけや。ちゃんと返すからタケオも気づかんやろ」
テツ「さすがは銀の兄貴や。ほな、それでお願いしますわ。
じゃあさっそくおれの財布を……。あれ、財布がない」
銀「もう預かった」
テツ「いつのまに」
銀「どや、腕は落ちてへんやろ」
というわけで銀の兄貴とテツのふたり、タケオの家の前までやってきます。
銀「しかしよう考えたら、おまえがタケオに金を返したのは昨日やろ。
もう持ってへんかもしらんで」
テツ「なんでですかい」
銀「タケオがもう使ってもうた、ってこともあるやろ。
それやったら取り返すのは不可能やで」
テツ「ああ、それやったら大丈夫ですわ。
タケオが一万円札を使うなんてことありません。
貸した金の利息と拾った小銭だけで生活しとるといううわさですわ。あいつが札を出すところなんて、誰ひとり見たことありませんで」
銀「そうか。それやったら安心やな」
テツ「あっ、銀の兄貴。タケオが家から出てきましたよ。なんやふらふらっと歩いてるな。あれやったらおれでもスれそうやで。兄貴の手を煩わすまでもなさそうや、おれがちょっと行ってきますわ」
銀「あほか。素人がそんなうまくいくわけ……あーあ、いってしもた。あいつは後先考えんと行動するのが悪いとこや。そんなんやから大事な電話番号を一万円札に書いてしもたりするんやろな。
おっ、帰ってきた。どやった、スれてかい」
テツ「家のカギ落とした」
銀「あべこべに落としてどないすんねん。ほら、そこにカギ落ちてるで。しっかり持っとかんかい。
……待てよ、この手は使えるな。
よっしゃおまえ、タケオの前に行って立ち話してこい。少ししたらおれがタケオの後ろから通りかかる。おまえは知らん顔しとけよ。ほんでおれがこうやって合図をしたら、おまえはわざとカギをタケオの前に落とすんや」
テツ「へ? カギを落とすんですかい?」
銀「せや。そしたらタケオがそれを拾うやろ。その隙におれが財布をさっと抜く。
人間っちゅうのはな、何かをとろうとしてるときが一番無防備なんや。せやからおまえのカギに注意を引きつけといて、その間に財布を拝借するという寸法や」
テツ「はー、えらいもんでんなあ。さすがは兄貴。ほなちょっと行ってきますわ」
言うなり早く、タケオの前に走っていきました。
テツ「おう、タケオ、ひさしぶりやな」
タケオ「なんやテツか。昨日も会ったとこで、何がひさしぶりやねんな
テツ「よっしゃ、今やな。
おっと、カギを落としてもうた」
タケオ「……」
テツ「カギを落としてもうた」
タケオ「そうか」
テツ「はよ拾わんかい」
タケオ「おまえがおまえのカギをおまえの足元に落としたのに、なんでおれが拾わなあかんねんな」
テツ「ええから拾ってくれや。おまえが拾わな話が進まんのや」
タケオ「おまえ、手が空いとるやないか。おまえが拾わんかい」
と、わあわあ言い争いになりました。それを見ていた銀次の兄貴、
銀「なんやあいつ、何をやっとるんや。落とし方がへたすぎるで。
……しかしこれはチャンスやな。喧嘩をしてる人間なんか隙だらけや」
と、タケオに近づくと、さあっとポケットから財布を抜いてしまいます。そのまま物陰に隠れると、くだんの一万円札を抜き取って、代わりのお札を入れ、喧嘩を続けているタケオに近づきます。
銀「ちょっとちょっと兄ちゃん」
タケオ「なんやねん。今こっちは取り込み中や。やんのか、おまえ」
銀「そこに財布落ちてたんやけど、これ兄ちゃんのとちがうか」
タケオ「なんやと、おまえ。
おっ、おお、おれのや……。おおきに、おまえ……」
と、タケオが財布をふところにしまっているうちに、銀の兄貴とテツはその場を離れます。
銀「ほら、預かっといたおまえの財布や。そこから金抜いて、タケオの財布に返しといたで」
テツ「さすが兄貴やな。あっという間やな。これこれ、たしかにおれが渡した一万円札や。電話番号も書いてあるし、福沢諭吉も書いてある」
銀「あたりまえや。諭吉のおらん万札があるかい」
テツ「……あれ。おかしいな」
銀「どないしたんや」
テツ「おれ、財布に一万五千円入れてましたんやで。せやのに三千円しか残ってへん。一万二千円なくなってる」
銀「利息分、二千円多く返しといた」
2018年3月25日日曜日
本を読めない職業
五歳のときに読書の悦びにめざめ、以来三十年ばかり本を読む日々を送ってきたが、人生においていちばん「本を読まなかった時期」は本屋で正社員として働いていたときだった。
なにしろ朝六時に出社して、退勤時間は早くて六時半。遅いと九時ぐらい。
帰宅したら食事をする間も惜しんで寝ていたので、読書をする時間などとれなかった。
郊外の店だったので通勤は車。移動中も読書ができない。
休みは月に六日ぐらい。半日寝て、溜まっている用事を片付けたりすると、あっという間に夜。六時に出社するために四時半に起きていたので、夜ふかしなんてできなかった。
本屋にいるので情報だけは入ってくる。
新刊予定表を見て「おっ、もうあれが文庫化するのか」とか「この作家、最近よく売れてるな」とか、入荷してきた本を手に取って「聞いたことない作者だけどおもしろそうな本だ」とか思う。
でも、読む時間がない。
ダイエット中に目の前にごちそうを並べられるような状態。つらかった。
「本屋で働いている」と言うと、「へえ。仕事しながら本が読めるなんていいね」と言われることがあった。
「客の少ない古本屋でバイトがレジに座りながら本を読んでいる」みたいな光景を想像していたらしい(ぼくが子どもの頃にも近所にそんな古本屋があった)。
でもそんなことはない。
本屋の売上は年々減っている。だけど本は仕入値も販売価格も決まっているから、同じ利益を出すためには人件費を削るしかない。バイトを減らす。社員が長時間労働をさせられる。そうやってなんとかもちこたえている状況だったから、ひまな時間なんてまったくなかった。
本屋をやめてよかったことの第一位は、本を読む時間が増えたことだ。
本屋にいたときは「読みたい本」の情報だけが入ってきて読む時間がなかったから、常に追われているような心境だった。
本屋をやめてようやく、「読みたい本」と「読む本」のバランスがとれるようになった。
(とはいえまだ「読みたい本」のほうが少し多いので、買ったけど読まない本が溜まってゆく)
もしあなたが本好きならば、本屋勤務だけはやめておけと言っておく(バイトぐらいならいいかもしれんけど)。
本を読む時間がとれない上に、本にふれている時間は楽しいがゆえになかなかやめられなくなるから。
2018年3月24日土曜日
焼肉はいつも多すぎる
みんな、焼肉とうまくつきあえてる?
ぼくは焼肉とうまくやれていない。
決して嫌いなわけではない。どっちかといったら好きだ。
ぼくはご飯が大好きだから、ご飯が進む食べ物は全部好きだ。ご飯はぼくの味方。味方の味方は味方。だから焼肉は味方。
ご飯を食べるために焼肉を食べる。お金をもらうために仕事をするのと同じように。
ぼくが焼肉を苦手としているのは、確実に失敗するからだ。
子どもの教育には「成功体験」が大事だという話を聞いたことがあるが、それでいうと、ぼくには焼肉の「成功体験」がない。九割の確率で失敗している。残りの一割は大失敗だ。
焼肉を食べ終えて「ああ、うまかった。おなかもいっぱい。ちょうどいい分量だった」と思えたことがない。
焼肉はいつも多すぎる。
はじめは「うまい、うまい」と食っているのに、最後は必ず「苦しい……。でも食わなきゃ……」になる。
「誰かこれ食わない?」
「おれはもういいや」
「私ももういい」
こんな会話が焼肉の終盤では必ずくりひろげられる。
そこで「ぼくもいらない」が言えない。「じゃあ……」と箸を伸ばしてしまう。
食べ物を残してはいけないという幼少期のしつけのせいか、前世で餓死でもしたのか、はたまたただの貧乏性か。食べ物を残すことができない。
焼肉の終盤では「さらえる」係を一手に引き受けることになる(「さらえる」は「皿のものをすべてたいらげる」の方言。どこの方言かは知らない)。
もはや苦行。おいしさも楽しさも感じない。バリウムを飲むときの顔で焼肉を食べる。
胃腸が弱いので、焼肉の後はだいたいおなかをこわす。吐くこともある。
無理して食べた焼肉はうまくもないし栄養にもならない。何のために食べているのかわからない。脂肪になるほうがまだ生産的なだけマシだ。
わかっていても、目の前に残っているとついつい食べてしまう。
焼肉はいいやつだ。それは認める。
みんなで焼きながら食ったら話ははずむし、ご飯は進むし、ビールにもあう。
でも苦手。嫌いじゃないけど苦手。
周りにそういう人いるでしょ? 決して嫌いじゃないし、いい人なんだけど、なぜか自分とは相性が悪い。ぼくにとって焼肉はそんな存在。
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真っ黒になるまで燃やしてしまうのが 唯一の解決策 |
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