2016年10月13日木曜日

【エッセイ】ハロウィンの仮装をおもしろくするために

ハロウィンの仮装で、おもしろいものを見ないのはなぜなのだろう。

あれだけたくさんの人が仮装しているのだから、1割くらいは笑えるもの、センスが光るものがあってもよさそうなものなのに、まあつまらない。
誰一人としてセンスを感じない。

なぜかと考えてみたのだが、やっぱり「仮装していいときに仮装してるから」なんだろうね。
ハロウィンに仮装をするのって葬式に喪服を着るようなものだから、そりゃ笑えない。
仮装は場違いだから笑えるのであって、これだけハロウィンが市民権を持ってしまった今日では、どんな格好をしてもそれは正装にすぎない。


卒業式や成人式にヤンチャな服装で出席するヤンキーに対しては
「やるべきときにやるべきことをやっていてすごくまじめな人なんだな」という印象しか持たないけど、それに似ている。

「ハロウィンに仮装」も「まじめにふつうのことをやっている」だけだから、それを見て笑えるわけがない。


新入社員が初出社の日に喪服を着てきたら
「なんであいつ喪服なの。これは大物ルーキー現る!」
ってな感じですごく笑えると思う。


そこでぼくが提案する仮装は
「ハロウィンの1週間後あたりにゾンビの格好して
 『あれ? おれだけ? 今週じゃないの? まじで!?』
 みたいな顔で赤面する人」
の仮装。

これだったら見てみたい。
そして恥ずかしすぎるからぜったいにやりたくない仮装でもある。

2016年10月12日水曜日

【エッセイ】ハンコぺったん


4歳の姪と電話をしていたときのこと。
「今なにしてたの?」と訊くと
 「ハンコぺったんしててん」とかわいい返事。

「へー。ハンコで遊んでたの」
 「遊んでるんとちゃうねん。ハンコぺったんせなあかんねん」
「ん?」
 「この電話が終わったらまたぺったんせなあかんねん。たいへんやわ」
「ん?遊んでるんじゃないの?」



彼女の母親(ぼくの姉)に話を聞いてみると、こういうわけだった。

夕食の支度をしていると、姪が「おてつだいする!」と言いだした。
しかし揚げ物をしているので近寄らせたくない。
かといって、せっかくお手伝いをしようという気になっているのに無下に断るわけにもいかない。
そこでハンコと紙を渡して
「おかあちゃんの代わりにこの紙いっぱいにハンコぺったんしといて。お願い」
と頼んだのだそうだ。

なるほど。
これならひとりでやらせても危なくないし、子どもも達成感を味わえて仕事の喜びを学べる。

これはいい子育て術を知ったと思い、妻にも教えた。妻も感心していた。


 
一週間後。
妻が黙々とミシンを踏んでいたので「よっしゃ、手伝ったろ」と言ってみた(ミシンの電源ボタンがどこにあるのかも知らないけど)。

すると妻は微笑みながら
「んー。じゃあハンコぺったんしといて」

こいつ……。さっそく実践しとるっ!!


で、質問なんだけど、あと何回ぺったんしたらいいのかな?

2016年10月9日日曜日

【読書感想文】曽根 圭介『藁にもすがる獣たち』

 

曽根 圭介『藁にもすがる獣たち』

内容(「BOOK」データベースより)
サウナの客が残していったバッグには大金が!?持ち主は二度と現れず、その金で閉めた理髪店を再開しようと考える初老のアルバイト。FXの負債を返すためにデリヘルで働く主婦。暴力団からの借金で追い込みをかけられる刑事。金に憑かれて人生を狂わされた人間たちの運命。ノンストップ犯罪ミステリー!
いやあ、実に「うまい」小説でした。

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2016年10月8日土曜日

【エッセイ】さながら石油王

今日は会社の飲み会。
妻に対しても、一週間前から「帰りが遅くなる」と言ってある(上司への報告は社会人の基本だからね)。

そんなとき、妻が風邪をひいた。
かなりしんどいらしく、朝から寝込んでいる。


これは……。

チャンス!!

圧倒的チャンス!!



他の家庭はどうか知らないが、夫婦の立場というのはポイント制だとぼくはとらえている。

ごはんを作ったら2FP、洗い物をしたら1FPがプレイヤー(夫または妻)に加算される。
 ※FPとは夫婦ポイントのこと

逆に、連絡なしに帰りが遅くなった場合や、余計なものを買ったことがばれた場合などはFPが減点される。


日常のあらゆる行動に対して、FPのプラスマイナスが規定されており(ポイントは夫婦によって異なる)、
このFPの累積によって各プレイヤーのランクが決定し、すなわち家庭内での地位が確定する。
(つまりぼくのFPは妻よりも圧倒的に少ないということになる)


また、プレイヤー間のFPに著しい差が生じた場合は、上位のプレイヤー(=妻)は下位のプレイヤー(=夫)に対して攻撃を加えることができる。
攻撃とはすなわち、怒りを爆発させるということであり、
この際の攻撃力は、

(直近1ヶ月のFP差)+(直近1週間の相手のマイナスFP)/(1+(直近1週間の相手の獲得FP))×14.2

という式で求められる。


さらに、攻撃力が550を超えると、特別ボーナスが加算される。

属性が同じ相手プレイヤーのエラーを過去40年までさかのぼって召喚し、攻撃力に加算することができるのだ。
「4年前のあのときもあなたはこう言ったわよね!」という過去ほじくり攻撃である。


2016年10月4日火曜日

【エッセイ】放屁の文化史

突然だが、ぼくが生まれ育った家庭では
「放屁は黙殺」という掟があった。

一家団欒の席において誰かがことに及んだ(つまり音の出る屁を放った)場合、家族の誰もそのことに言及しない。
顔色ひとつ変えずに、会話を続けるのが鉄則である。

とはいえ、掛け軸に「放屁は黙殺」としたためた書が床の間に飾ってあるわけではない。

家族会議が開かれて三日三晩話し合って
「やはり放屁については言及しないこととしよう」
という議決を出したわけでもなく、いつの間にかなんとなく決まった不文律だ。


基本的にはおならは我慢する。
それでも人間なんだから、おならの一発や二発、うっかり出てしまうことはある。
事を大げさにするほどのことでもあるまい。そっと目を閉じて(というより耳と鼻を閉じて)、なかったことにするのが大人のたしなみだろう。
これが、(話し合ったわけではないけどおそらく)うちの実家の共通認識である。


どこの家でもそうなのだと思っていた。
ところが最近判明したのだが、どうも各家庭によってそのへんの処遇についてはまちまちであるらしい。


ぼくの妻。
彼女の生まれ育った家庭においては、そもそも「おならは御法度」であるらしい。
だから万にひとつもおならをするようなことがあってはならないし、よしんばその禁を破った場合は速やかに頭を下げてその場にいる者の許しを乞わなければならないのだという。

たとえば、会話中にぼくがうっかり放屁をしてしまう。
ぼくは三十年来の習慣に従い、なにくわぬ顔で話を続ける。
このとき、ぼくの親族であればやはり聞かなかったことにして会話を続行してくれる。

しかし妻は許さない。
アゲハチョウの幼虫には外敵を追い払うために顔みたいな模様がついているけど、ちょうどあれぐらいの怖い顔をしてぼくを睨みつける。
その表情の変化に気づかないふりをして会話を続けるぼく。
すると彼女はとうとう、口に出して夫の不始末を咎める。

「ごめんなさいは?」

これがぼくには理解できない。
なぜそっとしておいてくれないのか。

いうなれば、ぼくの実家は『恥の文化』。
放屁をしても、誰も何も言わなければしなかったのと同じだから、恥ずかしくない。
和をもって貴しとなす日本古来のやりかただ。

一方、妻が説くのは『罪の文化』。
放屁はそれ自体が罪だから、周囲の反応には関係なく償わなければならないと主張する西洋文化だ。


はたしてどちらが正しいのか。
ぼくは、旧友のSくんに相談してみた。

彼は云った。
「おれの実家は事前申請制を採用してる」

なんと、彼が生まれ育った家では、おならが出そうになったら
「もうすぐ出る!」と宣言して、家族が心の準備を整えてから出すのだという。

彼の家ではおならをすること自体は罪ではないが、黙っておならをしてそれが明るみに出た場合にはじめて非難を浴びるのだという。
「黙っておならしたの誰?」と。

Sくんにはたいへん美人なお姉さんがいるが、そのお姉さんもやはり宣言してからなさっていたそうだ。


なんと。
新たなルールが見つかった。
例えるならば、戦国文化であろうか。
戦国武将のように「やあやあ我こそは……」と名乗りを上げてから出陣しないと卑怯者と見なされる、たいへん勇ましい文化だ。

いろんな家庭があるものだ。


ところでこのSくん、今では結婚して二人暮らしだ。
「今も宣言してるの?」
と尋ねると、彼は首を振った。
「おならをしたら奥さんにめちゃくちゃ怒られる。事前申請しても、後から謝ってもだめ。そもそもおならをしたらだめだって言われる。『たとえ私が留守にしているときでもだめ』だってさ」

高らかに名乗りを挙げて刀を振り回していたのも、今は昔。
もう今は武士の時代ではないのかもしれないな……。
剣の道に悩む宮本武蔵の顔が、寂しそうに笑うSくんにだぶって見えた。