『悪い夏』
(2025)
Amazon Primeにて視聴。以下、ネタバレあり。
中盤ぐらいまですごくおもしろかった。まじめなケースワーカー・佐々木が、子どもに同情したことをきっかけにシングルマザーである愛美と接近。徐々にひかれあう二人……。
ただ、佐々木が愛美にひかれていることは映像からでも明らかなのだが、愛美の本心はわかりづらい。はたして本当に好きになっているのか、それとも“計画”のために惚れた芝居をしているのか。
おそらく両方の要素があるし、愛美本人にもわからないのだろう。何度か「自分の気持ちがわからない」と漏らしている言葉のとおり。自分の感情を素直に出すことのできなかった生い立ちのせいで、理想を直視できなくなっているのだろう。
このあたりの「愛美の本心はどっち?」が絶妙なミステリとなって、物語にぐいぐい引き込まれる。幸福そうな佐々木と愛美たちの姿が描かれた後に、冷や水をぶっかけるようなタイミングでさしこまれる監視カメラ付きくまのぬいぐるみが不穏すぎる。いやー、ひりひりする。
映像から伝わってくるまとわりつくような暑さの描写も実にすばらしい。ねばっこい映像にこちらまでからめとられていくような気になる。
善良かつまじめな公務員であった佐々木が、その善良さ、まじめさがゆえに徐々に悪の道に引きずりこまれていく描写はほんとに見事。底なし沼に向かっていると知らずにどんどん深みにはまっていく姿は見ていて胸が詰まる。
善良な人間がプロの悪に狙われたらひとたまりもないのだということが伝わってくる。
だって佐々木にはほんとに何の落ち度もないんだもの。佐々木の先輩職員・高野も同様に転落人生を送るが、こちらは自業自得な面も強いので、その対比で余計に佐々木がたどる運命の理不尽さが強くのしかかる。
と、中盤までのドラマがほんとにすばらしかっただけに、終盤の雑な展開がつくづく残念だった。
まず、「金本たちに脅されて佐々木が生活保護受給詐欺の片棒をかつぐ」裏付けが弱い。だって佐々木はこの時点で何の悪いこともしてないんだもの。たしかにケースワーカーが生活保護受給者と肉体関係を持つのは褒められたことではないが、法に触れることではない。
ふつうに考えれば「金本に脅された時点で警察に駆けこむ」という選択肢もぜんぜんあるんだよな。というかそっちのほうが自然。だって佐々木は脅されるほどのことをしてないもの。愛美に裏切られて自暴自棄になった、と解釈することもできなくはないが、それならそれで余計に愛美のもとから逃げ出したくなりそうなものだし。金本が子どもを材料にして佐々木を脅すとも考えにくいし。
どうやら原作小説では佐々木が罠にはめられてもうひとつ脅される原因をつくるらしい。なるほど、そっちのほうが納得できる。
脅されて悪に手を染めるようになった佐々木が生活保護申請者にキレるシーン。あれって佐々木が変わったというより、「余裕がなくなったせいで自分でも気づかないように覆い隠していた部分が発露した」シーンだとぼくはとらえたんだけど、それだったら佐々木の「実は困窮者を見下している」面を前半でもっと描いてほしかったとおもう(冒頭の山田と対面するシーンだけでなく)。
そしてひどかったのが終盤の全員集合シーン。まるっきりドタバタコントじゃん。笑っちゃったよ。シリアスなはずのシーンなのに。コメディっぽく描きたかったのかなあ。偶然が重なっていいのは二回まででしょ。
とってつけたようなハッピーエンドも好きじゃなかったなあ。やるなら徹底的に絶望を見せてくれるほうが個人的には好み。最後だけハートウォーミングな感じにされても白けてしまう。
中盤まではすごくよかったのであの嫌な感じのまま最後までつっぱしってくれたらとんでもない映画になったのになあ。残念。でも総合的に見てもいい映画だったよ。後味悪い作品が好きな人にしかおすすめしないけど。
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