2016年7月21日木曜日
【エッセイ】レッサーパンダの悲哀
レッサーパンダは、かわいい。
これは異論の余地がない。
つぶらな瞳、平安貴族みたいなちょっと変な眉、寄り目なところ、ちょろりと出た舌、豊かな表情、ずんぐりむっくりした胴体、ぼてっとしたしっぽ、どこをとってもかわいい。
どんなへそまがりな人が見たって、かわいい。
しかも、体長は約50センチ、体重は3~4kg。
これはちょうど人間の赤ちゃんと同じくらいだ。
おまけによちよち歩きで歩く。
もう、人間にかわいがられるために神が創ったとしか思えない。
なのに。
なのに。
レッサーパンダは不遇の扱いを受けている。
かつて、日本では「パンダ」といえばレッサーパンダのことを指したらしい。
ところが、ジャイアントパンダがやってきて、そいつがすっかり人気者になったために、「パンダ=ジャイアントパンダ」になってしまった。
ぬいぐるみやキャラクターも、ジャイアントパンダのほうが圧倒的に多い。
それだけではない。
それまで「パンダ」だった動物は、大熊猫の登場により、「LESSER(小さいほう、劣ったほう)」という不名誉な冠称をつけられて呼ばれることになった。
彼の心中の悔しさたるやいかに。
せめて、「レッドパンダ」とかにしてやれよ……。
中学生のとき、同級生にスガくんがふたりいた。
一方のスガくんは体格が良くてけんかも強かった。
もうひとりのスガくんは、学年でいちばん背が低く、そのせいもあってみんなから低く見られていた。
みんな、背の低い大きいほうのスガくんのことを「小スガ」と呼んでいた。小さいほうのスガだからコスガなのだ。
じゃあ大きいほうは「大スガ」かというと、そんなことはない。
彼は単に「スガさん」と呼ばれていた。
今思うと、「小スガ」は残酷な呼び方だったと思う。
ごめんよ小スガ。
世界史で出てきた「小ピピン」。
新約聖書に出てくる「小ヤコブ」。
彼らも、かわいそうだ。
歴史に名を残すはたらきをしたのに、「小」がついているせいで、どうしても小物感が拭えない。
しかも彼らはべつに小さかったわけではないのだ。
近い時代に同名の人物が歴史に名を残していたため、区別するために後から生まれたほうが「小ピピン」「小ヤコブ」と呼ばれているのだ。
もっと他にあっただろう。
「新ピピン」とか「続ヤコブ」とかさあ。
彼らならきっと、レッサーパンダの悲哀を深く理解できるんだろうなあ。
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