施川ユウキ 『バーナード嬢曰く。1巻』
ありとあらゆるものがマンガの題材になっている時代なのに、ありそうでなかった読書マンガ。
『名作小説をマンガにしてみました』とかはよくあるけど、「読書」について真っ正面から取り扱ったマンガは他に知らない。
読書もマンガも好きな人っていっぱいいると思うのにな。
ぼくもその一人だし。
読書ってのはものすごく内的な行為なのでマンガにしにくいのかもしれないね。動きもないし。
『バーナード嬢曰く。』は、内容紹介に「読むとなんだか読書欲が高まる」とあるとおり、本が読みたくなるマンガ。
熱を込めて「この本おもしろいよ!」って薦めているわけでもないのに。
本屋に行くと、「涙が止まらない感動巨編」って帯とか、「書店員が選んだ泣ける本No.1」みたいな安っぽいPOPが立ち並んでいるけど、ああいうのって本好きからするとへどが出るよね(書店でへどを出すと迷惑なんでこらえるけど)。
あれって本を読まない人、本の選び方を知らない人のためのものなんだよね。
本好きはあんなもので本を買わない。
ごく淡々としたあらすじだけで十分。何千冊も読んでいれば、自然と五十文字くらいのあらすじだけでおもしろい本を見抜けるようになる(はずれることも多々あるけど)。
たいていの文庫の巻末についている『他の文庫を紹介するコーナー』の魅力は、文庫好きなら誰もが知っているはず。
そんな『他の文庫を紹介するコーナー』みたいなおもしろさが詰まっているのが、『バーナード嬢曰く。』
あっさりした本の紹介と、軽めのギャグ。
まさに文庫目録のような軽妙さが心地いい。
このマンガで紹介されている本を読みたくなって、思わずマクニールの『世界史』とハインラインの『夏への扉』を購入してしまった(なにしろkindleで読んでいるので、あっという間に買えちゃうのだ。Amazonこわい)。
紹介されている本は、いわゆる『文学』だけかと思っていたら、ノンフィクション、ビジネス書、絵本、ケータイ小説など多岐にわたっている。
作者の好みが反映されているんだろう、SFにやけに比重が置かれているが。
このマンガのおもしろさのひとつは「読書家の本に対する姿勢」への言及。
読書家って、話題になっている本に対して素直な態度をとれないよね。
たとえば芥川賞をとった又吉直樹の『火花』。
本を好きな人ほど、あの本の扱いに困ってるんじゃない?
やっぱり「しょせんはタレント本でしょ」という気持ちもどっかにあるから、手放しでほめることはできない。
かといって全面的に否定するのも、芥川賞の歴史を軽んじてるようだし、そんじょそこらのにわか芥川賞ファンと一緒にされそうでイヤ。
結局、
「新人としてはスケールの大きい作品だが細かい点で粗も目立った。次回作に期待したい」
なんて、変に大上段にかまえた選考委員みたいなコメントをしてしまったりする。
あるいは、斜に構えて「おれは話題作とか読まないんだよね」みたいなスタンスをとってしまう(誰もおまえの読書傾向になんか興味ないっての)。
ぼくは完全に後者のタイプ。
そういう、本好きのひねくれたところをうまくギャグにしている。
特にSFファンからしたら「あるある!」なネタもたくさん。
ところで『読書好きがどういう評価をくだしていいか悩む作家 ダントツの第1位』である、村上春樹の名前がこの本には出てこない。
読書について語るなら村上春樹ははずせないだろう、あんなに評価の分かれる作家はいないんだから!
......と思っていたら、2巻では満を持して村上春樹に言及しているらしい。
いかん、2巻も買ってしまいそうだ。さすが「読むとなんだか本が買いたくなる」マンガ!
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