2025年4月17日木曜日

【読書感想文】小川 哲『地図と拳』 / 技術者の見た満洲国

地図と拳

小川 哲

内容(e-honより)
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野…。奉天の東にある“李家鎮”へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。第168回直木賞、第13回山田風太郎賞受賞作。

 ハードカバーで600ページ超の重厚な大河小説。

 満洲国という国の誕生から消滅までを書いた群像小説。史実と創作がうまくからみあっていて、どの部分をとってもおもしろい。史実に忠実な部分と、おとぎ話のような奇想天外な部分がモザイク画のように入り混じっている。

 この小説を書くにあたって、途方もなく膨大な史料を読んだのだろう。と同時に、それらをかみ砕いて血肉とした上で小説に還元している。膨大な史料から小説を書く人には「調べたことを全部書かなくちゃ!」というタイプが少なからずいるのだが、この著者は見事に取捨選択している。

 手塚治虫は史実と虚構を織り交ぜるのがうまい人だったけど、『地図と拳』にも近いものを感じる。


 ただ、個々のエピソードはどれもすごくおもしろいんだけど、全体を通してみるとひどく散漫な印象を受ける。いろんな登場人物の視点で語られるし、登場人物の立場もみんなそれぞれ異なる(日本人技師、ロシア人神父、中国人の地主、中国人ゲリラ、日本人の軍人など)。時代も移り変わるし、登場人物も死んだり生まれたりして入れ替わる。

 それこそが著者の狙いなんだろうけど(人ではなく国の栄枯盛衰を書こうとしたのだろう)、読んでいて尻のおさまりが悪いというか、どういう立場で読めばいいのかわからない。神の視点で読むのが正解なのかもしれないが、ぼくは神を経験したことないからなあ。

 この読みづらさはどっかで経験したことあるとおもったら、あれだ、歴史の教科書だ。

 ぼくは本を読むのは好きだけど、歴史の教科書は苦手だった。それぞれまったくつながりのない説明がばらばらに並んでいるので、頭の切り替えに苦労するのだ。

 歴史の教科書が好きだった人ならもっと楽しめるのかもしれない。



『地図と拳』では、技術者として満洲国建設に関わった日本人が登場する。

 歴史の教科書だと「満洲事変をきっかけにして日本は満洲を占領した」と書かれるが、あたりまえだが軍人が戦いに勝ったからといって国はできない。計測をおこない、地図を作り、都市計画を立て、建物を建造する必要がある。

『地図と拳』の登場人物たちは、地図作成、都市計画、建築設計などを通して理想の満洲をつくりあげようとする。

 日本の大陸進出は身勝手な帝国主義によるものだったと教科書では教わるが、それは一面であり、すべてではなかったのだろう。少なくとも現場には使命感に燃えて、本気で啓蒙してやろうと考えていた人もいた。

 とはいえ侵略される側からしたらそんな理想や使命感なんて知ったこっちゃなくて「いい国であろうと悪い国であろうと侵略されたくない」としかおもえないだろうけど。

 住んでいる人間からすると、いい植民地より悪い独立国家かもしれない。



 これまでいろんな戦争文学を読んできたけど、つくづく感じるのは戦争のむなしさ。兵士も市民も大人も子どもも勝者も敗者も死者も生者も、みんな戦争によって悲惨な思いをする。得をする人なんてほとんどいない。

 それなのに、いざ戦争が始まってしまったらもはやどうすることもできない。止めようとしても止められない。個人も集団もえらくない人もえらい人も、誰にも止められない。





 圧倒的な資料にあたっているだけあって、随所に散りばめられたうんちくも楽しい。

「ずいぶんと建築に詳しいのだな」
 間取り、壁のレリーフ、柱の切り出し方、階段の形状、調度品の種類など、建物の薀蓄を熱心に語る細川に対し、思わずそう口にした。
 細川は珍しく照れ笑いを浮かべ「建築には歴史と思想が表れますから」と答えた。「それに、実用的な情報も得られます。この建物を見るだけで、ロシアが支那においてどのような狙いを持っているかがわかるのです」
「たとえばどんなことが?」
「なるほど」
「まず、地方の駐在武官ごときが本国から建材を取り寄せ、本国の建築家を使ってこれだけ立派な邸宅を建てていたという事実から、ロシアがかなり本気で、それも長期的に満洲を支配しようとしていたことがわかるでしょう」
「もう少し抽象的な側面の話もしましょうか。この建築は様々な意匠が折衷されていますが、基本的にはバロック主義と呼ばれている様式です。この建築が街の中でも一際目立っていることからわかると思いますが、ロシア人はこの地を占領する上で、清の風習を取り入れるつもりはなく、自分たちの文化を押しつけるつもりだったのです」
 細川は「もちろん、かなり具体的なこともわかります」と続けた。「この建築は街区から百五十メートルほど離れています。馬賊や団練が好んで使う武器である天門槍の有効射程からちょうど外れており、それでいてロシア軍の小銃の射程内に入る距離です。この家の街路に向いた窓には兵士を配置することもできますし、庭に機関銃を設置すれば街区に射線が通ります。煉瓦の壁は耐火性があり、榴弾に耐える厚さにもなっていて、暴動が発生したときには要塞に変わるのです。地下の貯蔵庫には、大量の食糧と弾薬が備蓄してあったのでしょう。ロシア軍はこの街を支配しつつも、馬賊や団練との戦闘に備えていました。万が一の際は、友軍が到着するまで守りきれるようにしていたのです」

 こういう話、大好き!


 ぼくは建築の知識は皆無なので、建物を見ても「でっけえなー」とか「掃除たいへんそうだなー」とかのアホみたいな感想しか出てこないけど、知識のある人が見ればこれだけの情報を引き出せるのだ。

 昔、今和泉隆行さんという架空地図を描いてる人の講演を聞きにいったら
「地図を見れば、その町がどんな歴史を持っていて、どこにどんな人が住んでいてどんな生活をしているかがだいたいわかる」
と語っていた。

 知識がある人って、そうでない人と同じものを見ていても目に映る景色がまったく違うんだよね。『ブラタモリ』でも、タモリさんはただの坂道や山(としか我々には見えないもの)からいろんな情報を引き出してるもんね。

 こういう、「自分は持っていない視点からものを見る愉しさ」を味わわせてくれるのが読書の喜びだ。




 いちばん印象深かった挿話。
  たとえば、ヨーロッパの古地図には「画家の妻の島」と呼ばれる島がいくつか含まれている。
 ヨーロッパでは専門家の調査結果を元に、最終的に職業画家が地図を清書することが多い。画家が地図を描き終えたとき、隣にいた妻がこう囁く。
「私の島が欲しい」
 画家はその話を聞いて、地図に一つの島を書き加える。こうして、架空の島や架空の国家、架空の大陸が描かれる。どうやら歴史上、そういった例がいくつも存在したようだ。

 なんかロマンがある話だなー。

 もしかしたら今でも、地球から遠く離れた宇宙の彼方に「天文学者の妻の星」があるかもね。


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2025年4月14日月曜日

【芸能鑑賞】『シークレットNGハウス』

 シークレットNGハウス
(Amazon Prime)


 おもしろかった。家族で観たのだが、特に小学生の娘がおもしろがって、すべて観終わった後はもう続きを観られないことをほんとに残念そうにしていた。シーズン2を頼む!


 まず人選が絶妙。謎解き王、守銭奴、ツッコミ役、果敢に攻める人、異様に勘がいい人、何も考えていない人、読みがことごとく外れるのにラッキーだけで勝ってしまう人……。

 すべて狙ったわけじゃないだろうけど、結果的にはすごくバランスのいいメンバーだった。それだけに敗退して去ってゆくのが残念。

 負けた人が仕掛け人として参加するようなシステムでもよかったのかなーと観ていておもった。


 そして司会進行の二人もちょうどよかった。こういうゲームって司会者によっては下品になってしまうが、二人に品があるのでそこまで悪辣な印象を受けない。それでいて底意地の悪さは存分に発揮していた(大縄跳びで「謝る」をNGに設定する意地の悪さよ!)。

 NG行動の設定が事前に用意されたものではなく、その場で司会の二人が決めるのもいい方向にはたらいていた。スタッフは大変だろうけど(どこからアウトにするかのボーダーをその場で決めないといけないので)、絶対にこっちのほうがゲームはおもしろくなる。




 シーズン1はものすごくおもしろいコンテンツだったのだけど、ただこれはたまたまめぐりあわせが良かったからで、ちょっとでも歯車が狂っていたら失敗に終わっていた可能性もある。

 特に1stステージは「数字を言ってはいけない」というルールが引っかかりやすすぎるのと、人数が多すぎて誰がNGになったのかわからないため、なにがなんだかわからないままNGが積みあがっていってしまった。「何がNGか推察する」というこのゲームの醍醐味にたどりつく前に終わってしまった印象。

 1stステージと敗者復活ステージはほぼ運ゲーだったので、「誰がNGになったかわからない」というルールは、終盤人数が減ってきてからの適用でいいとおもうな(決勝は誰がNGかわからないことがおもしろさを生んでいたが)。




 もうひとつ、シーズン2があるなら改善してほしい点は、守りを固めにくくしてほしいということ。

 実際、序盤は「何もしない」が最善策になってしまっていた。3rdステージや敗者復活ステージでようやく「30秒黙る」「指示に従わない」がNGに指定されていたが、これらは全ステージ共通のNGにしてほしいぐらい(参加者に公開してもいい)。

 だってこのままだと「一切の会話を拒否して、ときどき意味不明な奇声を発する」が最強の戦略になってしまうもの。


 攻め合いのほうが観ていておもしろいわけだから、攻める人が有利になってほしい。

 NGを「〇〇と言う」「〇〇をする」の“やってはいけないこと”だけではなく、「質問に答えない」とか「食べはじめるのがいちばん遅い」とかの“やらないといけないこと”にしないと、様子見ばかりが横行してしまうよ。

 それか、しりとりや古今東西みたいなゲームをさせて、強制的にしゃべらないといけない状況をつくるか。




 どのステージもそれぞれおもしろかったが、中でも2ndステージがいちばん良かった。

 参加者たちがだんだん状況をわかってきて腹のさぐりあいをする中、ゲストの仕掛け人が虚実入り混じった情報を与えて引っかきまわす。

 ゲストがいろいろ呼びかけてるのに参加者たちに無視されつづける、という状況が最高におもしろかった(この番組じゃなければ絶対にそんな扱いを受けることのない人だったのが余計に)。

 仕掛人がいたほうがおもしろい。




 シーズン1で十分おもしろかったけど、運営側も手探り状態だったので、まだまだおもしろくなりそうな余地がある。

 ぜひシーズン2やってください!


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2025年4月8日火曜日

小ネタ 33(だんごとたいやき / 用紙切っちゃいました / 藤子不二雄)


だんごとたいやき

『だんご3兄弟』の歌詞には「だんご」というフレーズが25回も出てくる。

 一方、『およげたいやきくん』に「たいやき」というフレーズは終盤に2回しか出てこない。

 子ども向け番組から生まれたヒットソング、和菓子をテーマにしている、という共通点がありながら、歌詞のつくりにはずいぶん差がある。

『およげたいやきくん』がヒットした1975年は直接的な表現をしなくてもみんな文脈を読んで理解できたが、『だんご3兄弟』が発表された1999年にははっきりと説明しないと伝わらなくなった。これは読書離れが進み子どもたちの読解力が低下してからだ……というようなことはもちろんない。


用紙切っちゃいました

 いちいちシュレッダーかけるの面倒だな……。

 そうだ!

 あらかじめ裁断しておいた紙を作って売ろう!これでいちいちシュレッダーする手間が省けるぞ!


藤子不二雄

 藤子不二雄はFとAに分かれた後、扱っているテーマに大きく差が出た。藤子不二雄Aは、ゴルフ、麻雀、ギャンブル、バー、女遊びなど「大人の世界」を描くことが増え、藤子・F・不二雄は一貫して「子どもの世界」を描きつづけた(大人向けSF作品も描いているが、その中でもギャンブルや性についての描写は少ない)。

 ピッコロが善の神様と悪のピッコロ大魔王とに分化したように、藤子不二雄も大人の心と子どもの心に分かれたのかもしれない。


2025年4月7日月曜日

小ネタ 32(結露 / 断熱性能 / 六角形)

結露

 半年ほど前に引越しをしたのだが、今の家は結露がひどい。冬の朝は窓ガラスに露がびっしりついていて、窓の下がびちょびちょになっている。しかたなく毎朝窓を拭く。

 前の家はこんなことはなかった。前の家は古かったので断熱性が悪く、家の中も寒かった。だから室温と外気温の差が小さく、あまり結露しなかったのだろう。断熱性が高いのも良し悪しだ。

 結露する分空気が乾燥するので、寝る前に濡れタオルを干して加湿している。加湿された分の水分が朝になると窓ガラスについている。結露させるためにタオルを干しているような気がする。

 窓ガラスの水分をとりつつ、その水を使って空気を加湿させる仕組みはないものか。


断熱性能

 以前、家の構造に詳しい人の話を聞いたことがあるのだが「断熱のこと考えたら窓なんていらんねや!」

 そのときはなんて無茶な意見を言うんだとおもったが、たしかに窓は断熱の敵だ。夏は窓から熱が入ってくるし、冬は熱が逃げる。おまけに結露する。

 景観や風通しといった“住人の気分”は無視して、家のことだけを考えれば窓がないほうがいいかもしれない。

 もっと言えばドアもないほうがいい。完全密閉された壁だけの家なんて最高だ。


六角形

 六角形は漢字の読み通りなら「ろくかくけい」、発音は「ろっかっけー」だが、ひらがな表記はそのどちらでもない「ろっかくけい」だ。八角形、十角形、十一角形なども同様。

「洗濯機」は発音は「せんたっき」でもかな表記するときは「せんたくき」だが、数字は促音便をそのままかな表記することが許されている。

 たぶんだけど、かなり日本語に堪能な外国人でも「六角形のよみがなを書いてください」という問題に正しく答えられる人は少ないとおもう。これぞクイズヘキサゴン。



2025年4月1日火曜日

【ボードゲームレビュー】TAKUMI ZOO

TAKUMI ZOO


内容説明(Amazonより)
誰よりも魅力的な動物園を作る"拡大再生産型"ボードゲーム。土地パネルでボードを開拓し、地形に合わせて飼う動物を選んで、一番ポイントの高い動物園を作りあげましょう。いかに人気の動物を集めて動物園の魅力を高めるかがポイントです。大人も子供も一緒に、じっくり楽しめる本格ボードゲームです。


 なんと小学生が作ったボードゲームだという。絵も、小学生が一生懸命丁寧に描きましたという感じでかわいらしい。

 小学生が作ったゲームなら小学生がやったら楽しいんじゃないかとおもい、娘と遊ぶ目に購入。




かんたんなルール

  • 全員5コインを持ってスタート
  • 毎ターン、山札から地形パネルを1枚ずつ引く。地形には草原・森・岩・水の4種がある。それを自分の動物園パネルに並べていく。
  • 動物を購入して、地形に置くことができる。地形によって配置できる動物は異なる。また動物によって必要なパネル数も異なる。
  • 動物を配置することで毎ターン入場料収入がある。動物により購入金額や収入金額が異なる。また、特定の組み合わせを満たすことで収入が増える。
  • 動物を買うとポイントが入る。最終的にこのポイントが多い人が勝ち。
  • 地形パネルには、「買える動物が増える」「次に引くパネルを見ることができる」「他のプレイヤーと地形を交換できる」「他プレイヤーを邪魔できる」などの特殊効果を持つものもある。


ええとこ

「地形によって飼える動物が異なる」+「一度置いた地形は基本的に変えることができない(一部変更の効果を持つパネルも存在する)」というルールがなかなかいい。地形パネルをどこに置いたほうがいいだろう、と考える余地が生まれる。

 何度かやっていると、草原の横に岩を置かないほうがいいとかわかってくる。ただしどのパネルが出るかは運次第なので、配置には頭を悩ますことになる。

 あと単純な勝敗だけでなくスコアが出るので、ひとりでも遊べるのもいい。ぼくは子どもの頃ひとりでカードゲームをするような孤独を愛する少年だったので、このルールはうれしい(さすがに大人になった今はひとりではやらないけど)。


やることが多い

 仕事量が多いのでかなり煩わしい。

 毎ターン、「収入を得る」「パネルを引く」「パネルの特殊効果を発動させる」「パネルを配置する」「動物を買う」「所有する動物の組み合わせが特定の条件を満たしているかチェックする」「柵を配置する」「買った動物に応じてポイントを増やす」と、やることが多い。

 必然的に、他のプレイヤーは待つ時間が長くなる。やっている間に飽きてしまう。やっているほうも待っているほうもつまらない。


 また、やることが多いので手順を忘れてしまう。

 特に最後の「ポイントを増やす」を忘れがちだ。ポイントを増やし忘れてもそのままゲームは問題なく進行してしまう。後で「あれ? さっきポイント増やしたっけ?」「さっき獲得したの何点だったっけ?」となり、ポイントがごちゃごちゃになる。勝敗に直結するところなのに。

 途中のポイントをなくして、最終所持金+最終的に保有している動物に応じたポイントで決着、とかのほうがすっきりするとおもうな。

 そして柵はいらない(他プレイヤーの邪魔をできる黒柵だけでいい)。


ポイントの稼ぎ方がよくない

 単純に言うと「動物を買ったときに支払った金額に応じてポイントが入る」という仕組みだ。

 これが「誰よりも魅力的な動物園を作る」という目的にあっていない。

 めずらしい動物を飼っていることや、入場者収入が多いことは、直接ポイントに結びつかない。

 ポイントを稼ぐ近道は「高い動物を買う」なので、たとえばゾウを所持しつづけるよりも「ゾウを買う」→「ゾウを売ってキリンを買う」→「キリンを売ってまたゾウを買う」というプレーをするほうが高得点になる。

 もしほんとにこんなことをやったら動物園失格だろう。でもこれが最適解なのだ。

 一応「ゲーム終了時に多くの動物を持っていたら5ポイント入る」というルールはあるが、その5ポイントを得るよりも売買をくりかえすほうがポイントを稼げてしまう。

「魅力的な動物園をつくる」ではなく「いかに動物の売買をくりかえすか」という動物ブローカーをめざすゲームになってしまっている。


ほぼ運ゲー

 引いた地形パネルによって飼える動物が決まる。おまけに序盤はお金も少ないので選択の余地はほぼない。草原を引いたからシマウマを買うしかない、のように半自動的に進んでいく。最初の3ターンぐらいはほぼ選択の余地がない。

 いくつか特殊効果を持つパネルもあるが、せっかくの特殊効果が無駄になることも多い。


 一方、序盤で「2マス分の効果を持つパネルを引く」「草原・森・岩・水パネルを1枚ずつ引いてボーナスを手にする」などのラッキーにめぐまれると、相当有利になる。後半でひっくりかえすのが難しくなるぐらいの差がついてしまう。

 中盤からはお金に余裕が出てくるので多少選択肢は生まれるが、それでも地形による縛りが強いので、選択の余地は小さい。そして勝ってようが負けてようがとるべき戦略は「より高い動物を買う」だけ。「負けているから可能性は低いが当たればでかい一発逆転を狙う」みたいな戦略はとりようがない。

 やることが多いわりに選択肢が少ないので「やらされている感」がすごく強い。ボードゲーム好きなぼくでも、子どもから「TAKUMI ZOOやろう」と言われると「めんどくせー」とおもうようになった。

 後半はお金が余るので、お金でできることがもっと多ければいいんだけどな。土地を増やすとか。高い動物を買おうにも、すでに売り切れだったり、スペースがなかったりして、お金の使い道がないんだよね。


無茶なルール

 いくつか“役”のようなものがあり、特定の動物を4種そろえると追加ポイントがもらえる。

 この役の難易度がひどい。かんたんな役はそこそこ作れるが、いちばん難しい役はロイヤルストレートフラッシュをつくるぐらいの難易度だ(それ以上かもしれない)。上から二番目の役でもストレートフラッシュぐらいの難しさはある。つまり、まずお目にかかることはない。そして超幸運にめぐまれてこの役をそろえたとしても、その頃にはもうお金はありあまっているのでボーナスの効果が薄い。実質ルールが死んでいる。

 この“役”が多彩であれば麻雀のような駆け引きのおもしろさが生まれるのだろうが。もったいない。


小学生にしてはすごい

 厳しいことばかり書いてしまったが、それは他の市販ボードゲームと比べたからで、小学生が作ったゲームとしてはめちゃくちゃすごい。最初は楽しめた(何度かやっていると攻略法が一本道になってただの作業になってしまうが)。

 大人が介入してルールを調整すればもっとおもしろくなるんだろうけど、それをしてしまうと「小学生が考えた」という最大の魅力が失われてしまうので、まあしかたない。逆に言うとこの粗さこそがこのゲームの長所かもしれない。

 欠点はあるけど、世の中に数多く出回っているボードゲームの中で平均点ぐらいのおもしろさはある。ちょっと改良すればずっとずっと良くなりそうだし。

 がんばれ未来の巨匠たち(TAKUMIだけに)!


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