2025年8月8日金曜日

【読書感想文】高橋 克英『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』 / 誰もが楽しめるリゾートの時代は終わった

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なぜニセコだけが世界リゾートになったのか

「地方創生」「観光立国」の無残な結末

高橋 克英

内容(Amazonより)
地価上昇率6年連続日本一の秘密は何か。
新世界「ニセコ金融資本帝国」に観光消滅の苦境から脱するヒントがある。
富裕層を熟知する著者の知見「ヒトより、カネの動きを見よ!」
ローコスト団体旅行によるインバウンドの隆盛はただの幻想だった。かわりにお金を生むのは、国内に世界屈指のリゾートを作ることだ。平等主義に身も心もとらわれた日本人は、世界のおカネのがどこに向かっているのか、その現実にそろそろ目覚めるべきではないだろうか。
ニセコ歴20年、金融コンサルタントとして富裕層ビジネスを熟知した著者による、新しい地方創生・観光論。バブル崩壊以降、本当にリスクを取ったのは誰だったのか?

 上質なパウダースノーがあることからオーストラリア人スキーヤーの間で人気となり、それに伴って次々にリゾート開発がおこなわれ今や日本を代表するリゾート地となっている北海道・ニセコ。地価はどんどん上がり、超高級ホテルやコンドミニアムなど開発が進んでおり、コロナ禍を経てもその勢いは止まらない。

「上質なパウダースノー」という自然環境もあるが、それだけではニセコの成功は説明がつかない。ニセコ開発の歴史や他の観光地との比較を通して、成功の要因を探る本。




 ニセコの成功の要因のひとつは、外国資本が入ってきたことだ。

 海外の企業が投資して宿泊施設、サービスなどを提供したことで、海外富裕層が訪れやすくなった。日本企業、あるいは国や自治体などが主導していたならこううまくはいかなかっただろう。

 現在、日本各地に死屍累々と存在する「バブル期につくったでっかいハコモノの跡地」がそれを証明している。

 こうしてバブル期に東急グループや西武グループなど日本企業によって作られたニセコの礎は、バブル崩壊後、豪州や米国資本の手を経て、今は香港、シンガポール、マレーシアなどアジアの財閥グループなどによって、更なる大規模開発が続くに至っている。
 地元への還元という意味では、「外国資本」も「日本資本」もあまり変わらないのかもしれない。むしろ海外資本のほうが、景観など自然環境や地元還元、ダイバーシティに理解があったりする。概してビジネスライクで、合理的ではあるが、ロジカルであったりもする。長期的関係を重視する姿勢もニセコにおける開発計画にはみられる。
 ニセコの歴史を振り返ってみる限り、日本資本のほうが短期的でビジネスライクだったといえるのかもしれない。以前の日系ホテルのレストランでは、ニセコ産以外の食材を使う傾向があったが、外資系ホテルに代わってからは地元食材を使ってくれるようになったという。

 外国資本だからうまくいったというのもそれはそれで極端な意見だが、少なくとも海外富裕層を呼びこむためのノウハウは日本企業よりもずっと豊富に持っているだろう。もちろん官庁主導なんて話にならない。

 著者は、国や自治体が主導するリゾート計画の失敗を痛切に批判する。

 官主導、地元自治体主導の観光策やリゾート計画だと、卓上のこうあるべき論や、調査やアンケートやイメージなどから始まり、デメリットやリスクも考え、結局、総花的で「幕の内弁当」のような施策となり、肝心の需要が置き去りにされて、失敗するケースがほとんどだ。いつまでも勉強ごっこと資料収集ばかりしないで、実需を生む営業をし、収益を生む仕事にフォーカスすべきであり、まずは見切り発車すべきだ。
 走りながら考え、実践しながら修正してきたのが、まさにニセコの軌跡だ。行政を筆頭に日本の観光当事者には、事なかれ主義や完璧主義の弊害から、見切り発車をし、走りながら修正するという、スピーディーに顧客ニーズに応えるスタイルが著しく欠けているのではないだろうか。

 そうなんだよね。日本が豊かになった1980年代、あちこちにリゾート施設ができた。「あそこはあんなのを作ったそうだ。おらの町も負けてらんね」的な発想で、次々に。地元の需要も地域の特性も無視して、日本中に同じようなテーマパークができた。

 結果、ほとんどつぶれた。だって同じようなものがあちこちにあるんだったら、わざわざ遠くのテーマパークに行く必要ないんだもん。


 また、多くのリゾート施設の失敗は、すべての人をターゲットにしようとしてあれもこれもと詰めこむ「幕の内弁当」化にあると著者は指摘する。

 猫も杓子も押し寄せる場所に富裕層は来ない。彼らが望むのは特別扱いであり、待たずに済むことである。庶民が大勢来る場所ではそれは叶えられない。

 幕の内弁当にすればたしかに観光客数は増える。だが人が増えれば交通は渋滞し、景観は乱れ、環境は破壊される。観光客の満足度が下がるだけでなく、住民の生活にも支障が出る。京都などで現在起こっているオーバーツーリズム問題だ。

 ニセコがうまくやったのは、富裕層にターゲットを絞ったことで、観光客数を絞りつつ地元に落とさせるお金を増やせたことだ。

 ニセコの場合は雪質が良かったからできたことなのですべての観光地がまねできるわけではないけれど、参考にはなるだろう。


 べつに富裕層にターゲットを絞らなくたって、「長時間並ぶし料理が出てくるのも遅い入場料5,000円のテーマパーク」と「並ばずに済む入場料10,000円のテーマパーク」だったら後者を選ぶ人も少なくないとおもう。ぼくはどっちかっていったら後者だ。めったに行かないからこそ、行くときはストレスなく楽しみたい。

「入場料5,000円で1日200人来場」と「入場料10,000円で1日100人来場」だったら売上はどちらも100万円だけど、後者のほうがコストは少なくなる。つまり利益は大きくなる。来た人の満足度も後者のほうが高いだろう。

 これから働き手はどんどん少なくなる。外国人観光客を呼びこんだって受け入れ先に従業員がいなければどうしようもない。「誰もがそこそこ楽しめる施設」は淘汰され、「ターゲットを絞って満足度と使うお金を高める施設」が生き残ってゆくのだろう。



 この本が刊行されたのは2020年12月。コロナ禍まっただなかである。

 だが海外旅行客がほぼゼロになったときですら、ニセコ開発の速度は陰る様子もなかったという。

 コロナショックにより、日本だけでなく米国、欧州の政府と中央銀行により、史上最大規模の金融緩和策と財政出動策がとられている。コロナ禍から国民の生命はもちろんのこと、
 「雇用と事業と生活」を守るためにはあらゆる手段を尽くすとの意思表示である。
 金融緩和とは、極めてシンプルにいってしまうと、「人工的にカネ余り状態を作り経済を浮揚させる」ことだ。このため、極論をいってしまえば、日米欧が大規模な金融緩和策を採っている限り、おカネはジャブジャブ状態にあり、国際金融市場は悪くなりようがないということだ。
 各国の中央銀行から、おカネが際限なく供給されているわけであり、水の流れと同じように、おカネは必ずどこかに流れ着く。本来は銀行貸し出しなどを通じて設備投資や運転資金に回り、経済や雇用の活性化につながるのがベストではあるが、そこから余り溢れたおカネは、余剰資金として、株式市場や不動産市場に流れることになる。
 金融緩和策とは、言い換えれば低金利政策であり、今はゼロ金利政策やマイナス金利政策が日米欧でとられている。このため、余剰資金を定期預金や国債など債券に預けても、雀の涙ほどの利息にしかならないどころか、マイナス金利の預金のように、逆に金利を払ったり、手数料を払ったりする必要がある場合もあるほどだ。だから、少しでも高い利回りを求めて世界中のおカネが動くことになる。とはいえ、ハイリスク・ハイリターンはご免だ。せいぜいミドルリスク・ミドルリターンを狙いたい、ということで、日米欧といった先進国の株式市場や不動産におカネが日々流れ込んでいるのだ。途上国よりも先進国の株式、過疎地より都市部や高級リゾートの不動産という選択となり、その流れのなかにニセコも含まれている。それがコロナ禍下で、実体経済はダメながら金融市場は活況であるからくりだ。

 なるほどねえ。コロナ禍で株価がすごく高くなってたのをふしぎにおもってたけど、こういうからくりか。みんなが困っている時代でも(そんな時代だからこそ)お金が余って余ってしかたない人がいるんだなあ。




 札幌市が開催地として手を挙げている冬季オリンピックについて。
  2020年1月、日本オリンピック委員会(JOC)により、札幌市が2030年冬季オリンピック・パラリンピックの開催地に立候補することが正式に決まった。札幌の計画には輪のマラソン会場を受け新設の競技会場は一つもなく既存施設を活用すること、東京夏季五輪のマラソン会場を受け入れたことなどもあり、IOCの評価も高いとされている。
 もし開催されれば、1972年以来となる札幌五輪のアルペンスキーの会場候補地には、富良野など並み居る競合地を抑え、ニセコが挙がっている。4種あるアルペン競技の中で、滑降とスーパー大回転は湯の沢地区(ニセコビレッジスキー場とニセコアンヌプリ国際スキー場の間)に新コースを造る方向で検討、大回転と回転はニセコビレッジスキー場の既存コースを活用するという。ニセコビレッジでは、今後リフトやゴンドラ増設などが検討されることになる。
 なお、札幌では、サッポロテイネスキー場、札幌国際スキー場などが、フリースタイルやスノーボードの会場として計画されている。大会開催に伴う経済波及効果は、北海道内で約8850億円、雇用誘発数は同じく北海道内で約7万人と試算されている。
 ニセコでの五輪競技開催は、ニセコの地を、欧州や北米など海外スキーヤーや富裕層に、強くPRすることになる。2030年は北海道新幹線が札幌まで延伸され、ニセコに新駅が誕生する年でもある。五輪と新幹線の効果で、北海道、札幌、そしてニセコの活性化とブランド力の更なる向上につながることになろう。

 なるほどなあ。一般市民の反対の声が強くても、東京五輪が汚職まみれになっても、それでも開催したいのはそれだけ儲かる人がいるからなんだなあ。


 小林一三(阪急電鉄の創設者)は、鉄道路線を敷くと同時にその周辺に百貨店・遊園地・劇場などをつくり、鉄道の利便性を高め、施設利用者を増やし、地価を上げるという相乗効果を生みだした。

 この手法は他の会社でも踏襲され、鉄道会社が不動産開発をしたり、商業施設をつくったり、新聞社がスポーツ大会を開催したりした。

「イベントが開催されることによって儲かる会社が、自ら金を出してイベントを主催する」という手法だ。

 ところが今はあまりそういう会社はない。

「政党に献金をして税金をたんまり使ってイベントを開催させ、それによって甘い汁だけ吸う」というやり方にシフトしている。

 オリンピックや万博のまわりに群がっている連中だ。万博なんて「営業黒字になるかも!」とかわけわからんこと言ってるけど、あれ、用地費用とか建設費用はすべて税金だからゼロ円計算だからね。何千億という税金をもらって「やったー黒字だ!」って言ってるんだよ。黒字にならなきゃおかしいでしょ。


 ニセコのリゾート開発がうまくっているならけっこう。ぜひその調子で税金でアホなイベントを開催せずにがんばってもらいたい。


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