2017年7月23日日曜日

喫茶店のモーニングを食べるために早起きした

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そういや喫茶店のモーニングセットって食べたことないな。

そもそも朝食を外で食べることがほとんどないもんな。早起きなほうだから家で食べる時間あるし。
ぼくにとって喫茶店って時間をつぶしたり誰かと座って話したりするために行く場所であって、決してコーヒーを飲みにいく場所ではない。朝早くから時間をつぶすことも人とこみいった話をすることもないから、朝に喫茶店に行く理由がない。

しかし喫茶店のモーニングセットというのはすごくお得らしい。特に名古屋の喫茶店のモーニングは信じられないぐらいのボリュームがあってびっくりするぐらい安い、と聞いたことがある。

お得。
人類史上、この言葉に抗えた人物はひとりとしていない。誰しもお得には弱い。お得最強説だ。

もちろんぼくもできることならお得を享受したいと考えている。
お得にまみれて生きて、お得の内に死んで、葬儀で遺族から「いろいろあったけどまあお得な人生でしたよね」と言われたい。


しかしモーニングを食べるために機会はなかなか訪れなかった。
ふだんは妻が朝食を作ってくれる。「明日飲み会だから晩ごはんいらない」とは言えても、「明日モーニングだから朝ごはんいらない」と言うのは気が引ける。

まあそのうちモーニングチャンスもくるだろうと思っていたのだが、気づけばぼくも三十代なかば。若いころのように気ままに生きるわけにもいかず、自分の人生を自分で選択しなければならない。
ぼくは人生の選択を迫られていた。このままモーニングとは無縁の人生を送るか、それともモーニングに手を出すのか。

歳をとると、新しいことにチャレンジするのは難しくなってくる。モーニングに失敗したときに向けられる世間の目も、中年になるほど厳しくなるにちがいない。

ちょうど、妻が子どもを連れて実家に泊まりに行くことになった。
家にはぼくひとり。ふだんなら惰眠をむさぼるところだが、今がラストモーニングチャンスかもしれない。
ぼくは決意した。
モーニングを食べよう。決戦は日曜日だ。



数日前から妻に「日曜日、モーニングに行くから」と宣言した。
決意を公言することで自らの退路を絶つ作戦だ。
さらに「パンも納豆も日曜日までに切れるようにしといて」と伝えた。もう後戻りはできない。背水の陣でモーニングにのぞんだ。

モーニングのデビュー戦の舞台は決めてあった。
自宅から歩いて5分のところにあるコメダ珈琲店。
今では全国に600店舗以上を抱える大手チェーンだが、もともとはモーニングの本場・名古屋市発祥だという。
すばらしい。デビュー戦の舞台にとって不足なし。というよりいきなり武道館でデビューコンサートをやるようなものかもしれない。多少気後れしたが、退路を絶っている以上、今さら逃げるわけにはいかない。

事前に店の前をうろうろして、営業時間を調べておいた。全曜日午前7時開店。
日曜日でも7時からやってることに驚いた。そんな早くから喫茶店に来る人がいるのか?

だがぼくにとっては好都合。コメダのモーニングは午前11時まで提供しているらしいが、10時を過ぎると朝食というより「ブランチ」だ。やはりモーニングを食べるのはモーニングにかぎる。



土曜日の夜、ぼくは24時に床についた。ふだんはもっと夜ふかしすることもあるが、万全の体調でモーニングを楽しめるよう、早めに寝た。

6時半にセットしていたアラームが鳴る。
開店と同時に店に入ることも考えたが、あまり気負っているように思われるのも気恥ずかしい。
あえて家でゆっくりして時間をつぶした。時間をつぶすために喫茶店に行くことはあるが、喫茶店に行くために時間をつぶしたのははじめてのことだ。

8時にコメダ珈琲店に到着。
日曜日の8時といえば、まだ寝ている人も多いだろう。こんな時間に喫茶店に来るなんて相当奇特な人だけだろうと思ったが、あにはからんや、店内は9割の入りだった。
あと少し遅かったら店の前で待たなくてはいけなかったかもしれない。少々モーニング人気をあなどっていたようだ。

席について、モーニングメニューを熟読。
コメダ珈琲店のモーニングはA~Cの3種類。トーストにつけるものをゆで卵、たまごペースト、小倉あんの中から選べるというものだ。
なるほど、小倉あんがあるのがいかにも名古屋らしい。せっかくなので小倉あんのCセットにしよう。

コメダ珈琲店ホームページより

「たっぷりカフェオーレ」とCセットを注文。さらに「北海道生乳100%ヨーグルト(はちみつ添え)」も追加した。

待っている間にモーニングの値段をチェックしようとして、首をかしげた。値段が書いていない。
隅々まで見てみると、端のほうに小さな文字でこう書いてあった。

お好きなドリンクをご注文で、さくふわトーストとA~Cのいずれか1つ無料

無料!

まさか無料とは。モーニングがお得と聞いてはいたが、プラス100円でトーストがつきます、ぐらいのものだと思っていた。
しかも「無料」を小さな文字で書いている。ぼくがメニューを作る人なら、「無料!」といちばんでかいフォント&赤文字で書いてしまうだろう。それをせずに小さく書く、このつつましさがいい。

なるほど無料でトーストが食べられるのか。そりゃあみんな日曜の朝早くから足を運ぶわけだ。いやもちろんドリンクを注文しないといけないから無料ではないんだけど。

周囲のテーブルを見まわしてみると、客層はばらばらだった。
一人で本を読んでいるお姉さん、勉強している学生、老夫婦、子ども連れの家族、デート中のカップル。
老若男女がそれぞれモーニングを楽しんでいる。

昼間の喫茶店の客に比べて、みんな表情が弛緩しているように見える。まだ少し眠くて、でも疲れてはいなくて、リラックスしている。白熱した話をしたり、大笑いをしたりしている人もいない。ゆっくりとコーヒーを味わいながら、小さな声でぼそぼそと言葉を交わしている。隣の老夫婦はお墓参りの予定について話し、向かいの家族連れは昨日テレビで観た人工知能の話をしている。
とても穏やかな空間だ。

ぼくは携帯を取り出して、このブログ記事を書いている。家で書くときよりも筆が進む。刺激の少ない空気と、見知らぬ人がそばにいることから生まれるほどよい緊張感。

ふうむ。
この穏やかさを1時間以上満喫できて、カフェオレとトーストと小倉あんとヨーグルトで660円。これはお得だな。

モーニングは三文の徳。


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