仕事の合間合間に「難しい案件を処理しています」みたいな顔をつくりながら冷凍庫へと足を運び、こそこそとピノを食べるのが至福のひととき。
ピノを食うために仕事をしているといってもいいぐらいだ。
そんなぼくのピノが、どうも知らぬうちに減っている気がする。
はじめは気のせいかと思ったが、明らかに減っている。
あと10個はあったはず。
しかし、この冷凍庫を開けるのは社内の人だけだ。
同僚を見渡してみても、勝手に他人のピノを口に入れるような育ちの悪い人はいない。
「なんかさ、冷凍庫に入れてるピノが減ってるんだよね。怪奇現象かな」
後輩Nに向かってつぶやいた。
「ああそれ、おれが食ってるんすよ」
「はあ!?」
「ピノうまいですよね」
「いや知ってるけど。ピノのうまさは誰よりもよく知ってるけど。じゃなくて、ええー!? なにおまえ、冷凍庫に入ってる誰のかわかんないピノを勝手に食べちゃうの?」
「そんなことしませんよ」
「したじゃん」
「誰のかわかんないのは食べませんよ。犬犬さんのってわかってたから食べたんですよ」
「あーそっかー。って、ええー!?」
「だってちゃんとピノの箱に犬犬さんの名前書いてるじゃないですか」
「そうだよね。うん、ちゃんと名前書いてるよね」
「だから、あー犬犬さんのなんだーって思って、それで、食べました」
「いやいや意味がわかんない。そこで『それで』って接続詞を使う意味がわかんない。『にもかかわらず』でしょ。いやそれでもどうかと思うけど」
「だって犬犬さん、よくお菓子くれるでしょ。変なおばちゃんみたいに」
「あげてるね。変なおばちゃんは余計だけど」
「だからこのピノも、おれにくれるために買ったんでしょ」
「はあ?」
「だからもらってもいいかなって思ったわけです」
「……。いやね、よしんばね。よしんばおまえにあげるために買ったとしてもね。もらうのと勝手にとるのは意味合いがぜんぜん違うからね」
「“よしんば”って何ですか」
「はぁ……。わかった、じゃあ一万歩ゆずって、勝手にとったことはいいとするわ。で、何でアーモンド味ばっかり減ってるわけ?」
「いちばん好きなんですよ、アーモンド味」
「おれも好きなんだよ! アーモンド味を食べるために525円も出してピノバラエティパックを買ってると云ってもいいぐらいにね!」
「気が合いますね」
「なに握手求めてきてんだよ。今のやりとりから和解にはほど遠いわ!」
「犬犬さん」
「なんだよ!」
「これで今日は最後にするんで、もう一個だけもらっていいすか」
「あげねーし!
しかも今日は最後ってことは明日以降も食う気だし!
って勝手に取っとるし!
アーモンドだし!」
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