2018年3月7日水曜日

有人レストラン


こないだはじめて有人レストラン行ったんですよ。

最近流行ってますよね、有人レストラン。
人が作った料理を食べるなんて何がいいんだと思ってたんですけどね。

でも流行ってるっていうんで、それじゃあ話のタネに一回ぐらいはいっとくか、ってなことで行ってみたんです。

あれ、何がいいんでしょうね。
自動でできることをあえて人間にやらせるのがレトロで贅沢だってことになってるけど、どう考えたって無人のほうがいい。


まず、うるさい。いきなり店にいるやつが「いらっしゃいませ」とか言ってくんの。おまえんちかっつーの。
機械の音声に言われたら気にならないことでも、生身の人間に言われたらなんか引っかかるよね。

で、店員が「ご案内します」って言うわけ。こっちも有人レストランははじめてだから利用方法とか教えてくれんのかと思ったら「こちらどうぞ」って言って席に連れていくだけ。
どの席が空いてるのかなんて見たらわかるし。
だいたいなんでおまえに席を決められなきゃいけないんだよ。

そんでメニューを渡してくるんだけど、これが紙のメニュー。しかも料理名と値段が書いてあるだけ。画像も動画も一切なし。当然、クリックしても詳細な説明とか表示されない。紙だからね。

ふざけんなよ、料理名と値段だけでどうやって決めんだよ。
これで注文できると思ってるのがどうかしてる。
不動産屋に行ったら住所と価格だけ見せられて「この中から選んでください。どの家買います?」って言われるようなものでしょ。

しかも今どき味覚データベース使ってないの。だからこっちの好みに合わせたメニューじゃないんだよね。何十種類もの料理の中から、料理名と金額だけで選ばなくちゃいけない。
もうこんなの運でしかないじゃない。なんで料理食べに行って毎回ギャンブルしなくちゃならないんだよ。

この時点であーやっぱりやめときゃよかったなーって後悔してた。もうなんでもいいやと思って適当に注文。
知ってる? 有人レストランの注文って口頭で注文すんの。
それを店員が紙にメモすんの。で、「ご注文くりかえします」って言ってそれを口頭で読みあげる。そんで、そのメモを持って厨房のほうに行く。たぶん料理作るやつに渡すんだろうね。
はぁ?
無駄だらけじゃない。ミスも起こるだろうし。なんでデータ送信しないの? せめて音声メモでしょ。
紙に手書きでメモするだけで情報伝達になると思ってんだから驚きだよ。たとえるなら、学校で先生が言ったことをノートに書きとめて、後で読み返して勉強するようなものでしょ。考えられない。

こないだ聞いたんだけど、平成時代とかには無農薬野菜や天然ものの魚をありがたがって食べてたんだって(まあ当時は農薬の性能が低かったからってのもあるらしいけど)。
人工・養殖の食材より天然もののほうが高かったっていうから驚きだ。
有人レストランもそれと同じだよね。わざわざ不便、非効率なものをありがたがる風潮。


出された料理の味は、まあまあ。ふつうの店と変わらないぐらい。人間が作った料理にしてはなかなかやるじゃん、みたいな。

ただ出てくるのが遅い。人間が作ってるからしょうがないんだろうけどさ。
人間が運ぶからさらに時間がかかる。シューターで運べば5秒のところを、ゆっくりゆっくり持ってくる。しかもスープがこぼれそうであぶなっかしい。つくづく人間って精密な作業に向いてないよね。

料理の味は良かったんだけど、食べているうちに「これ何が入ってるかわからんな」と思ったら気持ち悪くなってきた。
だってそうでしょ。人間が作って、人間が運んできてるんだからね。やろうと思えばいくらでも不純物を混入できるでしょ。手作り料理って怖いよね。よく保健所が許してるよね。


というわけで話のタネになるかと思って行ってみた有人レストランだけど、ほんと、なんでこんなものが流行ってるのかさっぱりわからなかった。

唯一良かったのは、値段が安かったとこ。
ま、そりゃそうだよね。人間使ってんだもん。レストランにはいろんな費用がかかるだろうけど、今や人間がいちばん安いもんね。料理も天然ものの人間ばっかり使ってたし。


2018年3月6日火曜日

ゴリラのピッチングフォーム


箱根駅伝を見ていると、ときどきすごく汚いフォームの選手がいる。
腕をわったわったと振りまわして、頭を右に左に動かしながら走っている。他の選手の足音が「タッタッタッ」なのに、その選手だけ「バタタンッバタタンッバタタンッ」という感じ。

ああ、ここにもぼくがいる。汚いフォームのせいで損をしている選手が。
「速いね」じゃなく「意外と速いね」としか言ってもらえない選手が。



ぼくは、運動が苦手なわけではない。

学生時代の通知表でいうと、だいたい10段階で「6」ぐらいだった。
「運動神経がいい」と言われることもないが、周囲の足を引っ張るほどでもない。体育の授業でサッカーをすると、点をとったりドリブル突破したりはできないけど、パスをつないだりセンタリングを上げるぐらいはできる。そんな感じ。

「運動神経がいい」とは言われないが「意外に運動できるんやね」はときどき言われる。
つまり運動できなさそうに見えるらしい。

金髪ピアスの若者がお年寄りに席を譲っただけでことさらに褒めてもらえるのと同じく、一見できなさそうだから中程度の出来でも「意外とできるんやね」と言ってもらえる。褒められてもうれしくない。



小学生のとき、50メートル走を走っていると級友から笑われた。ぼくは、足が速くはないが遅くもない。20人中10番ぐらい。決して笑われるようなタイムではない。
級友は笑いながら言った。「おまえ、今にもこけそうな走り方をするな」
どうやらフォームがすごく汚いらしい。

高校生のときには「ひとりだけ氷上を走ってるみたい」と言われた。



子どものときから友人たちとよく公園で野球をしていたおかげで「野球部じゃないわりには野球うまいな」と言われるぐらいにはなった。
ちゃんとした指導者がいなかったのですべて我流で身につけた。野球にはけっこう自信を持っている。まあまあ速い球も投げられる。あくまで「野球部じゃなかったわりには」という条件つきだが。

大学生のとき野球をした。旧友がビデオカメラを持ってきて、その様子を撮影した。
撮った映像を観て愕然とした。自分のピッチングフォーム、めちゃくちゃ汚い。
己の中ではダルビッシュのような流麗なフォームのイメージだったのだが、ビデオカメラに映っている自分は、ウンコを投げるゴリラだった。びちゃっ、という音が聞こえてきそうなピッチングフォームだった。
まさか、と思った。何かの間違いだろう。しかし何度見てもそこにはウンコを投げるゴリラが映っている。びちゃっ。

「こんなに変なフォームだったのか……」とショックを受けていると、友人から
「おまえのフォーム、昔からこんなんだよ。おれはもう見慣れたけど、たしかに変だよな」
と言われた。「いやでもこんなめちゃくちゃなフォームでけっこう速い球投げられるんだからすごいよ」とフォローされたが、自信を持っていただけに深く傷ついた心はまだ癒えない。

ゴリラががんばって人間のレベルに追いついたのだ。そこには並々ならぬ苦労があった。それはたしかにすごいことだけど、ぼくははじめから人間に生まれたかった。



箱根駅伝に出てくる、すごく汚いフォームの選手に親近感をおぼえる。

「このフォームでこれだけ速く走れるんだからフォーム修正したらもっと速く走れるだろうにねえ」
とみんな言うが、そうかんたんな話じゃない。

だってセルフイメージでは無駄のない美しい動きをしているのだから。自分がゴリラであることに気づかずに誇らしげに野球をやっていたぼくにはわかる。


2018年3月5日月曜日

実に田舎の公務員のおっさん


以前、車を買って二ヶ月で事故を起こした。スピーディーだ。
田舎の住宅街を走っているとき、一時停止の標識に気づかずに交差点に侵入し、横から来た車のどてっ腹につっこんだ。後で、九対一でぼくが悪いという判定になった(しかしそれでも一割の過失があるとされるんだから相手はかわいそう。避けようがないだろうに)。


車は大きく破損したが、幸いお互いにけがはなかった。
相手のおじさんが「ちょっと急いでるから実況見分とかやってる時間ないねん。連絡先だけ教えて!」と言うので連絡先を教えあい、おじさんはその場から立ち去った。

加害者が逃げたんなら問題だけど逃げたのは被害者だしなあ、でも警察に連絡しないのはまずいんじゃないだろうかと思い、ぼくひとりでそのまま警察署に向かった。
事故に遭ったと報告すると「で、相手の人は?」と訊かれた。「なんか急いでるとかでどっか言っちゃいました」と伝えた。

たちまち相手のおじさんには警察から招集がかかり、おじさんはすぐにやってきた。「事故現場から勝手に離れたらだめでしょ!」と警察官からめちゃくちゃ怒られてた。被害者なのに加害者より怒られてた。かわいそうに。


ぼくも詳しい事情を訊かれた。五十歳ぐらいの警察官だった。

「どこからどこへ向かってたの?」

 「市民病院に行ってて、その帰りでした」

「病院? どっか悪いの?」

 「はあ。一週間ぐらい前から微熱が続いて吐き気がするので」

「で、医者はなんて?」

 「一応検査はしたんですけど、異常は見つからなかったので精神的なものかもしれないそうです(デリケートなことをずけずけと訊いてくるなー)」

「なんで熱が出るの」

 「さあ(医者がわからないのにわかるわけないだろ)」

「こりゃああれだな、どうせコンビニ弁当ばっか食べてんだろ。ちゃんとしたものとらないからだぞ」

 「はあ(精神的な原因かもしれないって言ってんだろボケ。自炊しとるし)」

「彼女はいるのか? はやく結婚して奥さんにうまいごはんつくってもらえよ」

と、事故とまるで関係のないセクハラ説教をされた。


「この属性の人はこうだ」という差別的なことはあまり言いたくないが、いやあ実に田舎の公務員のおっさんらしい古くさい考え方だなあ、とすっかり感心したのだった。


2018年3月4日日曜日

あなたが私によこしたもの


高校生のとき、好きだった女の子に無印良品のバッグをあげたことがある。ぜんぜんかわいくないやつ。アタッシュケースみたいなシンプルなデザイン。ビジネスシーンで使えるぐらい不愛想なやつ。


しかも、そこそこ仲は良かったが付きあってたわけでもないのに。

高校生にしてはそこそこいい値段がしたと思う。まあまあ高くて使えないという、いちばん迷惑なプレゼントだ。キモかっただろうな。


プレゼントを選ぶセンスがない。
自分自身に物欲がないせいかもしれない。服は暑すぎず寒すぎなければなんでもいい。バッグはたくさん入るやつがいい。
その程度の執着しかないから人に何をあげたら喜ばれるのかわからない。

妻に誕生日プレゼントを贈っているけど、欲しいものを型番で指定してもらって、ネット通販で買うことが多い。買い物に行くのも嫌いなのだ。「買っといて、後でお金請求してよ」というときもある。妻がムードとかにこだわらない人でよかった。

プレゼントを選ぶセンスがないのに、プレゼントを贈ることは好きなのだ。困ったことだ。



毎年、親戚が集まると、子どもたちへのプレゼントの贈りあい、というイベントが発生する。うちの一族はみんな子どもにものをあげたがるのだ。

甥や姪、いとこの子どもたちにプレゼントを贈るのは楽しい。
でも、いつも困ってしまう。
赤ちゃんはかんたんだ。えほんを買えばいい。やつらに好みなんてないからだ(あるんだろうけどどうせ考えてもわからないから気にしない)。すでに持っている本を贈らないことだけ気をつけて、あまり有名でないえほんをあげる。

もう少し大きくなっても、男の子はなんとなくわかる。「九歳のとき何が好きだったかな」と自分の経験に照らし合わせて考えれば、大きくはずさないだろう。

女の子がむずかしい。いとこの娘が中学一年生なんだけど、何をあげたらいいのかさっぱりわからない。
小学校高学年から中学生ぐらいの女の子なんて、ぼくの人生ともっとも縁遠いところにいる存在だ。やつらは何を好きなんだろう。何をして遊んでいるんだろう。どんな話をしているんだろう。ネリリしキルルしハララしているのか。なにひとつわからない。

男子はばかだからいくつになってもボールを与えとけば喜んで蹴りまわしているけど、中学生の女の子はそうはいかない。
『トイ・ストーリー2』で、ジェシーというカウボーイ人形が思春期になった持ち主の女の子から遊んでもらえなくなるという描写がある。

いとこの娘にあげるプレゼントを選ぶとき、いつもこのシーンが頭に浮かぶ。
ああ、エミリー。おもちゃで遊ばなくなったエミリー。ジェシーの寂しさがぼくには手に取るようにわかる。


大人の女なら「とりあえずお菓子あげとけばいいや」となるんだけど、思春期の女子ってやたらとダイエットするでしょ。大人女性の口だけのやつとちがって、かなり本気のやつ。そんな人に甘いお菓子あげたら恨まれそうだし。

何あげたらいいかわかんねえ。かといって女子中学生に現金つかませるのもなんかやばいし。


2018年3月3日土曜日

本を嫌いにさせるフェア


書店で働いてるとき、読書感想文のシーズンになるとふだん本を読まなさそうな子ほど漱石とか太宰とか難解な本を買いに来ていた。
レジで太宰を手渡しながら、あーあ、この子たち余計に本嫌いになるんだろうなーと思ってた。

あれは夏の文庫百冊フェアとかやってる出版社にも責任があると思う。
ああいうところに、いわゆる文豪の作品を入れないほうがいい。
ほんとに好きな子は夏の百冊に入ってなくても買うし。
  • 本を読まない子でも作者やタイトルは聞いたことがある
  • 人気漫画家に描かせたポップな表紙
  • 著作権切れの作品だから他より安い
と条件がそろってたら、そりゃ本の選び方を知らない子は漱石や太宰を買っちゃうよ。そして本嫌いの子が増えてゆく。


夏の百冊フェアをやるのなら、とっつきやすい短篇集、ティーンが主人公の話、ユーモアあふれるエッセイなどだけでそろえたらいい。それも、教科書には載ってない現代作家の。
そしたら「学校で習わないけどおもしろい本が本屋にはいっぱいあるんだ」と気づいてもらえるのに。

ぼくが、ふだん本を読まない子のために文庫の中から選ぶとしたら……


村上 龍『69 sixty nine』

椎名 誠『わしらは怪しい探険隊』

原田 宗典『十七歳だった!』

東野 圭吾 『あの頃ぼくらはアホでした』

畑 正憲『ムツゴロウの青春記』

東海林 さだお『ショージ君の青春記』

みうら じゅん『正しい保健体育 ポケット版』

高野 秀行『異国トーキョー漂流記』

群 ようこ『鞄に本だけつめこんで』

北 杜夫『さびしい王様』

佐藤 多佳子『黄色い目の魚』

重松 清『ナイフ』

星 新一 『未来いそっぷ』

宮部 みゆき『我らが隣人の犯罪』

伊坂 幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』

貴志 祐介 『青の炎』

小川 洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』

誉田 哲也 『武士道シックスティーン』

筒井 康隆 『旅のラゴス』

清水 潔 『殺人犯はそこにいる』

大崎 善生『聖の青春』

橘 玲『亜玖夢博士の経済入門』

岩瀬 彰『「月給100円サラリーマン」の時代』

木村 元彦 『オシムの言葉』

スティーヴン キング『ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編』


こんなとこかな。
どれもおもしろくて、世界をちょっとだけ広げてくれる。ぐいっと。

おっさんが選んだ本だから古いリストだけど。