2018年5月1日火曜日

アニメの文法と文化の衰退


妻から、あるアニメがおもしろいと勧められた。
内容を聞いてみると、ぼくの好きなタイムリープもののSFで、たしかにおもしろそうだ。
録画したものがあるとのことなので観てみる。一話を観たところで「無理だ……」とため息をついて続きをあきらめてしまった。

アニメの文法がわからないのだ。

ぼくはほとんどアニメを観ない。ディズニー(特にピクサー)作品は好きだが、国産アニメは観ない。ジブリアニメですら最近の作品は観ていない。まして深夜にテレビでやっているようなやつはひとつも観たことがない。『まどマギ』がおもしろいとか、『艦これ』が流行ってるとか、ほのかに噂は流れついてくるのだが(たぶんだいぶ後になって)、「大勢の人がおもしろいと言ってるから観たらおもしろいんだろうな」とは思うものの、「ぜんぶ観ようと思ったら何時間もかかる」と思うと食指が動かない。「だったらその間本を読んだほうがいいや」と思ってしまう。

そんな人間だから、アニメの文法がわからない。
たとえば、天然ボケっぽいキャラクターがこれまでの流れと関係のない発言をする。周囲の人物はぽかんとして、一瞬の間の後に「……あっ、いや、それでさっきの続きなんだけど」みたいな感じで話が引き戻される。

ぼくはここで「今の発言は何のためになされたんだろう?」と考える。バラエティ番組なんかだったらほとんど意味のない発言がなされることはよくある。けれどこれはアニメーションだ。百パーセント作りものである。ということはさっきの発言にも作り手の何らかの意図があるということだ。
笑いどころなのかもしれないが、発言の内容はたいしておもしろくない。たぶん作り手もそんなにおもしろいとは思ってないだろう。たぶんこれはアクセント。シリアスなシーンが続いたから軽めのボケをはさんでメリハリをつけたんだろう。
……こういうことをいちいち考えないと次に進めない。

たぶんアニメの文法を知っている人にとっては、何とも思わず自然に受け入れられるシーンなんだろう。説明的な台詞が続いたら天然ボケキャラクターが突拍子もないことを言うのはある種の「お約束」なのかもしれない。


慣れていない人間がアニメを観ると「文法」についていけなくて戸惑ってばかりだ。

「あ……」みたいな意味のないつぶやきが多いな、と思う。たぶんこれは沈黙なんだろうな。小説だったら「無言で肩を落とした」みたいな描写にあたるシーンなんだろう。ドラマだったら役者が表情で表現するところなんだろう。でもアニメでは「沈黙」の表現がむずかしいから(動きも台詞もないシーンはアニメーションだとただの「静止画」になってしまう)、短い台詞を発することで当惑や思索にふけっているところを表現するんだろう。

そんなことを考えながら三十分のアニメ(歌とかCMもあるから実質二十分ぐらい)を観ていたらどっと疲れた。
そのわりにストーリーはまったく進んでいない。三十分も本を読めばかなりの展開があるのにな。

きっと、我慢して何十本もアニメを観つづければ「文法」を自然と理解できるようになっていろんなことがすんなり解釈できるようになるんだろう。
でもそれをする体力がない。若かったらできたんだろうけど。そこまでするんだったら慣れ親しんだ読書を楽しむほうがいい。
ということで「もうアニメはいいや」と投げだしてしまった。歳をとったのだ。


ぼくは落語を好きだけど、それは小学生のときから聴いていたからであって、今はじめてふれたら理解不能なことばかりでたぶん聴いてられないだろう。
「地の文と会話文の境があいまいなこともある」とか「四人以上の登場人物が会話をするシーンでは特に誰の発言かは意識しなくてもいい」とか「肩を揺するのは歩くシーン」とか「上方落語では突然お囃子が鳴る」とかの「文法」を知らないと聴きづらい噺も多い。
「よくわからない言葉は聞き流してもだいたい大丈夫」「お金の価値もちゃんとわからなくても大丈夫」なんて判断も、数をこなさないと身につかない。

だがこういうことは、中にいる人にはわからない。アニメ制作をしている人は「アニメなんて観たらいいだけだから誰でも楽しめるよ」と思うだろう。おっさんがアニメの「文法」がわからないだなんて思いもよらないにちがいない。だからほったらかしにされてしまう。


歳をとってから新しい芸能・文化に触れるのはとても体力がいるものだ。
読書習慣がないまま大人になってしまった人が読書を趣味にすることは、まずないのだろう。

そう考えると、よく耳にする「若者の〇〇離れ」は単なる売上の減少だけの問題ではない。
二十代までにその道に目覚めなかった人は、たとえお金や時間を手にしたとしても中高年になってから近寄ってくることはほぼないだろう。若者が入ってこない文化は、数十年後の衰退が確定している。
あらゆる文化は何よりも若者をターゲットにしなければならない。たとえそれが利益を生まなかったとしても。

ジャニーズのコンサートには親子席というものがあるらしい。ジャニーズは小学生に優先的に席を回してライブの楽しみを教えることで、向こう数十年のファンを育成しているのだ。実にうまいやりかただ。

「お金もかかるし知識がないとわかりづらいので若い人や初心者が入りづらい」ためにどんどん衰退していっている古典芸能や着物文化は、ぜひともジャニーズのやりかたを見習ってほしい。もう遅いだろうけど。


2018年4月29日日曜日

あえて今ラブレター


知り合いの二十代の女性。美人でとてもモテる子だ。「最近のモテエピソード聞かせてよ」と云うと、知らない人からラブレターをもらったと教えてくれた。

「今どきラブレター? しかも二十代になって?」

 「そう、びっくりしちゃった」


通勤途中によく顔をあわせる同い年ぐらいの男性から、いきなり手紙を渡されたのだという。
読むと、いつも顔をあわせているうちに好きになってしまった、一度もしゃべったことがないのにこんな手紙を渡されて気持ち悪いと思われるかもしれないがどうしても伝えたかったので手紙を書いた、いきなり付き合ってくれとは言わないがもしよかったら会って話す機会でももらえないだろうか、という内容だったそうだ。


すごくまじめな手紙だ。手紙を書いた男性の、礼儀正しさ、誠実さ、女慣れしていないところ、そして勇気が十分に伝わってくる。
男のぼくでさえも「なんてかっこいいんだ」と思う。顔も知らない男性だけど応援したい。

「すごくいい人じゃない」

 「そうなんですよ。顔はぜんぜんタイプじゃなかったけど、その手紙で好感度はめちゃくちゃ上がりましたね」

「じゃあオッケーした?」

 「いやでも彼氏いるから。だから気持ちはすごくうれしいけどつきあってる人いるんでごめんなさい、って返事しました」

「そっかー……。残念だなー……。めちゃくちゃ勇気ふりしぼったと思うのにな……。うーん、彼氏いるならしょうがないか……、でもやっぱり諦められないなあ……。なんとかならない……?」

 「なんで犬犬さんがフラれたみたいにショック受けてるんですか」


ラブレターなんて今どきは中学生でも書かないかもしれないけど、だからこそ効果は絶大だ。気になる相手がいる社会人は、ぜひ使ってほしい。

関係のないおっさんですら胸がときめくんですもの。


ツイートまとめ 2018年3月


健康の秘訣

悪気

裕福

ひげ

デザイン

ファミコン

IQ

電動工具

疑獄

対義語

NEW

大回転

夕陽

ちゃっちゃと

ソツ無し

本当は教えたくない

秋の味覚

公務員



本人確認

三重苦

非花粉症

想像力

困惑願望

内閣総理大臣賞


2018年4月27日金曜日

だだーん


ブログに好き勝手なことを書いているようでも、書きたいことをなんでも書いているわけではない。
共感してもらいたい、炎上してほしくない。
そういう思いが遠慮を生む。

「××たちは他人に迷惑をかけずに早く死ね」
「〇〇って知性のかけらもないよね」
心の中で思うことはあっても書くのを控えてしまう。

たとえ名前や顔を出していなくても自重してしまうのはぼくだけではなさそうだ。
匿名掲示板ですら身勝手な主張というのは存外少ない。
一見乱暴に見える主張であっても書いた人なりに支持を求めようとしている。差別的な発言、暴力的な発言も、それなりの論拠を示されている(その論拠に正当性があるかどうかはべつにして)。
「ジジイやババアに金を遣うのは税金の無駄遣いだから病院にかからずに死ね」と書く人はいても「ジジイやババアは嫌いだから死ね」という主張はめったになされない。
もっともらしい大義名分が付けくわえられる。年金がどうだとか医療費負担がどうだとか安楽死の権利がどうだとか。


もっと自由でいいじゃないか、と思う。
ジジイやババアを殺したらいかんけど、死ねと思うのは自由だ。書くことだって禁止されていない。

身勝手で、感情的で、正義をふりかざしていない文章がぼくは読みたい。
そういう文章が読めるのがインターネットの魅力だ。

とは思うのだがいざキーボードに指を乗せてみると、倫理観やら虚栄心やらがじゃまをして、こざかしい理屈をふりかざした文章を書いてしまう(この文章がまさにそうだ)。

だだーんと「あいつ嫌い。嫌いなものは嫌い」みたいな文章を書いてみてえな。



2018年4月26日木曜日

回転寿司屋でお見合い


どうも、はじめまして……じゃないですね。すみません、ふたりっきりになったので緊張してしまって。
はい、じゃあ改めてよろしくお願いします。

何飲みますか? 熱いお茶でいいですかね。
あっ、すみません、やってもらっちゃって。
じゃあぼくムラサキ入れますね。醤油のこと、ムラサキって言うんですよ、寿司業界では。通でしょ。

キョウコさん、趣味は何ですか?
すみません、ありきたりな質問しちゃって。
あっ、どんどん取っちゃってくださいね。一回見逃したらなかなか戻ってきませんから。
いやいや、いいですってば。早く取って。
へえ、はじめに軍艦巻きからいくタイプなんですね。ちょっと意外ですね。タマゴとかアナゴから入るタイプかと思ってました。あっ、やらしい意味じゃないですよ。ははっ。

ぼくですか? ぼくは休みの日はだいたい……。
あっ、あぶりチーズサーモン来た! 取って取って!
すみません、ぼくあぶりチーズサーモン大好きなんです。通でしょ。
キョウコさんもですか? じゃあもう一皿とりましょっか。

何の話でしたっけ。まあいっか。お仕事は何されてるんでしたっけ。
あっ、ちょっと待ってくださいね……。大トロとかいっちゃっていいですか。あーどうしよっかなー、いやでもなー、あー行っちゃった。まいっか、もう一周したときにまだあれば取ろうっと。

ぼくの仕事ですか?
昼間はふつうにシステムエンジニアやってます。夜は……。あっ、エンガワだ。ぼくエンガワ大好きなんです。いっぺんに三皿とってもいいですかね。

え? もう帰るんですか? まだぜんぜん食べてないんじゃないですか?
そうですか、じゃあぼくはもうちょっと食べてから行きます。それじゃ。


……わりとタイプだったな。結婚相談所で紹介された中では今まででいちばん手応えあったな……。

どうしよっかな、また回転寿司デートしましょうって連絡取ろうかな……。
まいっか、紹介がもう一周したときにまだいれば取ろうっと。