2017年1月7日土曜日

借りパクの証

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同僚が1か月くらい前から急に会社に来なくなって、そのまま辞めちゃった。

それはまあいいんだけど、問題はそいつにDVDを貸していたってこと。


それも、1枚じゃない。
貸していたのは、古畑任三郎のDVD-BOX。
しかもシーズン2。
ぼくのいちばん好きな風間杜夫の回や、丁々発止のやりとりが存分に味わえる明石家さんまの回や、 派手さはないがあっと驚く謎解きが味わえる澤村藤十郎の回が収録されている、シーズン2。
ミステリとしてもコメディとしても最も脂の乗っていたシーズン2。

そんな大切なDVD-BOXが、借りパクされようとしている。



ぼくがこの世でいちばん憎い犯罪は、借りパクと傘泥棒だ。

なぜなら、借りパクも傘泥棒も、「被害者が受けたダメージのわりに、加害者の罪の意識が小さすぎる」からだ。


ぼくはまだ人を殺したことがないけれど、人を殺したらものすごく罪の意識を感じるだろう。
毎晩うなされるかもしれない。
それがふつうの感覚だ。

サイコパスの快楽殺人犯だったら、後悔したり反省したりはしないかもしれない。
だけど、少なくとも「自分は犯罪をした」という自覚ぐらいは持つにちがいない。

それなのに、借りパクするやつと傘泥棒は、ほとんど罪の意識を感じていない(たぶん)。
寝る前に「なんであのとき傘を盗んでしまったんだろう……。取り返しのつかないことをしてしまった……」と激しい自責の念に駆られたりしない。
「ちょっと借りとくね。もしかしたら返すかもしれないし」ぐらいの気持ちだと思う。

それがぼくには許せない。
ぼくの傘を盗んだ犯人には、一生「おれはあのとき傘を盗んだ」という罪の意識を背負って生きていってほしい。
できることなら、傘を盗んだ自分への戒めとして、己のひたいに傘の形のタトゥーを入れてほしい。
そこまで反省するなら許してやってもいい。



ぼくのDVDが借りパクされようとしている。
これはつまり、かつての同僚が、世紀の大犯罪者になろうしているということだ。

黙って見過ごしていてよいのだろうか。
否。
ぼくには政治がわからぬ。
しかしこのぼくが、奴がダークサイドに堕ちるのを止めてやらねばならぬ。


さいわい、奴のLINE IDを知っていた。

とはいえ、いきなり「おいDVD返せ」とぶしつけなメッセージを送るほど無神経ではない。
まずは退職する同僚への惜別の挨拶を告げ、ふと思い出したかのように「DVD返して!」と告げた。


で、返ってきたのがこのメッセージ。



それから、待てど暮らせど次のメッセージが来ない。

え……?


「お借りしっぱなしでした!!!!!すみません。。」

ここまではわかる。

ふつうはこの後に
「返します! 会社に持っていけばいいですか?」
とか
「郵送するので自宅の住所教えてください!」
とかあるはずだよね……。

え? え?

もしかしてさっきの「すみません。。」って、「借りパクするけどすみません。。」ってこと!?



おいっ!!

DVD返せ!


それかひたいに「シーズン2」ってタトゥー入れろ!!






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