2022年9月20日火曜日

【読書感想文】いっくん『数学クラスタが集まって本気で大喜利してみた』 / 数学は直感を超える

数学クラスタが集まって本気で大喜利してみた

いっくん(著)  店長(構成協力)

目次
ケーキを三等分せよ
時計の文字盤をデザインせよ
地球の直径を求めよ
規則性に反するものを見つけよ
ハートのグラフを描け
答えが1になる問題を考えよ
角を三等分せよ
大定理でくだらないことを証明せよ
円周率を求めよ
起こる確率が無理数である事象を考えよ
ほとんどの整数の数をいえ
「病的な数字」の例をあげよ
1=2を示せ
不思議な図形の例をあげよ
満室の無限ホテルの部屋を空けよ
とにかく大きい数をあげよ

 あれこれ書くより、このツイートをいちばん見てもらうのがいちばん早い。


 以前このツイートを見て「おお、すげえ!」となったので(理解はできない)、『数学クラスタが集まって本気で大喜利してみた』を読んでみた。




 おもしろかったのは『規則性に反するものを見つけよ』の章。

 タイトルだけだと意味がわかりづらいけど、たとえばこんな話。

 n^17+9と(n+1)^17+9の最大公約数は?

 最大公約数とは、2つ以上の数に共通している約数(公約数)うち最も大きいもののことです。では、n^17+9…①と(n+1)^17+9…②の最大公約数はいくつになるでしょうか?

 まずn=1を代入すると、
 ①1^17+9=1+9=10
 ②(1+1)^17+9=131072+9=131081
となり、10と131081の最大公約数は1です。
 次にn=2を代入すると、①が131081、②が129140172となり、この最大公約数も1です。
 これをn=3,4,5…と続けていっても、最大公約数は1のまま。どこまでいっても、ずっと最大公約数は1に違いない!と思いきや、

n=8424432925592889329288197322308900672459420460792433
で、
急に最大公約数が1ではなくなるのです。
これはコンピュータの演算でわかった結果ですが……それまでに8424432925592889329288197322308900672459420460792432回も同じ流れが続いていたことを考えると、規則性が裏切られた時のインパクトはすさまじいものがありますね。

 ある命題があって、nが1のときは真である。nが2のときも真である。nが10のときも100のときも1000のときも1億のときもその1億倍のときもずっとずっと真である。

 にもかかわらず、nが8424432925592889329288197322308900672459420460792433 のときは真ではない。

 うそー。そこまできて裏切られることある?


 この話を妻(工学部出身)にしたところ、「だから数学は嫌いなんだ」と言われた。妻いわく、物理の世界だったら一万回試して同じ結果になれば100%と見なしていい。まあ物理に限らず日常生活においてはそうだろう。1兆回やって同じ結果になれば、1兆1回目も同じになるに決まっている。

 ところが数学の世界ではそうは断定できないし、じっさいに8424432925592889329288197322308900672459420460792433回目で裏切られてしまうこともある。

 人間の感覚で理解できる範囲を超えている。


 物理はさ、理解できなくてもなんとなくは想像できるじゃない。「この材質・形の物体をこの角度で投げればだいたいこのへんに届くな」ってのはわかる。もちろん予想と外れることはあるけど、10メートル先に行くと予想した物体が100メートル後方に行くようなことはない。

 でも数学ではそういうことが起こってしまう。




『1=2を示せ』も、直感を見事に裏切ってくれる。



 どうだろう。この証明。

  2=√2 になるわけないから、まちがっていることはわかる。わかるけど、いざ反証しようとするとむずかしい。

 物理の世界だと、〝かぎりなく直線に近づけた曲線〟は直線として扱っていいもんね。というか現実世界にはまったく凹凸のない直線なんて存在しないし。

 でも数学の世界だと矛盾が生じてしまう。うーん、わずらわしい。

 



 とまあ、数学が嫌いでない人からしたら楽しめる本だとおもう。細かい数式はぼくにはぜんぜん理解できなかったけど(高校のときは数学めちゃくちゃ得意だったのになー。高校数学レベルではまったくついていけない)、


 で、まあ、おもしろかったんだけど、残念だったのは「第1章の『ケーキを三等分せよ』がいちばんおもしろかった」ってこと。尻すぼみ感がある。

 大喜利と言いつつ、オリジナルの回答じゃないのも多いしね。数学界で有名な解法や議論とか。昔の有名数学者が考えたものを持ってきて「大喜利の答えです!」っていうのはちがうんじゃないの、とおもってしまう。まあ看板が悪いだけで中身は悪くないんだけどさ。


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むずかしいものが読みたい!/小林 秀雄・岡 潔 『人間の建設』【読書感想】



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2022年9月16日金曜日

【読書感想文】冲方 丁『十二人の死にたい子どもたち』/ 惜しい!

十二人の死にたい子どもたち

冲方 丁

内容(e-honより)
廃病院に集まった十二人の少年少女。彼らの目的は「安楽死」をすること。決を取り、全員一致で、それは実行されるはずだった。だが、病院のベッドには“十三人目”の少年の死体が。彼は何者で、なぜここにいるのか?「実行」を阻む問題に、十二人は議論を重ねていく。互いの思いの交錯する中で出された結論とは。

 冲方丁さんといえば『天地明察』で骨のある時代小説を書いた人、というイメージだったので、こんな安いWebマンガみたいなタイトルの小説も書くんだーと意外な気持ちで手に取った。

 タイトルからもわかるように『十二人の怒れる男』のオマージュ的作品でもある。もしかすると三谷幸喜の『十二人の優しい日本人』の影響もあるのかもしれない(筒井康隆の『12人の浮かれる男』はたぶん関係ない)。


 集団自殺をするために廃病院に集まった十二人の少年少女。ところが実行直前になって、十三人目の死体があることに気づく。それでも予定通り自殺を実行しようとするメンバーだったが、ひとりの少年が異議を唱えだして……。

 ここからは『十二人の~』の典型的パターン。一人 VS 十一人という構図からスタートし、議論を重ねるごとにひとりずつ賛同者が増えていき、徐々に場の流れが変わりはじめる……というストーリー。




【以下、ネタバレ感想】


 これを小説でやるのはきついな、というのがいちばんの感想。動きの少ない密室劇。登場人物は十二人。これで十二人の個性を読者に印象付けるのはそうとうむずかしい。

 それぞれのキャラクターを書き分けようとすると極端な性格にするほかなく、超傲慢、超バカ、超冷静沈着頭脳明晰、超日和見主義、超無口、超美人……などマンガチックなキャラクターになってしまう。

 特に女性キャラはひどい。男性のほうは(考えは違えど)全員議論ができる他者への優しさを持っているのに、女性のほうはヒステリック、超バカ、傲岸不遜、視野狭窄、攻撃的でほとんどまともに会話が成り立たない。作者はよほどの女嫌いなのか?

 そこまでしてもやはり十二人の個性を印象付けるのはむずかしく、案の定、読んでいてこいつ誰だっけとなってしまう。


 おまけに病院の見取り図を利用したトリックなんかも出てきて、ややっこしいったらありゃしない。やはり〝十二人もの〟は映像作品だからこそできるものだよね。




「ゼロ番の死体」の正体については、納得のいく設定だった。

 自分のせいで植物状態になってしまった兄。まあこれなら集団自殺の場に連れてきてもおかしくないとおもえる。

 ただ、アンリとノブオが、彼を自殺の場に連れていった理由がいまいち腑に落ちない。見ず知らずの死体なのに。頼まれたわけでもないのに。ましてアンリは誰よりも自由な選択を重要視していたのに。

 そして、誰ひとりとして彼が死んでいるかどうかを確かめようとしないのも不自然。シンジロウなんか細かいところはめちゃくちゃ気にして微に入り細を穿って調査するくせに、肝心なところはまったく調べない。

 で、案の定「ゼロ番は生きている」という予想通りの展開。そりゃあね。物語冒頭から死体が出てきて、ろくに調べられていなかったら、実は生きてましたーパターンだよね。そうならないのは落語『らくだ』ぐらいだ。


 話の展開自体はぜんぜん悪くなかったので、登場人物を減らして、ゼロ番移動のくだりをまるっと削除すればすごくおもしろい物語になったんだろうな、とおもう。いろいろ惜しかった。

 結局自殺をやめるというのも予定調和ではあるが、これはいい予定調和だとおもう。

 ただ、興醒めなのが大オチ。

 実はサトシがこの集まりを開くのは三回目で、過去に二回参加者たちの自殺を止めていたという設定。

 これ、いらなかったんじゃないかなあ。よくあるよねという仕掛けで意外性はないし、驚きをもたらす効果よりも「ここまでの物語の価値を貶めてしまう効果」のほうが大きい。

 さんざん熱い議論を見せられたあげく、これじつはサトシくんのてのひらで転がされてただけでしたーって言われちゃうと、あの話し合いはなんだったんだって気になっちゃう。あれで一気に作品全体への評価が下がってしまった。




 なんか不満点ばっかり書いてしまった。でも一応書いておくと、ぼくは本当につまらない小説を読んだときにはあんまり感想を書かない。特に心動かされないから。不満を書く気にすらならない。

 不満を書きたくなるのは「あとちょっとですごくおもしろくなっただろうに」という作品に対して。アイデアは良くて、キャラクターも良くて、細かいところまで気を配っていて、だったらあとここだけ変われば完璧だったのにー!って作品に対してはあれこれ言いたくなってしまう。

 ということで、いろいろと「惜しい!」と言いたくなる作品だった。そもそも小説に向いてなかったようにおもう(この作品は映画化もされてるみたいね)。


【関連記事】

【読書感想文】暦をつくる! / 冲方 丁『天地明察』



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2022年9月15日木曜日

ツイートまとめ 2022年6月



ベクトル

トヨタ

永年陽当たり良好

アヒルと鴨のコインロッカー



貨幣経済

へりくつ

診察料

故事成語

確率

それは最初からわかっている

ジャー

トラップ

政党マッチ診断

ポイント

2022年9月14日水曜日

短歌


部下の退職報告を聞き怒鳴る課長がリピート「円満退職」


「甘い考えかもしれませんが」と保険を打つ その前置きが甘い考え


「人権侵害落書きはやめましょう」 そうでない落書きならいいのね


成長を約束している候補者の演説が生む交通渋滞


「不要物を便器の中に捨てないで」 待てよ小便は不要物では



2022年9月13日火曜日

ダイソーのカードゲーム

 百円均一のダイソーに、限定のカードゲームが売られているのを知っているだろうか。

 ダイソーがゲームクリエイターとコラボして制作しているらしい。

 これが意外に侮れないというか、とても百円とはおもえないクオリティのものもあって、たいへんお買い得だ。


 ボードゲームやカードゲームが好きで娘とよく遊んでいるのだが、安いカードゲームでも二千円ぐらいはするし、高いボードゲームだと一万円近くしたりする。

 それでもおもしろいものは何十回も遊べるからぜんぜん高くないのだけれど、問題は「ぜんぜんおもしろくなくて一回しかやりたくならないゲーム」も世の中には存在するということだ。

 カードゲームなんてのは基本的には紙だけでできているので、アイデア次第でとんでもなくおもしろいゲームにもなれば紙屑にもなりうる。
 そして紙だけでできているということは「コピーしやすい」ということでもある。トランプだってUNOだって花札だって、自宅で作ろうとおもえば作れる。だからだろう、多くのカードゲームは商品説明欄にごくごく一部のルールしか書いていない。全部書いてしまうとコピーされてしまうから。

 だから、カードゲームのおもしろさはやってみるまでわからない。クソつまらないゲームかもしれない、とおもうと数千円を出すのはなかなか勇気がある。


 その点、百均のゲームはいい。なんせ百円だ。消費税を入れても百十円だ。クソつまらなくて、一回やったらもうやりたくないようなゲームだったとしても、百円とおもえばぜんぜん許せる。今どきゲームセンターのゲームでも一回二百円三百円するようなものがあるのだ。

 だからダイソーでゲームを見つけたら手当たり次第に買っている。置き場所の問題もあるのでさすがに全部は買わないけど、ちょっとでもおもしろそうかもとおもったら買うようにしている。

 そんなダイソーで買ったゲームについて。







『ボードゲーム(生物学カードゲーム CELL ジェネリック 遺伝子工学vs生態学)』
『ボードゲーム(生物学カードゲーム CELL ジェネリック 免疫学vs微生物学)』

 生物学用語(キメラマウスとかips細胞とか)の擬人化キャラを使った対戦カードゲーム。やったことないけど、たぶん遊戯王カードとかマジック・ザ・ギャザリングみたいな感じだとおもう。

 これがなかなか奥が深く、九歳の娘が気に入って毎週土日の朝になると「セルしよう!」と誘ってくる。免疫学・微生物学・遺伝子工学・生態学の四種類のカードセットがあるが、パワーバランスが優れていて、どれも一長一短ある。運と戦術のバランスもよく、戦術によって勝率を上げることはできるが、それでも運が悪ければどうにもならない。

 これが、娘とやるのにちょうどいい。前にも書いたが、ぼくは子どもとゲームをするときに「わざと負ける」ことをしたくない。ハンデをつけるのはいいが、手は抜きたくない。だから運要素のあるゲームがいい。でも運だけでもつまらない。このゲームの場合、当初はぼくが娘に負けることはほぼなかったが、娘の実力もだんだん上がってきて今ではぼくの勝率は七割ぐらい。いい勝負ができるようになった。娘からすると「本気のおとうさんに勝てる」「工夫によって勝てることが増えてきた」という感じで、すごく楽しそうだ。

 ちなみに、近所のダイソーで「遺伝子工学vs生態学」を買ったが同じ店舗には「免疫学vs微生物学」が売られておらず、わざわざ電車に乗って遠くのダイソーにまで買いに行った。




『セカンドベスト!』

 四目並べのようなルールだが、このゲームのユニークな点は「待った」ができること。一度は待ったをかけてもいい。
 つまり、相手のうっかりミスによる勝利は期待できず、勝つためには「相手がどう指しても勝てる手」を打たなくてはならない。将棋でいう「必至」の状態だね。

 このルール、力量差のない相手とシビアに戦いたい人にはいいが、子ども相手で遊ぶのには向いていない。うっかりミスでの負けがない以上、数手先を読む力が必須である。そしてぼくは詰将棋や五目並べが得意なので、負けることはない。

 三回ぐらいやってすぐにやらなくなってしまった。




『グースカパースカ』

 グーが三枚、チョキが六枚、パーが三枚。これら全十二枚のカードのうち十枚をお互いに配っておこなわれるジャンケンゲーム。『カイジ』の限定ジャンケンのようなものだね。ジャンケンによって宝石を取り合うところも似ている。

 カードによって取れる宝石の数が異なる、後半になるほどやりとりする宝石の数が異なるなどの工夫はあるが、どうしても最後がぐだぐだになってしまう。なぜなら「勝った方は負けた方にカードを渡す」というルールがあるから。勝てば勝つほど手札の数が減り、さらに相手にカードを読まれてしまう。「あと一勝で終わる」まではたどりつけるが、そこから勝つのが至難の業。大勢が決してから、だらだらと勝負が長引いてしまう。

 これは一度やっただけでもうやらなくなった。




『GIRIGIRI』

 双六のような盤面があり、プレイヤーの出したカードによって駒が進んでいく(駒は全員でひとつだけ)。20の倍数を通過するとダメージを食らい、11の倍数に止まるとダメージを他のプレイヤーに渡せる。最終的にいちばんダメージの少ないプレイヤーが勝利。

 これは娘の友だちも入れて四人でやったが、たいへん盛り上がった。戦略と運の要素のバランスが良く、最後まで誰が勝つかわからない。途中でリードしていても最後に10ダメージを食らうとまず勝てないし。

 アクションカードの枚数が多すぎる、誰かひとりを集中攻撃することができるので空気が悪くなりやすいなど少し粗さも目立つが、そのへんはカードを抜いたりルールを追加したりして調整してもよさそう。

 特に盛り上がるのは「GIRI GIRI」というカード。これが出されると、全員「ギリギリ!」と言わなくてはならなくて、いちばん遅い人がダメージを受けてしまう。

 ただこれは三人以上でやるときにだけ有効なルールなので、一応説明書には「2~6人」と書いてあるが三人以上でやることを推奨する。