2021年12月21日火曜日

M-1グランプリ2021の感想


 M-1グランプリ2021の感想です。

 個人の感想です、って書く人がいるけど個人のじゃない感想とかある? 法人の感想? それとも国民の総意としての感想?


<1本目>


モグライダー (さそり座の女)

「美川憲一さんって気の毒ですよね」と、一瞬にしてあれこれ考えさせられる不穏な導入がすばらしい。単発のツカミかとおもったら本ネタへの導入とは。
「いいえ」のワンフレーズからそこまで想像を広げるのかと呆れさせ、「そうよ私はさそり座の女」と言わせるためだけに無駄な努力をふたりでくりひろげる。その緻密に計算された構成と、根底を貫く徹頭徹尾意味のないばかばかしさに大いに笑わされた。

 トム・ブラウンの「合体」ネタもそうだけど、バカなネタ、不条理なネタにこそ、背景にしっかりとした論理が求められる。言ってることは荒唐無稽だけど、「少なくともこの人の中では首尾一貫してる論理があるんだろうな」とおもわせなければならない。
 モグライダーのネタにはその〝狂人の論理〟があった。だから笑える。モグライダーを見習いなさい、敗者復活戦のさや香よ。ただむちゃくちゃやればいいってもんじゃないぞ。

 ツッコミもうまいし、ボケのあぶなっかしさも魅力的。後半出番だったら最終決戦に進んでいてもぜんぜんおかしくないネタだった。出番順に泣かされたなあ。

 反省点があるとすれば、歌に入るまでが早かったことだろう。1組目だったこともあるが、多くの観客にとっては「知らない人が出てきてまったく意味のわからない話をはじめた」わけで、早々に脱落してしまった人も多かったのではないだろうか。『さそり座の女』を知らない観客も少なくなかっただろうし。
 限られた時間とはいえ、前半の説明はもっと時間をかけて丁寧にやるべきだったのではないか。キャラクターが浸透してくれば、今回ぐらいの短さでもいいんだけど。

 ネタよりバラエティ番組で活躍しそうなふたりだなとおもった。


ランジャタイ (風の強い日に飛んできた猫が体内に入る)

 準決勝とは異なるネタをここで持ってくる度胸もすごい。2番手という出番順をものともせずに自分たちの空気で包みこんだ剛腕っぷりもさすが。

 ただ、設定もぶっとんでいて、中身のボケもぶっとんでいるのはいかがなものか。奇想天外な世界でベタなことをやりつづけるとか、オーソドックスな設定で奇抜なボケをするとかのほうが見やすかったんじゃないだろうか。

 しかし審査員がみんな甘い。このコンビは、どうせならぶっちぎりの最下位にしてあげたほうがよかったのに(本人たちも少なからずそれを期待していたフシがある)。70点とかつけてあげろよ!


ゆにばーす (ディベート)

 今大会の個人的最下位。好きじゃなかった。

 結局、内輪ネタなんだよね。去年のアキナといっしょで。このふたりの関係性やキャラクターありきで話が進んでいってしまう。

「うちらの関係性は何なの?」で笑いをとるためには、その前に「原さんのことを恋愛対象として見ることはできない」ことをちゃんと説明しないといけない。
 20年前だったら説明しなくてもよかったんだよ。説明しなくても「ああこの女は不美人だから恋愛対象として見られない扱いを受けても当然だ」とおもってもらえた。でも今の時代はそうじゃない。不美人だろうと、女芸人だろうと、「おまえは女じゃない」はセクハラで断罪される時代だ。ブスをブスといじっていい時代は南海キャンディーズが終わらせてしまった。
 まだ川瀬名人が超絶イケメンなら「おまえには恋愛感情持てへんわ」が説得力を持つかもしれないけど、川瀬名人のほうもアレなので「誰が言うてんねん」になっちゃう。そこをちゃんと言いかえせばいいんだけど、原さんが一方的に言われっぱなしなのでとても見ていられない。

 終始ふたりの関係性ありきのテーマだったので、ゆにばーすに思い入れのない者としては、まったく知らない人同士の合コントークを聞かされているような気分だった。

 ところで、そもそもの話になっちゃうけど「ツッコミだけが関西弁でキレ気味にツッコむ」って聞いていてつらいんだよね。攻撃的になりすぎてて。関西人のぼくですらちょっと怖い(ネプチューンとかにも同じものを感じる)。関西人同士なら気にならないんだけど、「関西弁じゃない人に関西弁でまくしたてる関西人」って、そっちのほうが異常者じゃん。
 おまけにゆにばーすは「背の高い男が背の低い女に高圧的にツッコんでる」から特にDV感が強い。よほどボケが強くないとしんどいなあ(このあたりのことはオズワルドの項で書く)。


ハライチ(敗者復活) (頭ごなしに否定)

 予選でも敗者復活でも古いネタをやっていて、なんで新ネタもないのに久々に参戦したんだろう、もう十分売れてるんだからネタがないなら出なくてもいいのに……とおもっていたが、なるほど、本当にやりたかったのはこれか。敗者復活戦とはまったくべつのネタを隠し持っていた。これはネタ番組じゃやらせてもらえなさそうだしなあ。

 クレイジーなネタで、ここでこのネタを持ってくる心意気はすごいけど、いかんせんボケが1種類しかないからなあ。おまけにランジャタイがむちゃくちゃやった後だから、「この大舞台でこれをやるか」という驚きも少ない。

 やりたいネタをやって清々しい顔で去っていった姿が印象的だった。


 ちなみに敗者復活戦は久々に生で視聴したんだけど、ぼくはカベポスターと男性ブランコ、あと1組は迷ったので娘が爆笑していたからし蓮根に入れました。ハライチもおもしろかったけど、時間オーバーしても続けていたのが印象悪かったのと、もう今さら敗者復活で上げなくてもいいでしょとおもったので。


真空ジェシカ (一日市長)

 個々のボケの強さはピカイチだった。台本で読んだらいちばんおもしろいのはこのネタじゃないかな。まあでもそれだけでは勝てないのが漫才のおもしろいところで。

 一日市長という枠組みを与えているとはいえ、基本的には大喜利の羅列なんだよね。「Q.沖縄の言葉にありそうでないものは?」「A.罪人(つみんちゅ)」「Q.この和菓子屋、不穏な気配がする。なんで?」「A.店のおばあちゃんがハンドサインで『ヘルプ・ミー』とやってきた」みたいな。
 めまぐるしく笑いの角度が変わるので、ついていけない客や審査員もいたんじゃないかな。

 台本はまちがいなくおもしろいので、後は技術が身につけばすごいだろうね。今回は表現にアラが目立った。
「沖縄の苗字」が十分伝わっていないのに「罪人(つみんちゅ」を持ってきたり、「青山学院が見くびられている」の笑いを引きずっている状態で「名門のタスキは重い」を発したためにかき消されてしまったり。本番の空気に対応できる技術はこれからなんでしょう。

「ミッキーはひとりじゃないですか」は良かったなあ。昭和なら「ミッキーなんていっぱいいるじゃねえか!」と裏を暴くだけで笑いになったけど、平成では「タブーに物申す」がダサくなった。そこで裏の裏をかいて「ミッキーはひとりじゃないですか」「そ、そうだよね」とやるのは令和の笑いって感じがしたなあ。タブーに切り込むんじゃなくてタブーをひと撫でするような笑い。

 ところで、最初から最後までずっとおもしろかったけど、最後の酸性雨だけは完全に蛇足だったようにおもう。あれのせいで突然ぶった切られたようなオチになってしまった。そこまでして入れなきゃいけないボケだったのか。「名門のタスキは重い」で落としてもよかったんじゃなかろうか。


オズワルド (友だちがほしい)

 準決勝を見たときもおもったけど、完璧なネタだとおもう。欠点がまったくない。

 モグライダーの感想でも書いた〝狂人の論理〟。言ってることはおかしいけど、「他人の気持ちがまったくわからなくて友だちができたことのない人ならこれぐらいのことは言うかも」の絶妙なラインを巧みに表現していた。
「いちばんいらない友だちでいいからさ」や「履かなくなったズボンと交換」の、他人の気持ちがわからないっぷりったら!

「友だちがいないやつのふるまい」というたったひとつのお題に対して、いちばんいらない友だち、一斉に解き放って5秒後においかける、脈拍、詐欺なんてしないなど、次々にくりだされるパンチのあるボケ。真空ジェシカとちがってお題はひとつなので、観ている側もついていきやすい。
 もちろんツッコミのワードもことごとく切れ味鋭く、非の打ち所がないネタだった。

 オズワルドといえば、昨年審査員から「序盤はロートーンで入ったほうがいい」「序盤から声を張ったほうがいい」と真逆のアドバイスをされていたが、このネタを見るとそんなことは実はどうでもいい問題だと気づかされる。

 あの問いに対する答えはかんたんで、「強くツッコむ理由があれば強くツッコめばいい」だとおもう。
 昨年のネタを例に出すと、「〝はたなか〟って発声すると口の中に何か詰め込まれるかもしれないから改名しようとおもってる」と聞かされた場合、理解不能な理屈ではあるがしょせんは他人事なので強くツッコむ理由にはならない。
 だが今年の「友だちいないから君の友だちひとりちょうだい。いらないやつでいいからさ」は、自分や友人の名誉にかかわる話なので、強く反発する理由になる。それだけの話だ。

 だからオズワルドは昨年の審査員からの問いに対して、「声を張るに値するボケを導入に持ってくる」という回答を用意した。完璧な回答だ。


ロングコートダディ (生まれ変わったらワニになりたい)

『座王』ファンとして、個人的にもっとも応援していたのがロングコートダディ。だけどあのローテンションなコンビでは爆発的にウケることはないだろうなとおもっていたので、今回の4位は上出来中の上出来だとおもう。
 しかし、観客が暖まっていてかつ疲れてもいない7番目(しかもオズワルドが盛り上げた後)という最高の出番順でこの結果だったということは、今後はこれを超えることはむずかしいんじゃないかという気もする。
 GYAO反省会で他の芸人が「あのネタの発想はすごい」と口々に褒めていたので、昔のキングオブコントのように現役の芸人が審査する形式だったら優勝できるかもしれないけど。

 このネタもたいへんおもしろかったのだけど、去年の準決勝で披露した『棚の組立』のネタがあまりにすばらしかったので、それと比較すると「おもしろいけどロングコートダディのおもしろさはこんなもんじゃないぞ」ともおもってしまう。『棚の組立』はコントに入らないし。あれこそ決勝の場で披露してほしかった。

「生まれ変わったらワニになりたい」→「肉うどん」までは正直いって凡庸な発想かもしれない。しかし二周目に入ってからの、「法則があるらしいですよ。あんまり大きな声では言えないんですけどね」といったさりげないやりとりがすばらしい。ああいう奇をてらっていない台詞こそが天空世界を強固なものにしている。あの台詞のおかげで、もうすっかり誰の目にも「天空の世界」が見えているはずだ。

「ラコステ」という軽めのボケや、「おまえは」をすぐにツッコまないところなど、本当におしゃれ。おもしろすぎないところがおもしろい。あそこで真空ジェシカのように強力なパンチが飛んできたら、たちまちこの繊細な世界が壊れてしまう(真空ジェシカは真空ジェシカでいいけど)。
 このネタを観て、つくづくおもう。やっぱりロングコートダディは漫才師ではなくコント師だと。

 ところで、反省会でこのネタの制作秘話を兎さんが語っていたんだけど、
「堂前がやってきて『生まれ変わるとしたら何になりたい?』と訊かれたので『ワニ』と答えた。そしたら次の日に堂前がこのネタを作ってきた」
だって。めちゃくちゃすごくない? そこから一日でここまで広げられる?

 他にも「堂前は一枚のアルバムを聴いて、そこから着想を得て単独ライブのネタをつくる」というとんでもない逸話も披露されていた。天才か。


錦鯉 (合コン)

 ばかばかしいだけでなく、「おじさんが合コンに行って若い子に相手にされない」という状況がずっとペーソスを漂わせていてよかった。やっぱりただおもしろおかしいだけじゃなくて、そこに悲哀や狂気や恐怖といった別の感情を揺さぶってくれるものが観たい

 審査員からも言われていたけど、緊張からかツッコミが強くなっていたのが気になった。そんなに頭を叩かなくても、という気になってしまう。だってべつに悪いことしてるわけじゃないもん。独身のおじさんが合コンに行ったっていいじゃない。ジェネレーションギャップがあるのもしょうがないじゃない。叩くことないじゃない。

 頭を叩く一辺倒じゃなく、ときに諭したしなめたり、ときに痛みに寄り添ったり、球種をおりまぜたツッコミを見せてほしいな。それができる技術のある人なんだから。
 はしゃいでるおじさんが叩かれてるのはかわいそうだ。悲哀を感じるのは好きだけど、それはあくまで漫才の設定の中だけでの話で。

 そこへいくと、オードリーの「おまえそれ本気で言ってるのか」「本気で言ってたらおまえと楽しく漫才やらねえだろ」「へへへへへ」はすばらしい発明だよな。あれがあるおかげで、どれだけ叩いていても嫌な感じにならないもの。


インディアンス (怪談動画)

 記憶を頼りに感想を書いてるんだけど(だからここに書いているセリフなどは実際とは微妙に異なるはず)、インディアンスのところではたとキーボードを打つ手が止まってしまった。はて。どんなネタしてたっけ?

 このネタにかぎらず、インディアンスの漫才は記憶に残らない。どんな設定だったか、どんなボケがあったか。観終わった後に何も残らない。そこがインディアンスのすごさでもあるんだけど、個人的にはM-1グランプリの舞台で観たいとはおもわない。近くのショッピングモールに営業で来たらいちばん笑うのはインディアンスかもしれないが。

 ロングコートダディとは対照的に、とにかくわかりやすく老若男女楽しめる漫才。たしかに楽しい。だが楽しい以外の感情は動かされない。

 理由のひとつが、インディアンスのボケは徹頭徹尾「ふざけ」であることだろう。狂気も悲しみも不条理もなーんにもない。作りだす世界はなにひとつおもしろくない。というよりそもそも世界なんて作っていない。現実と地続きの世界で、ただひょうきんな人がふざけている。だからインディアンスの漫才を見ても「田淵さんっておもしろい人ね」とおもうだけで「インディアンスの漫才の世界っておもしろいね」とはならない。

 強パンチとか中キックを隙間なくくりだす漫才。たしかに隙はないんだけど、こっちが見たいのは一か八かのスクリューパイルドライバーなんだよ!


もも (○○顔)

 ついにこういうコンビがM-1に出てきたか。
 2年ぐらい前に関西のネタ番組に「新星あらわる」みたいな紹介の仕方で出てきたときにも「M-1グランプリで勝つために特化したようなコンビだな」とおもったが、その印象は変わらない。
 もはや彼らは「漫才師」というより「M-1グランプリ師」といったほうがいいかもしれない。

 風貌からしゃべりかたからネタの構成まで、すべてがM-1グランプリのために作られている。もちろん他のタイプのネタもあるのだろうが、ぼくがテレビで5回ほど見たのはすべて「なんでやねん○○顔やろうが!」のネタだった。たったひとつのスタイルを極限までつきつめたコンビ。

「M-1に勝つためだけの漫才」をしていたコンビは以前にもいたが、ももはもっとすごくて「M-1に勝つためだけのコンビ」であろうとしているように見える。ええんかそれで

 2009年の夏。現在シアトル・マリナーズにいる菊池雄星投手は高校三年生だった。甲子園で背中の痛みを抱えながら登板を続け、負けたときに「一生野球ができなくなってもいいから、人生最後の試合だと思って投げ切ろうと思った」と語っていた。
 そのときにもおもった。ええんかそれで
 たしかに甲子園はほとんどの高校球児にとっては最終目標だけど、それはあくまでアマチュアで終わる凡百の球児にとっての話。プロ入りを目指す者からしたら通過点のひとつにすぎない。野球人生を棒に振るほどの価値はない。(菊池雄星選手の花巻東高校はあそこで負けててよかった。あのまま勝ち進んでいたら、メジャーリーガー・菊池雄星は存在していなかったかもしれない。)

 同じように、M-1グランプリに参加するアマチュアコンビなら「M-1に勝つためだけのコンビ」を目指すのはまちがってないが、プロの芸人として生きていくのであればその道は命を縮めているように見えてしまう。

 ミルクボーイも昔からずっとあのシステムを続けているけど、あれは題材を変えればいくらでも広がるからなあ。ももの「見た目と中身のギャップ」では先が見えてしまうので不安になる。心配です。

 あっ、今回のネタの感想書くの忘れてた。ええっと、練習の跡が見えすぎる一字一句がっちがちに固まった漫才は個人的に好きじゃないです。以上。


<最終決戦>


インディアンス (ロケ)

 いやあ、ほんとにどんなネタかぜんぜんおぼえてない……。どんなネタだったっけとおもって公式YouTube動画のコメント欄見にいったけど「おもしろかった!」「好き!」みたいなのばっかりで、「○○というボケが良かった」「○○というフレーズが好き」みたいな具体的な感想がぜんぜんない。やっぱり、おもしろかったと感じた人ですら内容は印象に残ってないんだな……。

 各組の漫才を無音で再生してどれがいちばんおもしろい? と訊いたら、インディアンスが優勝するかもしれない。


錦鯉 (逃げた猿をつかまえる)

 まず題材選びがすばらしい。逃げた猿をつかまえる人をやりたい、って絶妙にばかだもんね。「あれならおれのほうが上手につかまえられるわ!」って、まさに小学生の発想。いい大人は逃げた猿にむやみに近づかない。

 肝心のボケの内容は、ちょっとばかが過ぎた。「罠をしかけたことを5秒後に忘れちゃう」はさすがにやりすぎ。小学生相手にはばかウケだろうけど。

 ただ、全体的にばか一色な中「猿が森に逃げた!」「それでいいじゃねえか」とか、最後の「ライフ・イズ・ビューティフル!」とか、妙に考えさせる笑いやシュールなオチを用意しているのは見事。ばかばっかりだからこそ、ああいう角度のちがうボケがよく映える。

 あと、おじいさんをそっと寝かせていたシーンは、ラストのまさのりさんを寝かせるくだりへの伏線になってるんだね。よく練られてる。


オズワルド (おじさんに順番を抜かされる)

 これはネタが悪いというより、この状況にふさわしくなかったね。12本のネタを見た後に楽しむには、話が小難しすぎた。M-1グランプリって年々放送時間が長くなっていってて、今年は3時間半。テレビで観るだけでもしんどいのに、当然スタジオの観客や審査員はもっと前から準備していたわけで。もう最終決戦ともなるとまともに頭が働いてないんだよね(ミルクボーイの2本目の「最中一族の家系図」をリアルタイムで正しく頭に描けていた人がいただろうか)。

 あの時間にやるネタは、緻密な論理ではなく強烈なパワーが必要なんだろうね。マヂカルラブリーの『吊り革』のように、何も考えずに見られる、すべてをふっとばしてくれるようなパワーが。
 この時間にモグライダーやランジャタイを見たら大爆笑だったんだろうな。

 オズワルドが、ABCお笑いグランプリでやったもう一本のネタ『ダイエット』をここで披露していたら結果はどうなっていただろうか……。そんなことを考えてしまう。




 というわけで優勝は錦鯉。おめでとう。納得の優勝でした。

 しかし、島田紳助がM-1グランプリを創設した動機のひとつが「才能のない芸人に引導を渡すため」だったはず。10年たっても芽が出ないやつはやめなさい、という理由で。

 残酷なようで、引導をつきつけてやることこそが本当の優しさなんだよね。将棋の奨励会もそうだけど。
 10年やって芸人やめてもまだ30歳ぐらい。いくらでも他の道がある。

 だが、皮肉なことにM-1グランプリという目標ができたせいで芸人を目指す者、やめられない者が増えた。もものようにM-1グランプリに特化した芸人まで生まれた。
 そして、錦鯉・長谷川さんの50歳での優勝。

 錦鯉の優勝は文句なくすばらしいんだけど、おかげでますますやめられない芸人が増えるだろうな。
 M-1グランプリの存在意義が変わってしまった。青少年の心身の育成のために開かれる高校野球甲子園大会のせいで多くの青少年が心身を壊すように。




 今大会もおもしろかったが、M-1グランプリという大会はまた硬直状態に入ってきたなという印象を持った。2008~2010年頃もそうだった。
 審査員が固定化され、準決勝審査員はおじいちゃんばかり。真におもしろいものを追及した結果の個性ではなく、M-1グランプリで勝つための芸を磨いたコンビが決勝に進む。

 今回は初出場組5組などと言われていたが、ふたを開けてみれば、昨年も決勝に進んだ3組が3組とも最終決戦に進んだ。驚くほど新陳代謝が進んでいない。

 このままだと大会全体が停滞してしまうんじゃないかと勝手に危惧している。準決勝と決勝の審査員はがらっと変えたほうがいいんじゃないだろうか。
 新しい風を入れるってのはモグライダーやランジャタイのような変化球ばかり放りこむことじゃないぞ。正統派が多数を占めるからこそああいうコンビが輝くんだぞ。

 あと決勝経験者は敗者復活戦に出られないようにもしてほしいな。せめてあそこは新しい才能を発掘する場であってほしい。


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2021年12月20日月曜日

M-1グランプリ2021準決勝の感想(12/4執筆、12/20公開)


 オンライン配信で鑑賞。

 感想自体は準決勝の翌日に書いていたが、ネタバレ禁止とのことだったので決勝終了後まで公開を待っていました。もういいよね?

 以下感想。


滝音 (ダイエット)

 おもしろかった。特に「ブブブブブンブブン」。

 滝音は安定しておもしろいんだけど、その安定感が滝音の弱みでもあるような。ボケがツッコミで笑いを取るためのフリにしかなってないから、加速しながら笑いが増幅していきにないんだよね。

 ボケが強くなったら文句なく決勝だろうな。


ヨネダ2000 (YMCA寿司)

 ほぼ全編音声カットされてたので内容わからず。でも動きだけでもシュールでおもしろそうだった。

 

ニューヨーク (ドラマ)

 演技力を見せつけると言いながら、差別発言を口にしまくるというネタ。

 すっごく好きなんだけど、これが決勝に行けなかったのもよくわかる。テレビではまずいよ、これは。

「昨今はちょっと問題のある発言をすると、たとえそれが芝居の台詞であっても炎上する」を前提知識として持っていれば笑えるけど、そういう人ばかりではないからなあ。

 問題提起で終わるオチはすごく好きだった。


カベポスター (文化祭)

 好きだったフレーズは「道の駅みたい」。

 個人的には好きだけど、コンテストの準決勝にかけるネタとはおもえないほど地味な題材。まあこの地味さこそ彼らの魅力なのでこれはこれでいいけど。


マユリカ (結婚相談所の仲人)

 最初のボケ「パソコンとかないんですか」がピークだったなあ。

 結婚相談所という設定だったら、誰しもが「魅力のない相手ばかり紹介される」を想定するだろうけど、想定通りのボケが続く。はじめは紹介相手ではなく仲人にスポットを当てたボケでおもしろかったんだけど。こっち方面で続けていってほしかった。


ハライチ (ダイエット)

 ウケてなかったなあ。3回戦でもやったネタなので客もほとんど見たことあったんだとおもう。

 最初に見たときもおもったけど、このネタって大麻を扱ってるからチャレンジングなことしてるようで、ネタの構造的にはすごく単純なんだよね。おれたち大麻をネタに入れちゃうんですよ、すごいでしょ、っていう狙いが透けてしまう。

 とはいえ表現力はすごい。そのへんはさすがハライチ。


真空ジェシカ (一日市長)

 好きだったのは「ハンドサイン」「名門のタスキは重い」。

 オーソドックスな漫才コントなんだけど、ボケもツッコミも一発一発が重たい。全部のボケがはずしてなかった。このネタ、台本を読んでもおもしろいだろうな。

 この人たちのネタ、はじめて観たんだけど、これからもまだまだおもしろくなりそう。今これだけウケるんなら、キャラが浸透すればものすごくウケるだろうな。


東京ホテイソン (スマホゲームのガチャ)

 配信の最初に審査員が紹介されてるんだけど、年配の人ばかりなのね。五十前後の。はたしてこの題材、審査員に伝わるんだろうかと心配になった。そして決勝審査員にはもっと伝わらないんじゃないだろうか。

 そしてネタの中身も、単発大喜利の連続で一本のネタとしてのつながりがほとんどなかった。「ゲームのガチャで出てきたのはどんなキャラ?」というお題だから、なんでもアリになっちゃうんだよな。


見取り図 (地元のスター)

 好きだったボケは「飛沫エグい」「ラルフローレンのワクチン」。しかしまだテレビでネタにしていい時期じゃないかも。

 後半怒涛のボケが並ぶので、ああ勝ちにきてるなあと伝わってきた。Mー1に向けて作ってきたネタだなあ。

 おもしろかったとはいえ去年までの見取り図と比べて飛躍的に良くなったかというと、うーん……。でも、準決勝の審査員はそんなこと気にせず、「このメンバーの上位9組に入ってるか」だけで選んでほしいな。だったら入ってるでしょ。


ゆにばーす (ディベート)

 登場するなり拍手で盛り上げてからツカミ、は見事。一気に会場をつかんだ。

 個人的には好きなネタじゃなかった。根本のテーマが古いんだよね。こいつは女として見れないとか男としてアリどか、百年前から男女コンビがやってたようなテーマなので。古さをひっくり返すような展開があればよかったけど、古いままで終わってしまった。


ロングコートダディ (天界)

「ワニになりたい」で兎さん(ややこしいけど芸名)のほうがボケとおもわせておいて、まさかの堂前さんがボケというパターン。いや、ツッコミはいないからふたりともボケか。

 シンプルな漫才コント。ロングコートダディは好きなんだけど、個人的には昨年の「棚を組み立てる」ネタの方がずっと好きだった。漫才としての完成度も高いし、他にいないタイプのネタだし。


男性ブランコ (焼肉屋)

「メニュー名うるせえ」がおもしろかった。あと、いろいろやった後のシンプルな「生レバー」と。

 おもしろいボケはいくつもあるけど笑いどころが多くないので、しゃべり中心の漫才に対抗するのはむずかしいよな。コントに専念してもいいんじゃないかな。


アインシュタイン (宇宙からのお迎え)

 そんなにウケてなかったけど、個人的には今まで見たアインシュタインのネタの中ではいちばん良かったな。身の周りの題材ではなく、これぐらいぶっとんだシチュエーションのほうがアインシュタインには向いてるんじゃないかとおもう。和牛は逆に身近な題材を扱うようになってよくなったけど。


もも (決めごと)

 いつもの「なんでやねん、○○顔やろが」パターン。基本的には見た目とのギャップとあるあるネタなので何本か見ると飽きてしまう。わかりやすいし、はじめて観る人にはウケるだろうけど。

 しかしうまいというか、うますぎるというか。練習の痕が見えてしまうなあ。

「このパターンだけで大丈夫か」と余計な心配をしてしまうが、ハライチや東京ホテイソンのようにいったんワンスタイルで顔と名前を売ってからいろんなパターンに挑戦するのが売れるための早道なんだろうね。


オズワルド (友だちがほしい)

 いやあ、よかった。好きなフレーズは「お気に入りのズボン」「足の遅い友だち」など。

 準決勝観て「これはまちがいなく決勝行ったな」とおもわせてくれたのはオズワルドだけでした。非の打ち所がない。

 ツッコミのセンスはそのままに、ボケの狂気性がパワーアップ。これぐらい狂気みなぎるボケなら、かなり強めのツッコミでもバランスが取れるよね。優勝候補筆頭でしょう、これは。


ランジャタイ (高校最後のバスケの試合)

 著作権の事情で半分ぐらい音声カットされてたけど、だいたい何をやってるかがわかるのがランジャタイのすごさ。

 しかし、準決勝の客だから大ウケただけで、初見の客の前ではここまでウケないだろうという気もする。

 まあここは決勝に上がった時点で勝ちだよね。半端に五位とかにならずにぜひ最下位をとってほしい。


金属バット (スーパーのカート)

 金属バットにしちゃあ毒っ気が少なかったな。

 というのは、個人的な話で申し訳ないけど、ぼくが住んでるところは民度が低いのでスーパーのカートを持って帰るババアがいっぱい生息してるんだよね。だから「カートは無料」のボケが笑えなかった。実践してるやつがたくさんいるんだもん。

 どや顔の「もうええわ」は、準決勝イチ笑った。しかしあれは金属バットを知ってるから笑えるだけだな。


ダイタク (葬式)

 良かった点は「アメリカの未亡人スタイル」。

 他はだいたい「双子が葬式を題材にしたネタを作ったら」の想像の範囲内。


からし蓮根 (先輩刑事と後輩刑事)

「キッザニア」「人間の外来種」あたりがおもしろかった。

 あとは特に印象に残らず。


インディアンス (怖い動画)

 アンタッチャブルのコピーとよく言われるけど、このネタはノンスタイルみたいだったな。

 前説みたいな漫才だった。笑わせるというより盛り上げる漫才。今年も決勝トップバッターやってほしい。


ヘンダーソン (街コン)

 なかなか漫才中のコントに入らない……というネタ。これは完全に漫才を題材にしたコントだな。

 ちょっと台本に表現力がついていってなかったかなあ。


キュウ (境目をとっつかまえる)

 漫才で遊んでる。漫才の枠組みで何ができるかを実験してるようだった。この人たちのネタは「いかにすごいとおもわせるか」「いかに客の想像を裏切るか」が強すぎて、肝心の「いかに笑わせるか」がおろそかになっているようにおもう。


アルコ&ピース (鳥になりたい)

 アルコ&ピースらしいメタ視点のネタ。

 ウケてたけど、準決勝の客向けのネタだったなあ。他のコンビを引き合いに出してるので、これが決勝1組目だったら成立しない。

 ヘンダーソンと同じく完全にコントだけど、こういうネタってキングオブコントでは評価されないのかね。


錦鯉 (合コン)

 ボケのばかばかしさは昨年通りだが、ツッコミにスピード感が。渡辺さんに自信がみなぎっている。

 大会に向けて作りこんできたなー。

 個人的には、錦鯉にはあんまり「M-1で勝ちやすい」タイプのネタをやってほしくないな。彼らはおじさんであることが最大の強みなんだから。博多華丸大吉みたいに、おじさんにしかできない漫才をやってほしい。


モグライダー (さそり座の女)

 ほぼ全篇音声カットだったのでよくわからず。たぶん3回戦の玉置浩二のネタとほぼ同じ構成かな?


さや香 (かけ算は必要ない)

 序盤から熱量がありすぎた。余裕がなさすぎて見ていてしんどい。ギアを上げる場所はそこじゃないだろう。

 笑わせようとしてるんじゃなくて、勝とうとしているように見える。客よりも審査員を見ているというか。

 最近のさや香を見ていると、晩年のハリガネロックを思いだす。若くしてM-1グランプリで高評価をされてしまったがために、その後M-1にふりまわされて自分たちの漫才を見失ってしまったコンビ。ハリガネロックもボケとツッコミを入れ替えたりしてたなあ。

 ハリガネロックは解散してしまったけど、同じ道をたどらないことを願う。




 去年もおもったけど、準決勝の配信は決勝放送後にしてくれたらいいのに。

 準決勝で落ちた組がどんなネタをやったのかは観たいけど、決勝進出組のネタは当日まで楽しみにしておきたいから。

 去年、マヂカルラブリー以外のコンビは準決勝のネタを決勝一本目で披露した。多少のアレンジは加えていたけど。
 今年もほとんどの組がいちばん自信のあるネタ(準決勝のネタ)を決勝一本目に持ってくるだろうから、先に準決勝を見てしまうと決勝のおもしろさが目減りしてしまうんだよね。

 だから準決勝の配信は、決勝放送後にしてくれたらいいのになー。ネタバレも気にしなくていいし。




 今年の決勝進出組は、

  • 真空ジェシカ
  • ゆにばーす
  • ロングコートダディ
  • もも
  • オズワルド
  • ランジャタイ
  • インディアンス
  • 錦鯉
  • モグライダー
  • (敗者復活組)

 去年もそうだったけど、準決勝の出番順前半の組は極端に進出率が低い。去年は8組目のマヂカルラブリーまで合格者なし、今年も7組目の真空ジェシカまで合格者なし。だいたい3分の1ぐらいが合格してるのに、明らかに前半組の分が悪い。

 決勝は独特の空気もあるからしかたないけど、準決勝はもうちょっと冷静に審査してあげてほしいなあ。運も実力のうちとはいえ。


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2021年12月17日金曜日

悪の組織の忠義心

 ロールプレイングゲームなんかで、「世界征服を狙う大魔王とその部下たち」が出てくるじゃない。

 主人公は大魔王討伐を狙うけど、その前に魔王の部下であるザコキャラやら中ボスやらを倒していく。

 あいつらって、めちゃくちゃまじめだよね。

 どう考えても太刀打ちできないぐらいの実力差があっても、果敢に主人公に挑んでいく。己の命よりも組織の方針を優先する。なんたる忠義心。

 それを統べる魔王もすごい。目的を明確に提示して部下のモチベーションを高く保ち、全身全霊で戦わせる。


 あんなに一枚岩の組織、かんたんにつくれるものじゃない。

 集団になれば考えが衝突することもあるし、裏切ったり怠けたりするやつも出てくる。
 まあそりゃあ中には逃げたり裏切って主人公側の仲間になるモンスターもいるが、ごくごく少数。大半のモンスターは監視もされていないのに与えられた仕事を黙々とこなしている。えらい。〝モンスターがサボっていないか監視する憲兵モンスター〟ぐらいいてもよさそうなのに、見たことない。みんな真面目なのだ。

 あの組織は、アリやハチに似ている。

 それぞれが異なる役割を果たし、けれども全体としては一枚岩となり、共通の敵に果敢に立ち向かう。二割ぐらいはサボるやつもいるけど、全体として見るとおおむね意思統一がとれている。

 アリやハチの結束が固いのは、あれは血縁でつながった組織だからだ。
 アリやハチにとって、同じ巣にいるのは母であり、姉妹であり、おばや姪である。かなりの部分の遺伝子を共有している。だから、「遺伝子を残す」という全生物共通の目的を考えれば、己の利益とコミュニティの利益がほぼ一致しているわけだ。


 ということは、RPGにおける魔王や中ボスやザコモンスターたちは、あれみんな血縁関係にあるのではないだろうか。

 きっとそうだ。モンスターの見た目は多種多様だけど、じつはみんな兄弟なんだ。女王アリと働きアリと子育て専門アリがぜんぜんちがう見た目なのと同じで。
 で、モンスターたちはみんな魔王から生まれたんだ。魔王は女王なんだ。
 主人公たちが出会うモンスターたちはみんなメス。働きアリがみんなメスなのといっしょ。オスはいるけど、魔王のそばにいて交尾をするためだけに存在している。

 そりゃあ統制もとれるわ。みんな遺伝子が似てるんだもん。

 魔王軍の世界征服計画は、かあちゃんを中心にした大家族の奮闘記なんだな。なんか応援したくなるね。


2021年12月16日木曜日

日清食品とろけるおぼろ豆腐 おとうふの旨だし豆乳スープの話

 日清食品 とろけるおぼろ豆腐 おとうふの旨だし豆乳スープ


 うまい。とにかくうまい。

帆立・昆布・鰹の三種の出汁に、豆乳で仕立てた優しい味わいのスープです。まろやか豆乳スープと相性ピッタリな「とろけるおぼろ豆腐」をお楽しみください。

だ、そうだ。

 あるときこれをコンビニで買って、食ったらめちゃくちゃうまくて、さらにここにご飯を投入したらもう劇的にうまくて、ほら旅館でカニ鍋とか食って最後に旅館の人が「雑炊にしますねー」ってご飯を投入してくれるんだけど、なんせディナーコースの終盤だからもう腹いっぱいで「あーこれ空腹の状態で食ったらめちゃくちゃうまいんだろうけどもう腹いっぱいだから食えないや。もったいないけど」って無念な気持ちになるじゃない、あのうまさ。つまり「食いたいけど腹いっぱいで食えないや」のうまさを、空腹状態で味わえるってわけ。最高。

 スープがうまいし、ゆず皮が香りの面でも触感的にもいいアクセントになっているし、豆腐との相性も抜群。そりゃあ豆乳スープと豆腐の相性が悪いはずないよね。


 そんでうまかったからまたそこのコンビニに行ったらもう売ってなくて、しかたなく他のメーカーの豆乳スープを買ってみたところ、それはそれで悪くないんだけど、やっぱり『日清食品 とろけるおぼろ豆腐 おとうふの旨だし豆乳スープ』には遠く及ばない。

 スーパーで見つけて欣喜雀躍として買ったんだけど、さすがに同じカップスープを大量に買うのはなんか恥ずかしくて五個だけ買って毎日食べた。あたりまえだけど五日でなくなった。
 『日清食品 とろけるおぼろ豆腐 おとうふの旨だし豆乳スープ』が切れると禁断症状が出て手がふるえるようになったのでまた買いたいんだけど、うーん、こればっかり買いに行くのは恥ずかしいし、かさばるし、レジ袋も有料になっちまったしな……とおもってネットで検索したら箱で売ってたので6個入り×4箱で24個をまとめ買い。しかもまとめ買いするとお得になる。
 ネット通販ありがたや。これで一ヶ月近く持つ。ようやく手のふるえも止まった。


 まだやったことないんだけど、これを冬山で食ったらもう涙が出るほどうまいだろうな。

 ぼくはときどき登山をするんだけど、その目的は三つある。
「山頂でカップラーメンを食うこと」
「下山後、銭湯に行くこと」
「下山後、銭湯に行った後、ビールを飲むこと」
 この三つの目的のために山に登る。

 山頂で食うカップラーメンはうまい。山頂はだいたい寒い。夏でも汗が冷えて少し寒い。
 そこでお湯を沸かして食うカップラーメンは最高だ。

 だが、次回からはカップラーメンではなく日清食品とろけるおぼろ豆腐 おとうふの旨だし豆乳スープになるだろう。コッヘルで湯を沸かし、日清食品とろけるおぼろ豆腐 おとうふの旨だし豆乳スープに注ぐ。豆腐をくずさないようにゆっくり混ぜ、湯気がたっているやつをふうふうと吹きながらすする。臓腑の奥から温まる。
 三割ほど食ったら、そこに塩おにぎりをぶちこんで食う。うはあ。たまらん。


2021年12月15日水曜日

いちぶんがく その10

ルール


■ 本の中から一文だけを抜き出す

■ 一文だけでも味わい深い文を選出。




「遊ぶのが下手っていうことは、生きるのが下手っていうことなんですよ」

(永 六輔『無名人名語録』より)




「あの人、貧乏が似合うのよね」

(永 六輔『普通人名語録』より)




畜生、通貨を玩具にして独占的利益を挙げていやがる。

(服部 正也『ルワンダ中央銀行総裁日記[増補版]』より)




エイモスと私は、私一人が大馬鹿者なのか、それともたくさんの大馬鹿の一人なのかを調べることにした。

(ダニエル・カーネマン(著) 村井 章子(訳)『ファスト&スロー』より)




せめて、痴漢ぐらいはイキイキしている世の中でないと、危険ですよ。

(永 六輔『一般人名語録』より)




「ぼくが志あれど金はなし、の男だってことは、それはおまえも先刻承知済みのことだろう?」

(西村 賢太『小銭をかぞえる』より)




以前小さな蛙をまちがってのみこんでしまった人がそれ以来腹の底からは決して笑えなくなってしまったような、そんなような妙につっかかった様子の笑いだった。

(川上 弘美『センセイの鞄』より)




羨ましいとおっしゃるなら人生をそっくり取り替えて差しあげよう。

(鷺沢 萠『私はそれを我慢できない』より)




「むうう、不動産屋は信用しない方がいいのですよ、うけけけけ」

(京極 夏彦ほか『小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所』より)




自分の台詞が、返し付きの釣り針並みに相手の心に食い込んだのさえ、はっきり見て取れた。

(吉永 南央『オリーブ』より)




 その他のいちぶんがく