2018年11月19日月曜日

そしてスマホはすべる


スマートフォンを買い替えた。

新しいやつを一日使ってみた感想。
すべる。
すごくすべる。


スマホってこんなにすべるっけ。
すべらすアプリ入ってんのかってぐらいすべる。
物理の教科書に書かれていた「ただし摩擦はないものとする」がついに実現したのかと思うぐらいすべる。

本の上、クリアファイルの上、胸ポケットの中。
どこからでもすべる。ほんのわずかな傾斜があるだけですべる。
ゴルフ中継見てたらさ、グリーンでわずかに穴に入らなくて、あー残念惜しかったねって思ってたらぐんぐんぐんぐん転がって、穴から十メートルぐらい離れたところまでいくときあるじゃない。あれぐらいすべる。

傾斜なくてもすべるんじゃないかってぐらい。
カーリングで、あーもう止まるだろうなってとこからモップみたいなのでごしごしごしやって信じられないぐらいすべるときあるでしょ。あれぐらいすべる。

机の隅に置いていたはずなのに、ゆっくりゆっくりすべってどこかに行ってしまう。
気づいたら、あれ、こんなとこに置いたっけ、ってとこにある。
向かいのホーム 路地裏の窓 こんなとこにいるはずもないのに。

これを書いている今も、スマホはじわじわじわじわどこかに移動している。水平な机に置いているはずなのに。さては欠陥住宅か。ビー玉を置いてもわからないぐらいの微妙な傾斜も見つけてすべる。

すべりゆくスマホを目で追う。本の上から机の上、椅子をつたって床へと落ちる。フローリングの上をつるつるとすべるスマホ。
玄関まで行ってもまだ止まらない。外に出たスマホはマンションの廊下を通ってエレベーターの中へと。すべるように降下してゆくエレベーター。
外に出たスマホは歩道を通り、車道を横切り、駅のスロープをすべり、地下鉄に乗る。音もなくスマートにすべるスマートフォン。
終点の駅で降りたスマホはすべってすべってエレベーターに乗りこみ地上へ。外に出ると目の前に広がる海。そう、ここは海抜ゼロメートル。

スマホはすべり、海の中へ。
でも大丈夫。新しいスマホは完全防水仕様なのだ。
波に流され海流にのまれながらも、スマホは海底をすべりゆく。低いほうへ、低いほうへ。

すべり着いたのは太平洋の北西の海底。
大きな穴がぽっかりと口を開けている。世界で最も深い場所、マリアナ海溝だ。
スマホはすべり、穴にどんどん近づいてゆく。

だがわずかにはずれて穴には入らない。
あー残念惜しかったねって思ってたらぐんぐんぐんぐんすべって、穴から十メートルぐらい離れたところまですべってゆく。残念、ボギー。


2018年11月18日日曜日

新規開店花泥棒


本屋で働いていたとき、新規開店の手伝いをしたことがある。

いよいよオープン当日。
取引業者から開店祝いの花輪が届いたので、店の前に飾っておいた。


開店して、驚いた。
やってきたおばちゃんが花を勝手に持って帰ろうとしているのだ。
ひとりではない。おばちゃんたちが次々に花に群がる。まるで蝶、いや蛾のように。

えー。
泥棒!?

さほど実害のあるものではないが、しかし放置するわけにもいかない。
あわてて店長に報告した。

「あー、あれ。いいんだよ。そういう風習だから」

ぼくは知らなかったのだが、大阪や愛知あたりでは
「新規開店祝いのお花を持っていってもいい」
というルールがあるそうだ。
さらに「早く花がなくなったらその店は繁盛する」との言い伝えも。

そうだったのか……。知らなかった……。

とはいえ、おばちゃんたちが勝手に花を引っこ抜いて持っていく姿はなかなか衝撃的だった(「持って帰ってもいい?」と訊いてくれるおばちゃんもいたが、何も言わずに引き抜いていくおばちゃんもいた)。

勝手に持って帰ってきた花を飾って生活にうるおいがもたらされるのだろうかと疑問に思ったが、そういう風習なら仕方がないと、むしり取られてゆく花を呆然と見ていた。
なんて野蛮な風習の民族なのだろう。

わりと人通りの多い場所だったので、新しい店の入口を彩っていた数々の花たちは、開店から三十分もしないうちにすっかりなくなってしまった。

ぼくは小さな声で「逆に奪われて すべて奪われて 花泥棒 花泥棒~♪」と歌いながら、店先に散らばった花びらをほうきでかき集めた。

2018年11月17日土曜日

ツイートまとめ 2018年08月


求人

ボクシング協会

マイメロディ

レンタルなんもしない人

強気

間隔

ロコモコ

邪魔記号

映像化不可能

いまそがり

不要不急

激辛

泣き顔

電話帳

ドーピング

なぞなぞ

サマータイム

炎上

ひらがな

気遣い

2018年11月16日金曜日

Mー1グランプリ2018決勝進出者についてのあれこれ


Mー1グランプリ予選、三回戦と準々決勝の動画をGYAO!で視聴した。
いやあ、いい時代になった。
昔は観にいった人のレポートに頼るしかなかったもんなあ。

その中でぼくがおもしろいと思ったベスト3は、さらば青春の光(準決勝敗退)・天竺鼠(準々決勝敗退)・金属バット(準決勝敗退)だったので、つくづく予選審査員とは趣味があわない。まあ天竺鼠と金属バットに関しては落とされた理由もわかるけど。

あとマヂカルラブリーもおもしろかったが、一本調子なので決勝に行ったら前年同様撃沈していたような気がする。落とされるのもむべなるかなという感じだ。

さらば青春の光は抜群に良かったけどなあ。特に3回戦で披露していた「野球で例える」のネタは最高だった。発想もさることながら、後半になるにつれてどんどん無茶になっていく構成がいい。
しゃべりも立つし、ここを落とす理由がちょっとわからない。準々決勝の「怪談」は3回戦ネタよりは見劣りしたが、それでも悪くはなかったと思うけど。

それからミルクボーイはいつ決勝に行くんだろう。毎年準々決勝止まりなのがふしぎでしかたない。独自性もあるしめちゃくちゃおもしろいのに。元々おもしろかったのにひどい偏見を放りこんでくるようになってさらにおもしろくなった。
近いうちに決勝に行ってくれることを切望する。



決勝進出は、
和牛、霜降り明星、ゆにばーす、見取り図、かまいたち、スーパーマラドーナ、ジャルジャル、トム・ブラウン、ギャロップ
だそうだ(+敗者復活組)。

「このコンビが落ちて残念!」というのはあるが、「なんでここが決勝に?」と思うところはない。わりと納得のメンツだ。

とはいえ、個人的な好き嫌いはあって、和牛スーパーマラドーナがやるようながっちがちに固まったネタは好きじゃない。一字一句台本通り、どんな舞台で演じても寸分たがわず一緒、というような漫才は「よくできている」という思いが先に来てしまい、どうも笑えない。
ぼくが漫才に求めるのは「どこまでが台本通りなんだ」と思わせてくれるような即興性だ。昨年とろサーモンが和牛に勝っていた点はそこだと思う。
和牛とスーパーマラドーナはスタイルも完成されつつあるし、昨年までの自分たちを大きく上回ることはむずかしいんじゃないかなあ。

ジャルジャルぐらい徹底的にやるんだったら逆にその不自然さが気にならなくなるんだけどね。でもあれはもうコントでしょ。



今年はめずらしく正統派のしゃべくり漫才が評価されたな、とうれしく思う。やっぱり正統があってこその変わり種ですよ。

たとえばギャロップ。昔からずっと安定して質の良い漫才をしてきたコンビが評価されるのはうれしい。うれしいが、なぜ今、と思ってしまう。
予選のネタはたしかにおもしろかったけど、昨年までと比べて飛躍的に成長したかというとそうでもない。ギャロップはずっとこれぐらいの水準のネタをやってきた。今になって評価するんだったらもっと早くに評価してあげてよ。去年のとろサーモンもそうだったが。

かまいたちも二年連続の決勝だが、ネタの質は五年前から大きく変わったわけではない。というか五年ぐらい前にめちゃくちゃ脂に乗っていて、2012年にNHK上方漫才コンテストで優勝したときなどはぼくは腹を抱えて笑った。しかし全国的には鳴かず飛ばずだった。
たぶん今年だって去年のキングオブコント優勝がなければ二年連続の決勝進出はむずかしかったんじゃないかな。
評価するのが遅すぎるだろ、と言いたい。

見取り図も好きなコンビなので決勝進出はうれしい。が、逆にここはまだ早いのでは? という気もする。ツッコミはほぼ完成されてるんだけどね。
まだまだ伸びるコンビだと思うので、今年顔を売って来年以降で決勝常連になってほしい。

トム・ブラウンは今年の予選で知ったけど、これは決勝でウケるだろうなあ。出番順が後半だったら会場の雰囲気ごとかっさらってしまいそうだ。ただし審査員からの評価は分かれそうだが。
おもしろいが、でもこのコンビのネタを一日に二本観たいとは思わないな。2017年キングオブコントのにゃんこスターみたいになりそう。売れるだろうなあ。

霜降り明星ゆにばーすに関しては特に言うことないでーす!
みんながんばってくださーい。終わり。

2018年11月15日木曜日

【読書感想文】ショートショートにしては右肩下がり / 洛田 二十日『ずっと喪』


『ずっと喪』

洛田 二十日

内容(e-honより)
天才か、それともただの変わり者か…。異能の新人、デビュー!第2回ショートショート大賞受賞!受賞作「桂子ちゃん」を含む奇想天外な洛田ワールド、全21編!

奇想天外なショートショート集、ということだが正直いってどれも出オチ感がすごい。

たとえばはじめに収録されている『桂子ちゃん』
月に一回桂馬になってしまい(月経のようなものらしい)、桂馬のようにナナメ前にしか進めなくなってしまう少女が出てくる。

「桂馬の動き」という時点で個人的には受け付けなかったのだが、それはさておき。
(十年前ぐらいにぼくはネット大喜利にハマっていたのだが、大喜利の世界では「桂馬の動き」は手垢にまみれた発想とされていた。中級者が使いたがる安易な発想よね、という扱いだった)

「月に一度桂馬になってナナメ前にしか進めなくなってしまう」という導入はまあいい。
でもその後の展開がすべてこちらの期待を下回ってくる。「みんなは歩なのに」とか「敵地に入ったことで金に成った」とか、ぜんぜん想定を超えてこない。
でもまあ中盤はつまらなくても最後は鮮やかに落としてくれるんだろうと思っていたら、「妹は香車だった」というオチ。えっ、それオチ? 意外性ゼロなんですけど(オチばらしてもうた)。

『桂子ちゃん』が特につまらないのかと思っていたが、これが第2回ショートショート大賞受賞作らしい。
この賞のことは知らなかったが、これが大賞?
ううむ、ぼくの期待するショートショートとはちがうなあ……。

ショートショートの構成って「起・承・転・結」だったり「転・承・結」だったり「転・承・転・転・結」だったりするもんだけど、『ずっと喪』は「転・承・承・承」ばっかり。ほぼ全部が出オチで、右肩下がりの小説だった。



串カツに二度漬けをしてはいけない真の理由が語られる『二度漬け』や、村おこしのために桜前線の進行を食いとめようとする『円い春』はばかばかしくてよかった。

しかしこれは本の後半になって、ぼくが『ずっと喪』の読み方をわかってきたからかもしれない。

はじめは「ショートショート大賞」という肩書きや表紙や帯に釣られて「意外なオチ」を期待しながら読んでいたのだが、どうやらそれが良くなかったらしい。
どうせ大したオチはないんでしょ、と期待せずに読めばそれなりに楽しめることがわかった。

でもなあ。
やっぱりショートショートを名乗っている以上は、あっと驚く意外な顛末を期待しちゃうんだよな、こっちは。

いいショートショートになりそうなアイディアもあるのにな。「ここの種明かしを最後に持ってきたらおもしろくなったのに」と思う作品もあった。
小説として発表する以上は、アイディア一本勝負じゃなくて技巧もほしいなあ。

【関連記事】

星新一のルーツ的ショートショート集/フレドリック ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』

【読書感想文】 氏田 雄介『54字の物語』



 その他の読書感想文はこちら