2019年8月19日月曜日
母との対立、父の困惑
娘(六歳)は、おかあさんの云うことを聞かない。
おかあさんに「手を洗ってきて」「早く着替えないと置いていくよ」と云われると、いちいち反発する。
「わかってる!」
「いっぺんに言わんとって!」
「おかあさんだってそんな言い方されたらいややろ!」
「ひとのことは言わんでいい!」
「いま忙しい!」
いちいちつっかかる。それか無視するか。
他の保護者に聞いても、「母と娘」は対立しやすいらしい。
でもおとうさん(ぼく)のいうことには、たいていおとなしく従ってくれる。
理由はいくつかある。
まずぼくのほうが厳しい。おとなげないと言ったほうがいいかもしれない。
「置いていく」といったらほんとに置いていく。
「じゃあごはん食べなくていいよ。おとうさんが食べるから」といったらほんとに娘の分まで食べてしまう。
妻はそこまでしないので、何をいっても口だけだと見透かされているのだ。
あとぼくのほうが力が強い。
駄々をこねる娘を引きずって風呂場まで連れていって力づくで服を脱がせてシャワーをぶっかけたこともあるし、わがままの度が過ぎるときに抱きかかえて押し入れに閉じこめたこともある(三分ぐらいね)。
幼児といえども本気で暴れたらけっこう激しいから、こういうことは力が強くないとできない。
妻にはむずかしい。
妻と娘が対立していると、困ったものだ、とおもう。
でも同時にちょっと優越感もくすぐられる。
けんかの仲裁に入るときは「しょうがないな。やっぱりおとうさんがいないとだめだな」と顔がにやけてしまいそうになる。
ほんとに困ったものだ(そんな自分が)。
2019年8月16日金曜日
【読書感想文】ブスでなければアンじゃない / L.M. モンゴメリ『赤毛のアン』
赤毛のアン
L.M. モンゴメリ (著)
村岡 花子 (訳)
ご存じ、赤毛のアン。子どもの頃に読んだはずだけど「赤毛を黒く染めようとして髪が緑になった」というエピソードしか記憶にない。子ども心に「変な染料を使っても緑にはならんやろ」とおもったのをおぼえている。
で、三十代のおっさんになってから再読。
例の「赤毛が緑に」はかなりどうでもいいエピソードだった。
アンがいちご水とまちがえてぶどう酒をダイアナに飲ませてしまう、というエピソードがある。
これを読んでおもいだした。
まったく同じことをぼくもやった!
小学生のとき。
母が青梅に氷砂糖を入れ、そこに水を入れて「梅ジュースやで」とぼくに飲ませてくれた。おいしかった。
翌日、友人のKくんが遊びにきた。
台所に行ったぼくは、昨日の「梅ジュース」が瓶に入って置いてあることに気づいた。
ぼくは「梅ジュース」をKくんにふるまった。あの後母がホワイトリカーを注いで梅酒にしていたとも知らずに。
Kくんは一気に飲み、顔をしかめた。「なんか変な味がする」
「え? そんなことないやろ」ぼくも少しだけ口をつけた。昨日とちがう味がする。おいしくなくなってる。
「あれ。なんでやろ。昨日はおいしかってんけどなあ」
しばらくして、Kくんは気分が悪いといって家に帰った。
後からKくんのおかあさんに聞いた話だが、Kくんは自宅に帰ったあとに大声でなにかをわめきちらし、まだ夕方だというのにグーグー寝てしまったそうだ(Kくん自身も記憶がなかったそうだ)。
赤毛のアンのエピソードそのままである。
おもわぬところで昔の記憶がよみがえった。まさかぼくと赤毛のアンにこんな共通点があったなんて。
ちなみに、『赤毛のアン』を翻訳した村岡花子の生涯を描いた朝の連続テレビ小説『花子とアン』にも友人にお酒を飲まされて酔っぱらうエピソードが描かれていたそうだ。
ところで、最近の『赤毛のアン』について言いたいことがある。
『赤毛のアン』は今でも人気コンテンツらしく、各出版社からいろんな版が出ている。
中にはイラストを現代風にしたものも。
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講談社青い鳥文庫(新装版) |
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集英社みらい文庫(新訳) |
![]() |
学研プラス 10歳までに読みたい世界名作 |
アンをかわいく描いちゃだめでしょ。
現代的なイラストをつけることに文句はない。古くさい絵だとそれだけで子どもが手に取ってくれなくなるからね。
だから、こんなふうに『オズのまほうつかい』のドロシーを現代的なかわいい女の子に描くことは大賛成だ。
でもアンはだめだ。
「やせっぽちで赤毛でそばかすだらけの見た目のよくない少女が、持ち前の明るさと豊かな想像力で周囲の人間を惹きつける」
これがアンの魅力だ。
アンを美少女に描いてしまったら設定そのものが崩れてしまう。
「アンは生まれついての美少女だったのでみんなに愛されました」だったなら、ここまで世界中の子どもたちから愛されなかったにちがいない。
この描写からもわかるように、アンは初対面のおばさん(しかも“しょうじき者”)から「きりょうが悪い」と言われるぐらいのブスで、そのことを自覚してコンプレックスに感じている少女だ。
だからアンの挿絵は美少女であってはいけない。『美女と野獣』の野獣がグロテスクなビジュアルでなければ話が成立しないように。
赤毛のアンの魅力をきちんと理解している本もある。
![]() |
ブティック社 よい子とママのアニメ絵本 |
![]() |
徳間アニメ絵本 |
ここに描かれているアンは、美少女キャラのダイアナにくらべて明らかに見劣りしている。アンを、がんばってブスに描いている。
身も蓋もない言い方をすれば、赤毛のアンは「ブスが美人より輝く物語」だ。
『白雪姫』や『シンデレラ』のような生まれながらの美女がいい目を見る物語が素直に受け入れられるのはせいぜい幼児まで。成長するにつれ、自分が「お妃さまに嫉妬されるようなこの世でいちばん美しい存在」でないことがわかってくる。
だからこそ、自分の見た目に悩みを抱える十一歳のアンの物語が世界中で読まれてきたのだ。
他の作品はどうでもいいけど『赤毛のアン』だけはちゃんとブスっ子にしてくれよな!
その他の読書感想文はこちら
2019年8月14日水曜日
ツイートまとめ 2018年12月
対案
「今から君たちには殺し合いをしてもらいます」— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 3, 2018
「いやだ!」
対案主義者「では対案を出してください」
「え……?」
対「反対するのなら、君たちに死んでもらうための他の案を出してください。対案を出さないと議論ができません」
「殺し合いなんてだめだ!」
対「対案を」
生後二か月の遊び
五歳の娘といっしょに、生後二ヶ月の次女で遊んでる。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 5, 2018
交代で次女のおなかをなでたりくすぐったりして、次女が「アー」と声を出したら一点入るという遊び。けっこう盛りあがる。
パパイヤ
パパイヤって、なぞなぞと小太りアフロダンサーの話するときしか使わないな。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 6, 2018
ドイツ
昔、ある授業で「いろんな国の人と話そう。相手の国の言葉を話してみよう」という課題があり、ドイツ人とペアを組むことになった。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 6, 2018
ドイツ人は「コンニチハ」「スシ」とか言ってくれたのだが、ぼくの頭には「アウシュビッツ」しか出てこなくてこれ口に出したら戦争になるとおもって冷汗かいた。
なぞなぞ
娘から「カメはカメでも水の中にいるカメはなーんだ?(答:ワカメ)」— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 7, 2018
というなぞなぞを出されたんだが、カメもけっこう水の中にいるぜ。
謎謎
気づいたらかばんに入ってたんですが、これなんだろう……。 pic.twitter.com/lu8146U6bs— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 9, 2018
育児
妻が言うには、— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 10, 2018
「五歳の子を持つお母さん同士で話すと、うちの子はちゃんと成長してるんだろうかって悩みが話の中心になる。
でも上の子が小学生で二人目が五歳というお母さんだとそんな悩みはとっくに通りすぎていて、どの家具がいいとかどのコーヒーメーカーがいいとかの話が中心」
だそうだ。
値引き
値下げを強調しすぎるあまり肝心なところまで否定してしまう看板。 pic.twitter.com/Cf55pdXowo— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 11, 2018
ケーキ
かご盛りチーズケーキってのを買った。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 12, 2018
すごくおいしかったんだけど、ぐちゃぐちゃしたやつを皿にあけたら手盛り豆腐みたいになって見た目がすごく悪かったのでもう買わないと思う。
ケーキは見た目も重要だと改めて感じた。
理想の死
「後継者不足による倒産増加が深刻な問題になっている」というニュースを見たけど、「後継者不足で会社を畳む」って会社の終焉としてはいちばん幸せな形なんじゃないかな。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 17, 2018
周囲にほとんど迷惑かけることなく惜しまれながら死ぬ、って理想の死では。
ブラ
下着の広告に「クリスマスブラ」って書いてあったんだけど、「クリスマスブラ」と「クリス松村」って似てるよね。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 18, 2018
だべさ
少しも配慮がない雑なネーミング。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 20, 2018
「関西やねん」という店があったら、ぼくならまちがいなく不愉快になる。
この写真ではわかりづらいが、「東北・北海道料理」とも書いてあった。
つくづく雑だ。 pic.twitter.com/aGhgCIswtj
地獄
ペンギンの世界は皇帝がいるからペンギン帝国、バッタは殿様がいるからバッタ幕府、そして閻魔がいるからコオロギ地獄です。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 21, 2018
ポータブル
娘に携帯ゲーム機買ってあげた。 pic.twitter.com/5zkbgJuZIY— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 24, 2018
サンタクロース
サンタなんて欺瞞だと思ってたけど、うちの五歳児が枕元のプレゼントを見たときの反応「ん? なにこの袋? えっ、えっ、もしかして! サンタさん! サンタさん! 来てくれた! しかもほしかったやつ! やったー!(袋を抱きしめる)」— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 26, 2018
を目にしたら、そんなのどうでもよくなる。
パチンコ
どういう文化環境で育ったら、文楽や上方演芸資料館や大阪市音楽団や大阪府立国際児童文学館や水道事業にカネを使うのは無駄だけどカジノと万博は無駄じゃないと思えるんだろう。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 27, 2018
幼少期からパチンコ屋に入りびたってたんだろうか。
明石焼き
— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 28, 2018
一網打尽
バルサン焚けばマックロクロスケも一網打尽。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 29, 2018
ちんどん屋
ちんどん屋の年末公演を見てきた。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) December 29, 2018
はじめて見たけど、思ってたとおりにちんどんやってた。 pic.twitter.com/YPcCaYP71r
2019年8月13日火曜日
ツイートまとめ 2018年11月
アレクサ
アレクサのCMで、床に散らばってるレゴを踏んづけた親が— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 6, 2018
「アレクサ、電気つけて」っていうやつあるけど、
どう考えても頼むべきは
「アレクサ、遊びおわったら片付けるように言って!」
だろ。
ビートルズ
「若い子がビートルズを知らなくてビックリ」みたいな話を読んだんだけど、ビートルズは1970年に解散してるから今の60歳だってほとんどリアルタイムで知らないんだよな(解散時12歳)。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 6, 2018
みんな知らないのに知ってる気になってるだけじゃないのか。
居残り
教師の「給食ぜんぶ食べおわるまで遊びにいっちゃダメ」という言葉は、「業務をぜんぶ終わらすまで寝ちゃダメ」という呪いを自分自身にかけることにつながっているのかもしれない。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 7, 2018
ホラー
寝てたらおもちゃの剣を手にした五歳の娘がぼくのおなかに乗ってきたんだけど、そのときぼくの目に映った光景。 pic.twitter.com/fjPf34fx9T— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 11, 2018
バス
— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 13, 2018
調査
「いいと思う」の中には、— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 14, 2018
「上院で共和党が勝ったのでいい」と
「下院で民主党が勝ったのでいい」と
「ねじれているからいい」が
全部ひとまとめにされている。
その合計がわかったところで、何もわからないに等しい。
五十音順
逆に「相生市」には、なんとしてでも五十音順のトップにきてやろうというあさましさを感じる。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 15, 2018
裁ちばさみ
「裁ちばさみで紙を切るとはさみがダメになる」— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 17, 2018
って話、知識としては知ってるんだけどいまだに納得いってなくて心のどこかで「うそだろ」って思ってる。
定型詩
五七五— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 17, 2018
ここで終われば
俳句だが
七七つければ
短歌になるよ
なぞなぞ
娘に「まわりだけ食べて、まんなかは食べないものなーに?」というなぞなぞを出したら(答え:ドーナツ)、— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 18, 2018
「とうもろこし!」という答えがかえってきた。
昨日、五歳児から— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 21, 2018
「ぶたはぶたでも、きれいな音が出るぶたはなーんだ?」
と出題されて、あれこれ考えたけどわかんなかったので
「わかんない。答えなに?」
と訊いたら
「忘れちゃった」
と言われて以来ずっとモヤモヤしています。
これを読んだ人にもモヤモヤを味わってほしくてここに書きました。
「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 21, 2018
「おなかパンパン!」
千と千尋
『千と千尋の神隠し』のえほんを娘に読んであげたら— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 26, 2018
「ハクはなんで優しくしてくれるの?」とか「カオナシは何でこんなことするの?」とか「なんで千の名前が千尋に戻ったの?」とか質問攻めにされたけど、なにひとつ答えられなかった。
おとうちゃんにもぜんぜんわからねえんだよ!
溜飲
NHKのニュースでも— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 26, 2018
「ゴーン容疑者は3畳の拘置所で週2回しか風呂に入れない生活を……」
とかやってる。
他の容疑者のときはそんなこといちいち言わないのに。
金持ちが悲惨な目にあってるのを見て溜飲を下げさせるために報道してるんだろうな。
値下げ
相手「値下げしないと他を使うぞ!」— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 27, 2018
ぼく「でしたらしかたないですね。またなにかありましたらお声掛けを(社交辞令)」
相手「おい、ほんとに使わんぞ! いいのか!」
ぼく「このたびはご期待に沿えることができず申し訳ございま……」
相手「ほんとに使わんぞ! いいのか!」
こういうやつなんなの。
爪痕
「オリンピックに万博、年寄りは昔の夢にしがみつきすぎ。今さらそんなのやっても経済効果はマイナス」— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 28, 2018
と言う人が多いけど、それだったらまだマシ。
現実はもっと悲惨で、誘致している人たちは「うまくいかないことはわかってるけど任期中に何か爪痕を残したい」でやってるように思えてならない。
恐竜時代
ぼくも恐竜図鑑のうしろのほうに載っている「この時代に生きていた哺乳類」のページが好き。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 28, 2018
恐竜がはばをきかせている時代に生きるのはつらかっただろうなあ、と同情してしまう。 https://t.co/V5f75DCN03
ポイントカード
ペットショップの店員— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 28, 2018
「こちら犬猫1匹お買い上げごとにスタンプ1個押させていただきまして、30個たまりますと小型犬1匹と交換させていただきます」
一片の悔いなし
子どもがはじめて自転車に乗れた瞬間とはじめてさかあがりができた瞬間に立ち会えたので、もうこの世に思い残すことはなにひとつない。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 29, 2018
プリキュア
今季のプリキュアは子育てがテーマだから、次は介護がテーマの「ハートフルケア!プリキュア」か「いきいき!プリキュア」のどっちかだと思ったのになー。— 犬犬工作所 (@dogdogfactory) November 29, 2018
2019年8月9日金曜日
【読書感想文】偉大なるバカに感謝 / トレヴァー・ノートン『世にも奇妙な人体実験の歴史』
世にも奇妙な人体実験の歴史
トレヴァー・ノートン (著) 赤根洋子 (訳)
いやあ、おもしろかった。これは名著。
科学読み物が好きな人には全力でおすすめしたい。
世の中にはおかしな人がずいぶんいるものだ。
ぼくにとっていちばん大事なものは「自分の命」だ。あたりまえだよね……とおもっていた。
でも子どもが生まれたことでちょっと揺らいできた。
自分の命を投げ出さなければ我が子の生命が危ないという状況に陥ったら……。
ううむ、どうするだろう。
そのときになってみないとわからないけど、身を投げだせるかもしれない。少なくとも「そりゃとうぜんかわいいのは我が身でしょ!」とスタコラサッサと逃げだすことはない……と信じたい。
そんな心境の変化を経験したおかげで、大切なものランキング一位がで「自分の命」じゃない人はけっこういるんじゃないかと最近おもうようになった。
「子どもの命」や「他者」や「信仰」や「誇り」を自分の命よりも上位に置いている人は意外とめずらしくないのかも。
『世にも奇妙な人体実験の歴史』は、そんな人たちの逸話を集めた本だ。
この本に出てくる人たちにとって、大事なのは「真実の解明」だ。
彼らは真実を明らかにするために自らの健康や、ときには命をも賭ける。
毒物を口にしたり、病原菌を体内に入れたり、爆破実験に参加したり、食べ物を持たずに漂流したり、安全性がまったく保障されないまま深海に潜ったり気球で空を飛んだり……。
クレイジーの一言に尽きる。
こんなエピソードのオンパレード。
世の中にはイカれた科学者がたくさんいるんだなあ。
それでもこの本に載っているのは「クレイジーな人体実験をしてなんらかの成果を上げた科学者たち」だけなので、「危険な実験をして成果を上げる前に死んでしまった科学者たち」はこの何十倍もいたんだろうな。
「彼らはまず、安全だと現在考えられている量の十倍から服用実験を開始した」って……。
いやいや。
ふつうならまずネズミと犬が死んだところでやめる。犬が死んだのを見た後に、自分で飲んでみようとおもわない。
仮に飲むとしても、「安全だと現在考えられている量」から服用する(それでもこわいけど)。なんでいきなり十倍なんだよ。ばかなの?
しかしこの無謀すぎる実験のおかげで適量のモルヒネが苦痛を和らげることが明らかになり、モルヒネは今でも医療用麻薬として使われている。
こういうクレイジーな人たちがいたからこそ科学は進歩したのだ。偉大なるバカに感謝しなければならない。
今、うちには生後九か月の赤ちゃんがいる。
こいつはなんでも触る。なんでもなめる。口に入る大きさならなんでも口に入れようとする(止めるけど)。
「触ったら熱いかも」「なめたら身体に悪いかも」「ビー玉飲んだらのどに詰まって死ぬかも」とか一切考えていない。当然だ、赤ちゃんなのだから。
それで痛い目に遭いながら赤ちゃんは成長する(もしくはケガをしたり死んだりする)のだけど、この本に出てくる科学者たちは赤ちゃんといっしょだ。わからないから触ってみる、なめてみる、やってみる。
もちろん「死ぬかも」という可能性はちらっとよぎっているんだろうけど「でもまあたぶん大丈夫だろう」と考えてしまうぐらいに好奇心が強いんだろうね。賢い赤ちゃんだ。
この本に出てくる人たちのやっている実験は痛々しかったりおぞましかったり息苦しくなったりするのだが、そのわりに読んでいて陰惨な感じはしない。というか笑ってしまうぐらいである。
著者(+訳者)のブラックユーモアがちょうどいい緩衝材になっているのだ。
「実験失敗 → 死亡」なんてとても不幸な出来事のはずなのに、ドライな語り口のせいでぜんぜん痛ましい気持ちにならない。
人の死を軽く受け止めるのもどうかとおもうが、いちいち深刻に悼んでいたらとてもこの手の本を読んでいられないので、これはこれでいいんだろう。
読んでいるだけでどんどん病気や怪我や死に対する恐怖心が麻痺していく気がする。
この心理の先にあるのが……我が身を賭して人体実験をする科学者たちの心境なんだろうな、きっと。
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