2018年1月25日木曜日

四歳児とのあそび

最近、四歳の娘とやる遊び。
数年後に見返して自分が楽しむために記録。

ジグソーパズル

ジグソーパズルを買ってあげたら、毎日のようにやっている。
ぼくも好きだったなあ。こういう黙々と作業をする遊び。
完成したらすぐにくずしてしまう。で、またやる。

108ピースのジグソーパズルができるようになったので、300ピースのを買ってあげた。さすがにむずかしいようなのでいっしょにやる。ジグソーパズルはあまりうまいへたが関係ないので、大人もいっしょに楽しめるのがいい。
ふつうはカドや端からやるものだと思うが、娘は自分の好きな絵からやる。

レゴ

レゴも好きだ。でも、あまり創作はしない。設計図通りにつくり、できた家や恐竜を使っておままごとをやる。こういうところは女の子だなあ、と思う。教えなくても、遊びかたに性差が出るよね。
ぼくもレゴが大好きだったが「塊をつくり、ぶつけあって壊れなかったほうが勝ち」という遊びをよくやっていた。あと迷路をつくったりとか、首を斬り落としたりとか。男の子だなあ。

都道府県クイズ

娘は地図が好きなので、日本地図を買ってあげた。さすが子ども。すごい勢いで覚える。
保育園に行く途中、毎日娘と都道府県クイズをする。
「"お"ではじまる県は?」
「大阪府、岡山県、大分県、沖縄県。じゃあ"と"ではじまるのは?」
「東京都、栃木県、富山県、鳥取県、徳島県」
みたいなのを言いあう。でも娘は名前は覚えているが、都道府県の概念はよくわかっていない。

恐竜クイズ

娘は恐竜も好きだ。お年玉でトリケラトプスのぬいぐるみを買うぐらい。しょうもないことに金をつかうなあ、と思うが、それでこそお年玉の正しい使い方だとも思う。有用なものはふだん買ってもらえるもんね。
恐竜の名前をたくさん覚えた。
やはり保育園に行く途中、
「頭の後ろが長い恐竜は?」
「パラサウロロフス。じゃあ尻尾の先にハンマーみたいなのがついている恐竜は?」
「アンキロサウルス」
みたいなクイズを出しあいながら歩く。おかげでぼくもずいぶん恐竜に詳しくなった。

ボールあそび

といっても、まだあまり上手に投げることができない。
一メートルくらい離れて、ただ投げあうだけだ。
あと、ボールを転がす遊びもよくやる。どちらが遠くまで転がせるか。勝たないと怒るのでほどほどに負けてあげる。

かけっこ

四歳ともなるとなかなか速くなってくるので、いっしょに走るのはなかなかしんどい。
これまたわざと負けてあげる。でもあんまり負けすぎると「お父ちゃん、ちゃんと走って!」と怒る。めんどくさい女だ。
なので五回中一回くらいは勝つようにしている。

自転車

少し前に、自転車の補助輪をとった。四歳で補助輪なしというのはちょっと早い気もするが、以前ペダルのない自転車に乗っていたので、バランスをとるのはうまくなった。補助輪なしでもまず転ぶことはない。とはいえひとりで上手に乗れるわけでもないので、ぼくが自転車の後ろを支えながらいっしょに走ることになる。
これがきつい。けっこうな速さで走るし、こちらは幼児用の自転車を支えているから中腰の姿勢になる。このつらさを知らない人は、ぜひ中腰で走っていただきたい、ほんの数十メートルで音を上げるだろうから。

かくれんぼ

ぼくの人間性が四歳児並みなのでだいたい一緒に楽しく遊ぶんだけど、どうもかくれんぼだけは苦手だ。
一歳くらいならいいんだけど、四歳ともなるとそこそこちゃんとしたところに隠れないと納得してもらえない。で、娘から遠く離れた木の茂みなんかに入って身をひそめることになる。
そこで「もういいよー」と大きな声を出すのが恥ずかしい。

また、遠くに隠れると娘はなかなか見つけてくれない。そこに知らないおじさんが通りかかる。大の大人がひとりで木の茂みにうずくまっているのを見て、おじさんはぎょっとした顔をする。そりゃそうだろう。「いやこれはかくれんぼをしていて……」と弁明するのも変だし、ぼくは恥ずかしさをこらえて身をひそめつづける。
ああ、苦手だ。

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2018年1月24日水曜日

銀河帝国軍の悲劇


こないだ『スター・ウォーズ』エピソード7を観たんだけどさ。

帝国軍の宇宙戦艦がダサいんだよね。

まあ昔のシリーズのを踏襲してるからしょうがないんだけど、それにしても古くさい。


SFにおける宇宙戦艦の操縦席ってだいたいあんな感じだよね。

数人が入れるスペースの三方に無数のボタンやら計器やらがあって、その上のでかい窓から宇宙船の外が見える。

なぜかちょっとうす暗い部屋に緑やらオレンジのボタンが光ってて、黒地に蛍光グリーンの罫線が浮かんだ座標軸みたいなのがスクリーンに浮かんでて、みたいな感じ。

まあフィクションにおける宇宙戦艦の典型、みたいなやつだよね。どの作品が発祥か知らないけど、たぶん宇宙戦艦ヤマトの時代からほとんど変わってない。

なんでうす暗いんだろうね。エネルギー節約のためかな。うす暗い部屋で操縦してて眠たくならないのかな。



思ったんだけどさ、操縦席にあんなにボタンいる?

そこそこ広い部屋に何千個というボタンが並んでいる。

明らかに座席から届きにくい位置にあるボタンもあるし、あんなにあったらぜったいに押し間違える。

この何十倍ものボタンやら計器やらがある

マウスとキーボードとディスプレイでよくね?

そしたらボタン百個くらいで済むと思うんだけど。

よく使う機能とか緊急性の高い機能は独立したボタンにしたらいいと思うんだよ。「加速ボタン」とか「ブレーキボタン」とか。

でも、帝国軍宇宙船の操縦席にはあんまり使わないボタン、そんなに緊急性の高くないやボタンもあると思うんだよね。「コックピット内を加湿するボタン」とか「宇宙ラジオのAM/FMを切り替えるボタン」とか。

そういうのにはひとつのボタンを割り当てなくてもいいと思う。キーボードでメニューを呼び出して「環境設定」→「船内環境」→「湿度」→「コックピット」で「50%」を選択するとか。

それが面倒ならショートカットキーを割り当ててもいい。「Ctrl」+「Alt」+「H」で湿度調整、とか。


『スターウォーズ』の時代は、わりと誰でも気軽に宇宙に行く時代っぽい。宇宙船は特別な訓練を受けた一握りの人間だけのものではなさそうだ。

だったらもっと直感的に操作できるデザインにしたらいい。マウスで操作できるとか、タッチパネルにするとか。

千個もボタンを配置してたら、うっかりさわっちゃうこともあるだろうし、押しまちがえもしょっちゅうだと思う。「温度上げようと思ったら有線放送のボリューム上げちゃう」みたいなミスも発生するだろう。宇宙で有線はないか。高齢パイロットがアクセルとブレーキを押しまちがえる、みたいな重大な操作ミスも深刻な社会問題になるかもしれない。もっとミスの起こりにくいデザインにすべきだろう。

映画なんかではよくボタンひとつでミサイル発射してるけど、あんなの危険きわまりない。ちゃんとモニターに「(警告)ミサイルを発射しようとしています。ほんとに発射しますか? <y/n>」みたいな確認メッセージを表示させたほうがいい。


あとさ、『スター・ウォーズ』の映画では直接的なミサイルの撃ち合いばっかりやってるけど、たぶん水面下ではそれ以上に熾烈な情報戦がくりひろげられているはずだ。

フォースの力でチャンチャンバラバラやらなくたって、相手のコンピュータに侵入してしまえば勝ったも同然なんだから。

あれだけたくさんの宇宙船が飛んでるわけだから、それぞれ独立したシステムではなくネットワークでつながっているはずだ。だから常に相手のシステムの隙をつくようなサイバーアタックがしかけられてるはず。システム管理者は、敵に侵入されないように常にシステムを最新の状態にしておかなくてはならない。

だから映画では描かれてないけど、しょっちゅう「システムの脆弱性が見つかりました。プログラムの更新のため、60秒後に再起動します」なんてメッセージが出て、OSの再起動がおこなわれてると思う。

「一斉攻撃だ!」ってタイミングで「て~て~て~てん」ってWindowsの終了音が鳴って勝手に再起動が始まって、「もー! せっかく攻撃目標設定したのに! 保存してなかったのに!」みたいな悲劇もたくさん起こってると思うんだよね。


2018年1月23日火曜日

見事に的中している未来予想 / 藻谷 浩介『デフレの正体』



『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』

藻谷 浩介

内容(e-honより)
「生産性の上昇で成長維持」という、マクロ論者の掛け声ほど愚かに聞こえるものはない。日本最大の問題は「二千年に一度の人口の波」だ。「景気さえ良くなれば大丈夫」という妄想が日本をダメにした。これが新常識、日本経済の真実。

2010年不況期に刊行された本だからちょっと古いんだけど、今読むと見事に著者が書いているとおりになっている。
生産性が上がって景気も良くなっているのにいっこうにモノは売れない、労働者の給与は上がらない。
失業率は下がって有効求人倍率は上がっているはずなのに、誰も景気の良さを実感できない。
それは生産人口が減っている上に、若い人に金がまわっていないから。

書いてあることがことごとく当たっていて、だから余計に陰鬱な気持ちになる。はぁ。
もう日本の状況が良くなることはないんだな。まあ日本だけじゃなくて遅かれ早かれ他の国も同じ道をたどるんだろうけど。

いろんな人が「景気さえよくなれば日本の経済は再びよくなる」って言ってるけど、この本を読めばそんなことはぜったいに起こりえないということがわかる。生産人口が減っている以上、もうどうしようもないのだと。
もしかしたら「景気さえよくなれば」って言ってるほうも、それが嘘だってわかってて言ってるのかもね。だって「もう何がどうなろうと日本の経済が以前のように回復することは100%ありません」って言うのはつらいもんね。たとえ逃れようのない真実であっても。
だから景気だとか失業率とか有効求人倍率とか、どうとでもできる(ということは意味がないということでもある)数字をあれこれ言って現実からみんなで目を背けているのかもね。

だって書いてあることは、景気が良くなっても状況は良くならない、日本製品が海外で売れても良くならない、子ども産んでも良くならない、って話だからね。
じゃあどうしたらええねんって思うでしょ。どうにもならないんですよ、これが。笑っちゃうよね。ははっ(乾いた笑い声)。


バブルの原因である地価の高騰について。

 ただ、顧客の中心がわずか三年間に出生の集中している団塊世代である以上、需要の盛り上がりは短期的であることが本当は明らかでした。ところが当時の住宅業界、不動産業界、建設業界は何と考えたか。「景気がいいから住宅が売れている」と考えたのです。こういう発想ですから、「このまま景気が良ければ、いくらでも住宅は売れ続ける」という考えになってしまいます。でも実際には逆で、「団塊世代が平均四人兄弟で、かつ親を故郷に置いて大都市に出てきている層が多いため、一時的ながら大都市周辺での住宅需要が極めて旺盛になり、その波及効果で景気が良くなった」ということでした。日本史上最も数の多い団塊世代が住宅を買い終わってしまえば、日本史上二度と同じレベルの住宅需要が発生することはないわけです。そこに、住宅の過剰供給、「住宅バブル」が発生します。
 つまり住宅市場、土地市場の活況は、最初は団塊世代の実需に基づくものであってバブルではありませんでした。ところが日本人のほとんどが住宅市場の活況の要因を「人口の波」ではなく「景気の波」であると勘違いしたために、住宅供給を適当なところで打ち止めにすることができず、結果として過剰供給=バブルが発生してしまいました。その先には値崩れ=バブル崩壊が待っていたわけです。

ということはもう二度とバブル期のような伸びはこないんだよね。これから一組の夫婦が十人ぐらい子どもを産んで爆発的に人口が増えて、老人だけが死ぬ伝染病が大流行でもしないかぎり(もしそうなっても経済の伸びがやってくるのは数十年後だけど)。


一応、対策も書いてある。こうやったらまだマシですよ、という施策が。
ひとつは、女性の雇用を増やすこと。でもそれって達成できたとしても一時的な解決であって、人口が減っている以上根本的な解決にはならないよね。
ひとつは、外国人旅行者に使ってもらうお金を増やすこと。これはわりと達成できつつあるよね。
ひとつは、財産を老人から若い人に移すこと。これはクーデターでも起こらないかぎり不可能でしょう。

はー、つらい。読めば読むほど日本の状況って八方塞がりなんだと気が付かされる。政治が悪いとかそういう話だったらまだよかったんだけどね。それだったらまだ改善の見込みがあるから。
いやでもほんとに革命政権が実権握って〇歳以上は全員死なす、とかしないかぎりどうにもならないんだろうね。どっちにしろぼくらみたいな中年に明るい未来はないね。
もうしょうがない。みんなで老人の介護しながらゆっくり滅んでいきましょう。



著者の藻谷さんって頭いい人なんだろうなあ、と思う。ほんでほんとのことをビシバシ言ってすぐに敵をつくっちゃうんだろうなあ、とも。

いかに自分が正しいと思いこんでいることがいいかげんか、ということに気づかされる。
「女性の社会進出が進むと少子化が加速するんじゃないか」という話、聞いたことありませんか?
ありそうな話ですよね。ぼくも直感的にそう思う。

 それではお聞きしますが、日本で一番出生率が低い都道府県はどこでしょう。東京都ですね。それでは東京都は、女性の就労率が高い都道府県だと思いますか。低いと思いますか。高いと思いがちですよね、でも事実は違います。東京は通勤距離が長い上に金持ちが多いので、全国の中でも特に専業主婦の率が高い都道府県なのです。逆に日本屈指に出生率の高い福井県や島根県、山形県などでは、女性就労率も全国屈指に高いのですよ。
 同じくお聞きしますが、専業主婦の家庭と共働きの家庭と、平均すればどちらの家庭の方が子供が多いでしょう。これまた専業主婦で子沢山という、ドラマに出てくるような例を思い描いてそれが全体の代表であるように考えてしまう人がいるでしょうが、事実は違います。共働き家庭の方が子供の数の平均は多いのです。

へえ。
たしかに昔は「専業主婦ほど子だくさん」だったんだろうね。というか子どもが生まれたら専業主婦になる人のほうが多かったわけだから。
でも今は経済的に恵まれている人のほうが子どもを持てるんだろうね。あと働いていると保育園に預けられるからつきっきりで面倒みなくていい、ってのも大きいかもしれない。これは人によると思うけど「大人とほとんど話すことなくずっと子どもの面倒みてる」ってのをきついと思う人も少なくないだろうからね。


2010年の本だけどおもしろかった。ひょっとすると当時読むより今読むほうがおもしろいかもしれない。「怖いぐらい当たってる……!」って思えるから。
そして当時よりもっと状況が悪くなっていることに気づいて慄然とするから……。



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2018年1月22日月曜日

滅びゆくぼくら


うなぎって絶滅しそうじゃないですか。でもみんな食べてるじゃないですか。
たくさんの人が漁師とか水産庁とか食べてる人とかを批判してるけど、たぶんどうにもならないね。うなぎは滅ぶ。もう止められない。


漁師とか水産庁とかうなぎ食べてる人だけがばかなんじゃなくて、人間みんなばかなんですよ。だめだと思ってもブレーキかけられない。
なんとかなるだろって思ってる。うなぎの絶滅も年金問題も地球温暖化も未来のかしこい人がなんとかしてくれるだろうと思ってる。

ある日コアラが、このままユーカリ食べてたらユーカリが絶滅するって気づいたとするじゃないですか。
じゃあユーカリ食うの抑えようぜってなると思います?
つらいけど我慢して他の葉っぱ食うことにしようぜってなると思います?

ならないよね。人類もいっしょ。コアラの知性と似たり寄ったりだからね。
うなぎの絶滅くらいなんとも思わないし、このままじゃ五十年後に人類が死ぬぞってわかってもたぶん行動は変えられない。

もう滅びていくしかないね。ぼくらみんなばかなんだから、みんなで仲良く滅びていこうぜ。


2018年1月21日日曜日

創作落語『行政書士』


『代書』(または『代書屋』)という落語を現代風にアレンジ。



えー昔は代書屋という商売がございました。
まだ字の書けない人の多かった時代には、転居届や婚姻届といった書類を代筆することが商売として成りたったんですな。
今でも行政書士が代書をしてくれますが、これは登記簿や遺産分割協議書といったお堅い書類が中心で、ふつうの人はそんなに頻繁にお世話になるもんではありませんな。


 「もしもし」

「どうぞ。お入りください」

 「あのー、こちらは嬌声女子の事務所だとお聞きしたんやけどな」

「そんないやらしい名前の事務所がありますかいな。ここは行政書士の事務所です」

 「あーこれはえらい失礼を。なんでもこちらでは書類の作成を代わりにやってくれるとか」

「ええそうですよ。まあまあどうぞ。こちらへおかけください。
 しかし行政書士の事務所に飛び込みのお客さんとはめずらしいですな。たいていは予約があるもんですが。いえいえ、いいんですよ。ちょうど暇をしておりましたもので飛び込みのお客さんも大歓迎です」

 「さっそくやが、代筆をお願いしたいんやけどな」

「もちろんです。登記ですか?」

 「トウキ? いえ、お皿じゃなくて紙に書いてほしいんや」

「いやいや、お皿の陶器やなくて登記簿の登記です。不動産の所有者を示す書類。
 登記じゃない? じゃあ建設関係の許可証かな。それとも飲食店の営業許可証? まだ若いから遺言書ではないでしょうし……」

 「いやいや、書いてほしいのは履歴書や」

「履歴書? 履歴書ってあの就職とか転職に使う……?」

 「そうそう、その履歴書」

「履歴書みたいなもん、自分で書いたらよろしいですがな」

 「それが書けないからこうして来とんねん。自慢じゃないが、履歴書を書いたことなんかいっぺんもない」

「たしかに何の自慢にもなりませんわ」

 「字もめちゃくちゃへたやしな。おまえの字はアートや、って褒められたこともあるぐらいで」

「それは褒められとるんとちゃいますがな」

 「今、転職活動しとってな。応募しようと思ってるところが履歴書を手書きで書けと、こない生意気なことを言いよるんや。ずいぶん頭の固い職場やで」

「まあときどきそういうところもありますわな。手書きの文字には人柄が出ますからな」

 「せやから代筆を得意としてる人はおらんかいなと思ってよっさんに訊いたら、それやったら行政書士の先生がええんちゃうかって言われてここに来たんや。ほんまよっさんは何でも知っとるで」

「お友だちですかいな」

 「そうそう、おれらの間では物知りのよっさんで通っとる。なんせ高校のテストで五十点もとったことあるんやからな」

「そんなもん自慢になりますかいな」

 「五十問全部四択のテストやってんけど、ようわからんから全部勘で答えたらしいわ」

「それで五十点ってある意味すごいですな」

 「ほら、履歴書の紙は買うてきたで。あとは書くだけや。ほな頼むで。おれはそこのパチンコ屋で時間つぶしてくるから」

「ちょっとちょっと! あかんあかん、あんたがおらなんだらあんたの履歴書なんか書けませんがな」

 「そこをなんとかするのが行政書士の先生ちゃうんかいな」

「無茶言うでこの人は。知らん人の履歴書どうやって書けって言うんや……。
 そこに座って。
 まあ人の履歴書書くってのも話のタネにはなるな。やってみましょか。
 まず、お名前は何ですかいな」

 「ヨシダヒコジロウ」

「ほう。今どきめずらしい古風なお名前やな。吉田彦……。ジロウという字はどう書きますのや。数字の"二"か"次"か"治める"か」

 「数字が名前に入ってるわけないやないか」

「その2やない。こう、二本線の二や」

 「ああ、それか。その字とちゃう」

「ほな、次ですか」

 「三でもない」

「二の次やから三、やありませんがな。"次"という漢字ですかと訊いとりますのや」

 「ああ、たしか左側がその次に似とるな。せやけど右がちょっと違うな」

「ほな"治"ですな。で、ロウはどう書きますのや。"おおざと"か"月"か」

 「何をわけのわからんことを言うとるんや」

「"郎"と"朗"のふたつがありますやろ。ほら」

 「なんや、同じようなもんやないか。どっちでもええで」

「どっちでもええことありますかいな。名前やねんから」

 「ほなこっちにしといてんか」

「そんなんでええんかいな……。まちがってても知りませんで。吉田彦治郎、と。
 ほんなら吉田さん、住所は」

 「誰が吉田さんや」

「さっき言いましたがな、吉田彦治郎って」

 「それは物知りのよっさんの名前や」

「あんたの名前やないんかいな!」

 「さっきよっさんの話しとったから、てっきりよっさんの名前訊かれたんかと思ったわ」

「あーあ。もう書いてしもたがな。しゃあない、書き直しや」

 「新しい紙出さんでも消して書き直したらよろしいがな」

「万年筆で書いてるんや、消えるかいな」

 「ほんならぐちゃぐちゃぐちゃっと塗りつぶして、横の隙間に書いて……」

「自分の名前を派手にまちがえた履歴書なんかどこに出しても落とされますで」

 「そうそう。おれ宛てに届いた手紙を持ってきたんや。これ見たら名前わかるやろ」

「はじめから出しいな。これあったら名前も住所もわかるわ。
 ほう、中央区にお住まいですか」

 「そうそう、郵便局の向かいや。そう書いといて」

「いらん、いらん」

 「書いといたほうが道に迷わんですむやろ。地図も書いといたほうがええんちゃうか」

「そんなもん履歴書に書かんでよろしいのや。
 ほい、ほな次は年齢と生年月日。いくつですか」

 「いくつやと思う?」

「合コンやないんやから、そんなんいりませんのや」

 「今年で二十八やから……二十六にしといて」

「嘘を書いたらあかん。二十八、と。
 生年月日は?」

 「あんたなんでもかんでも聞いてばっかりで、ほんまに何も知らんねんな」

「知ってるわけありませんがな」

 「生年月日ねえ。いつやったかな……。いつやった?」

「そんなもん、私に訊かれても知りませんがな」

 「ちょっと待ってな。今からインターネットで検索するから」

「そんなもん検索してもわかるかいな」

 「あっ、そや。免許証があったんや。昭和六十三年五月五日」

「ようそんなんで免許とれましたな。
 昭和六十三年五月五日……と。
 ん? 今年は平成三十年でっしゃろ。計算が合わんな」

 「へへへ、ほんまは三十歳や」

「嘘かいな!
 また書き直しやがな」

 「若く見えるって言われるから、二十八でもいけるかなと思って」

「嘘ついたらあきませんのや。
 ほんなら次は学歴や。学校は?」

 「学校は、もう行ってない」

「わかっとります。どこの学校を出たのか訊いてますのや。学校の名前は?」

 「ええと、たしか高等学校とかいう名前やったな」

「それは名前やない。何高校ですか」

 「なんやったかな……。聞いたら思いだすと思うんやけど。先生、ちょっと日本にある高校の名前、順番に挙げてってんか」

「何個あると思ってるんや!
 まあ住所から察するに、西高か南高かな」

 「そうそう、西高や」

「何年卒ですか」

 「二年で卒業した」

「それは卒業やなくて中退というんや。
 西高等学校中退、と。
 ほな次、職歴。今までにした仕事を教えてくれますか」

 「まず最初はパチンコ屋」

「パチンコ屋ね。アルバイトですか、正社員ですか」

 「自由業や」

「パチンコ屋で自由業とはどういうことや」

 「好きな時にパチンコ打ちにいってたんや」

「それは仕事やありませんがな」

 「いやでもそれでけっこう稼いでる日もあったんやで」

「そんなんは履歴書には書けませんのや」

 「パチンコ屋があかんのやったら、最初にやったのはたこやき屋やな」

「たこやき屋の従業員ですな」

 「たこやき屋ってかんたんやと思ってたけど、意外と疲れるもんやな。暑いし、立ちっぱなしで疲れるし、つまみ食いしたら怒られるし」

「あたりまえや」

 「あんまりしんどいから、トイレに行くって言って二時間で逃げだした」

「そんなもん履歴書に書けませんがな!
 履歴書には何年から何年まで勤務って書かなあきませんのや」

 「ほな、三時から五時までって書いといてんか」

「んなこと書けるかい」

 「そんなことでも書かんと、読むほうがおもろないやないか」

「おもしろくなくてもええんですわ、履歴書やねんから。
 で、他の仕事は?」

 「他にもいろいろやったで。
  ダフ屋にキャッチに賭け麻雀にキャバ嬢の犬を散歩させる仕事に……」

「履歴書に書かれへん仕事ばっかりやがな。もうよろしい、職歴なしのほうがマシや。
 面接でなんで職歴がないのか訊かれたら資格取得に向けて勉強していた、とこない言うたらよろしいわ」

 「ほな行政書士めざしてたことにしますわ。
  先生見てたら、ええ仕事やなと思いましたんで」

「褒められてんのか馬鹿にされてんのかわからんな。
 ええと、趣味はなんですか」

 「昼寝」

「特技は」

 「すぐ寝られること」

「採用される気ないんかいな、この人は。
 無難に、読書と音楽鑑賞としときますで。
 賞罰の欄は空欄でよろしいかな」

 「ショウバツ? なんやそれは」

「なんや賞をもらったとか、悪いことをして捕まったとか」

 「ああ、あるある」

「いつ逮捕されましたんや」

 「なんで罰のほうって決めつけんねん。賞のほうや」

「これはえらい失礼を。
 賞といっても、町内で一番になったくらいやあきませんのやで」

 「そんなしみったれたもんやない。日本で一番になった」

「ほう、それはたいしたもんですな。スポーツですか」

 「雑誌の懸賞で、一名様にしか当たらん賞品が当選したことがあってやな」

「それはただの運や。もうよろしいですわ。賞罰なし、と。
 家族構成は?」

 「ええと、父ひとり、母ひとり、兄ひとり、おれひとり」

「あたりまえや」

 「それからじいちゃん、ばあちゃん、ひいじいちゃん、ひいばあちゃん……」

「今どきめずらしい大所帯ですな」

 「まあじいちゃんばあちゃんはみんな死んでしもたけどな」

「死んだ人は言わんでよろしいんやがな。
 両親、兄一人と。
 ハンはお持ちですか?」

 「ハン? パンなら今朝食べてきたけども」

「いやいや、印鑑、ハンコですわ」

 「あーハンコね。そうそう、履歴書にはハンコがいるかもしれんって聞いたさかいな、ハンコを家中探したんやがどこにもない。しゃあないからよっさんにお願いして、借りてきた」

「あかんあかん。ハンコみたいなもん人に借りるもんちゃいまっせ。貸したほうもたいがいやで。
 しゃあない、ハンコがないんやったら拇印でいきましょ。ほら、右手の親指貸して」

 「返してや」

「しょうもないこと言いなさんな、はいペッタン。
 ほな最後に顔写真は貼らなあきません。今、お持ちですか?」

 「写真なんかあるかい。先生の写真、ちょっと貸してんか」

「あかんあかん、なんでもかんでもすぐに人に借りようとするな、この人は。
 そこの角に証明写真機がありますから、後で撮って貼ってくださいな。
 ほな、これで履歴書の代筆は終わりですわ」

 「先生、おおきに!」

「こらこらこら、代金をまだいただいてませんで」

 「おお、そうやった。いくらや?」

「代金といったものの、履歴書の代筆なんかやったことないしな……。
 まあええ、二千円でよろしいわ」

 「二千円? 千円しか持ってきてへんで。千円足らんな。
  しゃあない、ほな履歴書半分に破ってこっちだけもらっていくわ」

「待て待て待て、破ったらせっかく書いた履歴書が台無しや。
 半分置いていかれても困るし。
 もうええ。千円に負けたりますわ」

 「おおきに先生! これで採用まちがいなしや!」

と、できたばかりの履歴書をひっつかんで飛び出していった。

「はー疲れた。
 しかしどえらい人やったな。履歴書は書いたものの、あんな人を採用する会社があるんやろか……」

行政書士の先生、一息ついてお茶なんか飲んでおりますと、ドンドンドン、とドアをたたく音がする。
ドアを開けると、立っていたのはさっきの男。

「おやあんたは先ほどの。忘れ物ですか」

 「いやいや、先生の事務所に職員募集の貼り紙してますやろ。
  あれ見て応募したんや。履歴書もありますで!」