2016年7月19日火曜日

【読書感想文】桐野夏生 『東京島』

桐野夏生 『東京島』

内容(「BOOK」データベースより)
清子は、暴風雨により、孤島に流れついた。夫との酔狂な世界一周クルーズの最中のこと。その後、日本の若者、謎めいた中国人が漂着する。三十一人、その全てが男だ。救出の見込みは依然なく、夫・隆も喪った。だが、たったひとりの女には違いない。求められ争われ、清子は女王の悦びに震える―。東京島と名づけられた小宇宙に産み落とされた、新たな創世紀。谷崎潤一郎賞受賞作。

アナタハンの女王事件をモデルにした小説。
実際にあった事件を下地にしているとはいえかなりショッキングな設定。
とはいえ設定を存分に活かしたサバイバルゲーム的な物語ではない。
Amazonでも低評価のレビューが多かったんだけど、低評価をつけた人の多くはサバイバルストーリー(『インシテミル』『バトル・ロワイヤル』みたいなやつね)のつもりで読んだんじゃないかな。


桐野夏生の作品を読んだことのある人なら予想できるだろうけど、みんなが力を合わせて生還をめざす冒険小説でもなければ、知恵と勇気で悪を倒すバトルもない。
なんとか人を出しぬこう、自分だけが助かろうとする人たちしか出てこない小説だ。
シチュエーション的にも、展開的にも、ゴールディングの『蠅の王』を思い出させる内容だった。


『東京島』は、「この後どうなるんだろう。はたして助かるんだろうか?」とはらはらしながら読むものではない。
「こいつらほんとクズだな」と楽しみながら読む小説。そして、それを楽しんでいるクズ(=自分)と向き合いながら読む小説。
クズにおすすめしたい小説。もちろんぼくは楽しめました!

善人は桐野夏生を読んでないで『十五少年漂流記』でも読んでやがれ!


展開も一筋縄ではいかない。
アナタハンの女王事件を知っていたので、たった一人の女をめぐって男たちが争う話だと思っていたのですが、それは前半まで。
中盤から、主人公である清子は男たちから求められなくなるばかりか、疎まれ、憎まれ、無視されるようになる。

ああ、この感じ、わかるなあ。

ぼくが学生時代入っていたサークルもそんな感じだった。
男の比率が極端に高かったから、たまに新入生の女性がやってくると、一部のメンバーはあからさまに近寄っていき(そして水面下で激しい争いをくりひろげ)、かと思うと一部のメンバーはそんな状況に嫌気がさして、「もういっそ女がいないほうがいいのに」とぼやいたりしていた。

当時はまだ「サークルクラッシャー」という言葉はなかったけど、いつの時代も、そしてどんな環境でも、人間がやることって変わらないのかもしれないねえ。


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2016年7月17日日曜日

【考察】寿司の大学デビュー

堀井 憲一郎 『かつて誰も調べなかった100の謎』  によれば、寿司を「一貫、二貫」と数えるようになったのは1990年代のことで、それまでは「一個、二個」と数えていたらしい。

誰が「一貫」言い出したのかもしれないが、きっと寿司を格調高い食べ物として扱おうという魂胆があったのだろう。
おにぎりやサンドウィッチみたいな軽食と一緒にすんなよ、なんたってSushiはジャパニーズソウルフードなんだからな。という浅ましい優越感があったのかもしれない。
1990年代とはそういう時代だった(そのころぼくは小学生だったので適当に言ってます)。


しかしそのもくろみは成功し、今ではすっかり寿司は「一貫、二貫」の食べ物になってしまった。
「貫」は寿司だけに使われる特別な数えかただ。
いや、「百貫デブ」という言葉もあったな。
訂正。「貫」は寿司とデブだけに使われる特別な数えかただ。

寿司業界のほうでも恥じるわけでもなく、うちじゃあもう三百年前から「一貫、二貫」よ、べらぼうめいという顔をして寿司を握っている。


こういうやつ、いたなあ。
大学に入ったとたんに付け焼き刃のおしゃれをして、おれって昔から遊び人だったんだぜみたいな態度をとるやつ。

高校までは異性としゃべることすらほとんどなかったくせに、「いやあ地元に彼女を残してきたから寂しいぜ」みたいな嘘をついちゃうやつ。

そういうやつってすぐにボロが出るんだけどね。


だから寿司!
おまえももう背伸びをするのはやめて、「一個、二個」の頃のおまえに戻れって!
見ているこっちのほうがつらくなるから!

2016年7月15日金曜日

【エッセイ】さいごはグー!

古代オリンピックの五種競技。

競走をして、跳躍をして、円盤投げをして、やり投げをする。

で、最後に成績上位の2人で決着をつけるんだけど、それがレスリング+ボクシングみたいな格闘技で勝敗を決めたのだとか。


走ったり跳んだり投げたりやってきて、結局最後はなぐりあいかよ!


……まあわかりやすくていいですよね。
結局はけんかが強いやつが勝つっていうのは、自然の摂理にかなってるような気もする。



近代オリンピックでも取り入れてみたらどうでしょう。

42.195km走った後に、1位と2位がなぐりあいとか。

ショートとフリーのプログラムを滑り終えた後に、キム・ヨナと浅田真央がなぐりあいとか。

見てるほうからしたらすごく盛りあがる。


ただ、やるのは絶対にイヤだ。
入試が英語・数学・国語・日本史・物理・なぐりあいの6教科とかじゃなくて、ほんとに良かった。


2016年7月14日木曜日

【エッセイ】フードコートにまつわる怖い話

怖い話を一席。

ほんとに背筋が凍るぐらい怖い話なので、ホラーが苦手な人と、フードコートによく行く人は読まないほうがいいです。


先日、某大型ショッピングモールのフードコートを通りがかりました。
食事どきではなかったので客数はさほど多くなく、学生がぺちゃくちゃとおしゃべりをしているだけでした。

フードコートの端には手洗い場があり、布巾が置いてあります。
きれい好きな人はこの布巾を水でぬらし、テーブルを拭いてから食事をするのでしょう。


そこにひとりのおじさんが立っておりました。
頭はボサボサでしばらく洗った様子はなく、日焼けと垢でまっ黒な顔をした、まあ要するにおうちを持たないタイプのおじさんです。

私は、見るともなしにおじさんの様子を眺めておりました。

おじさんはフードコートの布巾を手に取ると、水で濡らし、よく絞りました。

そして、その布巾で、自分のお腹や腋をごしごしと洗いはじめましたのです


全身の血の気が引くとはこのことです。

すぐに周りを見渡しました。しかし他の客はおしゃべりに夢中で無住居型のおじさんには目もくれません。
おじさんの行為に気がついたのはぼくだけのようでした。

眼前で起こったことがいまだ現実のこととは思えません。
しかしぼくはたしかに見たのです。少なくとも1ヶ月は風呂に入っていないであろうおじさんが、共用の布巾を使って身を清めるところを。


ぼくはそのまま立ち去ったので、その後の顛末は知りません。

もし、おじさんが身体を拭いた布巾を持ち去ったのであれば、まあいいでしょう(それも良くないことではありますが)。


しかし、もし。

ぼくは想像してしまうのです。
おじさんが身体をていねいにこすった布巾を、元あったところに戻し、そうとは知らない誰かがその布巾でテーブルを……!

きゃー!!!




どうです、ほんとに背筋が凍りついたでしょう……?

だから読まないほうがいいといったのに!

ちなみにわたしは、あれ以来、そのフードコートを利用したことはありません。



2016年7月12日火曜日

【エッセイ】 リア銃。


電車の中で、大学生ぐらいの男女グループが

「ほんとあいつリア充だよなー」

「リア充爆発しろ!」

と、楽しそうにキャッキャッ言っていた。


「リア充」とか「リア充爆発しろ!」とかって、男女グループで楽しく談笑したりできない人たちが、自尊心を守るために生み出した武器のはず。

その武器を、どう見ても「リア充」側に属する人たちが使って、非「リア充」の人たちを傷つけている。


この感じ、何かに似ている。

……ああ、あれだ。

アメリカ人の銃に対する考え方だ。

銃規制反対派が「銃は善良な市民が身を守るために必要なものだ!」と主張して、その身を守るための銃によって多数の善良な市民が殺されているやつと一緒だ。