2015年10月17日土曜日

【エッセイ】胃袋管理制度

 ゆとりっていうか。
 言われるまで動こうとしない指示待ちっていうか。
 まあ要するに無能なんだよね。

 あっ。
 最近の若者じゃなくて。
 ぼくの満腹中枢の話。

 いやー。
 前々からね、こいつ怪しいなとは思ってたんだよね。
 こいつ働いてないときあんなーって。
 どうもちょくちょくサボってるときあんなーって。
 それでもね。
 あの厳しい就職戦線を勝ち抜いてぼくの脳内に内定を決めたやつだからね。
 それなりにはね、仕事のできるやつだと思ってたよ。
 やるときはやるはずだ、と。
 ところがよ。
 最近じっくり観察してみたのね。
 人事考課の目になって。
 そしたらこいつ、ぜんぜん仕事してないのね。

 たとえばさ、朝めし抜くじゃん。
 昼めしもめんどくさいから食べないじゃん。
 それなのにね。
 うちの満腹中枢ときたら何の警告も発さないの。
 腹へったーとか、ぐぅーきゅるるるーとか、そういうの一切なし。
 一分前に玉音放送あった?
 ってぐらい、見事な沈黙を保ってんの。
 いやこれだめでしょ。
 飯食わないってのは生命の存続に関わる危機だからね。
 うるせえよ会議中に早鐘の如く腹鳴らしてるの誰だ!
って言われるぐらい自己主張してほしいわけ、こっちとしては。
 つまりぐーぐー腹鳴らしてかまわんよ、と。
 それなのにね。うちの満腹中枢ときたら。
 あれかな。引っ込み思案なのかな? ぼくに似て。
 まあねー。
 わからんでもないよ。
 ぼくも十数年前までは矢沢あい作品の主人公ばりに、強気に振る舞っていても実は傷つきやすい繊細なアタシだったからね。
 でもさあ。
 ぼくももう三十歳すぎてるわけ。もうおじさん。
 だからね。
 よしんば美しい女性の前で腹がぐーぐーいったとしてもね、
「はっはっはっ。腹の虫までもが美しいおなごに恋い焦がれて泣いとるわ!」
って云ってぽーんと腹を叩いてみせる、そんぐらいの図太さは身につけてきたつもり。
 だからね、満腹中枢がどんなに激しく主張してきたとしてもね、
寂しい夜はわけもなく泣きわめいたとしてもね、
そんなところも全部ひっくるめておまえの魅力だっていって、ありのままを受け止めるぐらいの覚悟がぼくにはある。
 ぜんぜんある。

 ほんとは引っ張っていってほしい。
 満腹中枢に。
 よっしゃ腹ヘってきたからそろそろメシにしようぜ! とか。
 どかんとカツ丼でもいこうぜ! とかって。
 常にリードしてくれて、でもあたしの希望を最優先してくれる人であってほしいー☆
 なんて世の中なめた女子大生みたいなセリフも口にしてみたい。
 やっぱ満腹中枢ってのは生命維持を司るポジションだからね。
 四番でキャッチャーで三年生で主将、ぐらいの安心感は漂わせててほしい。
 しまっていこー!
ってアルプススタンドまで届くぐらいのバリトンヴォイスで叫んでほしい。
 あるいはオリバー・カーンぐらいの絶対的守護神であってほしい。
 なのにうちの満腹中枢ときたら、デブだからキーパーやらされてますって程度の頼もしさしかない。
 へたしたらルールもよくわかってないままキーパーやってんじゃない? って思うことさえある。
 もうとっくに空腹のオフサイドライン超えちゃってるよーって。

 まあまあ。
 そうはいってもね。
 空腹のサインを出さないだけならぼくだってそんなに文句はたれませんよ。
 単に旧社会主義国の自動車製造ライン並みに安全基準が甘いだけなのかなーって思うだけ。
 ところがこいつ(満腹中枢)ときたら、空腹だけじゃなく満腹のサインも出さない。
 ノーサイン。ノールック。ノーアイコンタクト。
 だからぼくは食べだしたら止まらない。食べすぎる。
 満腹を感じないから許容量を超えて食べる。
 で、吐く。
 うちの実家で飼っている、元野良犬の雑種犬がまさにそんなかんじ。
 若き日のジャン・ヴァルジャンかよってぐらいにがっついてて、あればあっただけ食べる。
 で、食べすぎて吐く。
 で、吐いてまた食う。

 そんなんだからね。
 ちゃんと教えてほしいわけ。
 ほら、いるじゃん、ダムの水量管理員みたいな人が。
 ああいう作業着の公務員のおじさんがね、
日がな一日ぼくの横についてね、
ぼくの胃袋の内容量を管理して、
そろそろ腹へってるはずだから飯にしたらどうだとか、
これ以上食うと吐くぞとか。
 そういう指示を出してほしい。
 世代的に指示がないと動けない。

 それなのに小さな政府とかいって、どんどん公務員の削減が進められてるからね。ぼく専属の胃袋管理員制度の導入はどんどん遅くなるばかり。
 どうしたもんかね、これ。

2015年10月16日金曜日

【考察】パソコンを使えないおじさんのパラドックス

パソコンのパの字も知らない人が
「パソコンでできることなんてたかがしれてる」
と言う。
あるいは大学に行ったことのない人が
「大学なんて行ったって意味がない」
と公言したりする。

どうしてわからないものを低く評価するのだろう。

ぼくはプログラミングができないので、プログラマのことは尊敬している。
あんな謎の言語を操って意味のある命令をくだすことができるなんてすごい。
また、ぼくは宝塚音楽学校に通ったことがないが、そこへ通うことに意味がないとは思わない。ぼくが想像するよりもっと、いろんなことを学べるんだろう。


自分に理解できないものを、低く見積もるか、高く評価するか。
その差がどこからくるのか考えてみた。

子どもの頃。
テレビで芸人がしゃべっている。
周りの大人はどっと笑っている。でも自分にはそのおもしろさがちっともわからない。
子どもは「芸人がつまらない」とは思わない。原因は自分にあると思う。
「この人はおもしろいことを言ったのに、ぼくには理解できなかっただけだ」
と思う。

40年後。
芸人のギャグで、若者たちがどっと笑っている。けれど自分にはそのおもしろさがちっともわからない。
おじさんは「自分には理解できないが優れた点がある」とは思わない。原因は他者にあると思う。
「おれが理解できないということは、この芸人も、これで笑っている客も、レベルが低いのだ」
と思う。

子どもは理解できないものから学ぼうとする。
理解できないものを、わからないくせに低く見積もるようになったら、それが老いるということなのだろう。
老害と呼ばれている人はきまってそういう人だ。年齢を重ねていても、未知のものから学ぶ姿勢を忘れていない人は若い。
いつまでも学びつづけなければならない。

パソコンを使えないくせに、
「パソコンなんてたいしたことはできない」
と言うおじさんの神経は、ぼくには理解できない。

だが。
おじさんの気持ちが理解できないからといって、理解できないおじさんの気持ちを低く評価してはいけない。
わからないものは尊重せねば。

「わからないものを低く見る」ことをやめるためには、「わからないものを低く見る人」のことを尊重しなければならない。
というパラドックス。

2015年10月15日木曜日

【思いつき】読解力を鍛える算数の問題

太郎くんは、おかあさんから1000円を渡され、りんごを5個買ってきてほしいと頼まれたので、3km離れた八百屋さんまで分速100mで走っていきました。
太郎くんが出発した10分後に次郎くんも家を出ました。
八百屋には太郎くんのほかに2人のお客さんがいました。
八百屋のおじさん(48)に、りんごはあと4個しか残っていないと言われたので、太郎くんはそれをすべて買うことにしました。おわびだといって、八百屋のおじさんは本来1個150円のりんごを20%引きで売ってくれました。

さて。
太郎くんはりんごをいくつ買いましたか?

2015年10月14日水曜日

【ふまじめな考察】なぜバーテンダーはシャカシャカやりすぎるのか

この世の中でいちばんの欺瞞はバーにある。

バーテンダーのシェイク、あのシャカシャカシャカってやつ。
あたしカクテルのこととかぜんぜん知らないけど、あれぜったいウソ。

あそこまでやらなくてもいい。
エコじゃないし。

ラーメン屋の大将が湯切りするときみたいに、ちゃっちゃっちゃって3回ぐらい混ぜたら十分。
シャカシャカシャカって3回振って、もしちゃんと混ざってなかったらイヤだから念のためあと2回だけシャカシャカってやって、はいもうオッケー。

それ以上やるのは、もう完全にパフォーマンスでしかない。
どっかのバカな女が
「シャカシャカシャカ、かっこいー!」
って言い出して、
それ聞いたバカなバーテンダーが調子に乗って必要以上にシャカシャカシャカシャカシャカシャカやりだした。
それしか考えられない。

だってそういうのいっぱい見てきたもの。
好きな女の子が有名ミュージシャンをかっこいいって言ってるのを聞いて、必死こいてギター練習して、必要以上に練習してる間に好きな女の子に彼氏ができてるってパターン。
ギターがうまい男が好きなんじゃなくて、好きな男がギター上手ってだけだったことを思い知らされるパターン。

バーテンダーのシャカシャカも一緒。
かっこいいバーテンダーがシャカシャカやってるのがかっこいいってだけ。シャカシャカがかっこいいわけじゃない。
かっこいいバーテンダーだったら、米を研いでる姿もかっこいい。ぬか漬けを漬けてるところも渋くて絵になる。とんがりコーンを全部の指にはめてから食べる振るまいなんか優雅ですらある。

そういうことわかってない童貞バーテンダーが、うわべだけ真似してシャカシャカシャカシャカシャカシャカやりだした。
もうあれ、完全にいちばんかっこいい回数、通りすぎてる。
たぶん3シャカぐらいがベスト。
そのへんですぱっと終わらせれば、見ているほうも
「なに今のやつ!? 一瞬だったからよく見えなかったけどかっこよかった気がする! もっと見たい!」
って思う。
引き際が大事。わびさびの極致。

千利休がカクテル作るときは、シャカっと1回だけやって、あとはじっくり余韻を楽しむと思うな。

2015年10月13日火曜日

【写真エッセイ】乳製品地獄


 ふと気づいたのだが、我が家の冷蔵庫は乳製品ばかりだ。
 ヨーグルト2箱にチーズ6種、牛乳、飲むヨーグルト。
 この写真には写っていないが冷蔵庫のドアポケットには牛乳2本と練乳が常に立っているし、冷凍庫にはピザ用チーズとミルクアイスバーとピノが入っている。
 会社のデスクの引き出しを開けるとミルクキャンディーとミルクティーの粉末が出てくる。
 ついでにいうと、ぼくが愛用しているボディーソープはヤギのミルクからできている(ちょっと臭い)。

 ここまで乳を摂る人間は、アルプスの酪農家にも多くはいまい。
 クララも驚いて立ち上がるほどのミルク尽くしだ。

 ぼくはほらばかり吹いているので、生前妄言をはたらいた者が落ちる大叫喚地獄に行くことがすでに確約されている(もう招待状も届いている)
 だが乳製品ばかり口にしているぼくを釜茹でにしたら、地獄の大釜にラムスデン現象(牛乳を温めたときに表面に膜が張る、例のアレ)が起こることはまちがいあるまい。