2018年8月1日水曜日

とっても無責任でとってもピュア


インターネットを見ていると、他人の悩みに対して一秒も頭を使わずにアドバイスをしている人を見かける。

夫婦問題で悩んでる人に「離婚したほうがいいですよ」とか。

仕事の愚痴言ってる人に「そんな会社今すぐ辞めるべきです!」とか。

もう、ほんとバカ。それを回避したいから悩んでんだろ。


それ、「死ねばすべての悩みから解放されますよ」って言ってんのと同じだからな。
かつての仲間を爆殺しといて「解放してやったぜ…… くくくくく 恐怖からな」って言ってるゲンスルーと同じだからな。

仮に離婚や退職を勧めるにしても、「お金が許すのであればまず一ヶ月だけでも別居してみては」とか「一度転職エージェントにでも行って今以上の条件で転職できそうな仕事がないか探してみては」とか、段階的な勧めかたがあるだろうに。
「離婚したほうがいいですよ」って言われて「じゃあ離婚してみます!」ってなるわけないだろ。

……それともあれか、こういうコメントしちゃうような人は、自分が同じ立場になったときに知らん人から「離婚したほうがいいですよ」って言われて「じゃあ離婚します!」ってなるのか。
まさか、とは思うが、ひょっとしたらそんなノリで離婚しちゃうのかもしれない。
「じゃあ死ねば?」って書いたら死んじゃうのかもしれない。ピュア~!


2018年7月31日火曜日

大人の男はセミを捕る


四歳の男の子に「おっちゃん、セミとって」と言われた。

七月の公園。樹にセミが鈴なりになっている。
ぼくのすぐ眼の前にも青く光っているセミがくっついている。鳴いていない。
娘の友だちのKくんはいともかんたんに「おっちゃん、セミとって」と言う。おっちゃんがびびっていることに気づいていない。大人にとってどれほど虫が嫌なものなのかわかっていない。ぼくもそうだった。

ぼくは自他ともに認める虫好き少年だった。幼稚園に行く途中トカゲや虫を捕まえた。「いつも虫を持ってるね」と言われていた。
しかしそれから三十年。虫好きだった少年は、ごくふつうの虫がちょっと苦手なおじさんになった。

「自分でとったらどう?」
 「とどかないもん」
「だっこしてあげるよ」
 「Kくん、手が小さいから捕まえられない。おっちゃんやって」

四歳のくせに理屈こねやがって。
虫取り網なんて気の利いたものはない。手でつかむしかない。
セミかあ嫌だな。カナブンとかダンゴムシとかの堅いやつならわりと平気なんだけどな。セミってお腹の部分が柔らかいし羽根も破れちゃいそうだしお腹からむにゅっとやわっこい臓物的なものが出てきそうだなあ。うへえ。想像したらますます嫌になってきた。


Kくんは「とってとって」と云う。横にいたうちの娘まで「おっちゃんとって」と云う。ちくしょうこいつら、大人の男にできないことなどないと思っていやがる。自慢じゃないがおっちゃんは厚生年金の仕組みすらよくわかってないんだぞ。
「おっちゃんちゃうわ、おとうちゃんや」とぼくは娘に云い、樹に手を伸ばした。
へたに勢いをつけたらセミが動いたときにうっかりつぶしてしまうかもしれない。それだけは避けたい。どうか穏便に、穏便に。
左手でセミの進路をふさぐ。上に向かって飛べないようにしておいて右手をそっとセミにかぶせる。セミは少しも動かない。おい動けよ危機感持てよまったく最近のセミは。右手をじわじわとすぼめてゆく、指の腹がセミの羽根に触れる。

じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ
掌の中で激しく鳴くセミ。うへえ、やわっこくてがさがさしたものが掌の中で動きまわっている。『クレイジージャーニー』で観た、昆虫食の好きな女の人のことを思いだす。彼女はセミの羽根をむしってからフライパンで炒めていた。こいつが、こいつの胴体が、油の中で。

だが捕った。どうだ大人の男は。セミを捕ったぞ。

ところがKくんはじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅと鳴き叫ぶセミにすっかり恐れをなして「わあ」と叫んで走りだした。つられて娘も逃げる。こら待ておまえらが捕ってってゆうたんとちゃうんかい、こっちはセミがおしっこかなんか変な液体を出して手を濡らしているのを我慢して握ってるんやぞ。
逃げる幼児、追うぼく、掌の中で暴れるセミ、不快な汁、どこまでも暑くるしい夏。


2018年7月30日月曜日

『りぼん』の思い出


小学生のとき、雑誌『りぼん』を読んでいた。
といっても買ったことは一度もない。姉が購読していた『りぼん』を読ませてもらっていたのだ。姉弟喧嘩をして「もう『りぼん』読ませへん!」と言われてからも、姉がいないときにこっそり部屋に侵入して『りぼん』を読んでいた。

当時はたぶん今以上に男が少女漫画を読むとばかにされる時代だった。男子小学生だったぼくらの間では、当時大ブームを巻きおこしていた『ちびまる子ちゃん』ですら「男が読むもんじゃない」という扱いだった。
「男はジャンプだろ」
男子はジャンプ一択、コロコロ読むやつはガキ、ボンボンはゲーマー、それ以外は存在しない。そんな時代だった。
だからぼくは『りぼん』を読んでいることをクラスの誰にも言ったことがなかった。


『りぼん』を読んではいたが、ぼくが主に読んでいたのは『ちびまる子ちゃん』『こいつら100%伝説』『ルナティック雑技団』『赤ずきんチャチャ』『へそで茶をわかす』だけで、要するにギャグ漫画しか読んでいなかった。亜流だ。
当時はジャンプ黄金期であると一方で女子の間ではりぼん黄金期でもあった(りぼん>なかよし>>>ちゃお みたいな序列があったはず。今はちゃおの圧勝だが)。
当時の『りぼん』には、『天使なんかじゃない』『ときめきトゥナイト』『マーマレード・ボーイ』などそうそうたる漫画が連載されていたが、タイトルしか覚えていない。なぜなら読みとばしていたから。『天使なんかじゃない』は十五年後ぐらいに読みかえしておもしろかったのだが、やはり男子小学生にとっては恋愛の心の機微よりも「宇宙でいちばん強えやつは誰か」のほうが気になるところなので、当時ちゃんと読んでいたとしても楽しめなかっただろう。

せっかく姉の『りぼん』という女子の嗜好を把握するツールが手近にあったのだから、恋愛漫画を真摯に読んで勉強していれば、もっと女心のわかるモテ男になっていたかもしれない。『こいつら100%伝説』ではまったくモテにつながらなかった。



2018年7月28日土曜日

ことわざ分類

【逆説表現】


青は藍より出でて藍より青し

雨降って地固まる

急がば回れ

灯台下暗し

二兎を追う者は一兎をも得ず


【説教】


秋茄子は嫁に食わすな

果報は寝て待て

可愛い子には旅をさせよ

郷に入っては郷に従え

初心忘るべからず

鉄は熱いうちに打て

習うより慣れよ


【そりゃそうだろ】


夫婦喧嘩は犬も食わぬ

井の中の蛙大海を知らず

腐っても鯛

後悔先に立たず

笛吹けども踊らず


【ちがうよ】


五十歩百歩

立つ鳥跡を濁さず

猫の手も借りたい


【やんねえよ】


赤子の手をひねる

石の上にも三年

鵜の真似をする烏

馬の耳に念仏

二階から目薬

糠に釘

猫に小判

暖簾に腕押し

豚に真珠

へそで茶を沸かす


2018年7月27日金曜日

【短歌集】病弱イレブン



チームメイト追悼試合の最中に死んだ選手の追悼試合



リズム感に欠く彼らのドリブルは まるで銃弾浴びてるかのよう



病弱の健闘むなしく無情にも響きわたるはキックオフの笛



勝ったのに2回戦には上がれない トーナメントにスロープつけて



病弱を支えて励ます女子マネが ひそかに計算せし内申点



全員が倒れし後も好勝負演出するはベルトコンベア



負傷者を乗せた担架を持ちあげる隊員たちの強さが際立つ



タックルをしかけた側が倒される サッカーだけに踏んだり蹴ったり



あと一歩 病弱イレブン破れ散る 勝者はお掃除ロボットルンバ



看護師の制止を振り切り出場し 血を吐きながらキックオファァアああ



敵味方 赤と青とに分けるのは ユニフォームでなくサーモグラフィー



永遠のものなどないと思ってた 彼らにとっては終わらぬ試合