2016年1月27日水曜日
ムダを避けようとしてムダなことをする話
たとえば、電車に乗って友人の家に行くとする。
友人の家は、A駅とB駅の間にある。
A駅からだと歩いて15分、そのひとつ先のB駅からだと5分かかる。
A駅~B駅間は、電車だと3分だ。運賃はどちらで降りても変わらない。
この場合、B駅まで電車に乗って5分歩くほうが、A駅から歩くよりも早く目的地に着く。
でも、ぼくはA駅で降りる。
7分余計に歩くとしても、A駅から歩く。
なぜなら「引き返したくない」から。
さっき通った道を、まっすぐ引き返すのはムダだから、極力したくない。
A駅から歩くほうが時間も体力も無駄にしていると理屈ではわかっているけど、
「来た道をただ引き返す」という精神的なムダに比べればずっとマシだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
べつの例。
昼食を食べようと、定食屋に行く。
だがちょうど店はいっぱい。
店員に「5分ほどお待ちいただくことになります」と云われる。
だったらぼくは、この先5分歩いたとにあるべつの定食屋に行く。
5分待つくらいなら5分歩いて遠くの店に行くほうがマシだ。
5分先の店が空いているかもわからないし、食べおわったあとにまた5分歩いて戻ってこなければならないわけだから、実際はここで待ってたほうがずっとムダがない。
でもいやなのだ。
「ただ並ぶ」という時間がすごくムダに思えてしかたがない。
さっきは「来た道を引き返したくない」といっていたくせに、今度は「5分歩いて向こうの店に行って、また5分歩いて戻ってくる」という選択をするのは矛盾じゃないかと思われるかもしれない。
しかし、これはぼくにとってはぜんぜん別の話だ。
後者は、行きは「ごはんを食べに行く」、帰りは「家に帰る」という目的がある。
目的のために歩くのはぜんぜんムダじゃない。
こういう、ムダを避けるあまりムダなことをしてしまう感覚、うまくことわざとかで言い表せないだろうか。
「皿洗いたくなくて新しい皿買いに行く」みたいな。
2016年1月26日火曜日
【エッセイ】世界三大がっかり料理 ~駅弁編~
ちょっと待って。
冷静に考えてみて。
それ、ほんとにおいしいわけ?
ほら、あなたが今、おいしいおいしいって云いながらパクついてる駅弁のこと。
誰も言わないならあたしが言う。
何度も駅弁に騙されてきたあたしが言う。
駅弁はおいしくない!
揚げ物は冷めてるし、ごはんは固いし、刺身はぬるいし、傷まないように保存料は多いし、ボリュームのわりに値段はけっこう高いし、改めて考えたら駅弁にいいとこなんかひとつもない。
え?
……あー、はいはい。
なるほど、なるほど。
はい、反論出ました。
旅情によるおいしさ3倍説ね。
駅弁は雰囲気を含めて味わうもの説ね。
当然、駅弁擁護側からそういう反論が出ることは予想していました。
あたしは声を大にして言いたい。
風景だとか旅情だとかに騙されちゃいけない!
そんなものは言い訳にすぎない。
それってほら。
夫には先立たれ、ひとり暮らしも長くなり、孫たちが大きくなってからはめったに寄りつかず、そんなときに現れておばあちゃんおばあちゃんといってほんとうの孫よりもなついてきたあの青年。
老後のために蓄えていたお金は騙しとっていったけれど、あの優しさは本物だったと信じたい……!
っていうおばあちゃんの気持ちと一緒。駅弁がおいしいと思いこむのって。
いくら親切にされたって詐欺は詐欺。
旅情なんか駅弁があなたを騙すための見せかけの優しさよ。
そんな甘い誘いに乗っちゃだめ。すぐに途中下車して。駅弁だけに。
あたしも、これまで何度、駅弁に裏切られてきたか。
旅情によっておいしくなる説がほんとうなら、コンビニのパンでもかまわないと知りながら。
その土地のものを食べたいのなら、電車を降りてお店に入ったほうが同じ値段ではるかにおいしいものを食べられると知りながら。
それでも、けなげに駅弁を買った。
いつかこの人(駅弁)は、まじめに働いてくれる。あたしのひたむきな愛に誠意を持って応えてくれるひが必ず来るはず。
けれどもあたしの思いもむなしく、駅弁はまたもおいしくない。
なんてだめな人。
あたしが支えてやらなければ。
デパートの駅弁フェアに足を運んだりもした。
でもやっぱり駅弁は変わらない。
駅弁のわたしに対する態度は、駅弁の揚げ物と同じくらい冷めている。
そしてあたし気づいたの。
駅弁は、このままじゃもっとだめになる。
だから、こうして駅弁の悪いところをさんざん挙げていってるわけ。
これはあたしから駅弁への決別宣言。
そう。
駅弁を愛しているから!
2016年1月25日月曜日
【エッセイ】世界三大がっかり料理 ~パエリア編~
犬派か猫派かってよく訊かれるけど、あたしはだんぜん、ごはん派。
お米の国の人だからもう米国人といってもいい。意味変わっちゃうけど。
そりゃ炊きたての銀シャリもいいけど、あたしはやっぱり色ごはんが好き。
“色ごはん”ってわかる?
炊き込みとかの色のついたごはんのことを、色ごはんっていうの。あたしの家だけの呼び方かもしれない。
栗ごはんはもちろん色ごはんだし、チャーハンも色ごはん。カレーライスの境界線部分も、ビピンパのかきまぜた後のやつも色ごはん。
ごはんの魅力って、どんな味でもしっかり受けとめてくれるところよね。
辛さも、しょっぱさも、甘酸っぱさも、旨さも、全盛期のような古田敦也捕手のような安心感で受けとめてくれる。
だから色ごはんにはずれはない。
豆ごはん、釜めし、牛丼、オムライス、ピラフ、ドリア、リゾット。
どれもおいしいし、見ただけでわくわくする。
中でも、見た目がいちばん刺激的なのはパエリア。
アツアツ感を演出する鉄鍋に、ほどよく焦げ目のついたごはん、そしてこれでもかと言わんばかりに贅沢に乗せられた海老やムール貝などの魚介類。
こんなにおいしそうな料理、ちょっと他に見あたらない。
だからあたしは、メニューに「パエリア」の文字があったら必ず注文する。
そして裏切られる。毎回。

まず誤解のないように云っておかなくちゃいけないけど、パエリアはおいしい。
これまでおいしくないパエリアにあたったことはない。
でもそれと同時に、あたしの期待以上においしいパエリアに出会ったこともない。
あたしののどを通りすぎていったパエリアはどれもみんな“そこそこ”おいしかった。
ものたりなさだけが募る。
そう、すべてはあたしのせい。
あたしの期待値が高すぎるせい。パエリアは何も悪くない。それは知っている。
でもあたしは待っている。
いつの日か、見た目も味も何もかもがあたし好みのパエリアが、あたしの前に現れる日を。
男に高望みしすぎて40歳になっても結婚できない女のようだと笑うがいい。
ここまで来たからには、そのへんのチャーハンやケチャップライスで手を打つわけにはいかないのよ!
2016年1月24日日曜日
【エッセイ】世界三大がっかり料理 ~チーズフォンデュ編~
「三大がっかり料理」を選ぶとしたら、あたしは
・チーズフォンデュ
・パエリア
・駅弁
を推薦する。
まずチーズフォンデュ。
あたしはチーズが好きだ。とくに熱いチーズには目がなくて、居酒屋で「とろとろチーズの焼きトマト」みたいなメニューがあったら、迷わず注文する。ぜったいに頼む。おなかいっぱいでも頼む。頼んでから後悔する。
でも、とろとろチーズを頼んだことは後悔しない。とろとろチーズを食べる前におなかいっぱいにしてしまったことを悔やむ。
それぐらいとろとろチーズが好き。
とろとろチーズはいつだって正しい。
そんなあたしだから、はじめてチーズフォンデュという料理の存在を知ったときのことは今でも覚えている。
そう、あれは高校1年生の冬だった。
テレビで観たチーズフォンデュと一目で恋に落ちたあたしは、 うれしさを通りこして不安になった。不安のあまり、当時中学生だった弟を蹴飛ばしてみた。弟の「いてえ。なんだよ」という不機嫌な声を聞いて、やっと現実世界に戻ってこられた。
それぐらいチーズフォンデュというのはあたしにとって衝撃的な食べ物だった。
だって、好きな食材を、好きなだけとろとろチーズに浸けて食べていいのよ。
極楽かっ!
地獄では鬼が亡者を釜茹でにしてるその一方、極楽では天使たちがきゃっきゃ云いながらチーズフォンデュを楽しんでいる。
そんな光景があたしの脳裏に浮かんだ。
でも、あたしがチーズフォンデュ様に心を奪われてから、実際に食べるまでにはじつに3年を要した。
なんせあたしが育った田舎町にはチーズフォンデュなんてこじゃれた料理を出す店なんかなかった。せいぜいナポリタンがミートソーススパゲティかオムライス。ケチャップかけときゃ洋食だと思ってやがんのよ。
だから都会に出てきてこじゃれたバーで「チーズフォンデュ」の名前を見つけたときは小躍りした。「欣喜雀躍!」って声に出して叫んだ。
もちろん即座に注文した。
こじゃれたバーだからみんな静かに女を口説いたり男に口説かれたりしてんのに、あたしだけ寿司屋の常連ぐらいのテンションで「へいマスター、チーズフォンデュ一丁!」って。
バーのマスターも釣られて「あいようっ!」って言いかけてた、きっと。
それなのに。
嗚呼、それなのに。
はじめて食べたチーズフォンデュは。
夢にまで見たチーズフォンデュは。
イマイチだった。
なんだろう。たしかにチーズはとろとろなのに。好きな食材を好きなだけチーズにからめて食べてもいいのに。
なぜだかあんまりおいしくない。
その店のチーズフォンデュが悪いのかと思った。
しょせん気どったバーだもんね。
ちゃんとしたとこで食べたらちゃんとおいしいはず。
そう思って、イタリアンレストランにも行ってみた。チーズフォンデュを食べるために。
でもやっぱりもうひとつ。
いや、決してまずいわけじゃない。どっちかっていったらおいしい。
でも。
でも。
こんなもんじゃないだろチーズフォンデュ!
おまえはもっとやれる子だ!
「OLが選ぶ かばんに入れて持ち歩きたい料理 ベスト3」に入ってもいいぐらいのポテンシャルは持ってるはずだ!
食べるたびにそう吠えるのだけれど、あたしの咆哮はチーズフォンデュには届かず、毎回期待を裏切られてばかり。
いまだに、これはうまい! と思えるチーズフォンデュに出会ったことはない。
思うに、カマンベールとかゴーダとかグリュイエールとかのしゃれたチーズを使っているのが、あたしの舌にあわない理由なんだと思う。
グリュイエールだかアリエールだかしらないけど、そんな高いチーズはあたしの安い舌は受けつけない。
もっとやっすいやつでいいのよ。ピザ用のとろけるチーズとかで。雪印とかで。
あとワインも入れなくていい。昆布だしでいい。あっ、おいしそう。
昆布だしととろけるチーズのチーズフォンデュ、これぜったいおいしいわ。
誰かやってみて。
あたし?
あたしはやらない。
だってチーズフォンデュって、死ぬほど皿洗いがたいへんそうだもの。
チーズフォンデュを考案したのって、自分では洗い物しないやつだよぜったい!
2016年1月23日土曜日
【エッセイ】イノセントワールド
朝から妻の機嫌が悪い。
なにか怒られるようなことをしただろうか。
胸に手を当てて考えてみたが、思いあたるふしは4つぐらいしかない。
あれは証拠を残してないはずだし……
あれはみんなやってることだし……
あれはもう時効が成立してるし……
あれはまだばれてないはずだし……
うん、大丈夫。
すぐさま怒られそうな案件はひとつもない。
清廉潔白の身だ。イノセントワールドだ。
じゃあなぜ。
なぜ彼女はかようにも怒っているのか。
おもいきって聞いてみた。男らしく、おそるおそると。
「えーっと……。どうかした……?」
「すっごく腹立つ夢を見たの」
「夢……?」
「そう、洗濯機のすすぎが終わりかけてるときに、あなたが洗濯機の扉をむりやり開けて汚れた洗濯物を追加する夢。せったく
すすぎが終わりかけてるのにまたやり直し! って腹が立ったわけ」
「あー……。それは……。うん、ごめんなさい」
登録:
投稿 (Atom)