2016年1月25日月曜日

【エッセイ】世界三大がっかり料理 ~パエリア編~


犬派か猫派かってよく訊かれるけど、あたしはだんぜん、ごはん派。

だって日本人だもの。お米の国の人だもの。
お米の国の人だからもう米国人といってもいい。意味変わっちゃうけど。

そりゃ炊きたての銀シャリもいいけど、あたしはやっぱり色ごはんが好き。
“色ごはん”ってわかる?
炊き込みとかの色のついたごはんのことを、色ごはんっていうの。あたしの家だけの呼び方かもしれない。
栗ごはんはもちろん色ごはんだし、チャーハンも色ごはん。カレーライスの境界線部分も、ビピンパのかきまぜた後のやつも色ごはん。

ごはんの魅力って、どんな味でもしっかり受けとめてくれるところよね。
辛さも、しょっぱさも、甘酸っぱさも、旨さも、全盛期のような古田敦也捕手のような安心感で受けとめてくれる。

だから色ごはんにはずれはない。
豆ごはん、釜めし、牛丼、オムライス、ピラフ、ドリア、リゾット。
どれもおいしいし、見ただけでわくわくする。

中でも、見た目がいちばん刺激的なのはパエリア。
アツアツ感を演出する鉄鍋に、ほどよく焦げ目のついたごはん、そしてこれでもかと言わんばかりに贅沢に乗せられた海老やムール貝などの魚介類。
こんなにおいしそうな料理、ちょっと他に見あたらない。

だからあたしは、メニューに「パエリア」の文字があったら必ず注文する。
そして裏切られる。毎回。



まず誤解のないように云っておかなくちゃいけないけど、パエリアはおいしい。
これまでおいしくないパエリアにあたったことはない。
でもそれと同時に、あたしの期待以上においしいパエリアに出会ったこともない。
あたしののどを通りすぎていったパエリアはどれもみんな“そこそこ”おいしかった。
ものたりなさだけが募る。

そう、すべてはあたしのせい。
あたしの期待値が高すぎるせい。パエリアは何も悪くない。それは知っている。
でもあたしは待っている。
いつの日か、見た目も味も何もかもがあたし好みのパエリアが、あたしの前に現れる日を。

男に高望みしすぎて40歳になっても結婚できない女のようだと笑うがいい。
ここまで来たからには、そのへんのチャーハンやケチャップライスで手を打つわけにはいかないのよ!

【エッセイ】世界三大がっかり料理 ~チーズフォンデュ編~

【エッセイ】世界三大がっかり料理 ~駅弁編~



2016年1月24日日曜日

【エッセイ】世界三大がっかり料理 ~チーズフォンデュ編~


「三大がっかり料理」を選ぶとしたら、あたしは
・チーズフォンデュ
・パエリア
・駅弁
を推薦する。

まずチーズフォンデュ。

あたしはチーズが好きだ。とくに熱いチーズには目がなくて、居酒屋で「とろとろチーズの焼きトマト」みたいなメニューがあったら、迷わず注文する。ぜったいに頼む。おなかいっぱいでも頼む。頼んでから後悔する。
でも、とろとろチーズを頼んだことは後悔しない。とろとろチーズを食べる前におなかいっぱいにしてしまったことを悔やむ。
それぐらいとろとろチーズが好き。
とろとろチーズはいつだって正しい。

そんなあたしだから、はじめてチーズフォンデュという料理の存在を知ったときのことは今でも覚えている。
そう、あれは高校1年生の冬だった。
テレビで観たチーズフォンデュと一目で恋に落ちたあたしは、 うれしさを通りこして不安になった。不安のあまり、当時中学生だった弟を蹴飛ばしてみた。弟の「いてえ。なんだよ」という不機嫌な声を聞いて、やっと現実世界に戻ってこられた。
それぐらいチーズフォンデュというのはあたしにとって衝撃的な食べ物だった。

だって、好きな食材を、好きなだけとろとろチーズに浸けて食べていいのよ。
極楽かっ!
地獄では鬼が亡者を釜茹でにしてるその一方、極楽では天使たちがきゃっきゃ云いながらチーズフォンデュを楽しんでいる。


そんな光景があたしの脳裏に浮かんだ。

でも、あたしがチーズフォンデュ様に心を奪われてから、実際に食べるまでにはじつに3年を要した。
なんせあたしが育った田舎町にはチーズフォンデュなんてこじゃれた料理を出す店なんかなかった。せいぜいナポリタンがミートソーススパゲティかオムライス。ケチャップかけときゃ洋食だと思ってやがんのよ。

だから都会に出てきてこじゃれたバーで「チーズフォンデュ」の名前を見つけたときは小躍りした。「欣喜雀躍!」って声に出して叫んだ。
もちろん即座に注文した。
こじゃれたバーだからみんな静かに女を口説いたり男に口説かれたりしてんのに、あたしだけ寿司屋の常連ぐらいのテンションで「へいマスター、チーズフォンデュ一丁!」って。
バーのマスターも釣られて「あいようっ!」って言いかけてた、きっと。

それなのに。
嗚呼、それなのに。
はじめて食べたチーズフォンデュは。
夢にまで見たチーズフォンデュは。
イマイチだった。

なんだろう。たしかにチーズはとろとろなのに。好きな食材を好きなだけチーズにからめて食べてもいいのに。
なぜだかあんまりおいしくない。

その店のチーズフォンデュが悪いのかと思った。
しょせん気どったバーだもんね。
ちゃんとしたとこで食べたらちゃんとおいしいはず。
そう思って、イタリアンレストランにも行ってみた。チーズフォンデュを食べるために。
でもやっぱりもうひとつ。

いや、決してまずいわけじゃない。どっちかっていったらおいしい。

でも。
 
でも。

こんなもんじゃないだろチーズフォンデュ!
おまえはもっとやれる子だ!
「OLが選ぶ かばんに入れて持ち歩きたい料理 ベスト3」に入ってもいいぐらいのポテンシャルは持ってるはずだ!

食べるたびにそう吠えるのだけれど、あたしの咆哮はチーズフォンデュには届かず、毎回期待を裏切られてばかり。
いまだに、これはうまい! と思えるチーズフォンデュに出会ったことはない。

思うに、カマンベールとかゴーダとかグリュイエールとかのしゃれたチーズを使っているのが、あたしの舌にあわない理由なんだと思う。
グリュイエールだかアリエールだかしらないけど、そんな高いチーズはあたしの安い舌は受けつけない。
もっとやっすいやつでいいのよ。ピザ用のとろけるチーズとかで。雪印とかで。
あとワインも入れなくていい。昆布だしでいい。あっ、おいしそう。

昆布だしととろけるチーズのチーズフォンデュ、これぜったいおいしいわ。
誰かやってみて。

あたし?
あたしはやらない。
だってチーズフォンデュって、死ぬほど皿洗いがたいへんそうだもの。
チーズフォンデュを考案したのって、自分では洗い物しないやつだよぜったい!

【エッセイ】世界三大がっかり料理 ~パエリア編~

【エッセイ】世界三大がっかり料理 ~駅弁編~


2016年1月23日土曜日

【エッセイ】イノセントワールド


朝から妻の機嫌が悪い。

なにか怒られるようなことをしただろうか。
胸に手を当てて考えてみたが、思いあたるふしは4つぐらいしかない。


あれは証拠を残してないはずだし……

あれはみんなやってることだし……

あれはもう時効が成立してるし……

あれはまだばれてないはずだし……


うん、大丈夫。
すぐさま怒られそうな案件はひとつもない。
清廉潔白の身だ。イノセントワールドだ。


じゃあなぜ。
なぜ彼女はかようにも怒っているのか。
おもいきって聞いてみた。男らしく、おそるおそると。

 「えーっと……。どうかした……?」

「すっごく腹立つ夢を見たの」

 「夢……?」

「そう、洗濯機のすすぎが終わりかけてるときに、あなたが洗濯機の扉をむりやり開けて汚れた洗濯物を追加する夢。せったく
すすぎが終わりかけてるのにまたやり直し! って腹が立ったわけ」

 「あー……。それは……。うん、ごめんなさい」

2016年1月22日金曜日

【エッセイ】エジプトで見て見ぬふり

世界各地にチャイナタウンがあったり、地方から出てきた人たちが集う県人会があったり、たいていの人は同郷の人間に対して親近感を覚えるものだ。
だが、世の中にはそういった間隔とは無縁の人もいる。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ぼくの同僚Sさん。
秋田県能代市から出てきて、大阪で働いている。
その人の部署に入社してきた新入社員が、自己紹介で「秋田県能代市出身です!」と語った。
大阪で東北出身者に出会うだけでもめずらしいのに、市まで同じ。すごい偶然だ。

にもかかわらず。
Sさんは、くだんの新入社員に対して、自分が能代市出身だと明かしていないらしいのだ。何度か話しているのに。

「すごいことじゃないですか。なんで言わないんですか」
と訊いても、
「べつにわざわざ話すようなことじゃないでしょ」
と、にべもない。

わざわざ話すことだろうよ!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

また、高校の同級生Gさん。
Gさんはエジプト人男性と結婚していて、エジプトに住んでいる。
こないだ久しぶりに帰国していたGさんがこんなことを云っていた。
「そういやこないだエジプトのカイロ空港で、Tくんとすれちがったよ。ほら、高3のときに同じクラスだった」
 「えー! すごい偶然だね! さぞかしTくんもびっくりしてたでしょ?」
「いや、向こうはわたしに気づいてなかったと思う。声かけなかったし」
 「えっ。なんで!?」
「そんなに仲良かったわけじゃないし……」

信じられない。エジプトで知り合いにばったり会ったとき、声をかけずにいられるだろうか。
仲がいいとか関係ない。なんなら、エジプトで日本人に会ったら、たとえ知り合いじゃなくても日本人だというだけで話しかけてしまうかもしれない。

さらに驚くべきは、Gさんは大学でエジプト史を専攻していたという事実だ。
エジプトの歴史研究してるのに自分の歴史に興味なさすぎ!


2016年1月21日木曜日

【読書感想】 萩尾望都『11人いる!』


萩尾望都『11人いる!』

 (Wikipediaより)
「11人いる!」は、漫画雑誌『別冊少女コミック』1975年9月号から11月号に連載された[1]。1976年、第21回小学館漫画賞少年少女部門を受賞。
宇宙大学の入学試験最終テスト(最終日程の最後の科目)の会場“外部との接触を絶たれた宇宙船”を舞台に、宇宙のさまざまな国からやって来た11人の受験生が、疑心暗鬼のなかで反目しつつ、信頼関係を築き合いながら友情や恋を培い、非常事態を乗り越えようとするさまを描く。

名作だとの評判は耳にしていたが、大昔の少女漫画をいまさら読むのもなあ……。ってことで読んだことはなかったのだが、そのインパクトのあるタイトルはずっと頭に残っていた。
Kindleで売られているのを見て、ようやく買って読んだ。

いやあ、噂に違わぬ名作だった。
まず40年前の少女漫画なのに、ちっとも古びていない。
もちろん絵柄は古いしギャグのノリも見ちゃいられないんだけど、ストーリーは古びていない。
独創的な世界観、綿密な構成、スリリングな展開。さらにラストまで明かされない「11人目の存在の謎」がいいフックになっていて飽きさせない。
男か女かわからないキャラクター、相次ぐ事故、なぜか宇宙船の内部に詳しすぎる人物といったミステリ要素にも丁寧に伏線が張られており、SFとしてだけでなくサスペンスとしても凝った造りになっている。

ほんと、これが40年前の少女コミック誌に掲載されていたということに軽い目眩を覚える。



この本には表題作のほかに、続編の『東の地平 西の永遠』と同じ世界観のコメディ『スペース ストリート』が収録されている。

『東の地平 西の永遠』は、宇宙を舞台にしたSFでありながら宰相の陰謀によって戦争に向かう国の運命に翻弄される王様や敵国の姫たちの悲劇の物語……という感じで、『ロミオとジュリエット』や『ベルサイユのばら』のようなテイスト。
3つの星の争いを舞台にしている点をのぞけば、正直、少女漫画としてもさほど新しい展開ではない。
とはいえ、日蝕の描写に代表されるような細部の設定はさすが。
『11人いる!』に比べるとすこしものたりないが、これも十分秀作。


『スペース ストリート』は……。
昔のギャグなので今笑えないのはしょうがないのだけど……。
『11人いる!』のネタバレになるので詳しくは書かないが、主人公と○○のいちゃいちゃ恋愛をどういう感じで見ていいのかわからなかった。
二次創作のボーイズラブを見ているような気持ち悪さがあって(ぎりぎりネタバレじゃないよね)、ギャグ以前にそのへんがどうもね……。
おまけページだと思えばまあいっか。

そういや、今はどうだか知らないけど、少女漫画ってやたらとおまけページが充実してたよな。
スピンオフ漫画があったり作者の自分語りがあったり。あれなんなんでしょう。
作者の人物像も含めて楽しむのが少女漫画の読み方なのかな。