2015年8月26日水曜日

【読書感想】森 晶麿『黒猫の遊歩あるいは美学講義』

「BOOK」データベースより

でたらめな地図に隠された意味、しゃべる壁に隔てられた青年、川に振りかけられた香水、現れた住職と失踪した研究者、頭蓋骨を探す 映画監督、楽器なしで奏でられる音楽…日常に潜む、幻想と現実が交差する瞬間。美学・芸術学を専門とする若き大学教授、通称「黒猫」と、彼の「付き人」を つとめる大学院生は、美学とエドガー・アラン・ポオの講義を通してその謎を解き明かしてゆく。第1回アガサ・クリスティー賞受賞作。

 知人が薦めるので買って読んでみた。「読んだら感想聞かせてね」と言われていたので、ぼくは今、すごく困っている。
 だってぜんぜんおもしろくないんだもの。

 ハヤカワだから一定品質は担保されてるミステリかと思ったら、ぜんぜん。謎の答えどころか謎そのものが作者の頭にあるだけで、ちっとも見えない。探偵が「真相はこうでっせ。どやすごいやろ」と言うんだけど、はあべつにそこはどうでもいいしな、それがわかったからなんなの、わからなくても誰も困らねえしな、という謎ばかりなのだ。
 レストランで飯食ってたら、呼んでもないシェフがしゃしゃりでてきて「実は材料は○○から取り寄せて、こんなに苦労して下味つけて……」と解説してくる感じというか。うっせえ聞いてねえよおまえの得意げな自慢聞いてたら飯がまずくなるから出てくんじゃねえよ、そもそもそこまでこだわってるわりにうまい飯でもねえよ、と言いたくなる。

 しかしぼくの好みに合わなかっただけで、これが駄作だというつもりはない。世の中にはシェフの自慢話を聞きたい人もいるのだ。ハーレクインとか、ちょいミステリ気取りのライトノベルとかが好きな人にはハマるんじゃないだろうか。
 実際、文章はうまいしね。思い出したかのように唐突に放りこんでくる過剰な言い回しが鼻につくだけで。

 おっと。いかんいかん。ついつい悪口になってしまう。
 今回ぼくに与えられた課題は「この本を薦めてくれた人に、嘘をつかずに、かといって相手の気を悪くさせることなく、いかに感想を伝えるか」である。

 ううむ。難しい。

「大学の教科書みたいだね。教授が書いた本で、学生たちに半分強制的に買わせるやつ」
ぐらいで、許してもらえないだろうか。

2015年8月25日火曜日

リアルインターネット

「インターネットと現実の区別がついていない若者の犯罪」
みたいな表現をニュースでよく耳にするけど、
ネットと現実との区別ってなんだよ、htmlもcssも現実にあるものなんだよ、もちろんそれを作った人間も使ってる人間も現実にいるんだよ、ネット上にあるものは全部現実なんだよ。
まさかすべて幻だと思ってるのか?

こういうこと言うやつのほうがよっぽど現実とネットの区別がついていないね。
インターネットは単なる通信手段であって、夢でも幻でもないんだよ。

「会話と現実の区別がついていない」
「手紙と現実の区別がついていない」
とかいう言い方をしてみれば、
「ネットと現実の区別」という表現がいかにばかまるだしかがわかるのにね。

2015年8月24日月曜日

洗う石油王


人と話すのが嫌いだ。

できることなら誰とも話したくない。
仕事中だって、隣の人ともチャットで話したい。
いわんや見ず知らずの人なんて。

とはいっても、仕事上、はじめて会う人と話さないといけないこともある。
イヤだけど、まだぼくの家の庭から油田が見つかって石油王になっていない以上、今のところ仕事をして稼がないといけない。

うちの会社では、お客さんが来ると受付の女性がお茶を出してくれる。
お客さんと話しおえると、ぼくはお茶の入っていたコップを持って給湯室へ向かう。コップを洗うためだ。
ほとんどの社員はコップを放置するので、ぼくのように洗いにいく人間はめずらしい。
受付の女性は「そんなことしなくていいですよ! わたしたちの仕事なんで」とか「洗ってくれるなんて優しいですね」とか言ってくれる。

ちがうんだ。
優しさから洗っているわけではない。
ましてや受付の女性によく思われたいという下心でもない(エロい目で彼女たちの尻を見つめることはあるけど)。

ただ洗いたいだけなんだ。
知らない人と話すとどっと疲れるから、食器洗いみたいに無心でできる作業をすることで、澱んだ精神を洗い流すのだ。

だからもしぼくの家の庭から石油が湧きだしたとしても、やはりぼくは仕入れに来た石油貿易会社の社員と話した後には、ひとり台所に行って黙々とコップを洗うことだろう。
油田つきの庭どころか、土地すら持ってないけど。

2015年8月23日日曜日

個性的な組織

いろんな組織に所属したことがあるけど、どこにいっても
「うちのサークルは個性派ぞろいだ」とか
「ここの業界は特別だから」とか
「この会社は変な人ばっかりだ」とか言う人がいる。

みんな自分のいる場所が特別だと思いたいのだ。

もし「うちは個性的だ」と言う人がひとりもいない組織があれば、それこそ真に個性的な組織にちがいない。

2015年8月21日金曜日

ロボットフェンシングコンテスト

あたしは思う。

いちばんかっこわるいスポーツはフェンシングよね。

たしかに剣士たちは優雅さと強さの両方を兼ね揃えていて、その動きは美しくさえある。

でもさ。

あの人たち、コード出てるでしょ。お尻のあたりから。

なんなのあれ。
いや、わかってる。
剣先が身体に触れたかどうかを判定するためのセンサーでしょ。
それはわかった上で言うんだけど、なんなのあれ。
なに線でつながれてんの。
これだけWi-Fiが飛び交ってる時代に、なにゆえ有線?

あたしには剣士たちが操縦されてるようにしかみえない。

テレビつけてフェンシングやってたら、あれ、ロボコンやってんの? これNHK?
って思う。
剣士の後ろをコントローラー持ちながらついてくる高専のメガネ男子の姿を探してしまう。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「優勝は近畿ブロック代表、舞鶴高専!」
 アナウンサーが高らかに叫び、会場いっぱいに鳴りわたる拍手にあわせるように紙吹雪が舞った。

 優勝を決めた舞鶴高専のメンバーは抱きあって涙を浮かべ、惜しくも準優勝に終わった都城高専の三人は笑顔で敵チームに惜しみない拍手を送った。
 勝者が泣きじゃくり、敗者が清々しい笑顔を見せるその光景が、いかに厳しい戦いだったかを物語っていた。

 敗れた都城高専のロボット剣士『ロビンfoot』の完成度は群を抜いていた。バランスよく二足歩行をしながらエアシューターの力で突きだされる剣は、スローカメラでやっととらえられるほどの速さだった。準決勝で受けた剣の影響で左アームが操作不能になるというハプニングさえなければ優勝してもおかしくなかった。
 だがロビンの隙を逃さず、ガードが甘くなった左胸に剣をつきつけた舞鶴高専のロボット『ミヤモト634号』の技術はそれ以上に目を見張るものがあった。1秒間に600回以上の振動を与えられた腕からくり出される鋭い攻撃は、ハチドリの羽ばたきから着想を得て、プログラムに改良に改良を加えたという必殺の剣だった。

 戦いは終わった。
 舞鶴高専の三人は、いまや四人目のメンバーともいえるロボット剣士にも抱擁をおこなった。そして、おつかれさまと労をねぎらうように電源ボタンをオフにしてからロボ剣士の尻のボタンを押した。
 尻から伸びた操縦コードは、しゅるしゅるしゅると音を立ててコード入れに吸いこまれてゆき、コントローラーがボディにぶつかってかたんと音を立てた。
 掃除機の電源コードから着想を得て、改良に改良を加えたという高い技術が、そこにも活きていた。