2016年2月4日木曜日

【エッセイ】伝説2世

ヒポグリフという生物がいるんだとか。
といっても実在しているわけではなく、伝説上の生物なんだとか。

調べてみると、グリフォンと馬の間に生まれた生き物がヒポグリフなんだとか。
グリフォンってなんじゃいと思って調べてみると、鷲の頭と羽を持ち、獅子の胴体を持つという伝説の生き物なんだとか。

想像上の生き物から生まれた想像上の生き物……。
想像が過ぎる……。
もうオリジナルほとんど残ってないじゃないか……。


この感覚、どこかで味わったことがある。

あれだ。
ペルーの元大統領がフジモリさんだと聞いて親近感を覚えたけど、よくよく聞いたら日系3世で本人は日本語もまったく知らないって知ったときの感覚だ。


2016年2月3日水曜日

【エッセイ】20%のよこしまな感情

同僚の女性が言っていた。
「わたしが前いた会社、結婚してる男の人はみんな愛人がいたんですよ」

翌日、また別の人から聞いた。
「こないだテレビでやってたんですけど、80パーセント以上の既婚男性が不倫をしたことがあるんですって」

なんてこった。
こうしちゃおれん。

恥ずかしながら、ぼくには愛人がいない。ただのひとりも。
いってみればチェリー。チェリー・ハズバンド。

知らない間に自分が『出遅れている20パーセント』に入っていたなんて。周りに流されがちな日本人のひとりとして、このムーヴメントにはぜひとも乗っておきたいところ。
お金ならある! 月に4,000円までなら出す!

今からでも遅くはない。やなせたかしが『アンパンマン』を発表したのは50歳のときだもん。
やなせ先生、勇気をありがとう!

しかし愛人ってどうやって募集するんだろう。
80パーセントの既婚男性はどうやって募集したんだろう。
街ゆく女性に「ねえ君、愛人にならない?」と声をかけるとか?
そんないかがわしいこと、人見知りのぼくにはできない。

どっかに求人広告を載せるのかな。
リクルートあたりが愛人情報専門のフリーペーパーとか出して駅に置いてそうだな。
それともあれかな。
『Oggi』『25ans』みたいな満たされない女が読んでそうな雑誌にそういうコーナーがあるのかな。ぼくが知らないだけで。


誰か、愛人を紹介してくれる人を紹介してください!

2016年2月2日火曜日

【エッセイ】オール・フォア・お茶漬け

予兆はいくつもあった。

周囲の居酒屋がどこも満席なのにその店だけ空いていたし、さほど客が多いわけでもないのにおしぼりを持ってくるのがやけに遅かったし、やっと現れた店員はものすごく愛想が悪くて化粧の濃いねえちゃんだったし。

「なんかこの店やばそうだな」
ぼくと友人はひそひそと話した。
しかし席に着いてしまった以上は注文せずに店を出るわけにはいかない。それに腹もへっている。
「一杯だけ飲んで、次の店に行こうか」

ということで我々は、ビールを一杯ずつとフライドポテトとお茶漬けを頼んだ。
最小限のつまみと、ふつうは締めに頼むお茶漬けをいきなり注文するという、早期撤退ムードを全面に出したオーダーだ。
これなら大丈夫だろうと我々は思った。
この注文なら、どんな店だろうとまちがいない。

ところが。
ときに現実は、想像をはるかに凌いでくるものだと我々は思い知らされた。

まずビールがぬるかった。
まあこれぐらいは想像の範囲内だ。
付き出しの枝豆が、冷凍していたのだろう、水っぽい。
これもたまにあることだ。

次に、フライドポテトがしょっぱすぎた。
このへんで「思っていた以上にやばい店だな……」と、ぼくらはささやきあっていた。
「冷凍食品をレンジでチンしただけでももっとおいしいけどな」
いつもならなんでもうまいうまいと云って食べる友人が、首をかしげた。

そして。
お茶漬けがまずかった。

ぼくは、腹立たしさを通りこして、思わず笑ってしまった。
ちょっとした感動さえおぼえた。

だって。だって。
お茶漬けがまずいんだよ?

みなさんに訊きたい。
みなさんは生まれてこのかた「まずいお茶漬け」を食べたことありますか!?

ないでしょう?
そうでしょう。そりゃそうでしょう。
だってお茶漬けだもの。
ご飯にお茶をかけるだけだもの。
ご飯はあったかくてもいいし、冷えててもそれはそれでうまい。
かけるお茶だって、熱くてもぬるくても成立する。
それがお茶漬けという料理だ。
まずくなりようがない。
失敗のしようがない(せいぜいお茶をこぼすぐらいだ)。

ところが。
ぼくらが食べたお茶漬けはまずかったのだ。
奇跡としか言いようがない。

勝手にわさびはお茶に溶かれてるし、しかもわさび多すぎだし、お茶っ葉がぷかぷか浮いてるし、ご飯は芯が残ってるし、お茶はこぼれてるし(失敗の基本もちゃんと押さえてる)、ふた口と食べられるような代物ではなかった。

お茶漬けのすべての要素が、失敗という目標に向かって一丸となっている。
すごい。
ワンフォアオール、オールフォアワン。
ノーサイド(お茶とわさびの垣根がなさすぎるという意味で)。

現代技術の粋を集めてまずいお茶漬けを作りました、というようなハイスペックなまずいお茶漬けなのだ。
日本の技術って、もうこんなところまで進んでいたのか……!


2016年1月31日日曜日

【エッセイ】ぼくのHong Kong


小学三年生のとき、家族で香港旅行に行った。
香港がイギリスから中国に返還されたのが1997年。ぼくが訪れたのは香港返還の少し前、まだイギリスの租借地だった時代だ。
(ところで「香港」は英語で「Hong Kong」だから、「香港返還」は「Hong Kong Heng Kang」だ)

住んでいるのはアジア人でありながら統治はイギリス。あくまで租借地なので植民地ともまたちがい、中国とイギリスの文化が入りまじった独特の雰囲気があり、たいへんおもしろかった。
……のだろうけど、当時8歳だったぼくにはそんなことまったくわからなかった。なにしろ日本国内さえろくに旅行したこともないのだ。香港の文化が独特かどうかなんてわかるわけがない。

覚えているのは、旅行中ずっと雨が降っていたこと、泥棒市と呼ばれる市場で折り畳み式のはさみと、折り畳み式の時計を買ってもらったこと(香港人は折り畳むのが好きなのだろう)、そして満漢全席を食べたことだ。

満漢全席とは。
Wikipediaによると、
清朝の乾隆帝の時代から始まった満州族の料理と漢族の料理のうち、山東料理の中から選りすぐったメニューを取りそろえて宴席に出す宴会様式である。後に、広東料理など漢族の他の地方料理も加えるようになり、西太后の時代になるとさらに洗練されたものとなった。盛大な宴の例では途中で出し物を見たりしながら、数日間かけて100種類を越える料理を順に食べる場合もあったと言われる。
だ、そうだ。
さすがにぼくが食べたのは数日かけて食べるようなものではなかったが、それでも30以上の料理が順に出てくるコースだった。

電子レンジが古くなって、10分稼働させないとごはん一杯をあたためられなくなってもまだ買い替えず、ついにはお茶を温めながらぼかんという音を立てて大量の真っ黒い煙を噴きだすという、20人以上から一斉に刺されて死んだカエサルに匹敵するぐらいの壮絶な最期を遂げるまでボロい電子レンジを使いつづけた我が家からすると、一家心中前夜かと思うほどの贅沢だった。


まずはじめにフカヒレスープが出てきた。
フカヒレスープを食べるのは生まれてはじめて。
一口すすって、驚いた。
世の中にこんなにうまいスープがあったなんて。

スープといえば、家で出てくる具だくさんすぎて豚汁みたいになってるコーンとかぼちゃとにんじんのポタージュか、給食で出されるねじで出汁とってんのかってぐらい機械油くさいワカメスープしか飲んだことのなかったぼくにとって、はじめて口にするフカヒレスープは衝撃的なお味だった。


ものすごくうまかったフカヒレスープだが、そのときのぼくは半分ほどしか飲まなかった。
なぜなら、両親からこう言われていたから。「30種も料理が出てくるコースだから、全部食べてたら途中でおなかいっぱいになっちゃうよ」と。
なるほど。
30種のコースの最初に出てくるスープなど、しょせんは序ノ口。この後、二段目、三段目、十両、前頭、小結、関脇、大関、横綱、親方と徐々に手強い相手が出てくるにちがいない。
ぼくはさらなる美味に備えるため、フカヒレスープには半分しか手をつけなかった。

そして。
その後に出てきた料理は、ことごとく口にあわなかった。
子どもの味覚は保守的だ。食べなれた味を好み、珍しいものはあまり食べようとしない。動物の本能が濃く残っているのかもしれない。
そんな味覚保守党の8歳のぼくの口には、外国の料理などもちろんまったくあわなかった。

これはおいしくない。
これは辛すぎて食べられない。
これは風味にクセがありすぎる。

次から次へと出てくる料理を次から次へと残す。
さっき残したフカヒレスープをまた飲みたいと思うが、コースだからとっくに皿は下げられたあとだ。
こうして、途中でおなかいっぱいになるどころか最後までおなかに余裕を残したまま、ぼくの満漢全席デビュー戦は終わった(そしていまだに再戦を果たしていない)。

あれから二十余年。
今ではぼくも毎日おやつ代わりにフカヒレをかじれるぐらいの収入を手にするようになったが(サメ絶滅するわ!)、あのときの味を超えるフカヒレスープにはいまだに出会っていない。

やはりあのとき、後のことなど考えずにフカヒレスープを飲みほしておくべきだったと、今でもZang Nengでならない。

2016年1月30日土曜日

【読書感想】Newton別冊 『統計と確率 ケーススタディ30』

Newton別冊『統計と確率 ケーススタディ30』


統計の本は何冊か読んだけど、入門書としてはこの本が優れているように思う。
正規分布や標準偏差といった基本中の基本から、疑似相関や標本誤差といった陥りがちな失敗例まで取り上げている。

株価の変動、新薬の開発、スポーツの八百長調査、生命保険の掛け金の決め方、世論調査、ギャンブルで理論的に儲ける方法、迷惑メールの振り分け方、DNA鑑定が間違う確率など、社会のあらゆる分野で統計と確率は根幹を支えている。

この本では、ケーススタディというだけあって、それらをひとつひとつ、事例と図と数式で懇切丁寧に説明している。
統計を専門的に学ぼうという人よりも、むしろ数学も統計も苦手という人に読んでもらいたい。
なにしろ、さっきも書いたようにこの社会のありとあらゆるところで統計と確率は使われている。
ということは裏を返せば、統計と確率を知らなければ、さまざまな局面で不利益を被るということなのだから。



この本の中で紹介されている「疑似相関」について紹介。
1)
日本人男性の年収と体重には相関関係があります。体重が重い人ほど、年収が高い傾向がある。

2)
理系が文系かということと、指の長さの間に相関関係があります。理系の人々には人差し指が薬指より短い人が多く、文系の人々には同じくらいだという人が多いのです。

3)
図書館が多い街ほど、違法薬物の使用による検挙数が多い。
上の文章は、すべて間違ってはいないが、誤解を招く内容になっている。どこが問題か、わかるだろうか?

これらはすべて疑似相関で、因果関係があるように見えるのは以下の理由によるものだ。

1)年収が高いのは体重のためではなく、男性は年齢を重ねると体重が増える傾向にあり、年齢が高いほど年収も増えるので、因果関係があるように見える。

2)男性には人差し指が短い人が多く、男性には理系が多い。

3)図書館が作られるのは人口が多い街で、人口が多い街ほど犯罪の検挙数も多い。


わからなかった方は、統計にだまされないようにご注意を。
テレビで伝えられている統計なんか、こんなのばっかりですよ。