2015年10月24日土曜日
【エッセイ】おニューをおろす日
タンスの引き出しを開ける。
今日はどの服を着ようか。
そのとき、引き出しのいちばん奥に潜んでいるタグ付きの長袖シャツと目が合う。
これを買ったのは10ヶ月前だったか。まだ一度も袖を通していない。
おお、ひさしぶり。
んー、今日はおまえの出番じゃないよ。
わかってる。わかってるとも。
大丈夫だって、おまえにはここいちばんってとこで活躍してもらうんだから。
だってほら、今日は柴田と飯を食いに行くだけなんだから。あいつのまえでおしゃれしたってしょうがないだろ。
だから、な。
そのうち、な。
そして手前のよれよれのシャツを手にして、そっと引き出しを閉める。
この10ヶ月、ずっとこのくりかえしだ。
新品のシャツをおろせない。
やがて季節が代わって長袖シャツを着る機会はなくなる。夏の間、新品シャツはタグも切られぬままタンスの奥でじっと出番を待ちつづける。
ふたたび季節はめぐり、半袖では肌寒さを感じるようになってきた。
だがあいつの出番はこない。
まだ「そのとき」じゃない。
今日は新品をおろすほどの日じゃない。
ふと思う。
「そのとき」なんて来るのだろうか。
新しいシャツをおろすのにふさわしい日って、いったいいつなんだろう。
たとえば新しい彼女との初デート。
うん、これは「そのとき」だ。
でも、既に結婚してしまっているぼくには初デートの日は二度と来ない(来たらまずい)。
ぼくが出かける用事といったら、山に登るか、草野球をするか、2歳児とお砂遊びをするか、柴田と飯を食いに行くかだけだ。
そのどれもが、服が汚れる危険性を大いにはらんでいる(柴田と食事をすると、たいてい話に夢中になってぼくか柴田かが飲み物をこぼす)。
服が汚れるイベントにおニューの服を着ていくわけにはいかない。
だから新品の服をおろす機会は永遠にこない。タグはずっとついたままだ。
タグをつけていたって、今さら返品なんかできるはずない。買ったのは10ヶ月前だし、レシートはとっくにないし、それどころかどの店で買ったかも忘れてしまった。
だけどなんとなくタグは切れない。
「あたしとうとう独身のまま35歳になったけどまだ男の前では下ネタを聞いてもわからないふりをするのよ」、そんな感じだ。
だって新品なんですもの。
このシャツに袖を通す日は永遠に来ないのか。
この先もミートソースの染み付きシャツでぼくは柴田と飯を食いに行くのか。永遠に。
そう思っていた。
だが。
ついに。
このシャツを着る日がやってきた。
タグを切る日がやってきた。
新品をおろす日、それが今日。
今日、ぼくは服を買いにいく。
服屋の店員はみんなおしゃれだ。
あいつらになめられないためには、それなりにこざっぱりした格好をしなければならない。
新品のシャツをおろすのに、こんなにふさわしい日があるだろうか。
今日ぼくはまあたらしいシャツで服を買いに行く。
きっと、買ってきた服はタンスの奥底にしまうだろう。
もちろんタグは切らずに。
2015年10月22日木曜日
【エッセイ】しょせんはキヨシ
のどが痛いのでドラッグストアへ。
のどの痛みを抑える薬を持ってレジに並んでいると、おじいちゃん店員に声をかけられた。
「うがい薬はありますか?」
急に声をかけられたのでびっくりして、言葉が出てこず無言で首をふった。
「うがい薬がないなら塩水でうがいするといいですよ」
セットでうがい薬を売りつけようとする営業トークかと思ったが、どうも親切心でアドバイスしてくれているようだ。
塩水など勧めても金にはならないもんな。
「塩水が苦手ならお茶でうがいするのもいいよ。お茶でうがいして、最後に飲みこむんです。私はお茶でやってます」
おじいちゃんの話は止まらない。
「へえ。飲み込んじゃっていいんですか」
「そう。あとは四つ折りにしたタオルね」
「タオル?」
「タオルを四つ折りにして、のどに巻くんです。こうやって寝るとのどが楽になります」
「そうなんですか。じゃあやってみます」
とは言ったものの、しょせんここはマツモト○ヨシ。
調剤薬局で薬剤師さんに云われたらすなおにいいことを聞いたと思えるのに、マツモト○ヨシだといまいち信憑性に欠けるというかなんというか……。
所属や肩書きで人を判断するのはよくないんだけど、やっぱり疑わしいんだよなー。
アドバイスの内容も、医療従事者の指示ってよりも、おじいちゃんの知恵袋ってかんじだしな……。
のどの痛みを抑える薬を持ってレジに並んでいると、おじいちゃん店員に声をかけられた。
「うがい薬はありますか?」
急に声をかけられたのでびっくりして、言葉が出てこず無言で首をふった。
「うがい薬がないなら塩水でうがいするといいですよ」
セットでうがい薬を売りつけようとする営業トークかと思ったが、どうも親切心でアドバイスしてくれているようだ。
塩水など勧めても金にはならないもんな。
「塩水が苦手ならお茶でうがいするのもいいよ。お茶でうがいして、最後に飲みこむんです。私はお茶でやってます」
おじいちゃんの話は止まらない。
「へえ。飲み込んじゃっていいんですか」
「そう。あとは四つ折りにしたタオルね」
「タオル?」
「タオルを四つ折りにして、のどに巻くんです。こうやって寝るとのどが楽になります」
「そうなんですか。じゃあやってみます」
とは言ったものの、しょせんここはマツモト○ヨシ。
調剤薬局で薬剤師さんに云われたらすなおにいいことを聞いたと思えるのに、マツモト○ヨシだといまいち信憑性に欠けるというかなんというか……。
所属や肩書きで人を判断するのはよくないんだけど、やっぱり疑わしいんだよなー。
アドバイスの内容も、医療従事者の指示ってよりも、おじいちゃんの知恵袋ってかんじだしな……。
2015年10月21日水曜日
2015年10月20日火曜日
【読書感想】 みうらじゅん・宮藤官九郎 『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』
『ゆるキャラ』の名付け親と『あまちゃん』の原作者の対談、と書かれている書評があったが、それはまちがってないけどまちがってるぞ!
いや、たしかにそれはみうらじゅんと宮藤官九郎のことなんだが、その説明では彼らのことを1パーセントも言い表していない。1パーセントどころかマイナス50パーセントの説明だ。
だって「ゆるキャラとあまちゃんの産みの親による対談」って云っちゃったら、老若男女が楽しめる話だと思われてしまう。まさかまさかチンポとクンニと親孝行の話ばかりだとは思わないだろう(ただの下ネタではなく親孝行の話も並ぶのがさすがみうらじゅんだ)。
それにしても内容がない。いや、褒め言葉ね。
酒の席の世迷い言にふさわしく、根拠もとりとめも正確さもない話ばかりがくりだされる。仮にも編集者がきちんとまとめて活字になったものを読んでいるわけだから、元の対談はほんとに支離滅裂だったにちがいない。
読んでいるときは楽しいが、読み終えてみると見事に何も残らない。まさに酒の肴のような対談。
気のおけない友人とだらだらくっちゃべるみたいなものなので、そういうのが好きでない(すなわち人生における無駄を愛せない)人からするとまったくおもしろくない本だろう。まあそういう人がこの本を手に取るとは思えないが。
とまあ、何の役にも立たないすばらしい本なのだが、惜しむらくは宮藤官九郎のトークがやや弱いところ。
いや、クドカンの話もそれだけ見ると十分おもしろいのだが、みうらじゅんと渡り合うほどの異常性は感じられないんだよなあ。
みうらじゅんといえば、いとうせいこうだったり伊集院光だったりリリー・フランキーだったりと組んでクレイジーな対談をくりひろげてきたわけだけど、そういったタッグに比べると、クドカンは見劣りする。
もう少し、演劇の話とかクドカン寄りの話題があってもよかったな。ほとんどエロバカ話で、みうらじゅんの十八番だからなあ。
いつものみうらじゅんと聞き役、という感じでした。
2015年10月19日月曜日
【エッセイ】無駄を避けるという無駄
快速電車が停車しない駅に行くとき。
調べたところ、快速に乗って目的地のひとつ先の駅まで行き、そこから普通電車で引き返すのがいちばん早い行き方だとわかる。
いやだ。
行った路線を引き返すなんて、そんな無駄なことしたくない。
余計に時間がかかると知っていても、はじめから鈍行で行く。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ラーメンを食べたい。
店の前にふたりほど並んでいる。
10分ほど待てば店に入れそう。
でもいやだ。
何をするでもなくただ並ぶなんて、そんな無駄なことしたくない。
10分並ぶぐらいだったら、10分歩いて別の店に行く。
その分余計にカロリーを消費してしまうとしても、10分間を移動という有意義なことに使いたい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「無駄なことが嫌いなあまり、無駄なことをしてしまう」
この感覚、他人にしゃべっても理解してもらえないんだよな……。
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