2015年12月16日水曜日

【読書感想文】 長野 伸江 『賞賛語(ほめことば)・罵倒語(けなしことば)辞典』


『賞賛語(ほめことば)・罵倒語(けなしことば)辞典』

長野 伸江

内容(「BOOK」データベースより)
ほめることば・けなすことば「サラリーマン」「妻」「夫」といった対象別に紹介。ことばの達人たちの実例から、「ほめる・けなす」のテクニックも学べます。

辞典と銘打たれてはいるが、辞典としての有用性はほぼゼロ。
でも読み物としてはおもしろい。
1770年刊の『遊子方言』で、「茶漬けを食べる」という意味の「茶づる」なる言葉が使われている、みたいな雑学も数多く拾える(「サボる」「タクる」のように名詞に「る」をつけて動詞にするのは200年以上前から日本人はやってたんだね)。あと「社畜」は1987年にはすでに使われていたとか。

古典文学、俳句、狂歌、現代小説、法律などさまざまな媒体から「ほめ言葉」「けなし言葉」の用例を拾ってきているが、だんぜんおもしろいのはけなし言葉のほう。なんならけなし言葉だけでもいいぐらい。
腰弁当、筍医者、文字芸者、小糠婿など、誰かを小馬鹿にする言葉には洒落が利いたものが多い。

褒めるときはたとえ拙い言葉で褒めたってかまわない。むしろたどたどしい語り口のほうがお世辞っぽさが消えて真実味が増す。
でも。けなすときはそうはいかない。
へたな悪口は、言われた本人を怒らすのはもちろんのこと、傍で聞いている人まで不快にする。
だから人をこばかにするときは知恵と技巧が必要だ。

「行動できる者は行動する。行動できない者が師になる」
英国の作家であるバーナード・ショーの言葉だ。
なんと知性にあふれた悪口だろうか。
見事な悪口は、褒め言葉よりも人を楽しませてくれる。

2015年12月15日火曜日

【読書感想文】 桐野 夏生 『グロテスク』

桐野 夏生 『グロテスク』

内容(「BOOK」データベースより)

名門Q女子高に渦巻く女子高生たちの悪意と欺瞞。「ここは嫌らしいほどの階級社会なのよ」。悪魔的な美貌を持つニンフォマニ アのユリコ、競争心をむき出しにし、孤立する途中入学組の和恵。ユリコの姉である“わたし”は二人を激しく憎み、陥れようとする。圧倒的な筆致で現代女性 の生を描ききった、桐野文学の金字塔。

読みごたえのある小説だった。
ただ、おもしろい、という感想は出てこない。あえて言葉にするなら、気持ち悪い、がいちばんふさわしいだろうか。
残虐な描写があるわけではない。恐怖をあおるような文章でもない。ただ、じわりと不快な気分になる。読んでいる間ずっと。

脇役を入れて数十人の登場人物が出てくるのだが、その誰も彼もが周囲に対する悪意を隠そうともしない、嫌なやつだらけだ。
さらに主要な登場人物はみな歪んだ考えを持っていて(歪み方もそれぞれちがう)、ずっと読んでいると、度のあってない眼鏡をかけつづけているような気持ち悪さがまとわりつく。
それなのにページを繰る手が止まらない。
この小説には魔力が宿っている。ぼくがいちばん薄気味悪さを覚えたのは、登場人物以上に、作者に対してだった。

「嫌な話」を書くのは、ハッピーな話の何倍も体力を使う。
ぼくは趣味でものを書いているだけなので、オチをつけたり、冗談を挟んだりして、少しでも口当たりをまろやかにする。これは読む人のためというより、むしろ自分のためだ。ネガティブなことばかり書いていると、風邪をひいたときのようにどっと倦怠感に襲われるからだ。

だからぼくは、徹頭徹尾「嫌な話」を書ききった、桐野夏生という人がおそろしくてならない。
ここまで悪意に満ちた(ほんとに「満ちた」としか言いようがない)小説を書いているからてっきり狂気の世界の住人かと思いきや、母親として子育てをしていながら書いていたらしい。
それ、かえって怖いぞ。
自分の母親がこんな小説を書いていたらと思うと、おお、身震いが止まらない。


【関連記事】

【読書感想文】桐野夏生 『東京島』



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2015年12月14日月曜日

【エッセイ】電子クリスマス

知人が
「小学生の息子がクリスマスプレゼントに電子顕微鏡を欲しがってるんだけど、値段高くないかな?」
と言っていたので、

「大丈夫ですよ、安いやつだったら数百万円で買えますよ!」
と教えてあげた。

「ええ!? そんなに高いの!?」

「いや、安いですよ。いいやつなら億を超えるんで」

「よく知らないけど、電子顕微鏡ってそんなにするのか……」

「ふつうは大学とか研究機関が買うやつですからね。息子さん、光学顕微鏡とまちがえてるんじゃないですか?」

「あ、そうかも。光学顕微鏡ってのは安いの?」

「そうですね。電子顕微鏡よりはだいぶ安いですよ。数十万円で買えます」

2015年12月13日日曜日

【エッセイ】誰かのいつもの

 散髪に行った。
「いつもと同じでいいですか?」
と聞かれた。
「はい、お願いします」

 で。
 いつもよりかなり短い。
 ぜったい誰かとまちがえてやがる。

 というか。
 よく考えたら、はじめて行った美容院だった。

2015年12月11日金曜日

【考察】最近のリセット事情

「最近の子はゲームのやりすぎで、現実もリセットできると思っている」
という言説があるけど、

本だって途中で放り出した後にまた最初から読みはじめられるし、

サッカーでボロ負けしても次の試合は0ー0からはじまるし、

将棋や囲碁だってかんたんにリセットできるし、

絵を描き損じたら新しい画用紙にいちから描けばいいし、

ゲームにかぎらずたいていの趣味はリセット可能なんだけどな。


最近の老人はリセットするという発想ができないから、「気をとりなおす」ことができなくて、気に食わないことがあるとすぐ暴力に走っちゃうのかな?