2015年6月20日土曜日

シュレッダー取扱者


会社で大きなシュレッダーを買ったんだけど、こいつがすごく怖い。

だってとにかく大きいんだもん。
あたしくらいの大きさの貴婦人なら、軽々と飲み込んでしまえそうなサイズ。
一回も中のごみ袋を交換することなく、ふたりくらいは裁断できると思う。

おまけに何がおそろしいって、車輪がついてること。
たぶん、あんまり大きくて持ち運びが困難だからなんでしょうね。
鋭い歯とありあまる重量感だけでも恐怖なのに、機動性まで身につけてる。

もはや125ccくらいはあるんじゃない?

幸い、今のところこいつは高い知能は持ってないみたい。
エサ(不要紙)を与えられたときだけ食らいついて、ばかみたいにひたすら咀嚼してる。
鳥のヒナくらいの知性しか持ってない。

でも鳥のヒナってことは、ゆくゆくは成鳥になる可能性を秘めてるわけよね。
こいつが自由の翼を手に入れたとき。
考えただけでもぞっとする。

巨大なシュレッダーが、車輪をきしませながら次々に人を襲う。
逃げまどう子ども、立ち向かう男、巻き込まれるネクタイ、そして断末魔を残してシュレッダーに吸い込まれてゆく人々。

人類はDNAレベルで切り裂かれ、個人情報の断片と化す。
そのとき人間たちは思い知る。
個人情報保護という名のもとに、とんでもないモンスターマシンを産みだしてしまったことを……。

だからあたしは思うの。
この巨大シュレッダーを扱うためには、危険物取扱者資格か、せめて大型一種免許は必要にするべきだって。

2015年6月19日金曜日

こんにゃく外交


中国や韓国では、自国の国旗を燃やすのは違法、他国の国旗を燃やすのは合法らしい。

日本は逆で、他国の国旗を燃やすのは違法、自国はセーフ。

なんとなく外交姿勢が透けて見えておもしろい。

アメリカはというと、かつては「星条旗を損壊したものを罰する」という法律があったが連邦最高裁において違憲とされた。
なぜならアメリカ星条旗は「万人の自由と平等」を象徴するからだ。「星条旗を燃やす」ことも星条旗が象徴する自由に含まれる、というわけ。

その結果、星条旗を燃やすことに「アメリカに挑戦状を叩きつける」という意味はなくなった。
なぜなら星条旗を燃やすことは、星条旗の保証する自由に与することになるからだ。
攻撃していると思っていたのに、気づいたら相手の術にからめとられているという合気道のような技だ。

外交の極意はこんにゃく問答。

2015年6月18日木曜日

マメ喧嘩

往来で、交通違反で捕まったおっさんが、ものすごい剣幕で警察官に怒っていた。
けっこう口汚く罵倒していたのだけど、おっさんがずっと左手にマメ柴を抱えていたおかげで、意外となごやかな雰囲気につつまれていた。

このへんに世界平和のカギがあるような気がする。

2015年6月17日水曜日

年齢マニュアル

会社に新しく入ってきた女性に「いくつ?」と尋ねたら、「いくつに見えますか?」と逆に聞き返された。

こういうときは自分と同じ年齢を答えるのがいいと聞いたことがある。
「同い年だとうれしいなあと思ったから」と言うと好印象だからだという。

さっそく実践。
「同い年ぐらいかな?」
と言うと、あからさまに嫌そうな顔をされた。

実際の年齢を訊くと、7歳年下だった。

おいマニュアル使えねえな!


2015年6月16日火曜日

裏鈴木と国技の危機

 そりゃ泣くよ。
 あいつが結婚したんだもん。

 元カレ? じゃない。
 ずっと恋い焦がれてた人でもない。

 学生時代の友達。
 裏鈴木キミコって女。

 あたし、裏鈴木キミコは結婚しないと思ってた。
 だって裏鈴木キミコって、2年くらい前、ひとりで国技館に相撲みにいってたのよ。
 しかも初日。千秋楽だったらまだわかるけど初日。
 ひとりで大相撲の初日をみにいくような女が結婚できるわけないってのは日本の国技はじまって以来の常識じゃない。
 なのに結婚することになったの。これもう国技の危機よね。


 話がそれたわ。
 あたし、裏鈴木キミコが結婚するって聞いて、急いで裏鈴木キミコに電話したの。
 夜中の2時だったけどしったこっちゃないわ。
 ことは一刻を争うもの。
 そして問いただしたわ。結婚したら苗字はどうするのって。

 答えを聞いて愕然とした。
「加藤」ですって。
「裏鈴木っていう名前、嫌いだったからよかったわ。めずらしいから名乗ったときに必ず聞き返されるし。やっぱり平凡な苗字がいいわよ」なんて平然と言うのよ。
 信じられない。なんて無神経なのかしら。
 電話じゃなかったら、あたし、ごぼうで裏鈴木キミコの頭をひっぱたいてるとこだったわ。
 電話線がごぼうを通さなかったことに感謝してほしいわよね。

 あたしは「裏鈴木にしなさいよ」って説得したけど無駄だった。
「もうお互いの家で話はついてるから」って、聞く耳持たずよ。


 悔しくって悔しくって、泣いたわ。
 男女同権とか言うつもりはないよ。
「裏鈴木」っていうめずらしい苗字が消えゆくことに思いを馳せて泣いたのよ。

 裏鈴木キミコって、お姉ちゃんと二人姉妹なの。
 でもお姉ちゃんも結婚して、今は別の苗字。
 だからその家の「裏鈴木」の苗字を受け継ぐ人はいなくなるの。
 もしかしたら日本で最後の裏鈴木家かもしれない。
 裏鈴木キミコのお父さんとお母さんが死ぬとき、「裏鈴木」の苗字は消えてなくなっちゃうかもしれない。

 こんな悲しいことってある?
 トキが絶滅するかもしれないってニュースで言ってるけど、すごい勢いで地球上から森が消失してるって新聞には書いてあるけど、こうしている間にも、日本中でめずらしい苗字が絶滅していってるのよ。

 めずらしい苗字は絶滅の危機に瀕している。
 子どもが生まれなかったり、生まれた子どもが結婚して相手の苗字に変えちゃったりしたら、その苗字は消える。
 あと何千年か、何万年かしたら、日本は「佐藤」「鈴木」「田中」「山田」「山本」「高橋」なんかの平凡な苗字で埋めつくされている。

珍名さんがひとりもいなくなったら、この世の中は0.2%ほどつまらなくなるよ。
 

 だからあたし、25歳になったら選挙に出ようと思うの。
 国会で法案を通すために。
 あたしの法案はこう。
「結婚後の苗字は、夫と妻の苗字のうちめずらしい方を名乗らなくてはいけない」

 山田さんと長万部さんが結婚したら、どっちが男であっても、長万部さんの苗字を名乗らなくてはならないの。
 こうすれば、めずらしい苗字が絶滅する危険性はぐっと減るはず。
いいと思わない?