野球場めぐりを趣味にする作家がめぐる、日本全国+台湾の野球場の旅。
それも、沖縄のプロ野球春季キャンプを見学し、東北にイースタンリーグ(2軍)の試合を観にいき、広島で消化試合を観戦し、熊本でマスターズリーグ(OBによるリーグ)を眺める。
イースタンリーグや消化試合など、野球のゲームとしてはとても地味。
でもそれがいい。
シチュエーションが地味だからこそ、野球場の描写と試合内容が映える。
ふだん野球を語るときって、試合展開だったりダグアウト(ベンチの中)がすべてなんだけど、この本で書かれているのは、土や芝やフェンスの球場の設備自体だったり、観客席にいる人々だったり、球場の外に見える森だったり。
このへんに作者の『野球場愛』が感じられるね。
沖縄の北谷球場を訪れたときの章から。
この短い文章だけで、北谷という地方球場にいってみたくなる。
ぼくもけっこう野球観戦は好きなので、7つの野球場に行ったことがある。
その中で圧倒的につまらなかった野球場は某ドーム球場。
ドーム球場って、野球しか観るものがないんだよね。
野球を観にきてるからそれでいいじゃないかと思われるかもしれないけど、プレーする側はともかく、観るほうは2時間も3時間も集中して観てられない。
だから、外に目を向けたり、風を感じたりできないドーム球場ってほんとに居心地が悪い。
昔のパ・リーグは観客が少なすぎて、寝転んでいるおっさんがいたり、走り回っている子どもがいたりして、そういうおおらかさも野球場の魅力のひとつだったんだけど、ファイターズ、ホークス、今はなきバファローズ、ライオンズが次々に本拠地をドーム球場にして、それにあわせるようにしてああいう光景も観られなくなった。
主催者としては観客がたくさん入って天候に左右されずに試合のできるドーム球場のほうがいいに決まってるので、おっさんの世迷い言だとはわかっていても、やっぱり観ていて楽しいのは屋外球場のほうなんだよなあ。
その証拠に、数年前に甲子園球場を改装したときに「甲子園球場をドーム球場に」という声はほとんど出なかった(多少はあったんだろうけど)。
やっぱりみんな、甲子園球場がドームになったら高校野球の魅力が大きく損なわれることに気づいてるんだろうな。
ふだんプロ野球の試合をしない愛媛・松山でプロ野球の公式戦がおこなわれたときの章。
ヤジとか売り子って、じっさいに球場に行かないと味わえない、野球観戦をいろどる小道具のひとつなんだよね。
特に、ひいきチームの選手に対するどぎついヤジ(敵チームじゃないですよ)は、プロ野球の醍醐味といってもいい。
個人的にはヤジはあまり好きではないんだけど(たまにすごくおもしろいヤジを飛ばす人も多いですが下品なだけのことが多い)、球場の売り子はすごく好きだ。
球場の売り子って、女も男も3割増しくらいに魅力的に見えるんだよね。
ほんと、感じの悪い売り子って見たことないもんな。ふしぎ。
新鮮でおもしろかったのは、台湾で日本のプロ野球公式戦がおこなわれたときの章。
とにかく熱気がすごい。
どう、この、豪雨の音をかき消すような大歓声が聞こえてくるような熱気のこもった文章。
いやあ、いいルポだ。
台湾では日本のプロ野球が人気あるんだね。日本でメジャー・リーグの試合をやっても(やってたことあるけど)、まちがいなくこんなに盛り上がらない。
毎年台湾で試合をやったらいいのに。
読んでいると、今週末にでも野球場に足を運びたくなる。
優勝のかかった試合とかクライマックスシリーズとか、そんなのでなくていい。
なんでもない試合。
これは広島・尾道での消化試合を観戦したときの文章だけど、この気持ち、よくわかる。
ぼくはほぼ毎年、夏に甲子園に高校野球を観にいく。
行くのはたまたま予定のあいていた日。どの高校が出るかをろくに調べずに行く。
自分にはまったく縁もゆかりもない新潟代表と宮崎代表の試合を観たりする。
高校野球ファン以外からは「知っている選手がひとりもいない、地元代表でもない学校の試合なんて観ておもしろいの?」と云われるのですが、これがおもしろい。
むしろ、どちらの学校にも思い入れがないからこそ、ゲームの中身自体をおもいっきり楽しめる。
好ゲームになることを期待し、いいプレーには敵味方関係なく称賛の拍手を送り、最後のバッターには激励の声をかける。
こういう純粋な野球の楽しみ方はなかなか球場に足を運ばないとできないからね。
もちろん、一緒に行った友人と昼飯を賭けてどちらのチームが勝つかを予想する不純な高校野球の楽しみ方も、それはそれで楽しいんだけどね!
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