いつの時代においても、教育の世界では「思いこみ」がまかり通っている。
というより思いこみ以外の言説をほとんど聞いたことがない。
新聞で、教育誌で、テレビで、教育評論家や教師や息子を東大に入れた(この言い方がそもそもおこがましいんだけど)母親が語っているのは、どれも「自分の体験に基づいた話」であって、科学的な知見ではない。
「わたし、毎日トマトを食べるようにしたらなんとなく体調がいいような気がするんです」というレベルの話ばかり。
それを聞いてぼくが思うことはただひとつ。
へーそう。
ただそれだけ。
「わたし、3人の息子にはゲームをさせませんでした。息子たちは3人とも東大に入りました。だからゲームはさせるべきではありません」
へーそう。
オモテが出ることを念じながらコインを3回投げて、3回ともオモテが出たら、自分に超能力があると思っちゃうタイプの人なんだー。へーそう。
偶然が続いたとか、そもそもオモテが出やすいコインだったとかの可能性は考えられない人なんだー。
『学力の経済学』は、さまざまな実験結果を紹介して、自称“教育者”たちの個人的見解を一蹴している。
「ご褒美で釣って勉強させるのは、釣り方によっては効果的」
「ゲームを禁止したからといって勉強するようになるわけではない」
「『褒めて伸ばす』は、褒めかたによっては逆効果」
「成績の良い子は自尊心が高いが、自尊心を高めると成績が良くなるわけではない。むしろマイナスになることもある」
「少人数学級は、社会的に見れば損失のほうが大きい」
「教員免許制度をなくしたほうが教員の質は上がる」
どれも一見意外な結果だけど、著者の考察を読んでみるとなるほどと思わされる。
残念なのは、紹介されている研究結果のほとんどが海外の研究者によるものだということ。
日本ではまだまだ科学的根拠よりも、教師や親や元・生徒の「私の経験によると……」というバカな意見が幅をきかせているからなんだろうね。
テレビドラマで金八先生を演じただけの俳優が教育者代表みたいな顔でもっともらしいことを語って、それを親が神妙に聞き入っているぐらいだもの。
科学的に正しい研究結果というのは
「親が金持ちの子のほうが勉強ができる」
「美人の先生のほうが生徒からの授業評価が高い」
「周囲の子の成績が良いと、成績が良くなる」
という身も蓋もない結論が出てくるから、聞いていて気持ちいいものではない。
だから努力と根性が大好きな人にはなじまない。
教師からすれば、「努力すればなんでもできる!」と思ってくれる単純な子のほうが扱いやすいだろうし。
だからこれらの“事実” をすべて子どもたちにつまびらかにしろとは思わない。
でも「努力ではなく素質で決まる要素のほうが圧倒的に多い」という事実を知らないのと、知りながら便宜的に“努力と根性”を使うことは、ぜんぜん違う。
教師が、「努力と根性が重要なときもあるし、そうでないときもある」と思ってくれるだけで、学校が嫌いな子どもはずっと少なくなるんじゃないかな。
最後に、「努力すればなんでもできる!」の人たちに伝えたいことを引用。
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