曽根 圭介『藁にもすがる獣たち』
いやあ、実に「うまい」小説だった。
曽根圭介のデビュー作『鼻』に奇妙な味わい深さがあったので、気になっていた作家だった。
『鼻』はおもしろかったけど、決してうまい小説ではなかった。
デビュー作だったこともあって、むしろ文章の拙さが目立った。
だからこそ着想の奇抜さが余計に光っていたんだけど。
でも、この『藁にもすがる獣たち』はストーリーの転がしかたがほんとに鮮やかで、あの作家がこんなにうまくなるのかと驚いた。
文章は相変わらず決して美麗とはいえないけど、逆にいえば余計な装飾が施されていないおかげで内容が頭に入ってきやすいわけで、これはこれでいいと思う。
三人の登場人物が出てきて交互の視点で語られるんだけど、この三人が三者三様にじわじわと追い詰められてゆく。
このへんの描写がほんとに巧みで、読んでいて背中にじわっと嫌な汗が浮かんできた。
ぼくはよく、犯罪をして誰かに追われる悪夢を見るんだけど(現実には追われるようなことはしてないんですけどね。まだ)、ちょうどそんな夢を見たときのような気持ち悪さがまとわりついてくる読中感だった。
ラストも救いのない感じなのでハッピーな話が好きな人にはおすすめできないけど、サスペンスミステリとしては上質な味わいだね。
特に後半の怒濤の展開は見事。
トリック自体はさほど新奇なものではないけど、ミスリードがうますぎて、まんまとひっかかってしまった。
曽根圭介ってこんな重層的なミステリも書けるんだね。
まだ二作しか読んでないけど、底の知れない作家だ。
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