【読書感想文】半藤 一利『幕末史』

半藤 一利『幕末史』(新潮社)


内容(「BOOK」データベースより)

嘉永六年(一八五三)六月、ペリー率いる米艦隊が浦賀沖に出現。役人たちは周章狼狽する。やがて京の都はテロに震えだし、 坂本龍馬も非業の死を遂げる。将軍慶喜は朝敵となり、江戸城は開城、戊辰戦争が起こる。新政府が樹立され、下野した西郷隆盛は西南戦争で城山の地に没す ―。波乱に満ち溢れた二十五年間と歴史を動かした様々な男たちを、著者独自の切り口で、語り尽くす。


 まずこの本を読もうと思ったきっかけについて。
 ぼくは幕末の歴史をぜんぜん知らない。日本史専攻じゃないし、小中学校の歴史の授業では多くの学校と同じように、授業時間がなくて幕末以降はすっとばしていた。大河ドラマも観ないし、司馬遼太郎もほとんど読まない(司馬遼太郎を読んだからといって正しい歴史観が身につくとは思えないが)。
 そんなわけで幕末~明治初期の知識が希薄で、尊皇も攘夷も徳川慶喜も大久保利通もよく知らない。西郷隆盛のことはちょっと知っているが、“着物で犬を散歩させていたブリーダー”だったという以上の事実は知らない。
 そして、坂本竜馬のことは大嫌いだ。これは以前にも書いたが、ぼくが知る限り『竜馬に自分を重ね合わせている人間は全員クズだから』という理由によるものであって、竜馬本人が何をやったやつなのかは、やはりわからない。
 そんな“竜馬に自分を重ね合わせてそうランキング”上位の某氏が「明治維新はすごい!今の日本にはもう一度維新が必要だ!」とのたまうので、幕末史についての本を読もうと思いたった。


 前置きが長くなったが、『幕末史』について。
 幕末の動きが系統立てて説明してあるかというと、そんなことはない。エピソードをつぎはぎしているだけだし、著者としては当然のことと思って省略されていることも多いので一読して理解できないことも多い(大人になって勉強しようとすると、中学校の教科書ってすごくよくできていたんだなあと実感する)。

 まあ知識を獲得できないことなんかどうでもいい。
 読書の楽しみは知識を得ることと無関係だし、また著者の狙いでもない。丹念に集められた逸話や人となりを読むだけで、その時代に流れていた空気がなんとなく感じとれる。
 これはもう想像でしかないけれど、幕末~明治維新の頃の空気というのは、人の一生でいうところの中学生くらいの感覚に近いんじゃないだろうか。
 世の中のことが見えてきて、周囲の矛盾にも気がついて、青い正義感に燃えて何とかしないといけないと感じながらもまだ何者でもない自分にもどかしさを覚えていらいらしてばかり。
 ちょっとしたことで仲間と衝突したり、必要以上に自分を大きく見せようとしたり、外国に無謀な喧嘩を売ってみたり、もう幕末って中学生でしょ。いやあ、青くさい。

 でもたいていの中学生が、十年たてばそれなりにまともな大人になるように、幕末以降の日本もまあなんとかそこそこの近代国家になった。
 当然ながら、中学生が心身の急激な変化にともなって数多くの失敗をして他人に迷惑をかけまくるように、明治維新も多大なる犠牲の上に成し遂げられたものだ。
 それを「いろいろあったけどおかげで日本も近代化されてよかったね!」と鼻くそほじりながらのんきに言えるのは後の時代の人だけで、そのときに殺された人からすると「知らんがなそんなこと」であろう。

 だから明治維新は大きな改革であったことはまちがいないが、最善の方法だったわけではない。当時はそれしかなかっただけで、結果的に大失敗はしなかったというだけの話だ。だからそれをやたらと美化してほしくない。
 かつての不良が「おれもいろいろやんちゃしたけど、今はこうして更正したから、あれもいい思い出だよ」なんていうのは身勝手な回想で、当時その不良にぶん殴られてカツアゲされた少年からするとくそ食らえ、なわけだ。

 中学生時代があるから今のぼくがある。だからあの頃の自分を否定はしない。でも、じゃあもう一度中学生に戻りたいかと言われると即答でNOだ! 
「今こそ日本に維新を!」なんて言うやつは新撰組に斬られちまえ!



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