【読書感想文】外山 滋比古 『思考の整理学』

外山 滋比古 『思考の整理学』

内容(Amazonより)

アイディアが軽やかに離陸し、思考がのびのびと大空を駆けるには?自らの体験に則し、独自の思考のエッセンスを明快に開陳する、恰好の入門書。

 ぼくが本屋で働いていたとき、なぜだか知らないけどずっと安定的に売れつづけていた本でした。
単行本が刊行されたのが1983年。ずいぶん古い本です。

「アイデアを思いつくにはどうすればいいか」
「アイデアを整理するときはどんなことに気をつけるべきか」
「思い付いた事象をさらに深めて思索するにはどうすればいいか」

といった内容なんですが、この本が書かれた時代と今では、情報の整理方法は大きく変わっています。
なにしろ1983年といえば家庭用コンピュータも携帯電話も普及していなかった時代。インターネットは影も形もありませんでした。
そんな時代に書かれた情報整理術が今の時代に役に立つのかいな、と思いながら読んでみたのですが、驚くことにぜんぜん古びていない。

というより、今の時代にこそふさわしい内容なんじゃないかとさえ思うぐらい。

 これまでの学校教育は、記憶と再生を中心とした知的訓練を行なってきた。コンピューターがなかったからこそ、コンピューター的人間が社会で有用であった。記憶と再生がほとんど教育のすべてであるかのようになっているのを、おかしいと言う人はまれであった。コンピューターの普及が始まっている現在においては、この教育観は根本から検討されなくてはならないはずである。学校だけの問題ではない。ひとりひとりの頭のはたらきをどう考えるか。思考とは何か。〝機械的〟〝人間的〟概念の再規定など、重要な課題がいくらでもある。
 この本が、知ること、よりも、考えることに、重点をおいてきているのも、知る活動の中には、〝機械的〟側面が大きく、それだけ、〝人間的〟性格に問題をはらんでいるとする考え方に立っているからである。

こういうスタンスで書かれているので、時代や環境の変化に依らない普遍的な内容になっているのでしょう。

たとえば読書について。

 ことばでも、流れと動きを感じるのは、ある速度で読んでいるときに限る。難解な文章、あるいは、辞書首っぴきの外国語などでは、部分がバラバラになって、意味がとりにくい。残像が消滅してしまい、切れ目が埋められないからである。
 そういうわかりにくいところを、思い切って速く読んでみると、かえって、案外、よくわかったりする。残像が生きて、部分が全体にまとまりやすくなるためであろう。

これ、ほんとにそうですよね。
わからないから時間をかけてじっくり読んでしまいますが、流し読みすることで概要がつかめるってことはありますよね。

ちょっと前にスピードラーニングってのが流行っていましたが、それも一緒の考えでしょう。特に外国語の学習だとこういうアプローチが有効なのかもしれません。

ぼくもVBA(プログラミング言語)を学習したときは、はじめはちんぷんかんぷんでしたが、わからないなりに本を最後まで読み通すことで、さかのぼって学習しやすくなりました。


 めったにメモをとらないことだ。ただ、ぼんやり聴いていると、大部分は忘れるが、ほんとに興味のあることは忘れない。こまかく筆記すると、おもしろいことまで忘れてしまう。
 つまらないことはいくらメモしてもいい。そうすれば、安心して早く忘れられる。大切なことは書かないでおく。そして、忘れてはいけない、忘れたら、とり返しがつかないと思っているようにするのである。

メモを書くことって短期的な記憶にはつながると思うんですよ。ノートをとることは定期テストには有効。
でもそういうことって長期的な記憶として定着しにくい。社会人のみなさん、自分が学生時代にノートにとったこと、たとえ1行でもおぼえていますか?
くだらない雑談はおぼえていても、書いて記録したことって忘れちゃうんですよね。

ぼくもこうしてブログを書いていますが、数ヵ月前に書いたことをまったく覚えていない。ほとんど同じことを2回書いたこともあります(単純な老化による記憶力の低下かも?)。


「いかにして知識をたくわえるか」ではなく、
「いかにして知識を整理して、余分な情報を削除するか」について書かれている箇所が多いです。
情報があふれていて、脳で記憶しなくてもかんたんに外部装置に貯めておける現代だからこそ、ヒントになる言葉がたくさんあります。

論文を執筆する若い研究者に向けて書いているようですが、仕事にも創作にも役立つ一冊だと思います。


......と、こうやって書いたからもうこの本のことは忘れちゃうかも。



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