沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う
山舩晃太郎
著者は水中考古学者であるらしい。水中考古学とは何か。文字通り水中にもぐって沈没船を調査し、船の構造や積み荷から、昔の船について解き明かす学問らしい。へえ、そんなものがあるなんて。
今でこそ船といえばレトロなイメージのある乗り物であるが、ロケットや飛行機が登場するほんの百数十年前までは船は最先端の乗り物だった。つまり当時の科学技術の粋が船に詰めこまれていたわけで、船を調べればかつて存在していた文明についてもいろいろわかるらしい。
また水中は酸素が少ないし人や獣が来ないこともあって、泥をかぶったりした場合、何百年も前の船がつい先日沈んだかのような保存状態で見つかることもあるそうだ。
陸上では何百年も残り続けるのは石造りの建造物ぐらいだが、水中では木造船でもそのままの形で残ることがあるので、考古学の世界では水中は貴重な資料の宝庫であるそうだ。
このようにめずらしい世界に情熱を捧げる研究者が書いた本。こんなのおもしろくないわけがない! と読みはじめたのだが……。
あれっ、どうもおもしろくないな……。いや決してつまらないわけじゃないのだが。でもこんなわくわくする題材を扱っているのに、なーんか地味なんだよな。
著者が「どう、これおもしろいでしょ!」と書いてるとこと、我々ド素人読者が「こういう話を読みたい!」とおもうことにだいぶズレがあるんだよな。詳しい調査方法や水中考古学的にすごい技術を知りたいわけじゃなくて「こんな危ないことがあったぜ」とか「水中調査にはこんな苦労があるぜ」とか「こんなおもしろこぼれ話があるぜ」ってのを読みたいわけで。
これは著者というより編集者の腕によるものだろうな。研究者がおもしろがるポイントなんてだいたいふつうの人とはちがうんだから、そのまま書かせたっておもしろくならない(中にはめちゃくちゃおもしろい文章を書く研究者もいるけど)。編集者が「そこは一般の人が知りたがるとこなんで詳しく!」とか「ここはもっと短くてもいいとおもいます」とか一般人の感覚に近づくように導いていればなあ。
今まで、ダニの研究者とか、アフリカでバッタを追いかけてる人とか、カラスの研究してる人とか、キリンの解剖してる人とか、いろんな研究者の本を読んできたけど、ほぼハズレなくおもしろかった。だから「何の役に立つんだかわからない変わった研究をしている人の本はおもしろい」というイメージがあったんだけど、それは編集者の(もちろん著者のも)いい仕事があったからなんだなあ。
沈没船なんてふつうに生きていたら目にする機会もないし、聞くことも耳にすることもない。2022年に知床で遊覧船の沈没事故が起こり、大ニュースになった。大きなニュースになるぐらいだからめったに起こらないんだろうとおもってしまう。
ところが、沈没船は我々が想像するよりずっと多く眠っているらしい。
「100年以上前に沈没」「水中文化遺産となる沈没船」だけで300万隻! 第二次世界大戦などで沈んだ船は100年以内なのでそこに含んでいないし、小さいイカダなんかは含んでいないんだろう。
しかも船が沈没するのは離着岸のタイミングが多い(飛行機といっしょだね)ので、陸地に近いところに沈んでいることが多いそうだ。そう考えると、近海は沈没船だらけだ。なんか夢があるな。
ちなみに積み荷を狙うトレジャーハンターは水中考古学者の敵なんだそうです。そのへんは陸も海もいっしょだね。
巻末に収録されている丸山ゴンザレスさんの話がおもしろくて、沈没船ハンターもいるけど、盗掘にかかる費用が大きくて割にあわないので、最近はそういうやつらは「沈没船からお宝を手に入れてくるから出資してくれ」という詐欺のほうにシフトしているそうだ。へえ。「沈没船が儲かる」という話を聞いたら要注意だね。
考古学者というと地道な作業をする人、という印象なのだが、水中考古学者はもっと地道でしんどそうだ。
冷たい水中にじっと潜って、ひたすらスケッチをする。きつい。
水中だと写真もうまく撮れず、対象物の長さを測るだけでも一苦労(陸上みたいにものさしやメジャーが使えないからね)。
これは一例で、水中だと何をやるにも大変そうだ。だからこそ、手つかずのまま残っていることが多いんだろうけど。
割に合わないとトレジャーハンターが投げ出すのもわかるなあ。
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