成瀬は天下を取りにいく
宮島 未奈
十歳の娘が買った本(お金を出したのはぼくだけど)。「おもしろかったよ」と貸してくれたので読んでみた。
娘と本の貸し借りができるなんて父親冥利につきるぜ。あの小さかった娘が大きくなったものだ……。
と感慨深かったものはあったが、読み終わった後に娘から「どうだった?」と訊かれて困ってしまった。
うーん、おもしろくねえな……。「おもしろくなりそうな予感」はあったんだけどなあ。
ということで娘に対しては「う、うん。お父さんが子どものときに読んでたらおもしろかったとおもうな」とお茶を濁してしまった。
ぼくが『成瀬は天下を取りにいく』をおもしろいと感じなかった理由はわかっている。
成瀬にあこがれないからだ。
この本の主人公・成瀬は、あまり人目を気にしない学生生活を送っている。自分がやりたいことをやる。周囲からどうおもわれても気にしない。まじめと言われようと一生懸命勉強もする。おもしろいとおもったらとりあえずやってみる。法に触れるようなことでなければとりあえず実行する。そして多くはないけど理解してくれる人も周囲にいる。
なぜあこがれないかって、ぼくがこういう学生生活を送っていたからだ。
おもいついたことはとりあえずやってみて、周囲から変なやつとおもわれることをむしろ楽しんでいて、勉強もよくできて、友だちにも恵まれて、自由気ままに生きていた。生徒会長もやり、成績は学校で一番で、放課後は友だちと川で泳いだり、学校のプールにカヌーを浮かべたり、学校で鍋をして先生に怒られたり、無人島でキャンプをしたり、好き勝手にやっていた。「あいつがやることならしょうがねえな」という栄光のポジションを築いていた。
きっと成瀬のように生きられなかった人にとっては楽しい小説なんだろうけど、成瀬のように生きていたぼくにとってはさほど目新しさは感じなかった。
ぼくにはわかってしまうのだ。成瀬はべつに変なやつではなく「変なやつになりたいやつ」なんだよな。だってぼくがそうだったから。
どうやらこの本、本屋大賞に選ばれたらしい。
あー。なんとなくわかるなあ。ちょうどいいライトさだもんな。9人は10点をつけるけど1人にとっては200点、みたいな本じゃなくて、みんなが60~90点をつける本。
本屋大賞の底の浅さをよく表しているぜ(この本が悪いわけじゃなくてあの賞の制度がひといだけ)。
そして、すごくマーケティング臭を感じてしまうんだよなあ。
作者の宮島未奈さんは京大出身の人らしいんだけど、同じく京大出身作家の森見登美彦氏が京都を強く出した小説を書いていて、万城目学氏が奈良だから、次は滋賀密着で三匹目のどじょうを狙いにいくぜ! ……って感じがぷんぷんしてしまうんだけど、邪推かなあ。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿