2024年5月17日金曜日

【読書感想文】稲垣 栄洋『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』 / 科学に対して不誠実

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はずれ者が進化をつくる

生き物をめぐる個性の秘密

稲垣 栄洋

内容(e-honより)
「平均的な生き物」なんて存在しない。個性の数は無限大。唯一無二の生命をつなぐために生き物たちがとってきたオンリーワンの生存戦略。


 この著者の本を以前にも読んだことがあるが「専門分野である雑草の話はおもしろいが、それ以外の分野はめちゃくちゃ乱暴でいいかげんなことを書くなあ」という印象だった。

 本書も同じ。

 自然界には、正解がありません。ですから、生物はたくさんの解答を作り続けます。それが、多様性を生み続けるということです。
 条件によっては、人間から見るとはずれ者に見えるものが、優れた能力を発揮するかもしれません。
 かつて、それまで経験したことがないような大きな環境の変化に直面したとき、その環境に適応したのは、平均値から大きく離れたはずれ者でした。
 そして、やがては、「はずれ者」と呼ばれた個体が、標準になっていきます。そして、そのはずれ者がつくり出した集団の中から、さらにはずれた者が、新たな環境へと適応していきます。こうなると古い時代の平均とはまったく違った存在となります。
 じつは生物の進化は、こうして起こってきたと考えられています。
 ナンバー1しか生きられない。これが自然界の鉄則です。
 自然界に暮らす生き物は、すべてがナンバー1です。どんなに弱そうに見える生き物も、どんなにつまらなく見える生き物も、必ずどこかでナンバー1なのです。
 ナンバー1になる方法はいくらでもあります。
 この環境であれば、ナンバー1、この空間であればナンバー1、このエサであればナンバー1、この条件であればナンバー1……。こうしてさまざまな生き物たちがナンバー1を分け合い、ナンバー1しか生きられないはずの自然界に、多種多様な生き物が暮らしているのです。
 自然界は何と不思議なのでしょう。
 そして、ナンバー1はたくさんいますが、それぞれの生物にとって、ナンバー1になるボジションは、その生物だけのものです。すべての生物は、ナンバー1になれる自分だけのオンリー1のポジションを持っているのです。そして、オンリー1のポジションを持っているということは、オンリー1の特徴を持っているということになります。つまり、すべての生物はナンバー1であり、そして、すべての生物はオンリー1なのです。

 こういう話は納得できる。

 ただ、その後に「だから君たちもオンリー1の場所でナンバー1をめざして~」とか「だから人間もそれぞれ個性があるのがよくて~」みたいなお説教に持っていく。これがよくない。朝礼の校長先生の話のようで、とたんにつまらなくなる。

 あらゆる生物はそれぞれのニッチに特化した生態を持って生きている、だから自分も目立つ場所でナンバー1になれないかもしれないけど、どこかに持ち味を発揮できる場所があるはず。がんばろう! ……とおもうのはいい。好きにしたらいい。でもお説教の道具にするのはよくない。その生物はその生物、あなたはあなた。ぜんぜんちがうものなんです。




 踏まれる場所に生える雑草にとって、踏まれることはつらいことなのでしょうか? オオバコの例を見てみることにしましょう。
 植物は種子をタンポポのように綿毛で飛ばしたり、ひっつき虫と呼ばれるオナモミやセンダングサのように他の動物にくっつけたりして、広い範囲に散布します。
 オオバコはどうでしょうか。
 オオバコの種子は水に濡れるとゼリー状の粘着液を出します。そして、靴や動物の足にくっつきやすくするのです。
 こうして、オオバコの種子は人や動物の足によって運ばれていきます。車に踏まれれば車のタイヤにくっついて運ばれていきます。
 こうなると、オオバコにとって踏まれることは、耐えることでも、克服すべきことでもありません。

 ここまでで終わってればいいんだけどね。その後に人生訓を語るから、とたんに話が嘘くさくなる。


 生物がある分野に特化して生きているのはべつに狙いが成功したわけではなく単なる結果だし、「ある分野に特化して生きのびている生物」よりも「ある分野に特化したことで死んでしまった生物」のほうが圧倒的に多い。

 狭い分野に特化した特徴を持つのはものすごく勝つ確率の低いギャンブルで、たまたま勝ち残ったやつらが今生きているだけだ。それを処世術みたいに語るのは間違っている。

 ユニークな特徴を持っていたほうがいいってのは、生態系における種の話としてはそうかもしれないけど、各個体にまで拡げて語るのはめちゃくちゃ乱暴。ぜんぜん別物だからね。


 とにかく科学に対して不誠実。「学生向けの本だから不正確でもいいや」って態度で書いてるのかな。

 また、知ってか知らずか、誤った記述も多い。

 たとえば、「人間の祖先はかつてサルでした」なんて書いている。正しくは、人間の祖先はサルの祖先でした、だ。人間の祖先はサルじゃない。

 週刊誌のエッセイ程度ならともかく、こういう本をちくまプリマ―新書として出したらだめよ。


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