ぼくが高校生のとき、マクドナルドのハンバーガーは59円だった。デフレどまんなかの異常価格だ。
高校生といえば、行動範囲が広がって外食の機会は増え、けれど金がない時代。マクドナルドにはお世話になった。
それもあって、ハンバーガーといえばいちばん安くて59円、トッピングをしてもせいぜい200円か300円ぐらいのもの、という“基準”ができてしまった。
この“基準”はかなり長いこと残った。さらにマクドナルド以外にも適用されて、専門店の「ハンバーガー1,000円」なんて値段表示を見るたびに「200円か300円ぐらいで買えるハンバーガーに1,000円も出すなんて!」という気持ちになった。
そのくせ、洋食屋の「ハンバーグ&パンのランチセット」だと1,200円であっても高いとはおもわない。ちょっとした洋食屋でランチを食べたらそんなもんだろうな、という気になる。
「ハンバーガー」も「ハンバーグ&パンのランチセット」もほとんど同じものなのに、前者は“マクドナルド基準”が適用されて「200円か300円ぐらいが相場」とおもってしまう。
“基準”は牛丼にも適用される。
牛丼というと、吉野家やすき家や松屋の牛丼を想像してしまう。400円ぐらいのもの、という感覚だ。牛丼に1,000円は出さない。
でも、ちょっといい感じの定食屋に「牛煮つけ定食 1,000円」というメニューがあったら特に抵抗なく頼める。牛丼なら600円でも高いとおもうけど牛煮つけ定食なら1,000円でも高くない。ほとんど同じものなのに。
牛丼チェーンのせいで“基準”ができているのだ。これはぼくだけでなく、世間一般に広く認められている“基準”だろう。
逆のパターンもある。寿司だ。
寿司ははじめに高級感を持たせることに成功した。2個1,000円を超える寿司もめずらしくない(話はそれるが、堀井 憲一郎 『かつて誰も調べなかった100の謎』によれば寿司が1貫、2貫と数えられるようになったのは平成初期だそうだ。この後付けの伝統感も高級路線に一役買っているにちがいない)。
だから回転寿司で1皿100円とか150円とかの値を見ると、すごく安いような気がする。寿司の“基準”はもっと高い位置にあるからだ。
でも寿司ってそんなに高級であるべきものだろうか。たとえばコンビニおにぎりと比べても、入っているものもマグロ(ツナ)とかサーモンとかそんなに差はない。なんならおにぎりのほうがずっとご飯の量も多くて食べごたえがある。
なのにおにぎりは庶民色の代表みたいな感じでいて、寿司の方は高級食でございという顔をしてふんぞりかえっている。これは最初の“基準”の設定に成功したからだろう。
まったく新しい料理を開発したときは、まず最初は1食5,000円とかのべらぼうな値をつけて“基準”を引き上げておいて、それから「なんとあのホゲホゲ丼が1,000円で食べられます!」みたいにお得感を与えてやるほうがいいね。
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