エドワード・ブルック=ヒッチング(著) 関谷冬華(訳) 井田仁康(日本語版監修)
小川哲『地図と拳』で参考文献に挙げられていておもしろそうだったので読んでみた。
ほんとは存在していないのに地図に描かれていた国、島、都市、山脈、川、大陸、種族を紹介する本。
といっても、ほとんどが島だ。ま、地続きだったら比較的行きやすいからすぐわかるもんね。海の上ならかんたんに行けないし、目印が少なく海流があるので思いもよらないところに行ってしまうので、誤認することも多いのだろう。
存在しないものが地図に描かれる理由は勘違いやミス(地図を描くときの間違いや誤字)だけではない。
名声欲しさに行ったことにするため、島を発見したことにして探検のスポンサーの名前をつけて次回探検の資金を集めるため、画家のちょっとしたいたずら(『地図と拳』で書かれていた“画家の妻の島”)など、故意に島がつけくわえられたケースも紹介されている。
もしかすると、ほんとに存在していたけど地殻変動で消滅した島もあるかもしれない。島の消滅や誕生はときどき起こるらしいから。
「存在しない地形が地図に載ってしまった」は測量技術が未熟だった時代だけの話ではなく、21世紀になってからも「存在しない島がGoogleマップに載ってしまった」なんてことも起こっているのだとか。人工衛星で計測しててもミスは起こるんだな。
大きな問題になったのが、メキシコ湾に存在するとされたベルメハという島。
この島があるのとないのでは、メキシコの排他的経済水域が大きく変わってくる。そのため、どうやら存在しないらしいとわかってからも「あるはず!」という声が消えることはなかった。
アメリカが島を破壊した、あるいは削ったのではないかという説を信じる人も少なくなかったのだ。
どれだけ科学技術が発達しても「信じたいものを信じる」という人間の習性はなかなか変えられないね。
いちばんおもしろかったのは、スコットランドのペテン師グレガー・マグレガーの話。
マグレガーは存在しない「ポヤイス」という国の話をし、そこに投資をする人たちを募集した。
存在しない「ポヤイス国」へと旅立った270人のうち、無事に帰ってくることができたのは50人にも満たなかったそうだ。
ちなみにマグレガーはフランス→ベネズエラへと逃亡し、最期まで罰を受けることはなかったのこと。
そのスケールの大きさに目を見張るが、やっていることは古典的な詐欺の手口だよね。「〇〇は確実に値上がりする。あなたにだけ特別に安くお売りします」と持ちかけて、二束三文の土地/物件/株券を売りつけ(あるいは売るふりをして)、お金を持って逃げる。
何度も聞いたことのある、典型的な詐欺の手口だ。売るものは海の向こうの土地だったり造成予定地だったり火星の土地だったりするけど、基本的なやり口は変わらない。
それでも人は騙されるんだなあ。欲はものの見方も地図もゆがませる。
その他の読書感想文は
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