2025年2月6日木曜日

【読書感想文】本岡 類『住宅展示場の魔女』 / 技巧がきらりと光る短篇集

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住宅展示場の魔女

本岡 類

内容(e-honより)
「ハマってしまう」ってどういうことなのだろうか。「ハマって」しまったらどうなってしまうのだろう。何かに依存しないと安心感や安定感が得られない人たちを巡って起こるさまざまな事件をユーモラスに描く。「通販」に「ペット」、「懸賞応募」に「渓流釣り」、そして「住宅展示場見学」…。草原の落とし穴みたいに、日常生活の中にも口を開けて罠が待っている。

 2004年刊行の短篇ミステリ集。

 なかなか良かった。こういう短篇ミステリって最近あまり見ないなあ。ぼくが出会ってないだけかなあ。

 井上 夢人氏(元・岡嶋二人)が「短篇は長篇に比べて割に合わない」と書いていた。短篇でも長篇でも、アイデアをひねり出す苦労は大して変わらない。ミステリはアイデアの出来でほとんど決まるので。だが原稿料は枚数あたりで決まるし、ページ数がないと単行本にもできない。だから短篇は損だ、と。ショートショートの神様・星新一氏も似たことを書いていたし、ただでさえ本が売れない今、短篇ミステリは厳しい状況に置かれているのかもしれない。

 短篇を載せる雑誌も減っているだろうし。


 さて『住宅展示場の魔女』について。

 最初の、通販好きの取り立て屋が登場する『通販天国』、懸賞マニアの主婦が殺される『当日消印有効』を読んで、なるほど、軽い味のブラックコメディミステリね、とおもっていた。『女子高教師の生活と意見』にいたってはドタバタSFのような味わいだし。

 ところが四篇目『束の間の、ベルボトム』を読んで、評価をちょっと改めた。

 これは、なかなかいい小説だぞ。ミステリとしては新鮮さはないが、「若い頃のファッションを楽しみたい」とおもう中年の心境をうまくからめたことで、ほろ苦い味わいの短篇になっている。小説巧者だな。

 コメディ作品の『メリーに首ったけ』を挟み、次はコギャルの厚底ブーツという旬(だった)アイテムをミステリにつなげた『気持はわかる』。これもよくできている。軽妙ながら、ミステリとして隙がない。ちょっとしたアイデアなのだが、趣向を凝らして上質な短篇に仕上げている。

 これはなかなかの腕だぞ。調べたところ、1984年デビューらしい。つまり『住宅展示場の魔女』を書いた時点でデビュー20年。道理で技術が高いはずだ。脂ののっていた頃の阿刀田高氏のようなうまさがある。


 渓流釣りと殺人事件を融合させた『山女の復讐』も短篇ながら本格の味わい。釣りのエッセンスも織り交ぜられ、お得感がある。

 住宅展示場めぐりを趣味とする女に芽生えた悪意を描いた『住宅展示場の魔女』はミステリというよりサスペンス。

 ミステリに加えて、コメディ、SF、サスペンス、ペーソスなどいろんな要素がふんだんに散りばめられている。

 決して派手さはないが良作ぞろい。ベテランの技巧がきらりと光る短篇集だった。


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