2025年2月20日木曜日

【読書感想文】『知りたくなる韓国』 / 政治参加せざるをえない国

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知りたくなる韓国

新城 道彦 浅羽 祐樹 金 香男 春木 育美

目次
第1部 歴史
 第1章 朝鮮王朝時代
 第2章 大韓帝国~日本統治時代
 第3章 米軍政~大韓民国時代
第2部 政治
 第4章 韓国という「国のかたち」
 第5章 韓国外交における日韓関係
 第6章 南北関係とコリア・ナショナリズム
第3部 社会
 第7章 変化する韓国社会
 第8章 韓国家族の「いま」
 第9章 韓国の教育と就職事情
第4部 文化
 第10章 再考される伝統
 第11章 交差する文化
 第12章 模索しつつある韓国

 韓国のことを知りたかったので手に取った。池上 彰『そうだったのか!朝鮮半島』と同時に読み進めていたので理解しやすかった。



 韓国といえば民主国家というイメージを持っていたけど、実態として民主国家と呼べるようになったのは1987年以降のことで、それまでの大統領は「権力を失えば命や財産を奪われる」状態が続いていた。

 政党間の政権交代は1987年の民主化以降、30年間ですでに3回を数えます。現在の与党「共に民主党」と最大野党の自由韓国党に連なる2大政党の間で初めて政権交代が起きたのは、3回目の大統領選挙を通じた98年のことでした。2008年と17年にも入れ替わったため、与野党それぞれの立場をどちらの側も2回ずつ経験したことになります。
 選挙を通じた政権交代が可能になると、「革命」を起こす必要はなくなりますし、大統領の側も所定の任期を守り自ら退くようになりました。文在寅大統領は朴槿恵大統領の弾劾・罷免を「ろうそく革命」と称していますが、弾劾罷免はあくまでも憲法の所定の手続きに則って行われましたし、文在寅は選挙で選ばれたからこそ大統領という公職を任せられているのです。
 このように選挙が「街で唯一のゲーム」となり、そのルールブックたる憲法がすべてのプレーヤーに受け入れられることが重要です。何より、多数決による政治的競争(選挙)における敗者(少数派)が結果を甘受し、競争や体制の正統性に同意することが欠かせません。

 もっとも、1987年以降に大統領についた人に関しても、盧泰愚、李明博、朴槿恵は収賄などで有罪判決を受けており、なかなかきなくさい状況に変わりはないのだけれど……。




 暗殺やクーデター、大統領の暴走など(最近もあったね)いろいろ問題の多い韓国の政治ではあるけれど、それがポジティブな効果も生んでいるようだ。

 韓国人は政治や社会への関心が高く、とくに1980年代、学生の力で民主化を勝ち取った歴史には大きな意味があります。人権や言論の自由、より良い社会を作りたいという学生・市民の強い意志が直接的な行動を促しました。87年に韓国の民主化運動は頂点に達し、大学生と市民の力で軍事独裁政治に終止符を打ちました。その民主化の中枢にいたのが、「386世代」です。この言葉が生まれた90年代当時、「30歳代で、80年代に大学生活を送った60年代生まれ」の世代として、現在は50歳代で「586世代」とも呼ばれています。この民主化運動の時代を過ごした「386世代」は政治的団結ノムヒョン力が高く、盧武鉉大統領が当選するうえで大きく寄与したとされます。
 (中略)
 国全体が豊かになったなかで、格差社会が生んだ現象といえる就職難に直面している若者たちが、自ら「ろうそくデモ」を主導してきたことは大きな意味をもちます。市民団体の影響力が強い韓国では、ツイッター、フェイスブックなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)と連動した路上デモや、「認証ショット」のように「投票へ行きました」と投票場で写真を撮ってSNSに投稿するなど、若年層を中心とした積極的なネット選挙運動が、2017年の政権交代につながったといわれています。直接的な行動が、政治や社会を動かせると人々は思うし、SNSの普及は若者の政治参加を促しています。韓国の10代20代の若者には、自分たちの置かれた状況は自己責任だけではなく、社会構造上の問題であるという認識が広がり、大学授業料半額デモなどさまざまなかたちで声を上げています。

 韓国人は若者も含めて政治参加意識が高いという。そりゃあなあ。ちょっと気を抜くと大統領が戒厳令を出したりする国なんだから、市民がちゃんと見張ってないといつ己の命や財産が危険にさらされるかわからないもんね。

 中国、北朝鮮、ロシアみたいなあぶなっかしい国々との距離も日本よりずっと近いし、そもそも今も戦争中の国だし(朝鮮戦争は終戦したわけでなくあくまで“休戦”状態)、いやおうなく政治や国際情勢には敏感になるだろう。

 そう考えると、日本人は政治参加意識が低いとか、若者の投票率が低いとか、悪いことのように言われるけど、平和の裏返しでもあるんだろうなあ。「誰が選ばれたってどうせ一緒でしょ」ってのは幸せなだよな。


 そしてつくづくおもうのは、大統領制(アメリカや韓国のように強い権限を持つ大統領制)ってぜんぜんいいシステムじゃないってこと。意思決定が早いとかのメリットもあるんだろうけど、一人に強大な権力を持たせるのはやっぱり不安定すぎる。権力は暴走するのが常だし。尹錫悦大統領の非常戒厳宣言や、トランプ大統領のあれやこれやを見ていると、権力が分散していた方が国民にとってはいいとおもえる。

 あんな危なっかしい制度を抱えていて、よく国としてまとまっていられるなと感じる。




 韓国は日本以上に若者が暮らしにくい国のようだ。

 高齢化は進み、2023年の合計特殊出生率は0.72だそうだ(日本は1.26)。3組の男女がいて、平均2人ぐらいしか子どもが生まれないのだ。かつて産児制限政策をおこなっていたのでそもそも若者の数自体が少ないし。今後、日本よりすごいスピードで高齢化が進むかも。

 韓国では就職氷河期が始まった2010年頃から、恋愛・結婚・出産を放棄する若者を「3放世代」と呼んでいましたが、近年はさらに就職やマイホームだけでなく、人間関係や夢さえも望みが持てない「7放世代」を超えて、健康や外見など人生のすべてを放棄した「N放世代」という呼称まで登場しました。2015年頃からは人間としての希望を失い、将来に対する不安と韓国社会に対する不満から、地獄のような韓国という意味の新造語「ヘル(hell)朝鮮」という言葉も生まれました。また、「土のスプーン(生まれながらの貧富の差を意味)」など、若年層に存在する格差への認識からは新階級論的な言説も生み出されています。富裕層の子どもを意味する「金のスプーン」に対比される言葉で、自分が財産のない庶民層に生まれたことを自嘲する表現です。
 ハンギョレ経済社会研究院の、19~34歳の若年層1500人を対象にした「青年意識調査(2015年)」では、社会的な成功において「自分の努力よりも、親の経済的地位が重要だ」と答えた人は7割を超えました。同年に発表された東国大学の金洛年教授の論文「韓国における富と相続」によると、個人の財産に占める親からの相続(贈与を含む)の割合は、1980年代の27%から2000年代には42%へ増加しており、本人の努力や能力より親から受け継いだ資産や不動産によって、財産の規模が決定されることが明らかになりました。相続による富の格差がますます拡大している韓国では、本人が努力しても現状を打破できず、放棄・絶望・リセットという言葉が、今日を生きる若者のキーワードとなっています。

 このへんの閉塞感は日本に近い。というより韓国が日本の状況を先取りしたというか。

 韓国は日本より人口も少ないので内需が小さく、アジア通貨危機のときに多くの企業がつぶれて外資が入ってきたので、国内の企業がそう多くない。おまけに今でも財閥が幅を利かせていて政治と強く結びついているので、財閥以外の企業は不利な立場に置かれ、賃金も上がらない。

 久しく安定している韓国だけど、またクーデターが起こる日は遠くないかもしれない。


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