前野 ウルド 浩太郎
いやあ、おもしろかった。
こんなの、おもしろいに決まってる。こういう「何かひとつの分野に特化した研究者が一般向けに自分の研究分野を紹介した本」はおもしろいと相場が決まっている。
川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』も、塚本康浩『ダチョウ力』も、松原始『カラスの教科書』も、郡司 芽久『キリン解剖記』も、伊沢正名『くう・ねる・のぐそ』もめっぽうおもしろかった(伊沢さんは研究者じゃないけど)。
おまけにこの本は評判も良かった。タイトルもおもしろそう。こんなのぜったいいおもしろいやん! ……とおもいながらなかなか手が出なかった。自分でもふしぎだけど「評判がすごくよくておもしろいに決まってる本」ってかえって読む気がしないんだよね。我ながら損な性分だとおもうけど。「自分だけが知っているおもしろい本」に出会いたいんだよね。
しかしKindleのセールで安くなっていたので
「負けたよ……。読めばいいんだろ……。どうせおもしろいんだろ、わかってんだよ……」
と言いながら購入。
うん、これはおもしろいわ。文句のつけようがない。
単なるバッタ研究記じゃないんだよね。
この本を通して、
「サバクトビバッタの大発生に遭遇したい(そしてバッタに食べられたい)」
「多大な害をもたらすサバクトビバッタの生態を研究してアフリカを救いたい」
という研究者・昆虫好きとしての夢と同時に
「ポスドクという不安定な立場から、安定した正規雇用の研究者になりたい」
という個人的かつささやか(けれど険しい)夢が語られる。
はたして、サバクトビバッタに出会えるのか、そしてアフリカを救えるのか、それともその前に食っていけなくなって夢を断念することになるのか……。
この「達成困難な目標」が序盤で掲げられるので、研究生活がすごくスリリング。はたして著者は正規雇用研究者になれるのか、はたしてバッタの大群に出会えるのか、はたしてバッタに食べられるのか……(食べられてたらこの本は出てない)。
自伝小説としてもものすごくおもしろい。応援したくなる。本の中に「研究資金をクラウドファンディングで集めた」と書いてあるが、この本を読んだ人ならきっと支援したくなるだろう。ぼくもしたくなった(残念ながら今は集めてないそうだ)。
ほんと、ぼくもババ所長とまったく同じ気持ちだよ。
こんな優秀かつ熱意あふれる研究者がおもう存分研究に打ちこめない世の中なんてまちがってる!
おい日本! ここに金を使わないでどうする!? 場当たり的な対策じゃなくて未来のために金を使えよ!
以前読んだ、井堀利宏『あなたが払った税金の使われ方 政府はなぜ無駄遣いをするのか』という本に「所得税について確定申告する際に、使われ方をある程度選択できるようにする」という提言があった。ぼくも賛成だ。
ふるさと納税なんて無益な制度をとっとと廃止して、代わりにこの「税金の使い道を指定する制度」を導入してほしい。そしたらしょうもない経済政策や軍事じゃなくて教育や研究に使われるお金が増えるだろうに。
これだけの文章で「研究者の思考ってすごい」とおもわされる。
研究者ってみんなこうなのかな。ぼくは学問の登山口あたりで逃げだした人間だからわからないけど。
観察→仮説立案→仮説検証のために必要なデータを設計→結果の予測→より詳細な実験の設計
こんなふうに筋道立てて設計図を引いていく作業って、相当慣れていないとできないとおもう。これが科学者の思考かー。
「おもしろい本」は多いし「すごいことをやっている本」も多いけど、「おもしろくてすごいことをやっている本」はそう多くない。これは類まれなるおもしろくてすごい本。
ほんとにこの人がアフリカを救うかもしれない。
その他の読書感想文は
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