後ろから「ぷっ」と笑い声。
「なんで何もないところでつまづいてるんすかー! ドジっ子すねー!」
すぐ後ろを歩いていた後輩が、半笑いで云った。
あれ。
たしか君が入社したとき、いろいろ教えてあげたよね。
君がミスしたときも一緒にフォローしてあげたよね。
そんな先輩に対する返礼が半笑いってどういうことよ。
「ちょっとつまづいたぐらいでそんな小バカにするのは良くないな」
「いやバカにはしてませんけどね。でもだって、今日だけじゃなくこないだもつまづいてましたよ」
「いちいち見るなよ。見たとしてもメモリに刻むな。忘却しろ」
「無理っすよ。だってほんとに1ミリも段差ないところでつまづいてたんすもん。ミラクルですよ。あれでつまづいてたら階段のぼれなくないっすか? おうちオールバリアフリーっすか?」
「やっぱりバカにしてるな」
「してませんって。マジでマジで」
「ぼくがつまづいたのはアレだよ、犬」
「犬?」
「そう。昔飼ってた犬の霊だよ。たぶん」
「何わけわかんないこと言ってんすか」
「実家で昔飼ってた犬がね、もう死んじゃったんだけどね、そいつが霊になって出てきてぼくの脚にじゃれついてるんだよ。だからこけそうになったわけ。ぼくのこと好きだったからなー」
「犬ってそんな脚の近くに寄ってきます?」
「まあうちの親が散歩させてたときはまっすぐ歩いてたけどね。でもなぜかぼくと散歩するときはちゃんと歩かずによく脚にじゃれついてたなー」
「へー。犬にまでバカにされてたんすね」
「犬にまで、ってことはおまえもやっぱりバカにしてんじゃねーか!」
「あっ……」
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